栗太郎のブログ

一人気ままな見聞記と、
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読書をしたら思いのままに感想文。

読売歌壇 2013

2014-01-19 16:53:23 | もろもろ

さて去年も、あいもかわらず毎週の月曜日。
目を通さずには落ち着かない、読売歌壇でありました。


年のはじめ、旧正月といえば豆まき。

境内は傾くごとし節分の群衆のこころを魅する白鵬 (成田市K氏)



 今年は、あまり仏像を読んだものがなかった。

線刻の眼(まなこ)はなべて笑みゐたり円空仏の鉈目は匂ふ (八王子市K氏)



繰り返す言葉の妙。

ユカイユカイと家のインコに言わせればほんとにユカイになるから愉快 (市川市S氏)

白銀の伊吹山に優る伊吹山なく伊吹山観る地はここに優る地のなし (瑞穂市W氏)



空を見上げて。

干し終えてふと見上ぐれば雨雲の下心有る笑ひが見ゆる (茨木市N氏)

白雲をドリルのように穴あけてスカイツリーは秋空を統ぶ (加東市Oさん)

天つそら月渡るらし雲海の果(は)たてするどく光こぼるる (市原市N氏)



花の香り、散り様。

「白き花はたと落ちたり」鴎外の詩を思ひ出す佗助散りて (常総市W氏)

行き過ぎて又引き返し盗むごと金木犀の甘き香に酔う (大津市S氏)

ひらひらと人のこころの裏おもて見せゐぬやうに散りゆく紅葉 (福山市Oさん)



目に見えるものが、ほかのモノに見えてくる。

木を囲む円きベンチに人座る時計の数字のごとく離れて (池田市Iさん)

駅弁の傷み予防か松茸は膏薬のようにうすく貼られる (所沢市S氏)

置き手紙のごとくお椀に葱のありみそ汁つぎてひとりの朝餉 (春日市I氏)



「色」が際立ったものといえば。

極太の黒マジックで直線を引いたみたいな熟睡だった (松江市Iさん)

水色に青と白とを足して生むさっきと少しちがう水色 (高島市Mさん)

牛小屋の闇に更なる闇として漆黒の牛静かに太る (栃木市Sさん)



こどものしぐさを歌った歌も。

ポストぐち手で触りつつゆっくりと小学生は封書を落とす (袋井市Yさん)

孫の手を見つけし孫は己が背を掻き掻くなり身をくねりつつ (東大和市I氏)

強がりの何たるなどかは知らねども幼の小鼻ピクリと耐える
 (日立市Kさん)

野いちごを山路に見つけ眺むれば幼き我が我に駆け寄る (長崎県Bさん)

最後は、幼き頃の自分のことだが、かつてそこで遊んでいた自分を見つけてしまう錯覚に、はっとさせられた。



古い付き合い、変わらない愛情。

目の手術終え来し妻が皺深きわが老顔を可愛よしと言う (篠山市S氏)

「コーヒーを飲みそう」という一言が今コーヒーを俺に飲ませる (つくば市O氏)



老いてゆく、ふたりの会話。

おまえより先に逝きたいと言う我に甘えちゃだめよと妻の一言 (加古川市H氏)

献体を決めしと友はさりげなく春日の縁にわれと碁をうつ (能代市小T氏)

痩せた目でいろいろあったと言う友の話も折らず踏み込みもせず (川崎市Oさん)



亡き人を想す時。

亡き母の後ろ姿に似た人が前を歩めば追い越さず行く (平塚市H氏)

深深と冷える夜長に一人居て亡き妻を呼ぶ声出してみる (上田市K氏)

泣き腫らすまぶたの色の花びらを拾い集める君がいた庭 (高島市Mさん)

最後など、歌人・永田和宏が、妻・河野裕子がいなくなった寂しさを歌った、
あほやなあと笑ひのけぞりまた笑ふあなたの椅子にあなたがゐない 」を思いださせる一首。



短歌をよみたいと思う気持ちは、やはり、悲しい感情がそうさせるものなのか。
よんでいるときの寂しさ、切なさが伝わってくるものが多い。

新しい小さな傷が痛むのでむかしの大きな傷を忘れる (広島市K氏)

前をゆく車のナンバーそれはもうかけることなき電話の欠片 (豊中市H氏)

神様がいるってことかな この声も爪も僕には作れないから (横浜市Mさん)

人はみな海より生れしという証 波と渦とを指に刻めり (池田市Iさん)

 独り言多き身なれど留守電のピーの合図に言葉続かず (入間市Y氏)

人間の言葉分かれど喋らないわが家のポチのこの有難さ (芦屋市Nさん)

寂しさを言はない故になほ寒く見てをり文字の震へる手紙 (青梅市M氏)

寂しさが広がらぬやう手袋をしつかりはめる隙のなきやう (青梅市M氏)

遊んでるふりしてじょうろの水で描く切ない程に本気のハート (高島市Mさん)

思うという樹液ひそかな木であれば小鳥のようにかなしみは来る (君津市S氏)


とはいえ、これなどは、悲しみのあとのこと。

にんげんはおろかなるのかつよいのかなみだせしあとあくびなどでる (館山市Yさん)

あくびは、「さてと。」って言葉にも聞こえてくる。



ほかに気になったものといえば。

海苔の缶を当てて描いた満月を少し歪めて十六夜の月 (東久留米市N氏)

真っすぐに行けば海です後ろから声するような坂を下りぬ (三次市N氏)

何もせず日の暮れし日はなんとなく罪を犯せしやうな気がしぬ (香取市S氏)
 
しんしんと更ゆく夜を咲きみちて花の殺気は身にせまりくる (東京都S氏)

そら豆のひとつひとつがどことなく子規の写真の横顔に似て (東京都Kさん)

次次と水の扉を開きゆく今日の授業は平泳ぎなり (東京都Kさん)

男ってアホだからさと言うときにそうは思ってないのが男 (石垣市I氏)

とりあえずあさってまでは生きてみてその日に決めるそのあとのこと (広島市K氏)

広島といえば、広島太郎NHK「ドキュメント72時間」)を思い浮かべるが、あの御仁も、そんな先のことまで決めていなさそうだ。
世を捨てた、というよりは、人生を楽しむ極意なのだろう。僕はまだその境地に踏み入れていないが。


そして、また新しい年がやってきました。

花嫁のヴェールふわりとめくるごとあたらしき年のカレンダー開くる (館山市Yさん)



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