泣いてください・・・

2004-11-05 23:30:15 | 物語
“山のふもとに古い電話ボックスがあります。
 人通りも少ないので、電話をかける人はあまりいません。
 電話ボックスは、日暮れになると、ぽっと明りが灯りました。
 ぽつんとした小さな明りは少し淋しそうで、いつもお客さまを待っているようでした。”

NHK教育で放送されてる『おはなしのくに』という朗読番組で取り上げられた、
『きつねのでんわボックス』(作・戸田和子)というお話です。
子供が小さいうちは、見てなくても午前中はNHK教育が流れていました。
これを初めて聞いたときも、ただテレビが勝手についていて、勝手に喋ってる状態でした。
ところがなんとなく気になり、家事をしながら思わず座り込んで聞き入ってしまいました。
朝から掃除をしながら泣きました。自分でもおかしな図だなとは思ったんですが(笑)
今でもこのお話は朗読されてます。

母きつねと子ぎつねが仲良く暮らしていました。
母きつねは子ぎつねが可愛くていとおしくて、とても大事にしていました。
“坊やがうれしいと、かあさんはいつもうれしいのよ”
“ほんと?なんだかへんだな。じゃ、ボクがまほうをつかったらもっとうれしい?”
“まほう?”
“うん、きつねはまほうが使えるんだって。ふくろうおじさんが言ってたよ”
“ほほほ、でもねえ、あれはきっとうそよ。
だってかあさん、どんなにおまじないしてもばけられないもの”

“なあんだ、がっかり”
“ふふふ、ざんねんね”

幸せな日々がずっと続いていくのだと母子で思っていたのでしょう。
ところが、秋の空気が漂ってきた頃、子ぎつねの様子が変わりました。
くる日もくる日も、母きつねの胸の中で震え続け、とうとうある朝、
小さい体をもっと小さくして冷たくなってしまったのです。
母きつねがいくら呼んでも、子ぎつねは返事をしませんでした。
毎日母きつねは泣き暮らしました。体がとけてしまいそうなほど・・・

山のふもとに電話ボックスがあります。
電話ボックスの小さな明りは、きつねの胸をほんの少しだけあたためました。

“かあさん!”
電話ボックスに毎日やってくる小さな男の子に出会いました。
人間の男の子ですが、母きつねは坊やの姿を重ねていました。
男の子のかわいい仕草を見て、
“まあ、かわいい。私の坊やも人間だったらこのくらいかしら・・・”

毎日、男の子がやってくるのを楽しみにする母きつね。
病気で遠くの病院に入院している母親に、毎日電話しにやってくるのです。

“かあさん、あいたいな・・・”
まるで坊やが生きていて、自分に言ったような気がしてきて、
“ええ、かあさんも、会いたいわ・・・”
母きつねは、思わずそう言ってました。
きつねは飛び出していって、男の子を抱きしめ頭や顔をペロペロ舐めてやりたくなりましたが
そんなことをしたら、男の子は驚いてもう電話ボックスにやってこなくなるでしょう。
母きつねはしっぽを抱いてじっと我慢するしかないのです。

“かあさん、はやくよくなってね。そしたら一緒にハイキングや海へ行こうね”
“はいはい、そうしましょう”
“それまでは電話でいいよボク。電話だってうれしいんだから”
“かあさんもうれしいわ・・・”
“かあさんて、ボクがうれしいと、いつもうれしいって言うんだね”
“ええ、そうよ、そうよ”
きつねは何度も頷きました。

冬が訪れようとする頃、きつねは電話ボックスに明りがついていないのに気づきました。
駆け寄ると、ドアに白い紙が貼られています。でもきつねには読めません。
その時車が通りかかり、男の人が二人話しているのを聞きました。
古いし、かける人もそういないから、きっと取り外してしまうのだろうという事を・・・

母きつねはびっくりしました。電話が使えなくなると、あの男の子はどうなるの?
母親に電話できなくなる・・・目の前に男の子の今にも泣きだしそうな顔が浮かびました。
もうすぐあの子がやって来る。母親に電話をするために。
困っていると、遠くから男の子の走る音が聞こえてきました。

