夕陽丘

時事問題とロースクールの日常など

◆ケーススタディ 企業防衛 ベルシステム24事件

2005年04月21日 20時39分20秒 | 企業法務学習日記
① 2004年(平成16) 6月
 コールセンター業務最大手のベルシステム24は,大株主であったCSKから取締役の過半数を送り込みたい旨の提案を受ける。

② 7月20日
 ベルシステム24の取締役会は,日興コーディアル系投資会社NPIホールディングスを割当先とする1042億円の第三者割当増資を決議。これによりNPIに割当てられる株式は520万株(発行済株式の51.49%)。増資目的は,ソフトバンクグループとの包括業務提携を行うため,ソフトバンク系のBBコールの全株式を取得し子会社化するための資金調達等。また,基準日を本件増資の払込期日後に変更する。

③ 7月20日
 ベルシステム24の増資が実行されると,大株主であるCSKは,持株比率が39.2%から19%に半減し筆頭株主の地位を失い,反対にNPIホールディングスが51%を保有する筆頭株主になることになる。そこで,CSKは同日,東京地裁に対して,第三者割当による新株発行差止の仮処分を申立てた。

④ 7月30日
 東京地裁は,以下のように,発行目的は支配権維持とも思えるが,事案を総合すると,事業計画は合理的で支配権維持は主目的ではないとして仮処分を認めずCSKの申立てを却下する決定をする。CSKは東京高裁に即時抗告した。
 「本件新株発行の検討に先立ち,債務者代表者らが自らの支配権維持の目的を意図を有していたこと,本件業務提携に係る事業計画がこのような意図に起因したものであることは否定できないものの,本件業務提携に係る事業が約1,280億円の規模で実行されつつあり,本件新株発行によりそのうち約1,030億円が調達され,当該事業のために現実に投資される予定であること,事業計画には一応の合理性が認められ,債務者には相当の営業利益増が見込まれていることを考慮すると,少なくとも本件新株発行の決議時点において,本件新株発行が債務者の現経営陣の支配権維持を主要な目的とするものであったこと,すなわち,本件新株発行がそのような不当な目的を達成する手段として利用されたものであると一応認めることはできない」(金融・商事判例1201号4頁)

⑤ 8月4日
 東京高裁は,東京地裁決定を支持し,CSKの抗告棄却を決定。
 東京高裁も,「本件新株発行において,ベルシステム24代表者をはじめとするベルシステム24の現経営陣の一部が,CSKの持株比率を低下させて,自らの支配権を維持する意図を有していたとの疑いは容易に否定することができない」としつつ,事案を総合すれば,ベルシステム24には資金調達の必要があり,事業計画にも合理性が認められるとして,たとえ,支配権維持の目的があっても会社の発展等の正当な目的に優越するものではなく,著しく不公正な方法とはいえないとした。
 資金調達の必要性及び事業計画の合理性を認定した要点は以下の通り。
①事業計画は,ソフトバンクからの提案であった。
②ベル社とソフト社の交渉過程で,ベル社に有利な修正も行われていた。
③新株引受先のNPI社は,事業計画を詳細に分析し,経済的に合理性の認められる計画と判断した。
④公認会計士が,BBコール株式譲渡価格が妥当な価格と判断した。
⑤事業計画に対し,外部アナリストの評価にも肯定的なものがある。

 なお,ソフトバンクの孫社長が事業計画の合理性を法廷証言したことで,裁判所の心証形成がベル社側にかたむいたとの関係者の見方もある。

⑥ 8月5日
 CSKは,東京地裁への申立てを取り下げた。

⑦ 8月5日~6日
 CSKは,NPIホールディングスに保有するベルシステム24の全株式を譲渡した。



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