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◆会社法 株式会社の業績悪化による株価下落につき株主の取締役に対する損害賠償が否定された事例

2005年05月08日 20時02分11秒 | 企業法務学習日記
◆概略◆

 株式会社の業績悪化による株価下落につき株主の取締役に対する損害賠償が否定された事例-雪印食品損害賠償請求事件控訴審判決-(東京高判平成17年1月18日金融商事判例1209号10頁)

◆要旨◆

① 取締役に対する責任追及について,公開会社の株主は,特段の事情なき限り,商法267条の代表訴訟によらなければならず,民法709条に基づいて訴えを提起できない。
② 閉鎖会社においては,特段の事情があるとして709条によって取締役の責任を追及することもできる。

◆判旨◆

 株式が証券取引所などに上場され公開取引がなされている公開会社である株式会社の業績が取締役の過失により悪化して株価が下落するなど,全株主が平等に不利益を受けた場合,株主が取締役に対しその責任を追及するためには,特段の事情がない限り,商法267条に定める会社に代位して会社に対し損害賠償をすることを求める株主代表訴訟を提起する方法によらなければならず,直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできないと解すべきである。

 その理由は,①上記の場合,会社が損害を回復すれば株主の損害も回復するという関係にあること,②仮に株主代表訴訟のほかに個々の株主に対する直接の損害賠償請求ができるとすると,取締役は,会社及び株主に対し,二重の責任を負うことになりかねず,これを避けるため,取締役が株主に対し直接その損害を賠償することにより会社に対する責任が免責されるとすると,取締役が会社に対して負う法令違反等の責任を免れるためには総株主の同意を要すると定める商法266条5項と矛盾し,資本維持の原則にも反する上,会社債権者に劣後すべき株主が債権者に先んじて会社財産を取得する結果を招くことになるほか,株主相互間でも不平等を生ずることになることである。

 以上のことを考慮して,株式会社の取締役の株主に対する責任については,商法266条が会社に対する責任として定め,その責任を実現させる方法として商法267条が株主の代表訴訟等を規定したものと解すべきである。そして,その結果として,株主は,特段の事情のない限り,商法266条の3や民法709条により取締役に対し直接損害賠償請求することは認められないと解すべきである。

 また,株式が証券取引所に上場されるなどして公開され多数の株主が市場で株式を売買している公開会社においては,株主は,特段の事情のない限り,いつでも自由に市場において株式を処分することができるので,取締役の過失により株式会社の業績が悪化して株価が下落しても,適時に売却することにより損失を回避ないし限定することができるから,株主に個別に取締役に対する損害賠償請求を認める必要も少ない。

 もっとも,株式が公開されていない閉鎖会社においては,株式を処分することは必ずしも容易ではなく,違法行為をした取締役と支配株主が同一ないし一体であるような場合には,実質上株主代表訴訟の遂行や勝訴判決の履行が困難であるなどその救済が期待できない場合も想定しうるから,このような場合には,前記の特段の事情があるものとして,株主は民法709条に基づき取締役に対し直接株価の下落による損害の賠償をすることもできると解すべきである。

◆関連資料◆

 金融商事判例1209号(2005年2月15日号)10頁 株式会社の業績悪化による保有株式の無価値化について株主が取締役に直接損害賠償請求することの可否(消極)──雪印食品損害賠償請求事件控訴審判決──(東京高判平成17・1・18)


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