黒猫亭日乗

題名は横溝氏の「黒猫亭事件」と永井荷風氏の「断腸亭日乗」から拝借しました。尚掲示板が本宅にあります。コメント等はそちらへ

刑事一代ー平塚八兵衛の昭和事件史ー

2009年07月28日 | 本のページ
著者・佐々木嘉信

評価・☆☆☆

本書は、戦後昭和の名刑事、平塚八兵衛氏の携わった事件を、聞き書きの形で書籍化されたものである。先般、ドラマにもなった原作本である。ただ、おそらく私がこの本を読みたいと思った理由は他の人とは違うだろう。
八兵衛さん自身、とても有名な人で多分私はテレビにてご本人を見た事もある。戦後昭和の大事件のほとんどに携わった氏らしく、吉展(よしのぶ)ちゃん事件、帝銀事件、そして三億円事件などはその事件自体がドラマ化されたりもしている。確かにドラマ化されて、それを見た事もある私だったが、本書を読んで改めて知った事もある。まず、吉展ちゃん事件の自白が、かくも切迫した状況で行われたかという事と、帝銀事件の事に関して、個人的にはやや唐突に感じていた被疑者の逮捕だったが、彼が疑われるに足りる根拠は確かにあったのだ、という事である。さすがに未解決に終わった三億円事件がやや退屈だったのは仕方ないかも知れない。ただ、氏が最初から三億円事件に携わっていたらどういう結果になったのだろう。それでもあれは未解決に終わったのだろうか。

聞き書き、という形をとった性格上、ややもすると氏の自慢話と愚痴話に見えたりもするが、私は捜査に直接関わった人間の臨場感でそれを補いたいと思う。
さて、私が知りたかったのは、八兵衛さんの相棒にして吉展ちゃん事件解決後、病に倒れた刑事が自分の病状をどこまで知っていたのか、という事だったのである。ドラマの進行上、刑事の名前は原作とは違っていたし、残念ながらその部分は記載されておらず、判らず仕舞いだったが、モデルとなった人物は居た様である。体調が悪いのを隠して捜査に加わり、死の床でただ涙を流しながら表彰を受けた、たたき上げの名刑事は実在したのだ。





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流星の絆

2008年12月20日 | 本のページ
流星の絆

作者・東野圭吾

評価・☆☆☆

2008年秋の人気ドラマの原作本である。テレビでは笑い重視のガチャガチャとした作りで、読むまでは一体原作はどうなっているのかと心配したものである。
東野圭吾氏は現在私が一番信頼をおく推理物作家さんだが、今回は話の落としどころがまず疑問。個人的にはあまり感心しない。唐突な印象があるのはおそらく途中の長々とした詐欺話のせいではあるまいか。題名にある「絆」もあまり効いていないし、正直な感想を言うと、並あるいは並以下、といった所だろうか。


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いっちばん

2008年11月05日 | 本のページ
いっちばん

畠中恵

評価・☆☆

最近のお気に入り「しゃばけ」シリーズ、これは最新刊である。病弱だが妖(あやかし)に守られている聡明な若だんな、一太郎が活躍する冒険談だが、少々質の低下の感を禁じえない。題名に簡単な江戸言葉をもってきて、それがお話の内容の掛け言葉になっている所が初期の特徴だったのだが、それもここへ来て完全に途切れたようだし、何より推理ものの出来は今回は残念である。世話物の方もなんだか内容が生々しくて好きになれない