どうすることも出来ないきつねは、かわいそうな男の子を抱くようにそっと前足を伸ばして
“私があの子の電話ボックスのかわりになれたら・・・”と思い、
くやしくなって、足をじたんだ踏んだとき、きつねの姿は電話ボックスに変わっていたのです。

男の子は二つある電話ボックスに驚きましたが、まよわずきつねの電話ボックスに飛び込みました。
男の子はすくっと背を伸ばして受話器をとりました。
コスモスの花のような手のひらから温かさが伝わってきます。
“もしもし、かあさん?”
きつねの胸の中で、男の子の声が聞こえました。ふわんと甘い匂いもしました。
“かあさん、きこえる?”
“は、はい、かあさんよ・・・”
“あのね、きょうおじいちゃんがね・・・”
“はいはい、わかった。大きな町の駅に行ったんでしょう”
“ううん、ちがうよ”

いろんな話をしました。でも幸せなひと時は続かなかったんです。
男の子の話によると、今一緒にすんでいるおじいさんの次の仕事が
母親の病院のある町だという事がわかりました。
“もう電話しなくったって、いいんだ。だって、毎日かあさんに会えるんだもの”
男の子は嬉しそうに話しますが、きつねはもう男の子にあえなくなる悲しみで
胸が押しつぶされそうだったのでしょう。
電話が終わると、男の子は嬉しそうにぴょんと外へ飛び出して行きました。

気がつくと、きつねは夢から覚めたようにぼんやりしていました。
でも、胸の中にはまだ男の子のぬくもりが残っています。
ほっぺの甘い匂いも残っています。

ふと見ると、今まで消えていた電話ボックスの明りがついているのです。
ふるえるようにゆっくりと明りが灯り始めたのです。
電話ボックスの中はあたたかでした。胸の中から元気が沸いてくるようでした。
“よかったわ、あの子がお母さんに会えて。私もあの子のおかげで坊やを思い出すことができたもの・・・”
坊やに声が届きそうな気がして、そっと受話器を取りました。
“もしもし、ぼうや・・・
あのね、かあさん魔法がつかえたのよ。ほんとよ・・・”
返事はありませんでしたが、母きつねはガッカリしませんでした。
坊やは自分の胸の中にいつも一緒に居る事に気づいたからです。

唯一、母きつねが気付かなかったことは、
電話ボックスがきつねのために最後の力で明りを灯したことです。
消えてしまいそうな母きつねの心に再び灯をともしたことを。
電話ボックスの中のきつねの顔は幸せでした。




参考図書:金の星社『きつねのでんわぼっくす』(戸田和子・作/たかすかずみ・絵)

最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
う、う、うっ・・・・ (りりあん)
2004-11-06 01:52:01
泣かせていただきました。

こんな夜中に。

胸にぐっと迫ってくるお話ですね。

母親経験のない私でさえ、こうだから、

お母さまがたはさぞかし・・・。



返信する
おおせのとおり ()
2004-11-06 19:59:31
るなち、何の魂胆や?

年寄り泣かせて・・・ウッウッ・・

大昔から母子ものは、皆弱いんだよね。

岸壁の母、とか・・(古すぎ!)
返信する
見てた~ (すばる)
2004-11-06 20:58:11
〔おはなしのくに〕って私も結構好き~

読み聞かせも読む人によっては引き込まれるよね~

私も子供に読んでやるけど、もっと上手に読めんのかぃっと自分で思うわ~(笑)

藤村俊二さんとか大竹しのぶさん、市村正親さんとかメンバーも凄いよね~

密かにタチンも出してほしいっと思ってる私。。
返信する
そだそだ~♪ (るなち)
2004-11-08 18:48:55
『おはなしのくに』って結構そうそうたるメンバーですよね。

すばちの書いてくれたメンバー以外にも

西村雅彦さん・岸田今日子さん、あと田山涼成さん。

田山さんってあの人でしょ?『大正四谷怪談』に出てた。

タチンに出て欲しいよね~『葉っぱのフレディ』とか?



3学期の『おはなしのくに』、まだ語り手の未定ってのがあるんですよ・・・

タチンじゃないよね~
返信する
ちなみに・・・ (るなち)
2004-11-08 18:52:57
『きつねのでんわボックス』の語り手は、平野啓子さんって方です。

返信する

コメントを投稿