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◆会社法 企業防衛 有事の新株予約権発行に対する裁判所の判断枠組 

2005年03月17日 15時27分29秒 | 企業法務学習日記
 3月11日の東京地裁決定を受けてニッポン放送側が保全異議を申立てていた件について,16日,東京地裁で決定が出されました。結論としては,11日決定と同様に新株予約権の発行を「著しく不公正な方法」と判断し,11日決定を正当なものとして異議を退けました(ニッポン放送側は東京高裁に保全抗告)。

 従来から,裁判例においては,新株発行の主要な目的が現経営陣による経営権の維持であるかが問題とされ(主要目的ルール),この主要目的ルールを基準として不公正発行の有無を判断してきました(例えば,忠実屋いなげや事件 東京地決平成元年7月25日など)。この点では,経営権に争いがあっても,資金調達の必要性が明確に認められる場合,支配権維持目的ではないとされる裁判例がいくつか存在しています(東京地裁平成元年9月5日など)。

 今回の地裁での2回の決定でも,この主要目的ルールが基本となっています。ただし,両決定とも例外事由の存在を認めており,今後は,この例外事由の存在を発行会社側がどう疎明ないし立証していくか,反対に差止側はそれをどう防ぐかが企業法務上も重要になってくると考えられます。

 11日決定では,例外事由を「会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り」というかたちで述べています。そして,16日決定では,正当化する具体的事情として,買収者がグリーンメーラー(経営参加意思がなく,株価を高騰させ高値で引取りを要求する者)である場合と買収者による支配権取得が会社に回復困難な損害を生じさせることが明らかで支配権取得阻止が株主全体の利益に役立つ場合をあげています。

 これらは,あくまで例示であり,支配権維持が株主全体の利益の保護になることが重要です。ただ,有事における防衛策ということで,この例外事由の認定は厳しいものであると考えた方がいいでしょう。平時に設定され有事に発動される防衛策と比べて,株主の意思を反映しにくいからです。

 

 参考・不公正発行についての11日決定(抜粋)

 ア 不公正発行の意味について

 商法280条ノ39第4項、280条ノ10所定の「著シク不公正ナル方法」による新株予約権発行とは、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合をいうと解されるところ、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株予約権が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株予約権発行が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたるというべきである。

 商法は、公開会社について株主の新株引受権を排除し、原則として株主の会社支配比率維持の利益を保護していないから、新株又は新株予約権(以下「新株等」という。)の発行の目的に照らし第三者割当を必要とする場合には、授権資本制度のもとで取締役に認められた経営権限の行使として、取締役の判断のもとに第三者割当をすることが許容され、その結果として取締役の権限行使が株主の持株比率に影響を与えることがあることは法の予定するところである。しかしながら、会社支配権の争奪は、不適任な経営者を排除し、合理的な企業経営を可能とするという側面も有しており、一概に否定されるべきものではないところ、公開会社において、現にその支配権につき争いが具体化した段階において、取締役が、現に支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として新株等の発行を行うことは、会社の執行機関にすぎない取締役が会社支配権の帰属を自ら決定するものであって原則として許されず、新株等の発行が許容されるのは、会社ひいては株主全体利益の保護の観点からこれを正当化する特段の事情がある場合に限られるというべきである(もっとも、このようにいうことは、公開会社が、あらかじめ敵対的買収者を想定して会社支配権の争奪の状況が発生する前に何らかの対抗策を設けることを否定する趣旨ではない。敵対的買収に備えて会社として事前にどのような措置を講ずることが許容されるのか、その内容、基準、社外取締役の関与、株主総会の承認など導入に際しての手順については、現在、有識者により様々な場において検討されているところであり、今後、議論が深化し、会社ひいては株主全体利益の保護の観点から公正で明確なルールが定められることが期待される。)。


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