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ちんぷんかん

2008年05月18日 | 本のページ
ちんぷんかん

畠中恵

評価・☆☆☆

ただいまの所、しゃばけシリーズの最新刊「ちんぷんかん」。本作は再び短編集に戻ります。ただ、以前は謎解きに人情話がからんだ作りだったのが、段々世話物に謎解きがからんだ作りになっているように思えます。私は若だんなの胸のすくような名推理ぶりが好きなので、ちょっと残念ではあるのですが。
病弱だった若だんながとうとう三途の川までいってしまう「鬼と子鬼」、広徳寺の寛朝の弟子、秋英がとんでもない不思議に巻き込まれる表題作「ちんぷんかん」では寛朝がやはり名僧だと納得できる。「男ぶり」ではいままで台詞などしゃべったことがない母おたえの婿取りの顛末が語られるのだが、秘話というよりは作者はおたえをいままで扱いかねていたのではなかろうか。はかなげ、としか表現していなかったのが結構利発で活発でもある。久々貧乏神の金次が登場する「今昔」、そして若だんなが兄やたちにどれだけしたわれているか痛いほど解る「はるがいくよ」は物悲しいお話だ。しかし一作目でああゆう行動をとった若だんななのだから、あの結論の出し方は兄やたちにもわかっていたのではないだろうか。
先に嫁入りしたお春、そして本作での兄の松之助や友の栄吉…。そぞろ淋しさを隠せない若だんなだが、別れがあれば出会いもある。これ以降何か新しい展開があるのかもしれない。尚、前作の疑問はノータッチで置いてきぼりではある。

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うそうそ

2008年05月15日 | 本のページ
「うそうそ」 畠中恵

評価・☆☆☆

最近のお気に入り本、おなじみ「しゃばけ」シリーズ第5冊目である。第一巻以来、しらばく続いた短編から離れて久々の長編物である。今回もリラックスして愉しませてもらった。
いつも気合の入った病人ぶりの若旦那が、コトもあろうに江戸を離れて旅をする。湯治が目的とはいえ、平静でも、ものの一月も無事に起きていられないほど病弱な若旦那が、無事に生きてお江戸へ帰ってこられるのか?
物見遊山半分の湯治旅の積もりが、思わぬ大騒動の真っ只中に入ってしまった若旦那。いつものすっきりとした謎解きは少なくて物足りないが、その代わり今回は佐助の大立ち回りがあったり、新しい仲間が出来たりというお楽しみもある。
今回はお話が長い分、チクっと心を刺す、といった塩梅ではなく扱うテーマも大きい。人には誰でもとりえもあれば弱点もある。事の大小にはかかわらず悩みもある。しかしうろうろ思い悩んでいるのではなく、出来る事から一つ一つ精一杯やり遂げねば、一歩も前へ進めない。若旦那の芯にある悩みをあぶりだすために、作者は常なる家族や知り合いから離した旅先に若旦那をやったのではないだろうか。
少々気になる点は、冒頭に出た山神が後々名の出る山神と同一神かという事だ。もしそうだとしたら若旦那の旅というのも「うそうそ」だったというのではないだろうか。好きなお話なので、陳腐な夢オチというのはやめてほしいのだが。まぁ、その辺りは次の巻をよめば判る話か。


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別冊 図書館戦争Ⅰ

2008年04月24日 | 本のページ
別冊 図書館戦争Ⅰ

有川浩

評価:☆☆☆

今や作者の代表作となった「図書館戦争」物の、これはスピンオフ小説となる。ものすごーく普通の本で少なからずがっかりした前作とちがい、こちらは楽しく読ませていただきました。「こんなヤツ、絶対いてない」と思いながらも時に爆笑。やはり私にはこれくらいぶっとんだ方が受け入れやすいみたいです。個人的なツボは「がぶ!」
尚、深夜枠でアニメ化もされているとの事ですが、絵で動く彼らが自分のイメージ通りか否かは各自ご判断ください。ちなみに私は笠原、玄田、稲嶺以外は全員イメージが違います。


