NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#19 バーニー・ケッセル・ウィズ・シェリー・マン&レイ・ブラウン「ザ・ポール・ウィナーズ」(CONTEMPORARY)

2021-11-30 05:27:00 | Weblog
2001年2月25日(日)



バーニー・ケッセル・ウィズ・シェリー・マン&レイ・ブラウン「ザ・ポール・ウィナーズ」(CONTEMPORARY)

濃厚なフルコースを食べたあとは、なにかあっさりした「口直し」を食べたくなる。

ということで、これである。

モダン・ジャズ・ギターの開祖チャーリー・クリスチャンの流れを汲む、ウェスト・コースト派のギタリスト、バーニー・ケッセルをリーダーとするユニット「ザ・ポール・ウィナーズ」のアルバム。57年3月の録音である。

リズムのふたりも、それぞれリーダー・アルバムを何枚も出している名プレイヤー。

ことに、ベースのレイ・ブラウンはオスカー・ピータースン・トリオの一員として何度も来日しているから、ご存知の方も多いだろう。

「ザ・ポール・ウィナーズ」というユニット名の由来は、彼らが56年、雑誌「ダウン・ビート」「メトロノーム」「プレイボーイ」(あのバニーヘッドのPBである)における読者投票で、三誌すべてで、それぞれのパートの人気第一位(POLL)に輝いたことからきている。

PBまでがそういうことをやっていたとは、ジャズがポピュラー・ミュージックのメインストリームだった時代ならではの話である。

そういう人気・実力抜群の3人が組んだユニットだから、もちろん水準以上の出来。

デュ―ク・ジョーダンのオリジナル「ジョードゥ」から始まる、おなじみの「サテン・ドール」「ミーン・トゥ・ミー」「グリーン・ドルフィン・ストリート」など、スタンダード中心に選曲された全9曲。

とにかく、明るいトーンで軽快にスウィングするバーニー・ケッセルのギターがひたすら心地よい。

これぞウェスト・コースト・ジャズだ。

それをビシッとバックアップする、リズムのふたりの演奏も素晴らしい。

レイ・ブラウンの指さばき、シェリー・マンのブラッシュ・ワークに、達人ならではの「技」を感じる。

モダン・ジャズという音楽につねに内省的なものを求めるようになった60年代とは違って、とにかくわかりやすい、痛快なプレイ。

脳天気といわれるかも知れないが、これはこれで、けっこうイケてると思う。

「重厚長大」なのだけが、モダン・ジャズではない。ウキウキするようなジャズもあるってこと。

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音盤日誌「一日一枚」#18 ハウリン・ウルフ「LIVE AND COOKIN' AT ALICE'S REVISITED」(Chess/MCA)

2021-11-29 05:11:00 | Weblog
2001年2月24日(土)


ハウリン・ウルフ「LIVE AND COOKIN' AT ALICE'S REVISITED」(Chess/MCA)

ハウリン・ウルフというひとは多作だったにもかかわらず、正規のライブ盤はごくわずかしか出ていない。

64年のヨーロッパ録音と、この72年のシカゴ録音の2枚だけのようである。

しかも、めったに実物を見かけない。今回、中古輸入盤で入荷されたものを発見、迷うことなく即ゲットした。

で、聴いてみると、スタジオ録音盤とはまた違った魅力にあふれている。

ウルフはスタジオ盤の場合、1曲2~3分のものがほとんどで、めったに3分を越えることがない。

たとえば、代表作ロッキン・チェア・アルバムこと「Howlin' Wolf」では3分を越えるのは「Going Down Slow」1曲のみという具合。

もともと、シングルで発売されたものをよせ集めたアルバムという性格もあって、どれもオンエア向きに極力コンパクトにまとめられている。

あのねちっこい「Spoonful」でさえ、実は2分45秒に過ぎない。

ところが、ライブでは5~8分くらいのロング・バージョンのものばかり。

彼本来の粘っこさがフルレングスで味わえるということだ。

ホームグラウンド、シカゴにある「ALICE'S REVISITED」というクラブにおける、72年1月26日の録音。

パーソネルは、ウルフ(vo,hca)のほか、テナーサックスのエディ・ショー、ギターのヒューバート・サムリンとL.V.ウィリアムス、ピアノのサニーランド・スリム、ベースのデイヴ・マイヤーズ、ドラムスのフレッド・ビロウといった面々。

ブルースにくわしい方なら、もう、お気づきかと思うが、リズムのふたりは、ロバート・ジュニア・ロックウッドのバッキングなどで評価の高いトリオ、「ジ・エイシズ」のメンバー。

だから、非常に安定感のあるビートで、全編、安心して聴くことができる。

あと、サニーランドは、ヒューバート・サムリンの近年亡くなられた奥さんの、おじにあたる人でもある。1907年生まれ、この中では最年長のベテラン・プレイヤーだ。

こういう実力派たちを従えて、のびのびと吼え、唸りまくるのが当時61才のウルフ。

とても還暦を過ぎたとは思えぬ、枯れることないパワフルな歌声を聴かせてくれる。

ステージはウルフ版「Rollin' And Tumblin'」とでもいうべき「When I Laid Down I Was Troubled」でスタート。

マディ・ウォーターズの「Mean Mistreater」を除いて、すべてウルフのオリジナル。有名曲は「Sittin' On Top Of The World」くらいしか収録されていないが、そこはブルース、どこかで聴いたことのあるようなメロばかり。

