黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

時代劇は死なず!ー京都太秦の「職人」たち

2016年09月06日 | 本のページ
題名:時代劇は死なず!ー京都太秦の「職人」たち

著者*:春日太一

評価:☆☆☆

太秦に時代劇映画の都が出来たいきさつと成り立ち、そしてその進化と衰退が、詳細な取材と確かな分析でわかりやすく一冊の本にまとまっている。一連の流れのいわばガイドブックとも言うべき本となっており、こののちの本たちをわかりやすくよむためにも、順番としてはまず本書をよむべきだったかと思う。私は逆回しで読み進めていったため、話が重複してる感じがしたのは致し方ないか。
時代劇は死なず、とあるが本書は2006年に書かれた本であるため、今や実際には時代劇は死んでしまっている。地上波で大河以外に毎週時代劇が見れる番組はないし、2時間枠とて年に一度程度必殺のスペシャルがある位だ。太秦が枯れていってしまう。そういう感慨にとらわれるのは私だけなのだろうか。

天才 勝新太郎

2016年09月05日 | 本のページ
題名:天才 勝新太郎

著者:春日太一

評価 ☆☆☆

凡人である私は、「天才」の二つ名にあこがれがある。しかしながら、本書を読んで凡人も悪くないと思うようになった。天才というのは、実は大変であるらしい。人よりも多くの事にきづいていしまうし、その思考を理解できる人が少ない故に、時に突飛に見える行動を理解されない事も多い。何より幸運に恵まれた天才、というのはあまり聞かない。初めは幸運に恵まれていて天才たちの生涯は悲劇に満ちている事の方が多い気がする。
役者、監督、編集、天才ゆえに少しの努力でそれらをこなせてしまう。追随をゆるさぬ高みを目指し、妥協を許さぬモノづくりをする。しかし、採算を度外視した映画もしくはテレビの時代劇作りは少し歯車が狂えば莫大な借財を残す。間の悪さと不運も手伝い、勝新太郎は長き眠りにつく。
しかし、勝新太郎が独立プロダクションを作ってあがいたおかげで、当時最高峰の技術を誇った旧大映の時代劇スタッフの散逸を防ぐ結果となった。豪放磊落に見えて、実は繊細で優しかった勝新太郎。その唯一無二の存在はもう、いないけれど幸いなことに作品は残っている。天才の悲劇をかみしめながら時代劇を見るのも一興かもしれない。
尚、詳細な取材に基づいて書かれた本書には例の降板事件や死亡事故の事にも触れられている。そこらへんにもやもやしてた方はぜひ。

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

2016年08月28日 | 本のページ
あかんやつら 東映京都撮影所血風録

春日太一

評価:☆☆☆☆

この本の事を知ったのは、水道橋博士のツイッターだった。有料メールマガジンを長期にわたり執筆し、何より天才たけしから「博士」の名をあたえられた鬼才が面白いというのだから、それを全面的に信用して読む事にした。なにより題名にインパクトがあるし。
さて、序盤からすでに圧巻である。どうも、この門番氏の事は社外秘であったらしく、チロチロとその存在を明かす人はいても、本に名前を挙げて紹介される事は稀であったようだ。彼とて題名の通りアカン奴の一人である。アカンとは関西弁で「ダメ」の意。まぁそろいもそろってアウトな人たちの列伝だけれど、その熱意はすべて日本の映画作りという一点に集中している。こんな異様な熱意を持った人たちが結集して作るのだから、映画(それも時代劇)は面白かったのだ。
私はマキノ光雄という人の名を本書にて初めて知った。人生の半生を東映にささげた人で、この人がいなければそもそも東映という会社は無かったのである。この人をとおして津川雅彦氏が映画作りにおいてマキノの名にこだわるワケが少し分かった気がした。
私は図書館に単行本しかなかったので読む事はできていないが、本書の文庫本は水道橋博士があとがきを担当している由である。文庫本化にあたって、加筆された部分もあるとの事なので、何かの機会に文庫本の方を読むつもりである。