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おまけのこ

2008年04月02日 | 本のページ
おまけのこ
 
畠中恵  

評価☆☆☆      

おなじみ「しゃばけ」シリーズの第4巻となる本作、若だんなや仁吉、佐助に屏風のぞきや家鳴たちといったレギュラーメンバーがまたまた活躍してくれます。
ある意味佐助や仁吉にも手に負えない妖怪狐者異(こわい)の出現する「こわい」、家鳴が思いもかけず大冒険する「おまけのこ」、その他のお話「畳紙」「動く影」「ありんすこく」も楽しんで読むことが出来ました。
ただ、さすがに主だった登場人物に直接かかわるお話は少なくなってきているので、思い入れがない分読みごたえがないのは致し方ないか。それと「動く影」から急に出てきた感のある自分のことをさした「われ」という言い方がとって付けた印象が否めない。
それにしても妖怪とは元々、人の心が作り出したものだとすれば、どの妖怪もある面人そのものとも言える。とすれば、狐者異もまた人そのものと言えるのだろうか。なんだかそんな気がしてしまうほど、昨今は殺伐とした物事をよく見聞きする。それでも、彼の残した悲鳴にも似た叫びは忘れられない。
今回は解説を、ドラマにて仁吉役を担当している谷原章介さんが担当しているのもお楽しみです。



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阪急電車

2008年02月22日 | 本のページ
阪急電車   有川浩

評価☆☆

お話の舞台は、阪急電鉄という関西では大手私鉄で知られる電車会社の今津・宝塚線のうちの宝塚駅から西宮北口駅を走る電車内、および各駅である。作者のファンならともすれば、ゴジラもどきの怪獣やら自衛隊やら戦闘機などを期待するだろうが、今度は至極真っ当な人間模様が描かれている。沿線の様子など細かく描写されているのだが、いかんせん真っ当すぎて私にはいささか退屈でつまらない。最低でもテロリストがマシンガンを持って、電車を占拠くらいはしてほしかった。まったく持っての私感だが、この程度のお話ならほかに書ける人はいくらでもいると思う。




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図書館革命

2007年12月15日 | 本のページ
図書館革命

有川浩   メディアワークス

評価☆☆☆

感想・元気な鉄火娘、笠原郁の活躍する図書館シリーズも本書をもって終わりとなる。映画に出てくるような巨大未知生物と自衛隊&ベタな恋愛というのがこれまでの作者のパターンだったのだが、このシリーズではそもそも設定自体がぶっ飛んでいる。現在モデルガンといえども銃口を詰めないといけない日本で、本を守るために図書館が武装しているのだから。すべてはこの設定の上に成り立っているので、コレが飲み込めないと本書だけでなく、このシリーズ全体が楽しめない。
とはいえ、今回は結びの巻であるので、登場人物全員が本来の働きをしているとは言いがたい。特に笑い上戸の皮肉な正論屋・小牧と同じく特殊部隊で狙撃手・手塚はその本領を発揮せずに終わってしまっている。その中で光るのは稲嶺顧問の存在だと思う。穏やかな物言いとは裏腹に持ち合わせた豪胆さは感服に値する。そして報道番組の描写が続くので、自然と文面全体の印象が硬いのは残念。必要性はわからぬではないが、端折ってもらえたほうが私個人としては楽しめたのにと思う。
ただ、私はこの作者の著作に重厚さは求めていないので、これも気楽に楽しめた一冊となった。

ねこのばば

2007年12月02日 | 本のページ
ねこのばば

畠中恵 新潮文庫

評価・☆☆☆

しゃばけシリーズ第三段。お馴染みの人気シリーズで、今回も短編5編からなる。利発で優しいがいつも元気(?)に寝込んでいるはずの若旦那が、無いことに昼餉のお代わりをねだるシーンから始まる「茶巾たまご」。華やかな大通りで迷子に出会ってしまった「花かんざし」。「ねこのばば」では、仁吉と佐助の本性が妖だと察する人間が一人増える。そして「産土(うぶすな)」では作者の策略にまんまと乗ってしまった私だが、「たまやたまや」は少し胸の締め付けられる思いがする逸品である。幼い頃の思い出話がなんでキセルまで飛ぶのか私には判然とはしないが、取り残された感の残る若旦那が切ない。
概刊の文庫本は「しゃばけ」「ぬしさまへ」「ねこのばば」の三冊だが、通して読んで思ったのは、げに恐ろしきは生きた人間、である。奇怪な事件のほとんどが実は欲深い人の仕業か、もしくは人の欲が呼び寄せた悪しき妖の仕業なのである。清貧で心穏やかに生きたいものだ、と一瞬は思う。いや、ほんの一瞬。私も欲深き人のうちの一人だ、やっぱり。