「Call Me The Wolf」などは自身の作品「Spoonful」をホウフツとさせるものがある。

私個人としては、当然、ギターのヒューバート・サムリンのプレイも気になる。

ウルフのライブ盤が稀少ということは、サムリンのライブ盤も極めて珍しいということにほかならないからである。

聴いてみると、噂にたがわず、かなりアヤしげな音を出している(笑)。

もう、スタジオ盤の比ではない(爆)。

単なるトチりなのか、確信犯的にやっているギミックなのか、さだかではないが、相当ユニークというかおかしな音を出す。ホント、仰天モノである。

この生のプレイを聴けただけでも、十分モトが取れたという気になってしまうのだから、サムリンというギタリスト、凡百の「ただ上手いだけの」ギタリストとは格が違うってことなんだろうな。

ジミヘンがアイドルとするだけのことはある。

もちろん、他のバック・ミュージシャンが実力派ぞろいで、「まとも」なプレイをしているという裏づけがあってこそのギミックなのだが。

ウルフのワイルドなパワー、サムリンのアイデア、リズム隊の手堅いテクニック、これらがあいまって強烈なインパクトを持ったサウンドを創りあげている。

一度聴いたらやみつきになりそうな、「濃い」味の一枚だ。


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音盤日誌「一日一枚」#17 オーティス・レディング「ジ・アルティメイト・オーティス・レディング」(Warner)

2021-11-28 05:01:00 | Weblog
2001年2月18日(日)



オーティス・レディング「ジ・アルティメイト・オーティス・レディング」(Warner)

先週、MG'Sを取り上げたが、彼らと同時期に一世を風靡したのが、この天才ソウル・シンガー、オーティスである。

彼がプロのレコード歌手として活躍した時期は、62年10月から67年12月事故死するまでのわずか5年あまり。実に短い。

しかし、その間に発表した作品は、直接間接に多くのアーティストに影響を与え続けている。

たとえば、スリー・ドッグ・ナイト。アイク&ティナ。そしていうまでもなく、ブルース・ブラザーズ。

日本にも彼の影響を抜きには語れないアーティストが多い。

ゴールデン・カップスしかり、柳ジョージしかり、RCサクセションしかり。

現在も、彼のトップ・ソウル・シンガーとしての座はゆらいでいない。

そんなオーティスの5年間の名曲を一枚にまとめたのが、このCDだ。

最大のヒット「ドック・オブ・ザ・ベイ」(皮肉なことに、死の直後リリースされた)をはじめとするナンバーが20曲。

おなじみの「リスペクト」「愛しすぎて」「トライ・ア・リトル・テンダーネス」「おまえを離さない」といった曲で、気合い十分の熱唱が聴ける。

アップテンポのジャンプ・ナンバーよし。ディープなスロー・バラードこれまたよし。

ストーンズの「サティスファクション」、先達サム・クックの「シェイク」、さらにはローウェル・フルスン67年のラップ・ナンバー「トランプ」もカバーしている。

いずれも、彼ならではのホットな味わいのある、名カバーだ。

デビュー以来つきあいのあるMG'Sやメンフィス・ホーンの好サポートも光っている。

ホーン・アレンジも実にカッコいい。

こういうCDがいつもかかっているようなバーで、バーボン&ソーダでも飲みたいもんだ、まったく。

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音盤日誌「一日一枚」#16 VARIOUS ARTISTS「ニュース&ザ・ブルース」(SME)

2021-11-27 05:02:00 | Weblog
2001年2月17日(土)



VARIOUS ARTISTS「ニュース&ザ・ブルース」(SME)

ちょっと皆さんにお聞きしてみたいのだが、、ブルースの歌詞なんて、しょせん男と女の痴話事がテーマ、どれも似たりよったりのもの、なんて先入観をお持ちのかたが意外と多いのではないだろうか?

筆者も実は、そう思っていたひとりである。

もちろん、その考え方は、あながち間違いではない。

パーソナルなことを歌うのが、ブルースの基本である以上、大半は惚れた腫れた、振った振られたという内容になってしまうのも、事実である。

しかし、ブルースで歌われるテーマは決してそれだけではないことを教えてくれるのが、このコンピレーションである。

登場するアーティストは、ベッシー・スミス、ブラインド・ウィリー・ジョンスン、ミシシッピー・ジョン・ハート、チャーリー・パットン、ビッグ・ビル・ブルーンジーら1920~40年代の、いわゆるクラシック・ブルースの名歌手たち。

彼・彼女らが歌うのは、一般にはあまり知られることのない、時事ネタのブルースなのである。

たとえば、ベッシー・スミスは「バック・ウォーター・ブルース」で洪水という天災をテーマに歌っている。

ビッグ・ビルは「失業ストンプ」で不況を、「さあ、兵役だ」では徴兵を歌い、ウィリー・スミスが歌うのは「ホームレス・ブルース」。ピーター・クレイトンは「ムーンシャイン・マン・ブルース」で禁酒法下の酒類密造をテーマにしている。

おどろくべきことに、「原子爆弾ブルース」なんていうのまである。歌っているのは、シカゴ・ブルースのホーマー・ハリス。46年の録音で、バックには、かのマディ・ウォーターズもいるという。

この曲を聴くと、アメリカ黒人も自国軍の広島・長崎への原爆投下を決して肯定的にうけとめてはおらず、どこか敗戦国日本に同情的であることがよくわかる。

こんな曲を即興でひねりだすセンスは、日本にはあまりない。

しいてあげるなら、河内音頭の「新聞(しんもん)読み」くらいのものだろうか。

でも、時代をさかのぼれば、川上音二郎の「オッペケペー節」とか「宮さん宮さん」とか、マスメディアが発達する前の時代の芸能では、しごくあたりまえのことだったのである。

