甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

春風馬堤曲 その3 ふるさとの風景

2020年02月22日 05時15分07秒 | 蕪村さんの旅と放浪

 堤を歩いて行けば、いつかは故郷にたどり着きます。当然、そこには誰かがいて、少しずつ地元の人々とふれあうことになります。

〇一軒の茶見世(ちゃみせ)の柳老(おい)にけり

 一軒の茶店のそばにあった柳の木は、知らない間に大きくなっていました。

 これはもう俳句ではないですね。日記でもなくて、漢詩と五七五を組み合わせて、何かを物語ろうとしている。

 堤防にある茶店は、一軒だけです。その印象的な、思い出深い茶店、そこにポツンと柳の木はあった。それが、知らない間に老木になっていた。柳の木に歳月を感じるなんて、よほど大きくなっていたか、みすぼらしくなってたか、どちらかなんでしょう。

 若々しい、やさしい木陰を作ってくれる柳の木に感じる歳月。

 そういえば、うちの奥さんの実家にも柳の木があって、優雅にそれをバックに写真を撮ってた彼女のおうちの夏、あの柳の木だって、もう今はありません。何だか、柳の木の老木、ちゃんとしたものを見たことがありません。



〇茶店の老婆子(ろうばし)儂(われ)を見て慇懃(いんぎん)に
 無恙(むよう)を賀(が)し且(かつ)儂(わ)が春衣(しゅんい)を美(ほ)ム

 茶店のおばあさんは、私を見て、とても丁寧に私の無事を喜んでくれました。彼女はちゃんと私のことを憶えていてくれました。そして、私の春着をほめてくれました。

 「私」とは、蕪村さんじゃなくて、うら若き女性という設定でした。どんな服を着てたんだろう。おばあさんに「あら、その服いいねえ」なんてほめられる着物、あるんだろうな。

 「無恙(むよう)」って、「恙(つつが)ない」ということでした。いつも、この字を見ると、ドキッとはするんですけど、私たちのまわりには恐ろしい虫がいて、ツツガムシに刺されて高熱で亡くなってしまうということ、昔はあったでしょうし、今もこんなに医療技術は進んだし、ツツガムシの潜む草むらも減ったと思うけれど、「そんなことで!」ということで命を落とすことって、あるんだろうな。

 ツツガムシの難から逃れることは、昔の人にとってはとても大事なことでした。

 あの聖徳太子さんでさえ、中国の皇帝様に手紙を出すときに、この「つつがなきゃ」を使ったんだから、万国共通だったんだろうか。それとも、日本限定の意味不明の言葉だったんだろうか。……とにかく、「恙ない」って、久しぶりに見ました。



〇店中有二客   能解江南語
   店中(てんちゅう)二客(にきゃく)有り  能(よ)く江南の語を解す

 酒錢擲三緡   迎我讓榻去
   酒錢(しゅせん)三緡(さんびん)を擲(なげうち)ち
   我を迎え榻(とう)を譲(ゆず)りて去る

 お店の中には二人の客がいて、「江南と」いうと、中国では揚子江の南という感じですけど、ここでは、そうではなくて、大坂ことばをしゃべっているみたいでした。「私」も関西で「お勤め」していますから、そういったことばの違いはちゃんと理解できたんです。

 先客の二人は、酒代に三百文を支払ったようで、そのあと私に座るところを空けてくださいました。

 おばあさんと出会い、柳を見上げ、大坂ことばをしゃべる人たちにも出会った。特に珍しい風景ではないです。その風景が漢詩になっているのがおもしろいのかな、という気もするけど、大きな風景の中のワンシーンというところかな。



(横山大観の「生々流転」からのパクリですけど、茶店のシーンは見つけられませんでした。雪舟さんの「山水長巻」にはあったかな?)


〇古驛(こえき)三兩家(さんりょうけ)猫兒(びょうじ)妻を呼(よぶ)
 妻(つま)來(きた)らず

 私の在所にたどり着いて、あたりを見回しますと、二、三軒の家があります。オスネコはメスネコを呼んで、あちらこちらわめいているようです。もう猫が恋する季節なのです。でも、メスネコは来ないようでした。

 これは、のどかな春というべきなのかな。どちらかというと、淋しいというのか、満たされないというのか、願う人に会えないというのか、何だかモヤモヤする風景なんだけど、これから先に、どんな物語が展開するのか、故郷でドラマはありますか?

 いや、故郷って、そんなにドラマチックなことは起こらないかもしれない。故郷にも淡々とした時間の流れがあって、そこにたまたま戻ってきた私は、当然そこには乗れなくて、少しだけ疎外感を感じて帰るだけなんじゃないのかな。

 さて、次回はどうなることやら……。



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