夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆米雇用創出法 知財戦略への影響

2005年03月20日 19時22分33秒 | 企業法務学習日記
 新聞報道によると,米有力企業が,海外の子会社に蓄積されている利益を米国本社に大量に吸い上げる方針だという。海外子会社は,利益の大半を配当原資として米本社に吸収しているが,それでも,留保されている利益は昨年で6500億ドルにのぼるという(JPモルガンの推計)。ここから米国本社に吸い上げられる金額は,3200億ドル程度になるという。

 2004年10月,米国での雇用拡大・投資促進を目的に様々な減税措置を採用する雇用創出法が成立した。従来,海外子会社が米本国に送金する場合,海外で支払った税金の一定額を控除した上で35%の法人税が適用されていたが,同法の内国投資促進条項により,2005年に限り5.25%に減税される(ただし,配当原資・自社株買い原資・役員報酬などには利用できず,設備投資・研究開発・財務体質改善などに利用しなければならない。また,投資計画を取締役会で決定の上税務当局に提出しなければならない)。この減税効果を狙って,利用表明が相次いでいるという。

 すでに雇用創出法の利用を表明している米企業は約200社にのぼり,この中にはファイザー,ブリストル・マイヤーズ,イーライ・リリーといった製薬メーカーやIBM,インテル,ヒューレットパッカードといったIT企業など名立たる大企業が含まれている。

 同法は,米企業が研究拠点をインドなどに移転させる動きが相次いだことから,米国内の資本・雇用の空洞化が進み,将来の競争力不安が生じたことを背景として立法されたと記憶しているが,米企業の動きを見る限り,立法は成功だったようだ。米国内の景気を押し上げる効果が生じることは容易に予想される。

 ただ,より重要なのは,ゲノム研究など先端研究を促進するべく製薬大手が積極的な利用を計画している点だろう。例えば,ファイザーは,昨年約76億ドルを研究開発に投じているが,最大290億ドルを米国に送金して,研究開発をさらに強化するという。いうまでもなく,ゲノムなどの医薬分野の基礎研究は,将来の知財戦略に大きな影響を与える。応用の幅が広い分,パテント料など知財ビジネスへの寄与が極めて大きいと予想できるからだ。

 基礎的先端技術の米国による囲い込みが一層進みそうである。ひるがえって,日本政府も知財立国を喧伝しているが,具体的政策のインパクトは見えてこない。日本政府にも,米国のような大胆な政策の実施を期待したいものである。

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