時代に対する批評精神を失い、ただただ個人的なテーマを歌うことしかできなくなった現在のショービジネスこそ、不健全なのかも知れない。

そういう意味でも、いろいろ考えるネタを与えてくれる一枚だ。

その他、リロイ・カーやマ・レイニー、ジョー・ルイスなどを歌った「セレブリティもの」、ギャンブラーや刑務所暮しをうたったものなど、ふだん聴いているのとはちがった毛色のブルースが全20曲おさめられている。

興味を持たれたかたは、ぜひ歌詞カードを片手に、よーく聴きこんで欲しいものである。

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音盤日誌「一日一枚」#15 ブッカー・T&MG'S「ザ・ベスト・オブ・ブッカー・T&MG'S」(Stax)

2021-11-26 05:32:00 | Weblog
2001年2月12日(月)


ブッカー・T&MG'S「ザ・ベスト・オブ・ブッカー・T&MG'S」(Stax)

ブッカー・T&MG'Sのベスト盤のうちのひとつ。アトランティックからも、初期のヒット「グリーン・オニオン」を含む同題のアルバムが出ている。

彼らについて説明なんて不要とは思うが、野暮を承知でいっておくと、オーティス・レディング、サム&デイヴをはじめとするアトランティック/スタックスの幾多のソウル・シンガーたちのバックをつとめ、単独でも多くのインスト曲でヒットを持つ、R&B/ソウル界のトップ・グループである。

日本でも60年代から70年代にかけてよく聴かれていた。猪俣猛さんやリッキー中山さんといった和製R&Bの先駆者たちの、よきお手本にもなったバンドである。アトランティック盤のベストに入っている「ソウル・ドレッシング」のイントロなぞは、そのまま辺見マリのデビュー曲「経験」にパクられていたりする。

また、彼らはオリジナルだけでなく、さまざまなアーティストのカバーをしていることでも知られる。

このベストでも、ビートルズの「エリナー・リグビー」「サムシング」、サイモン&ガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」、ドアーズの「ハートに火をつけて」等のヒットが、オリジナルとはまったく違った、ファンキーでアグレッシブなアレンジで演奏されていて、なかなかに面白い。

tbの重要なレパートリーのひとつ、アルバート・キングの「悪い星の下に生まれて」も収録されている(作曲はブッカー・T自身)。

当時は、ヴァニラ・ファッジなどもそうだったが、ヒット曲を別の味に料理したカバーが結構はやっていたのである。

もちろんカバーだけでなく、ラジオの深夜番組「パック・イン・ミュージック」のテーマで有名になった「タイム・イズ・タイト」や、「メルティング・ポット」ほかのオリジナルも、実にヒップで、イカしている。

映画「ブルース・ブラザーズ」でもおなじみになった、あのスタックス・サウンドである。

リーダー、ブッカー・T・ジョーンズのハモンド・オルガン+レスリー・スピーカーのサウンドは、後続のロック・オルガン・プレイヤーすべてに影響を及ぼしたといってもいい。

また、スティーブ・クロッパーの特徴的なテレキャス・サウンドも一世を風靡したものだ。

私としては、きょうびのクラブ・ミュージックなんぞより、よほど気が利いていると思う。

一度、「HMV」や「タワレコ」でチェックしてみて欲しい。

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音盤日誌「一日一枚」#14 ノーバディ「ノーバディ・プレゼンツ・ザ・マージー・ビート・メドレー」(TDKコア)

2021-11-25 05:00:00 | Weblog
2001年2月11日(日)




ノーバディ「ノーバディ・プレゼンツ・ザ・マージー・ビート・メドレー」(TDKコア)

19年のキャリア(矢沢バックの時代も含めれば、25年以上)をほこる超ベテラン・ユニット、ノーバディ。

いわゆる「宅録」の元祖といえる彼らの、18年前のレコーディングである。

もともとこのメドレーは、ライブでのみ演奏していたところ、ファンの強い要望により、まずAB両面を使ったシングルとしてリリースされ、さらに通しで聴きたいというリクエストもあって、ファーストアルバムからの4曲を合わせて、ミニアルバムとしてカセット化されたという、いわくつきの曲である。

なぜ、この曲をひさびさに聴く気になったかというと、tbが先月30日のライブで、スペンサー・デイヴィス・グループの「Gimme Some Lovin'」をカバーしていたのを聴いた、というのがきっかけなんである。

このメドレーでも、「Gimme~」はトップで登場する(ただし、イントロの演奏部分のみ)。

以下、「All Day And All Of The Night」(キンクス、「パク殿」のネタでもある)、「You Really Got Me」(同)、「Love Portion No.9」(サーチャーズ)、「I Love You」(ゾンビーズ、GSカーナビーツのカバーで日本でもおなじみ)、「Tell Her No」(同)、「Bus Stop」(ホリーズ、平浩二のは同名異曲)等々、おなじみのマージー・ビートのヒット曲がずらりと続くのである。

きりがないので、あとはめぼしいところだけ拾うと、「Hippy Hippy Shake」(ザ・スウィンギング・ブルージーンズ、キャロルもやっていたなあ)、「A World Without Love」(邦題「愛なき世界」、ピーター&ゴードン)、「Because」(デイヴ・クラーク・ファイブ)、「Don't Let Me Be Misunderstood」(邦題「悲しき願い」、ジ・アニマルズ)、「Satisfaction」(ローリング・ストーンズ)、そして「Please Please Me」(ビートルズ)といったところ。

