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◆民法 抵当権者は不法占拠者でない賃借人に明渡し請求できるとされた事例(05.03.10最1小判)

2005年03月10日 22時07分51秒 | 企業法務学習日記
 3月10日,最高裁は,不法占有ではない正当な賃借人に対しても,抵当権者が明け渡しを請求できる場合があるとしました。債権回収実務等への影響が大きいと思われます。判旨の後に,今回の判決の前提である99.11.24大法廷判決の要旨を記載しました。

◆判旨◆

1 所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる(最高裁平成8年(オ)第1697号同11年11月24日大法廷判決・民集53巻8号1899頁)。

 そして,抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるものというべきである。

 なぜなら,抵当不動産の所有者は,抵当不動産を使用又は収益するに当たり,抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており,抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。

 また,抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。

2 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,次のことが明らかである。

 本件建物の所有者であるA社は,本件抵当権設定登記後,本件合意に基づく被担保債権の分割弁済を一切行わなかった上,本件合意に違反して,B社との間で期間を5年とする本件賃貸借契約を締結し,その約4か月後,B社は上告人との間で同じく期間を5年とする本件転貸借契約を締結した。
 B社と上告人は同一人が代表取締役を務めており,本件賃貸借契約の内容が変更された後においては,本件賃貸借契約と本件転貸借契約は,賃料額が同額(月額100万円)であり,敷金額(本件賃貸借契約)と保証金額(本件転貸借契約)も同額(1億円)である。そして,その賃料額は適正な賃料額を大きく下回り,その敷金額又は保証金額は,賃料額に比して著しく高額である。
 また,A社の代表取締役は,平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者であるが,本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で,被上告人に対し,本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。

 以上の諸点に照らすと,本件抵当権設定登記後に締結された本件賃貸借契約,本件転貸借契約のいずれについても,本件抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるものというべきであり,しかも,上告人の占有により本件建物及びその敷地の交換価値の実現が妨げられ,被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるということができる。

 また,上記のとおり,本件建物の所有者であるA社は,本件合意に違反して,本件建物に長期の賃借権を設定したものであるし,A社の代表取締役は,上告人の関係者であるから,A社が本件抵当権に対する侵害が生じないように本件建物を適切に維持管理することを期待することはできない。

 3 そうすると,被上告人は,上告人に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,直接自己への本件建物の明渡しを求めることができるものというべきである。被上告人の本件建物の明渡請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 原文は,最近の最高裁判決を参照。

◆参照判例◆

判例 H11.11.24 大法廷・判決 平成8(オ)1697 建物明渡請求事件(第53巻8号1899頁)

要旨:
 一 第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
 二 建物を目的とする抵当権を有する者がその実行としての競売を申し立てたが、第三者が建物を権原なく占有していたことにより、買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたために入札がなく、その後競売手続は進行しなくなって、建物の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる状態が生じているなど判示の事情の下においては、抵当権者は、建物の所有者に対して有する右状態を是正するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使し、所有者のために建物を管理することを目的として、不法占有者に対し、直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができる。
(一、二につき補足意見がある。)

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1 コメント

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その後の管理はどうなるのでしょうかね。 (ojiyan)
2005-03-12 11:21:09
TBありがとうございました。



 明け渡しを受けた後は当該物件を管理しなければならないということになるのやら。管理費の支払い等はどうなるのやら・・・・
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