黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

ALWAYS 三丁目の夕日'64

2012年02月02日 | 本のページ
著者・涌井学

評価・☆☆☆

先日鑑賞した人気映画のノベライズ本である。文庫本なのでお財布にやさしいのもうれしい限り。しかももっとうれしいのが、映画の尺に入りきらなかった部分を、本ならカバーできる所である。これでいつでも大好きな夕日町三丁目に帰ることが出来る。
まぁ、結末がわかっているという欠点はあるが、感動がじっくり味わえない映画なら、買わないで済ますだけのことだ。ALWAYSには漫画の原作本があるのだが、描いている人物像が少しちがうこともあり、それに年代も少し進んでいて、ここまでっくるとこれはもう全く別物である。
評価はごくごく普通だが、個人的なお気に入り度はもう少し上である。
もし興味の有る方は、ぜひ映画を鑑賞したあとのご購入をお勧めする。間違っても映画を見る前に読んでしまわないように。


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巴里茫々

2011年12月25日 | 本のページ
とうとうこの本が出てしまった。
北杜夫さんの最後の小説である。中篇が2本。どちらも過去と現在が交錯する内容である。

この本の感想を、いったいどう書けばいいのだろう。刊行されたばかりの本であり、下手なことを書けないことも相まって、手は止まるばかりなのである。ただ一つ言える事は、北さんの著書を読んだことが無い人が、この本を手にとってもあまり意味が無いであろう事である。
おそらく巴里を描いたのであろう、セピア色の装丁。懐かしい本の内容がちりばめられた、それでいて決して顔見世には終わってない。そして、過去が出てくるのにもかかわらず、これはマンボウ物ではなくあくまで北杜夫の小説なのである。
どうか北さん。ご自分の事を、そして本をそんな風に言わないでください。北さんはどうもご自分を卑下する向があります。でも、北さんがそういって切り捨てた本に、夢中になった人間がどれだけいたか。救われた思いの人間のなんと沢山いることか。

この本には評価をつけていない。私が北先生の最後の小説に評価など、つけられるわけがないではないか。



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僧正殺人事件

2011年10月20日 | 本のページ
作者・S・S・ヴァン・ダイン
評価・☆☆☆

推理小説は結構読むほうだけれど、ヴァン・ダインは今まで「グリーン家」しか読んでいなかったので選んでみた。
名探偵というのは、お金に余裕があり頭脳は明晰なのだが、大概は理屈っぽい変わり者なんだな、と思ってしまった。現在の探偵サンはそのあたり、もうすこし世知辛くもあるだろうが、昔に活躍した探偵サンでお金にピィピィしていたのは、金田一耕助くらいじゃないだろうか。
話が横にそれたが、僧正殺人事件である。僧正というからには、外国に僧侶は少なくとも、それにあたる神父か牧師でも殺されるのかと思ったら、これはマザーグース物であった。マザーグースといわれても、日本では「ロンドン橋落ちた」くらいしか知られていないのであまりピンとは来ないけれど、海外の人は色々とピンと来たり、事件との落差にぞっとしたりして、もっと面白いのだろうな、と思った。
アリャリャの結末に、ちょっと驚き。


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砂の器

2011年10月04日 | 本のページ
原作・松本清張
評価・☆☆☆

有名な作品なのだが、実は小説の方を読むのは初めてである。「砂の器」という作品に最初に出会ったのは、映画版だった。大変に重いテーマだった事を覚えている。今回、読んでみて思ったのは、「料理の仕方が上手かったのだな」という事である。映画と原作とでは違う点がかなりある。このまま映像化しても、あのような評価は得られないと思う。
原作はいわゆる普通の推理小説として進む。視点は警視庁の中年の署員、今西巡査長である。遅々として進まぬ捜査の中から地道に証拠を積み上げていく。
原作に砂の器そのもの、あるいは砂の器という言葉は共に一切出てこない。おそらく、犯人が逮捕された瞬間が砂の器がもろくも崩れ去った時だったのだろう。



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やなりいなり

2011年08月21日 | 本のページ
評価・☆☆☆

原作 畠中恵

人気シリーズ、しゃばけも10周年の本作刊行となった。最初は推理物として出発した本シリーズなのだが、最近は世話物の要素が大きくなり、私としてはクォリティに満足出来なくて、実は買わずに図書館で借りて済ませていた。
ただ。今回は10周年とのことで、特別なオマケがついていたので、それに負けて購入と相成った。
全巻までで兄の松ノ助は婿入り、隣家の親友は他の菓子屋に修行のための奉公…と、登場人物を絞る方向にある本作、今回は短編においても主人公を若旦那一人に絞ってきているようだ。
今回もするすると読める楽しい読み物に仕上がっている。「こいしくて」と「あましょう」は殊に切なくていい。ただ、大傑作と呼べる逸品もない。しかしながら、今回は百珍本からえりすぐった、現代でもお勧めの料理のレシピが載っているので、料理好きの方はご参考にどうぞ。