実に21曲もが、一気にメドレーで楽しめるという豪華版企画なのだ。ビートルズ、ストーンズまで使っているから、版権使用料だけでも大変な金額だったろうな。大赤字じゃ(笑)。

ノーバディの「打ち込み」による演奏は、今聴いても実にカッコよい。

ほんと、ススんでいたよなあ、彼らのセンス。

ただ悲しむべきは、このシングル&カセット、その後CD化されていないため(出せば出すほど赤字になる)、新品では、ほとんど入手できない状態にあるということだ。

中古レコード店をまめに回って、探すしか手がないようだ。

でも、一聴、いや十聴くらいの価値は絶対ある。懐かしモノ好きの人なら、狂喜することうけあい。。

ぜひ、中古ショップを回って、ゲットしてほしい。

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音盤日誌「一日一枚」#13 ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ「イット・オール・カムズ・バック」(ビクターエンタテインメント)

2021-11-24 05:41:00 | Weblog
2001年2月10日(土)




ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ「イット・オール・カムズ・バック」(ビクターエンタテインメント)

ホトケさん強力プッシュ、tbファンなら必聴の1枚がこれである。

バターフィールドのアルバムといえば、60年代、マイク・ブルームフィールドやエルヴィン・ビショップ在籍時のバターフィールド・ブルース・バンドによる「イースト・ウエスト」があまりにも有名である。

たしかにそれも、名盤中の名盤にはちがいあるまい。

だが、70年代に入ってから結成した「ベター・デイズ」にも、「E.W.」時代の、コテコテのホワイト・ブルースとは一味違ったよさがある。

69年開催のウッドストック・フェスののち、彼の地を気に入り住みついたミュージシャンたちがけっこういて、ウッドストック派などと呼ばれているが、そういった実力派ミュージシャンを中心に結成されたのが、この「ベター・デイズ」というプロジェクトなのだ。

リリース元も、ウッドストックに本拠地をかまえるレコード会社「ベアズヴィル」である(あのトッド・ラングレンもそこからアルバムを出していた)。

メンバーは、リーダーのP・バターフィールド(hca)、ボーカル&キーボードのロニー・バロン、ギターのジェフ・マルダー、エイモス・ギャレット、ベースのビリー・リッチ、ドラムスのクリストファー・パーカーの6人。いずれ劣らぬ巧者ぞろいである。

超強力なリズム・セクション、ツボを押さえた達者なギター・プレイに支えられてバターフィールドが編み出すサウンドは、根本はピュアなブルースでありながら、やはり70年代のコンテンポラリーな味わいのものである。

ボーカルのロニー・バロンも、派手さはないが、表現力にとんだ、シブ~いシンガーである。彼は以前、ドクター・ジョンと組んで「ナイト・トリッパー」というバンドをやっており、このアルバムにもふたりの共作「ルイジアナ・ブラッド」がおさめられている。

ちなみに、ドクター・ジョンという芸名は、本来はロニー・バロンが名乗るはずだったのが、ロニーが嫌がったため、現在のドクター・ジョンであるマック・レベナックが、しかたなくその名を引き受けたというこぼれ話もある。

その他、tbのライブでもおなじみの「スモール・タウン・トーク」、「イフ・ユー・リヴ」といった曲もおさめられている。前者はシンガー、ボビー・チャールズとザ・バンドのリック・ダンコのペンによるもの。ボビー自身のソロ・アルバムやエイモス・ギャレットのベスト・アルバムにも収録されている、リリカルな名曲だ。

あまりに大人っぽい、さらっとした仕上がりゆえに、発表当時は、日本のロックファン、ブルースファンにはほとんど話題にもならなかったアルバムだが、28年の歳月を経て聴いてみると、ブルース、ソウル、ロック、そしてニューオリンズ系ファンクと音楽的に引き出しの多い、完成度の高いサウンドで、まったく古さを感じさせない。

つまり、奥行きがあるっていうか、ふところが広いって感じだ。たまには、こういう大人の音楽、聴いてみてはどうかな?

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音盤日誌「一日一枚」#12 LOVE PSYCHEDELICO「THE GREATEST HITS」(ビクターエンタテインンメト)

2021-11-23 05:20:00 | Weblog
2001年2月4日(日)


LOVE PSYCHEDELICO「THE GREATEST HITS」(ビクターエンタテインンメト)

最近、テレビやFMで、やたら3rdシングル「Last Smile」がかかっている「ラブ・サイケデリコ」、通称デリコのデビュー・アルバム。
まず、タイトルからして、人を食ったシャレだ。

このファーストがなぜか、いきなりのアルバム・チャート一位!

