甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

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川端康成「かけす」 その1

2021年06月22日 21時01分00秒 | 本読んであれこれ

 「掌(てのひら)の小説」(新潮文庫 初版は1971)に載っている小説です。

 夜明けからかけすが鳴き騒いでいる
 雨戸をあけると、目の前の松の下枝から飛び立ったが、またもどって来たらしく、朝飯の時は羽音が聞こえたりした。
「うるさい鳥だな。」と弟が立ちかかった。
「いいよ、いいよ。」と祖母が弟を止めた。
「子供をさがしているんだよ。昨日雛を巣から落としたらしいよ。昨日も夕方暗くなるまで飛び回っていたが、わからないのかね。でも感心なものさ、今朝もちゃんとさがしに来るんだもの。」
「お祖母(ばあ)さん、よくおわかりになるわね。」と芳子は言った。

 小説の冒頭部分です。おばあさんは目が不自由で、芳子さんはおばあさんと同居しているようです。川端さんの小説ですから、お嬢さんはいかにもお上品です。



 ときどきガラス戸の前に立っていたり、坐っていたりして、手のひらを広げながら、ガラス越しの日ざしに五本の指をかざして、と見こう見している。根(こん)限りの生命をその視力に集中している。その時の祖母が芳子は恐ろしかった。後ろから呼びたいようにも思うが、そっと遠くへかくれてしまうのだった。
 そんな目の悪い祖母が、かけすの鳴き声を聞いただけで、目に見たように言ったので、芳子は感心したわけだった。

 
 おばあさんは一人で庭には降りられないけれど、大抵のことは気配で察することができるようです。でも、芳子さんにしてみれば、時々怖いくらいの雰囲気もある。今回も、どうしてそんな何もかもわかるの? と思うけれど、おばあさんにしてみれば、トリたちの声を聞いたら、すぐにわかってしまうようです。芳子さんは経験が浅いから、トリたちが騒いでいるようにしか聞こえない。



 芳子が朝飯の後かたづけに台所へ立つと、かけすは隣りの屋根で鳴いていた。
 裏庭には栗が一本と柿が二、三本ある。その木を見ると細かい雨の降っているのがわかる。葉の茂りをバックにしないと見えないような雨である。
 かけすは栗の木に飛び移って、それから低く地上をかすめて飛んだかと思うと、また枝にもどった。しきりに鳴く。
 母鳥が立ちさりかねているのだから、雛鳥はこのあたりにいるのだろうか。
 芳子は気にかかりながら部屋へはいった。朝のうちに身じまいをしておかねばならない。
 ひる過ぎに父と母とが芳子の縁づく先の母親を連れてくることになっている。

 芳子さんはそろそろ結婚が近いようで、将来の夫になる人の母親に会うことになっているようです。そんな大事な日なのに、カケスったら、子どもを巣から落として大騒ぎだなんて、何だか因縁めいています。何か落ち着かないなあと思っているでしょうか。それどころではないかな。



 父母は別居している。二度目の母である。
 父が芳子の母を離婚したのは、芳子が四つ弟が二つの時だった。母は派手に出歩いて金使いも荒かったということだが、ただそればかりでなく、離婚の原因はもっと深刻なものであったと芳子もうすうす感づいていた。
 弟が幼いころ母の写真を見つけ出して父に見せると、父はなんとも言わなかったが、恐ろしい顔をして、いきなりその写真を引きさいてしまった。
 芳子が十三の時、家に新しいい母を迎えた。後に芳子はよく十年も父がひとりでいてくれたと思うようになった。二度目の母はいい人で、なごやかな暮らしが続いた。

 芳子さんのお母さんとは生き別れだったのですね。継母さんはそんなに悪い人ではなかったみたいだけど、弟さんは反発するやら、実母さんはいろいろ訳アリだったり、穏やかに暮らしてはいるけど、芳子さんの毎日には危ない世界も広がっている。でも、もう年ごろだから、嫁いでしまえば、弟とも別れ、祖母とも別れ、自分で切り開いていく新生活が待っていました。

 とはいえ、新しいお母さんとどんな風に生きていくのか、そこは少し心配でしょうか。まあ、旦那のお母さんと結婚するわけではないから、旦那さえしっかりしてたら、芳子さんとしては安心だったのかどうか。短編ですから、どんな男の人と結婚するのか、お父さんはどんな縁談を芳子さんに持ってきたのか、そういうことは何も書いてありません。

 まあ、とにかく娘にはしあわせになってもらいたいという気持ちで、選りすぐりのダンナを選んであげたでしょうか。でも、父親は何を基準にムコを選ぶのか、男の職業とか、家柄とか、そんなつまらないことで選んでないだろうな。どうだったんだろうな。



 弟が高等学校に上がって寮で暮らすようになると、義理の母への態度が目に見えて変わってきた。
 「姉さん、母さんに会って来たよ。結婚して麻布にいるんだ。すごくきれいなんだぜ。僕の顔を見て喜んだよ。」
 弟に突然言われて芳子は声も出なかった。顔色を失ってふるえ出しそうだった。
 向こうの部屋から母が来て坐った。
 「いいよ、いいよ。自分の生みの親に会うのだもの、悪いことじゃない、あたりまえよ。こんな時が来るだろうってことは、母さんだって前からわかってたんだもの、別になんとも思やしないよ。」
 母は体の力が抜け落ちたようで、芳子には痩せた母がかわいそうなほど小さく見えた。
 弟はぷいと立って行った。芳子は思い切り打(ぶ)ってやりたかった。
「芳子さん、あの子になんにも言うんじゃありませんよ。言うだけあの子を悪くするんだから。」と母は小声で言った。
 芳子は涙が出だ。

 弟くんは、実母に会ってみたかったんでしようね。実の母親がキレイだと思えるなんて、それは良かっただろうけど、何だか男の子の成長としてはどうなんだろう。ちゃんとした母がいたのに、それでも満足できないものがあった。弟君にしてみれば、甘えられる母親が欲しかったのかなあ。

 そんなのが欲しい年ごろというのもあるんでしょうか。でも、会えば会うほど、弟君は引き裂かれたんじゃないのかな。元から引き裂かれた家族ではあったんだろうか。

 弟君もはぐれた鳥のヒナみたいなものだったのかな。



 父は弟を寮から家へ呼びもどした。芳子はそれですむだろうと思っていたのに、父は母を連れて別居してしまった。
 芳子は恐ろしかった。なにか男の憤怒か怨恨(えんこん)かの強さに打ちひしがれたようだった。前の母につながる自分たちも父は憎んでいるかと疑った。ぷいと立って行った弟も男の父の恐ろしさをうけついでいるかと思えた。
 しかしまた、前の妻と別れてから後の妻を迎えるまで十年間の父の悲しさと苦しさも、芳子は今になってわかるようにも思えた。

 二度目の奥さんと幸せな家庭を築いたかに見えてたお父さんも、何だか心のどこかではぐれているのかもしれない。でも、お父さんはお父さんで、家族というものを日々作ろうとしている。弟への指導、妻へのサポート、娘の縁談、状況に合わせてお父さんとしての努力をしている。

 弟は、反発しやすい年ごろでもあり、なかなかコントロールすることは難しい。それは自分の中にも感じるものがある。

 さて、このあと、この家族はどうなるのか。それは明日のお楽しみに!

 というほどのものではないんですが、文字が並びすぎてて、イヤになってしまいました。



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