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ゆんでめて

2011年02月11日 | 本のページ
ゆんでめて
畠中恵
評価・☆☆


人気シリーズ「しゃばけ」最新刊である。が、最近気になるのが、段々世話物の世界になりつつある事。若旦那の身の回りのものごとに興味が無いわけではないけれど、やはりこのシリーズのキモは妖と共に若旦那が如何に事件を解決するかにあると思う。その意味で、今回は☆二つ。


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探偵ガリレオ

2010年12月17日 | 本のページ
原作・東野圭吾
評価・☆☆☆

テレビドラマでヒットし、いたく有名になったガリレオ先生こと湯川学が主人公の科学系推理小説である。ま、ヒット作だし東野作品だしハズレはないだろうと思い購入した。
東野さんは短編はあまり得意ではないのだろうか、というのが最初の感想。ドラマを先に見ているせいで、どれもがおよそネタバレ状態であるのは事実だけれど、どれを読んでも「あ、そう」という感想しか浮かんでこない。これはトリックのキモが「科学」である事にもよると思う。それゆえ身近さがないので、やられた感よりは納得感の方が大きいからだろう。思うに、やはり映像化されてこそ真価を発揮した作品なのだろう。
さて、あとがきを書いているのが俳優の佐野史郎さん。なんでも原作者は佐野さんをイメージしながら湯川学を書いていた由。その意味では、一度佐野さんを湯川役に、もっと原作に近いガリレオシリーズを見てみたいものである。


以降は引き続きのお願い。うめとさくらのお里、アニマルメリーランドを助けてください。




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ジェネラル・ルージュの凱旋

2010年11月16日 | 本のページ
評価・☆☆☆

白鳥・田口コンビの活躍するバチスタシリーズ3作目である。ドラマではミステリー仕立だったが、原作はそういう程のミステリーではなく、どちらかというと医療の問題を興味をそぐことなく描き出す良作という所か。
それにしても作品を追うにしたがってドラマと原作とは離れて行っているようだ。ジェネラル・速水にしてもいつもあんな横柄な態度を貫く人間味の無い医師ではなかったし、黒崎教授の出番もツボにはまる。何より実は温かみのあるイイ話だった。
しかしながら、当初の構想では前作「ナイチンゲールの沈黙」と本作とは一本のお話だったのを、長くなりすぎるとの理由で分割してしまったのは、個人的には惜しいと思う。もし本来通り一本の作品だったら、前作で読んだはずのシーンが微妙に登場したりして、二重読みさせられている妙な焦燥感を感じずに済んだものを。大体、今の本はどれも読み応えが無さ過ぎるのである。

ナイチンゲールの沈黙

2010年11月05日 | 本のページ
著者・海堂尊
評価・☆☆☆

バチスタシリーズ二作目、ナイチンゲールの沈黙である。これも「バチスタ」と同様テレビドラマの視聴が先であるが、2時間くらいのスペシャルだったせいもあって、仔細を覚えていないのが幸いした気がする。モウロクもまた楽しからずや。
しかしながら、これだけ中身を変えられていればむしろ気持ちよささえ感じるものである。それほどドラマと原作とでは違いがある。なじみの無い仏教用語「がりょうびんが」なんて言葉をすっとばしてくれたのは、個人的には歓迎する。
ドラマを見る限り「ナイチンゲール」は看護師をさすものだとばかり思っていたのだが、全く違う、もっと深い意味があったのである。しかしながら、これはいかにも文学的な表現作品であって、素直に映像化するのは難しかったのだろうな、と推測される。
今回も決め手になるのはAI(死亡時画像病理診断)となる。どの事件も死亡者が出たら一応AIだけは取っておく必要があるのではないだろうか、と素人ながら思った。事故・自殺で片付けられてしまった殺人事件が沢山埋まっているのではなかろうかと感じるものである。
ただし、作品としては「バチスタ」に比べてパンチが少ないのは確か。どんなにドラマと違ってるんだろうという興味のある方はぜひご一読を。



チームバチスタの栄光

2010年10月20日 | 本のページ
作・海堂尊
評価・☆☆☆☆

映画やドラマでヒットしたお話の原作である。私は、「ドラマ」→「映画」→「本」という、世に出た順番とは全く逆の順番で鑑賞した。とにかくドラマの印象が強くて、元々はどういうお話だったのかと、興味はまずその点からであった。
田口・白鳥共に、ドラマとはかなり印象が違うのにまず驚く。白鳥は長身のイケメンではなく小太りの中年男であり、田口はドラマほどに愚直な男ではなく、ただ出世欲のないミテクレは結構イケてて頭もそこそこ切れる若い医師であった。一番驚いたのは麻酔科医師の氷室。驚くほどに冷淡で狡猾な男だった。ドラマでは少し同情できる余地もあった氷室だったが、こちらでは再びの登場を予感させるものすらあった。
一番違うのが事件の終焉後。原作者は現役の医師との事で、素人には考えの及ばない医療の問題点も描き出している。ただ、少し残念だったのが人間関係のありきたりさ、という点か。いずれにしても、読んで損はしない作品であることに間違いない。


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