しかも二週連続で。

新人アーティストとしては、信じられないような快挙(怪挙か?)である。

それをなぜか妻が買ってきたので、一枚通して聴く機会を持った。

で、聴いて最初に口をついて出てきた感想は、「懐かし~い!」というもの。

収録曲のひとつの「ノスタルジック'69」というタイトルに象徴されるように、60年代後半から70年代前半にかけての英米ロックの「レプリカ」そのものなのである。

他の曲だって「LADY MADONNA」だの「Your Song」だのといったタイトルだ。

ボーカルのスタイル、コーラスの入れ方、ギターフレーズ、リズム・パターン、エコーのかけ方その他の録音方法、曲調、すべてが「アナログ」にして「アナクロ」な60-70年代感覚で統一されている。

懐古趣味まるだしのアルバム・アートワークにいたっては、もうなにをかいわんや、である。

(CDのレーベルが、アナログ盤に見えるよう、デザインされていたりする。)

ところが、デリコのメンバーは、そんな70年代のサウンドをリアルタイムで聴いたこともなければ、ヒッピー・ムーブメント、フラワー・ジェネレーション、ウッドストックなど体験したこともない、20代の若者たちなのである。

ボーカル・ギターKUMI24才、ギター・ベース・ボーカル・作曲佐藤直樹27才。

でも、KUMIのボーカルはカルメン・マキ、リッキー・リ-・ジョ-ンズあたりを彷佛とさせる、アンニュイでアクの強い声。彼女が歌えば、日本語もまるで英語のように聞こえる。

どう聴いても「明るく、健康的」がモットーのアメリカン・ポップスではなく、ベトナム戦争で疲弊、退廃したあの時代そのものの、暗く重いロック・サウンド。

これが発売即チャート一位なんだから、新世紀に突入して「日本も変わった」というべきだろう。

筆者たちの世代のときには、変えようと闘ってもまるで変わらなかった「古い日本」の感性が、いま、音をたてて瓦解してるのかも知れない。

この「ラブ・サイケデリコ」をテーマ曲として。

果たして、手放しで喜ぶべきかどうかは、さだかではないのだが。


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音盤日誌「一日一枚」#11 マディ・ウォーターズ「ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」(Chess)

2021-11-22 05:05:00 | Weblog
2001年2月3日(土)


マディ・ウォーターズ「ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」(Chess)

推薦盤にも登場の大御所マディ、今日は彼の、チェス時代のファースト・アルバムを聴き直してみた。

もちろん、アナログ盤だ。

筆者には、このアルバムにも、ちょっとした思い出話がある。

1983年にマディがなくなったとき、私はとある週刊誌の記者をやっていて、音楽欄を担当していたのだが、マディの追悼記事を載せようという話になって、そのときこの「ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」を、誌面にて扱うためにとりよせたのだった。

以来、17年以上、ときどき思い出してはこのアルバムを聴き直している。

このアルバムは、とにかく「スゴい!」の一語につきるだろう。

まず、ジャケットがスゴい。

テラテラと脂で光ったようなマディの横顔、これに圧倒されないヤツはいないだろう。

なんちゅー存在感。

中身も、もちろん、スゴい。

48年から54年にかけての録音。

彼の代表的ナンバー12曲がおさめられているが、そのドスのきいたボーカルのスゴいこと。

暗黒街の顔役のひと睨み、みたいな小便チビリものの迫力である。

バックのサウンドは、エレクトリック化されたブルースの初期のものだから、まだペナペナな音で、60年代以降のハードロックのよーなものを期待して聴くと見事に肩すかしをくらうが、でも力強さに溢れている。

要するに、「男気」「任侠」なサウンドなのだ。

日本でいえば、サブちゃんくらいしか、対抗できる男性シンガーはおらんな。

この一枚を聴き狂って、ブルース道、ロック道にはまった輩は数知れず…。

「ローリン・ストーン」を自分たちのグループ名にまでしちまったストーンズ。

「アイム・レディ」を自分たち流に換骨奪胎し、フィルモアで絶叫、熱演したハンブル・パイ。

「アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラブ・トゥ・ユー」という、そのものズバリのエッチな曲を歌いまくったフォガット。

「フ-チ-・ク-チ-・マン」(精力絶倫男の意)のむこうをはって、「ロックン・ロール・フ-チ-・ク-」を作ったリック・デリンジャー。

そして、晩年のマディにぴったりと寄り添い、「ハード・アゲイン」「アイム・レディ」など何枚ものアルバムをプロデュースしたジョニ-・ウィンター。エトセトラ、エトセトラ。

筆者も、やはりこれらの曲を聴き、かつ歌ってきた「マディーズ・サン」たちのひとりゆえ、このディスクに針をおとすたびに、条件反射的に熱くならざるをえない。

その男気で同性に惚れさせ、そのエロっぽさで女を酔わせるマディ・ウォーターズの真髄が、このアルバムに凝縮されている。

大げさに聞こえるかもしれないが、全ロックファン、全ブルースファン必聴の一枚である、そう思う。

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音盤日誌「一日一枚」#10 トライセラトップス「A FILM ABOUT THE BLUES」(Epic/SME)

2021-11-21 05:00:00 | Weblog

2001年1月28日(日)



トライセラトップス「A FILM ABOUT THE BLUES」(Epic/SME)

さて、ひさびさのスタジオ録音盤である。

デビュー3年目の1999年5月、シングル「GOING TO THE MOON」のスマッシュ・ヒットで、トライセラトップスはメジャー・シーンに躍り出た。

で、その年の秋には、このサードアルバムをひっさげてのツアーを開始、年末には念願の日本武道館での公演を成功させる。

「A FILM ABOUT THE BLUES」は、シングル「GOING TO THE MOON」「if」「SECON COMING」「UNIVERSE」の4曲を含む全11曲。

アルバム・タイトル中のBLUES とは、音楽ジャンルとしてのBLUES というより、憂鬱なこと、くらいの意味だそうだ。でも、もちろん、音的にも、ブルース的な陰影を帯びている。