赤めだか

2016年02月05日 | 本のページ
赤めだか

著者:立川談春

評価:☆☆☆

年末のドラマでやっていて、たけしの談志とニノの談春というキャストにひかれて回したチャンネルだけれど、立川談志にひかれてやってきた弟子たちの人間模様がとても面白く、原作本を読むに至った。
まず、とても面白かった。一気に読み終えた。私は落語に詳しくないし談志の事にも詳しくない。国会議員を務めた事もあるのは頭の隅に少しある。鬼才との認識くらいはあった。だから談志の喜怒哀楽(怒の沸点がどこらへんにあるかは私にはよくわからないが)が、新鮮で楽しかった。立川談志でも慌てる事もあるんだな、と思いながら笑い転げた。案外優しい人なのかもしれない、と思ったりした。
それと同時に立川談志という人の弟子で居続ける事は、それはもう大変だったんだろうな、と推察する。当時もう談志一門は落語協会を離れ、立川流を創設していたし、談春は高校を中退し親元から家出するという退路を断った形で入門していたのだから、その過酷さは想像以上だったろう。事実、数多くの弟子が廃業している。私には絶対出来ない芸当だけれど、後々思い起こせば人生、こっちのほうが絶対オモろいよな、と思う。立川談志という天才に恋い焦がれ一生を捧げる人生は、彼にとって本望なのだろう。
そしてこの本は談志・談春という師弟だけでなく小さん・談志という師弟の想いも垣間見える。談春が談志に焦がれ、談志もこの若すぎる弟子の事を思いやったように、談志も小さんという人に焦がれ、小さん師匠も破門したにも関わらず弟子の事を愛したのである。

クライマーズ・ハイ

2016年01月10日 | 本のページ
著者:横山秀夫

評価:☆☆☆

重みと展開や結末の意外性、やっぱり横山さんの本には安定感がある。個人的にはハズレの作品がないと思う好きな作家さんだ。
日航ジャンボ機墜落に材をとったお話で、墜落当時と現在が錯綜するやや込み入った作りになっている。主人公の悠木は日航機が墜落した群馬に拠点をおく地方紙の新聞記者で、日航全権デスクの任を担う。もちろん新聞記者にとっても当事件は突然の事であり、ぎくしゃくした家族仲といったそれぞれの事情を抱えているのも当然の話。過去と現在を行き来しながらそれぞれの話にどう結末がつくのかとても楽しみだった。この小説を未読の方もいるだろうし、これから読まれる方がもしいたらいけないので話の展開などあまり詳しくは書けないけれど、信念をもって道を選ぶ人は決して己の選択に悔いはないだろうし、真摯に生きる人には良い仲間がいるのだと思うものである。

スクラップ・アンド・ビルド

2015年08月17日 | 本のページ
著者:羽田 圭介

評価:☆☆

本年のもう一つの芥川賞受賞作である。火花よりは読みやすかったので少し安心した。火花の影に隠れて少しお気の毒だが、こちらとて新進気鋭の作家さんが介護を軸にとりあげた意欲作である。
介護といえば、身につまされる話の筈なのだが、息苦しさはあまり無い。しかしながらそんなに響きもしなかったのは何故だろう。介護って、もっとシンドイ。もう少し陰惨だったほうが、感情移入できたかもしれない。スクラップしきれてなく、そしてビルドしきれてもいない。健斗のめざしたどれもが中途半端のまま不安感という余韻を残して物語は終わる。

植物図鑑

2014年02月15日 | 本のページ
著者:有川浩

評価:☆☆☆

題名が「植物図鑑」といっても、植物の事を解説しているわけではない。レッキとした作家さんが書く本なのだから、当然ながらそういう名前の小説であるだけだ。とあるそこそこ田舎っぽい町に暮らす家事は苦手な一人暮らしの独身女性と、野草類にはめっぽう詳しく料理好きな彼とのお話。そう、ベッタベタの恋愛小説だ。それぞれの章ごとに野草とその料理の仕方がついている。目新しさといったらそれくらいか。
しかし、この前に読んだ「ストーリー・セラー」よりはこちらの方が私は好きである。単純にこちらの方が出来が良い、という事なのだろうか。段々深みにはまっていく過程も好きだし、同僚氏の本気度もちゃんと感じられるのも好ましい。こんなベッタベタでご都合主義の話なんて有り得ないとお思いの方も多かろうとは思うが、物語は現実っぽくある必要は必ずしも無い。しかしながら、派遣社員がこんなにも増えてしまっている今、この手のラブものも限界なのかな、とは思ったりもする。若い世代にほんわかした恋愛をする金銭的、精神的な余裕はないかもしれない。
私自身は気持ちよく楽しめたので評価は及第点の☆三つ。

