やさしい芸術論

冬が来たなら、春はそう遠くない

やなせたかしさん特集 その3

2021年08月19日 | やなせたかし

やなせさんの詩の紹介です。

この詩はやなせさん自身を投影しているかのような内容で、

69歳でアンパンマンのアニメがヒットするまで

苦労されたやなせさんの思いがあるような気がします。

最後の言葉がだんだん少なくなっていって、

~なのさ、という感じはどことなく太宰治のような感じを受けました。

味わい深い詩で、とても好きな詩です。


【老眼のおたまじゃくし】

山のうえの古い池に
おじいさんのおたまじゃくしが
住んでいた
もうとてもとしをとっていて
ひどい老眼になっていた
なにもかもみんなぼやけて見えた
さざ波もすいれんも散る花も
なにもかも

山のうえの古い池の
おじいさんのおたまじゃくしの
ひとりごと
ずいぶんながく生きてきた
ひどい老眼になったけど
おでこにしわがよってきたけど
いつまでもかえるにはなれないで
このままさ

山のうえの古い池に
おじいさんのおたまじゃくしが
住んでいる
子どもの心そのままで
ひどい老眼なんだけど
かえるになれないおたまじゃくしは
ふなの子や水すましなにもかも
なかよしさ

かえるに
なれない
おたまじゃくしは
それでも
しあわせだったのさ

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やなせたかしさん特集 その2

2021年08月19日 | やなせたかし

やなせさん特集という事で、やなせさんの詩を紹介していきます!

ぜひ、の詩はやなせさんのきれいな子供のこころと、

その中にある「ひとらしさ」の定義が曖昧になっている現代へ向けた

問いかけのような詩です。

 

幸福、の詩は、巷であふれている、

幸福だと思えばいい、不幸と思えばすべて不幸だから、という

個人の感情や気持ちを排除して、

とにかく機械的、合理的、教科書的な精神論への

アンチテーゼ的作品でもあると思います。

 

ぼく個人的には、

物事は見方や受取り方によって

幸・不幸が分かれるという事も大いにあるとは思いますが、

やはり大好きな人が亡くなれば悲しいし、

叩かれれば痛いし、

褒められれば嬉しいし、

そういう感情は感情のままで大事なのではないかと思います。

ブルーハーツの歌詞に

「叫ばなければ やりきれない思いを

 ああ 大切に 捨てないで」

とありますが、共感しています。

 

【ぜひ】

ぜひ 犬に生まれてみたかった
うれしいとき ちぎれるほど
しっぽをふってみたかった

ぜひ 花に生まれてみたかった
春になったら美しく咲いて
風にゆれてみたかった

ぜひ 鳥に生まれてみたかった
つばさをひろげて海をこえて
自由に とんでみたかった

しかし ぼくはひとに生まれた
ひとがひとらしく生きるには
どういう風にすればいいのだろう
ぜひ ぼくはそれが知りたい
ぜひ ぼくはそれが知りたい
ぜひ ぜひ ぜひ

【幸福】

幸福なんだと おもうとき
すべて なんでも幸福で
不幸なんだと おもうとき
すべて なんでも不幸です
たとえば 私が こうやって
今たよりなく生きていて
ノートひろげて泣きながら
「さみしい私」と かくことも
それも つまりは
幸福の一種なのでありますね

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