とにかく、前作「THE GREAT SKELETON'S MUSIC GUIDE BOOK」に比べると、明らかにすべてのパートの音がハード、ヘビーになった。

従来の女性ファン向け「ポップなトライセラ」のイメージを脱皮して、男性リスナーが聴くに耐えうるサウンドに成長したといえるだろう。

和田唱のギター・プレイにも「熱い」ものがある。たとえば、「DANCE」「CHILDHOOD」でのレスポールの「泣き」は、なかなかのものだ。

決して「今ふうの」音とはいいがたいが、ロックの王道をきちんと押さえた、「楷書」のようなハードロック。

まだまだ、アイドル的な扱いを受けやすく、実際、アイドルロッカー的な人気もなければここまで売れることはなかったのだが、着実に実力をたくわえていると見た。

あまり語られることはないが、ドラムスの吉田佳史も相当な実力がある。

ライブ・ビデオ等での演奏を聴けば、その安定感、そして攻撃力は、もはやカーマイン・アピスだってメじゃないと思うのだが。

新世代の彼らは、我々が長らく持ってきた、英米ロックへのコンプレックスを軽く吹き飛ばすくらいのパワーを持っている。

あとは、まだ青臭さの残る和田のボーカルが伸びれば、相当なところまで行くはずだ。

2月21日には、ひさびさのニューアルバム「KING OF THE JUNGLE」がリリースされる彼ら、まだまだ成長を続けていくにちがいない。


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音盤日誌「一日一枚」#9 ウェス・モンゴメリー「フル・ハウス」(RIVERSIDE)

2021-11-20 04:54:00 | Weblog

2001年1月27日(土)



ウェス・モンゴメリー「フル・ハウス」(RIVERSIDE)

申し訳ない、またライヴじゃ(苦笑)。

ライヴ盤シリーズ、これでひとまず打ち止めにするので、ひらにおゆるしを。

実は、ウェス・モンゴメリーというアーティストは、筆者にとっては「特別」な存在である。

いってみれば、筆者をジャズ/ロック/ブルースの底無し沼に引きずり込んだ、最初の誘惑者なんである。

小学5年生の夏休み、筆者は貯金をおろして、新宿の小田急百貨店ではじめて自分専用のAMラジオを購入した。

これが「転落」の始まりだった(笑)。それもこのうえなく甘美な。

当時、TBSだったか、日曜の深夜に「ミッドナイト・ジャズ・リポート」というジャズ番組が放送されていた。

これを、どういうきっかけだか、10才のガキが聴きはじめ、そしてハマってしまったのである。

ある週、アルトの声がカッコいいDJのおねーさんが紹介したのは、ウェス・モンゴメリーというギタリストのリヴァーサイド盤であった。

アルバム・タイトルは、おそらく「ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター」、そしてこの「フルハウス」だったと思う。

速いパッセージ、そして特徴のあるオクターブ奏法に、筆者の耳は吸い寄せられた。なんて凄いテクニックなんだ!

それまで、ルイ・アームストロングのようなまったりした音を「ジャズ」だと思っていた筆者には、まるきり別の音楽に聴こえたのである。

そして、この天才ギタリストは68年の6月に急逝し、もはやこの世にいないのだということも聞いて、ガキなりになんともいえない感慨にひたったものであった。

私事はさておき、このアルバムはウェスがまだイージー・リスニング的な方向へシフトする前の、バリバリ、ゴリゴリのギターを弾いていた時代のもの。

1962年6月25日、カリフォルニア州バークレイのカフェ「Tsubo」にて録音。

パーソネルはウェス・モンゴメリー(g)、ジョニ-・グリフィン(ts)、ウィントン・ケリ-(pf)、ポール・チェンバース(b)、ジミ-・コブ(ds)。

もちろん、当代一流のプレイヤーが勢揃いである。リズム・セクションの3人は、マイルス・デイヴィスのバックもつとめていた巧者たち。

とにかく、今聴き直してみても、もの凄いスピード感のあるプレイだ。

ただ手くせで指を速く動かしているのではなく、譜面化されたものを見てみると、きちんと音楽的に高度に構成されているのがわかる、そういう速弾きなのだ。

三十年近くギターを弾いてきた筆者だが、ウェスのギターをコピーしようなどと思っても、まるきり不可能。おのれの腕前がいかに凡庸かを思い知らされる。

やはり、その才能は「別格」といっていい。

ウェスの前にウェスなし。ウェスの後にもウェスなし。

このアルバムでは、ワルツテンポのオリジナル「フル・ハウス」をはじめ、「マイ・フェア・レディ」でおなじみのスローバラード「アイブ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス」、ミディアム・テンポのスタンダード「降っても晴れても」、そして彼の本領がもっとも発揮されるアップテンポのバップ・ナンバー「ブルー・ン・ブギ」「S.O.S.」といった、バラエティに富んだスウィンギーな演奏が楽しめる。

ウェス以外のピアノ、テナーのソロも、ジャズ史上に残る名演といってよい。

ジャズのもっとも上質なエッセンスが、この一枚に結晶しているといえるだろう。


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音盤日誌『一日一枚」#8 べック・ボガ-ト&アピス「ライヴ・イン・ジャパン」(Epic/SME)

2021-11-19 05:05:00 | Weblog

2001年1月21日(日)



べック・ボガ-ト&アピス「ライヴ・イン・ジャパン」(Epic/SME)

すまないが、4連チャンでライヴ盤である。どうしても、このアルバムも聴きたくなってしまった。

これは、タイトル通りBB&A来日時のライヴで、1973年5月18・19日大阪厚生年金会館での録音。

つい最近、日本のチャ-と共演しとったボガ-ト=アピスのコンビだが、ふたりの付き合いは67年にデビューしたヴァニラ・ファッジ時代からだから、相当長い。

一方、ヤードバーズに嫌気がさして66年暮れに脱退したジェフ・べックは、ジェフ・べック・グループ(第一期)を結成、活動していたがリズム・セクションの2名が脱退したため、かわりのメンバーをさがしているうちにボガ-ト=アピスに注目し、彼らに誘いをかけたのである。

ところが新バンド結成寸前の69年11月、べックが自動車事故を起こし負傷してしまい、その間にボガ-ト=アピスは新グループ、カクタスへと参加してしまう。

しかたなくべックは、翌年第二期のジェフ・べック・グループをコ-ジー・パウエルらと結成し、従来よりもファンク路線寄りの音作りをするようになる。

72年7月にはそれも解散、「君の名は」ばりのすれ違いを続けた彼らもようやくひとつとなって、9月にBB&Aとしてデビューすることになる。

前グループでのファンク路線からの反動か、BB&Aでは極めてハードロック色の強いサウンドを追求するようになった。

73年2月発表の1stアルバムは日本でも好セールス、はやくも5月には来日を果たすこととなる。もちろん、3名ともに初来日であった。

マクラが長くなってしまったが、当時のBB&Aの昇り調子と、日本でのハードロックファン急増の勢いがひとつになり、ものすごくパワーを感じさせるライヴ盤に仕上がっている。

日本のみでの発売であったが、英米のファンにもコレクターズ・アイテムとして垂涎の的であった。

また、トーキング・モジュレ-タ-といえば、前出のフランプトン・ライヴの「ショウ・ミ-・ザ・ウェイ」で使われたことであまりに有名だが、もとはといえば、この「BB&A LIVE」で使われてはじめてメジャーな存在になったのである。

オープニングは「迷信」、そう、スティービー・ワンダーが彼らに提供した、あの名曲である。その「迷信」から「プリンス/ショットガン」までの13トラック、全編ハードロック一色である。

カントリー調の「スウィート・スウィート・サレンダ-」でさえ、べックのギター・フレーズはこのうえなくスリリングだ。ソウル・バラード「アイム・ソ-・プラウド」も、しっかりと彼ら流のハードロックに仕上げている。

すさまじいエネルギーでビートを生み出す、当時世界最強といわれたリズム・セクションのふたりをバックに、べックのエキセントリックなギターが暴れまくるさまは、当時高校生になったばかりの筆者にとって、衝撃以外の何ものではなかった。

FMでエアチェックしたテープを、それこそ擦り切れるまで聴いたものだ。

仲間うちでも、「レディ」や「ジェフズ・ブギー」を完コピで弾けるヤツは、ヒーローだった。

その後の、日本のロックシーンに与えた影響から言えば、ZEPの「FOUR SYMBOLS」、DPの「MACHINE HEAD」に匹敵するといえるだろう。

旧世代のJL&Cにせよ、新世代のトライセラにせよ、原点はこのBB&Aであるといってよい。

一時はアナログ盤の廃盤でまったく手に入らず、筆者も中古レコード店を巡っては見つからず溜息の連続であったが、こうやってCDで89年に再リリースされたのはまことにうれしい。

いつだって、ロックがロックらしかった、あの時代にタイムスリップ出来るのだから。


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音盤日誌「一日一枚」#7 ピーター・フランプトン「フランプトン・カムズ・アライヴ!」(A&M)

2021-11-18 05:09:00 | Weblog

2001年1月20日(土)



ピーター・フランプトン「フランプトン・カムズ・アライヴ!」(A&M)

またもやライヴ盤だが、これは全世界で1200万セット以上を売った、ベストセラー中のベストセラーである。

もちろん、個人のライヴ・アルバムとしては、史上最高のヒット。

発表は1976年1月。今からちょうど四半世紀前である。

その年のアルバム・チャート上位を独占しつづけ、アメリカ国内では、ほとんど「一家に一枚」状態だったらしい。フランプトンは、一躍、時代の寵児となった。

発売の年、筆者はしがない浪人生。金欠病のため、このアルバムはFMをエアチェックして、テープで聴いていたという記憶がある。

でも、その年で一番リピートして聴いたテープではなかったかと思う。それくらい、あきのこない充実した作品であった。

ロック、ファンク、ジャズ、フォーク…。さまざまな味わいの音楽がブレンドされた絶妙なサウンド。フランプトンのヘタウマ的ボーカルが、みょうに耳になじんだ。

その「フランプトン・カムズ・アライヴ!」を、妻が昔購入したというCDでひさびさに聴くと、発表当時は見えなかったものが、見えてきた。

フランプトンは、あれだけの大成功をおさめたにもかかわらず、決してショー・ビジネスの才にたけた(たとえばコンピュータ業界におけるビル・ゲイツのような)ひとではなかった。

それは、彼がこのアルバム以後、余波で「アイム・イン・ユー」をクリーン・ヒットさせた以外は鳴かず飛ばずだったことでよくわかるだろう。

彼はきわめて純粋な、「音楽バカ」なひとなのである。

いってみれば、頑固な職人肌のひと。そんな彼とその音楽が、たまたま当時のアメリカ人の嗜好に(そのルックスも含めて)見事にハマったことで、人気が爆発しただけなのである。

