中国で訪れた酒泉で手に入れた夜光杯。
祁連(きれん)山脈から切り出した石を
丁寧に研磨して薄く仕上げたこの杯。
月明かりに光を放つところから
夜光杯と呼ばれる。
この夜光杯については、
唐代の詩人、王翰が
漢詩「涼州詞」の中で詠んでいる。
葡萄美酒夜光杯 欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑 古来征戦幾人回
<夜光杯に注がれた葡萄の美酒を飲もうとすると、
馬上で琵琶の音が聞こえてくる。
たとえ砂上に酔い臥しても、
どうか笑わないでほしい。
昔から、戦場から無事に故郷に帰れた者は
数少ないのだから。>
昔から、広大な国土でさまざまな小国が
領土を争って戦いを繰り広げてきた
中国の歴史を垣間見るような思い。
材料の石に含まれる鉄分から、
この杯で酒を飲むと鉄分を一緒に
摂ることができるという説明は
本当かどうかよくわからないけれど、
昔と同じように、夜光の杯に
葡萄の美酒を注いで飲んでみると、
いつもの味わいが、どことなくまろやかに、
そして深みをもって感じられるのは
この杯のせいなのかどうか。