ストーリー・セラー

2014年02月13日 | 本のページ
著者:有川浩

評価:☆☆

息子がこの作家さんを好きなこともあり、この人の本はかなり読んでいる。私自身、割と波長も合うのか、すらすらと面白く読んでしまって、大抵の本は丸一日かからずに読んでしまう。だが、どうも私はこの人に恋愛本を期待していないらしい。この手の本を読むたびに違和感を感じてしまう。だから、「空飛ぶ広報室」を見たときは久々この世界に帰ってきてくれたのかと、少なからず嬉しかった。
この本を読んだ時に思ったのは、「この人は旦那さんと仲が良いんだろうな」という事である。ご自身が作家で、本の主人公たちも女流作家とその夫という立場で、こうも甘々の話になるのはそうとしか思えない。もし私だったら「夫」はものすごく酷い目にあっていることだろう。
それなりに面白く読めたけれど、とくに感慨が残ったという訳でもないので評価は☆二つ。

のぼうの城

2014年01月25日 | 本のページ
著者:和田竜
評価:☆☆

大分以前に読んだのですが、その時にはこちらを完全休止していたのもあって、書評は上げませんでした。先日映画がテレビで放映していたのを見て再読したので、思ったところを書いて見たいと思います。
・・・とはいえ、実のところ私にはあまり感じ入った本ではないのです。己の事をでくのぼうと平気で呼ばせ、農民の事を大事にし、彼らもそれ以上に長親の事を慕った、愛すべきご仁。坂東武者と呼ばれ、個性が強くおよそ他人の言葉には耳をかさぬ家臣も長親には一目置き、結果的に従ってしまう。そればかりか敵将の三成をも魅了してしまう不思議な人。思ったのはそれぐらいでしょうか。
不思議なのは、妻たちの姿はほとんど描かれていないこと。甲斐姫や氏長夫人の珠は別として、和泉はもとより丹波にも靱負にも、もちろん長親にも妻子はいたのであるから。
長親はでくのぼう、長束正家は秀吉の威を借りる愚か者、三成は小才子、と武人を軒並み阿呆に仕立てる。そもそも、内通により「手打ち」が決定していたこの戦だが、軍使の態度に腹を立てた長親の「わがまま」により戦に転じたのだ。いくら猿などと陰でそしってみても、物量、兵力ともに圧倒的な秀吉が総力戦で関東を陥落させるために迫ってくる。完敗必至の事態を前にして、天下人を相手に一泡吹かせるのも悪くない・・・。半ば熱に浮かされたような戦の後には荒れた田と、殺戮の跡。丹波に言わせた「戦で死ぬのは馬鹿者」というのは、案外著者の本心だったのかもしれない。
長親が総大将として戦ったのは忍城だが、「のぼうの城」とはのぼうさまを慕う人々が集った人の城、なのではあるまいか。

ちなみに、小才子として散々バカにされた三成だが、敗れたりとはいえど天下を二分した戦の片方の総大将であった事は事実であるし、その善政により実は領民からは長親以上に慕われていた人間である。長親とて馬くらいは乗れる。靱負は実は若者ではなく、著書には不明とあったその後の事もちゃんと資料でたどれる由である。ただ、和泉は忍城戦が元で、その数ヵ月後に亡くなったという説もあるとか。

たぶんねこ

2014年01月17日 | 本のページ
作者:畠中恵   

評価:☆☆★★★

しゃばけシリーズ最新刊、「たぶんねこ」である。もっとも刊行されてから半年ほどたっているのは、私がこの本を今は図書館から借りて読んでいるからだ。新しい展開がでてくれば知りたいとは思うが、新書版の新刊を買いたいと思うほどには読む事を欲していない。その程度の出来だと思ってもらっていいと思う。
以前のシリーズでも少し疑問に思う事やら、矛盾があったのだが、今回一番妙だったのが「みどりのたま」の章である。
「彼」は以前はミイラの腕で殴られたくらいでノビてしまい、今回は記憶まで吹っ飛んでしまった。あり得ないと私は思うのだが。どだいとって付けたような、いや、絶対とって付けたに違いない序に始まり、お定まりの終にて結ぶ。江戸情緒は感じられるが、このシリーズは情緒だけでな成り立たない。やはり若旦那の名推理がもっとほしい所だ。
もっとも、表題にもなった「たぶんねこ」は若旦那の意地や優しさを感じてとても良かった。せめてこのレベルの作品を書き続けていってほしいと思う。そして、最近出番がとんと無くなった日限の親分はどうなったのか、知りたいとも思う。