ミーハーなアメリカ人は移り気だから、いつまでも彼を追いかけようとはしなかった、ということだ。

最近、彼の最新ライヴビデオが出ているのを山野楽器で発見し、そのパッケージ写真に絶句した。

1950年生まれのフランプトンは、現在50才、4月には51になる。

約20年ぶりに見た彼は―以前から、あのくるくるチリチリパーマは髪にヤバいんじゃないかと思っていたのだが―みごとな●ゲ頭となっていたのである。

おまけに眼鏡までかけ、かつての美男ロックスターの面影はどこにもなかった。

往時のファンならば、絶対に見たくはないであろう、そういう写真だった。

でも、彼は、昔とかわらぬ満面の笑みをうかべ、嬉々としてギターを弾いていたのである。

これでいいのだ、と筆者は思った。

「ロックスター」としての彼に世間から押しつけられた「期待」「思惑」、そういったものがきれいさっぱりと消えたとき、本物のミュージシャン、プレイヤーとしての人生が始まったのだ。

だから、今の彼は、25年前よりずっと幸福なはずである。

最後に76年当時の、彼のインタビューでの発言を記しておこう。

現在の彼を予見していたかのような、含蓄のある言葉だ。

「ぼくはいま、やっと自分の本当の夢に向かって歩き始めたんだ。

ぼくは、シンガーやソングライターとしてよりも、ただギタリスト

として認められたいんだ」/ピーター・フランプトン。


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音盤日誌「一日一枚」#6 ミッシェル・ガン・エレファント「ライヴ・イン・ト-キョー」(ヒートウェーヴ)

2021-11-17 05:02:00 | Weblog

2001年1月14日(日)



ミッシェル・ガン・エレファント「ライヴ・イン・ト-キョー」(ヒートウェーヴ)

ライヴつながり、というわけではないが、今日はミッシェルの最新作、初のライヴアルバムである。

これは昨年7月26日、赤坂ブリッツでのライヴをほぼ完全に収録したものだが、はっきりいって録音コンディションは、「ライヴ・アット・リーズ」と比べずとも、決してよくない。かなり音のワレ、ツブレが気になる。

しかし、そんなものを軽く吹き飛ばすような「勢い」が、このディスクにはつまっている。

「気合い」といいかえてもいい。

とにかく、一曲目の「プラズマ・ダイヴ」から、陳腐な表現で恐縮だが、「フル・スロットル」なんである。

オイオイ、最初からそんなに飛ばしたら、最後までもつんかいな?と余計な心配をしてしまうくらい、フルパワーな演奏なのだ。

しかも、スゴいことにそのテンションを最後まで維持している。

例のワンパターン・パブロックを延々と聴かされるわけなので、ひとによっちゃ、ちょっとキッツイかも知れん。でも好きなヤツにはたまらんだろうな。

筆者も実はキライではなかったりする。

最近出版されたミッシェルのインタビュー本には、彼らのデビュー間もない頃の写真も載っているのだが、それを見てちょっと笑ってしまった。

カジュアルな服装でまるでミスチルのよう、隣のお兄さん風に、にこやかに微笑む4人の姿。

これが、どこでどう間違ってコワモテの四人組になったのか?

でも、そういった「変節」や「これっきゃできない的不器用さ」も含めて、ミッシェルは好感の持てるバンドだ。

けっして天下を取れるようなバンドじゃないし、音楽的にも間口は狭いが、うまく立ち回ろうなどとは絶対考えないピュアな姿勢、これが結構好きだ。

いわゆるブルースとは音楽のスタイルは違うが、そのココロは、どうしようもない情けなさを胸に抱きつつ生きていくブルースマンのそれと共通するものがある。

ミッシェル、その愚直さを最後まで捨てずにいてくれよな。


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音盤日誌「一日一枚」#5 ザ・フー「ライヴ・アット・リーズ」(ポリドール)

2021-11-16 04:10:00 | Weblog

2001年1月13日(土)



ザ・フー「ライヴ・アット・リーズ」(ポリドール)

70年代から、このアルバムをいったい何度聴いたことであろう。

だが、いまだに聴きあきるということが、この「ライヴ・アット・リーズ」に関しては、まるでない。

それくらいロックの名盤中の名盤であり、数あるライヴ録音の中でも間違いなく五指に入る傑作だと思う。

アナログ盤時代は7曲しか収録されていなかったが、CD化されたことで一気に14曲にふえ、もちろんコンサート全曲ではないのだが、彼らのライヴのスゴさがよりはっきりとわかるようになった。

「ヘヴン・アンド・ヘル」にはじまり、「マジック・バス」に終わる77分余り、ハードでありながらも、メロディアスなザ・フーならではの世界がそこにある。

編成が同じということや、ボーカリストのルックスが似ていることなどから、日本ではどうもZEPの亜流ハードロックバンドくらいの評価しか受けていないフシがあるが、どっこい、こちらのほうがキャリアもあるし、音楽的な引き出しの多さでもまったく負けていない。ことに、メンバー全員がちゃんと「歌える」という、ZEPにはない強みもある。

「クイック・ワン」のような、いわゆるロック・オペラのナンバーで、その威力は最大限に発揮されている。

録音のコンディションも非常によく、ハード、ヘビーであっても決してマッシー(ぐちゃぐちゃ)な音ではない。クリアでしかも力強い。

以後のライヴ・アルバムの作り方の、お手本的存在になったというのが、十分納得がいく。

それから、プレイヤーとしてみてスゴい!と感じるのは、リズム・セクションのふたりである。

ジョンとキース、彼らのステージでの「アバれよう」は尋常ではない。聴くたびにそう思う。

こんなライヴを演奏できるグループは、後にも先にも、やっぱり「ザ・フー」だけに違いない。


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