
妄想世界の深夜の果てへ赴く事にした。
雨の深夜だってのに私もバカだな、と思いながらも、妄想の世界の話だし、何でもありで良い。傘が重たい、と思いながらも私は深夜の果てにある桜の木と街灯がある場所へやって来た。
雨が降っていると言うに、グランドピアノが置いてあって、見知らぬ誰かがそこにいた。恐ろしい程、何年か前の私に似ていて、ええっ?と思う。
「こんばんば。来ると思っていたから私も来ました。この曲を一緒に歌おうと思いまして」
私の顔を見るなり、名前も知らないその人は、私は知っていて誰もが知らない曲を弾き始めた。
「知ってる歌ですよね?」
ちょっと私の顔を見てそう言うと歌いだした。
(良い声してるねえ)
ピアノ腕も良い感じだったし、今夜はその曲を聴きたいって思ったっけ?と重たい傘に雨が落ち付けていた。
やがて名も知らぬその人は私は知っていて誰もが知らない曲のサビの部分まで弾き語った。
――そうそう、そんな感じだよね――
このまま静かに聴いていよう、そう思えた。弾き語りしているその人が気持ち良さそうにしているから。
そして、呆気なくフルコーラスが終わりいった。
「私の独唱になってしまいましたね。一緒に歌ってくだされば良かったのに」
ほんの少しだけ残念そうな表情をその人は見せた。
「では、今夜はこれにて」
その人は不意に立ち上がると、姿を消した。
残された椅子とグランドピアノ。
それを見ていて何故だろうか、私は古いテレビゲームに出てくる「誰も弾けないピアノ」を思い出す。
私が、今、この妄想の世界のこの目の前のグランドピアノもまた弾けないピアノ。妄想の世界だからこそ、成り立つ話。
私は、後を振り返らず深夜の果てから現実に戻ることにした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます