栗太郎のブログ

一人気ままな見聞記と、
手づくりのクラフト&スイーツ、
読書をしたら思いのままに感想文。

三陸ふたり旅(7) 女川の原発とサンマ

2013-02-17 03:40:13 | 見聞記 東北編

あの震災により、多くのものを失った。
津波で多くのものが流された。
街がゼロになった多くの街が復興に向かっているなかで、ゼロどころかマイナスからいまだ手つかずなのが、福島だ。
それはもちろん、津波にのまれて事故を起こした原発によるもの。
結果、日本国中が、極度のアレルギー反応をおこして、とうとう全国の原発が止まった。

僕はこのとき気になった。たしか、宮城や青森にも原発はあったよなあ、と。
そうだ、宮城には女川にあったはずだ、と調べてみると、ここは無傷だった。
ただ、震災による損傷はなくとも、冷温停止中のままでいる。
で、そこにはPRセンターという展示施設が併設されていて、震災後も見学ができているらしい。
そこで僕は、これは行かねばなるまいと予定に入れておいた。

女川原子力発電所は、女川の街からたかだか10数キロ先にある距離ながら、そこまでの道路が半端なく狭く曲がりくねり、やたらと遠い。
近くまで来ても、その姿はようとして知れず。
地図上で一番近くの坂を登りきったところから湾を望むと、どうやら「やしい」施設の一端が見えた。
ふと、四国の宇和島城を調べようとした密偵が、その全貌(実は五角形)を把握できなかった話を思い出していた。
そのくらい、外部の人間を寄せ付けない空気を感じた。




PRセンターに着いたころには、相当疲れていた。
ここまでの道路を整備しないのは意図的なのだろうと思いたくなるほど遠く、世間から隔離されている印象。
さて、このセンター、知ってもらうことが趣旨のせいか、入場料は無料。受付嬢の対応も親切。
ただし、その代わりに記名が必要。やはり、施設の性格上、必要な対策だと思う。
まあ、パンフレットの他にボールペンをもらったので、勘弁しちゃおう。





1983年にできたPRセンターは、2010年に見学者110万人を達成したらしい。
でも今は恐がって見学者はあまり来ないのだろうと思いきや、今でもだいたい一日に30人ほどは訪れてくるらしい。
ここまでの悪路を思い出しながら、結構多いなと思った。

展示は、放射線測定機があったり、




本来、放射線は自然界にもふつうに存在するんですよ、と特異なものではないとアピールしてあったり、




花崗岩にはもともとウランやトリウムが含まれていて、だから花崗岩の多い西日本は、東に比べて放射線量に数値が高いのだと解説してあったり、




毎日の暮らしの中で、いろんな放射線を受けているんですと、放射線を生活に身近なものとして紹介することに努めている。





言うまでなくこれまでの日本は、発電電力量の多くを原子力に頼ってきた。
フランスの76%という高割合に及ばずとも、全体の27%が原子力だった。
現在、日本のエネルギー自給率は4%。
つまり、エネルギー資源の96%を石油などの輸入に頼っているわけで、かつてのオイルショックの経験から、自前の発電方式としての原子力政策に力を入れてきた経緯がある。
震災このかた、急に目が覚めたように原子力の危険性を声高に世間は叫んでいるけれど、原子力がリスキーな発電装置であることは、以前から分かっていたことだったじゃないの?っていうのが、僕の違和感。
リスキーだからこそ、「東京電力」なのに関東ではない福島に原発があるわけで、地元はその見返りとしてさまざまな恩恵を受けていた。
原発がほんとに安全な施設ならば、なにも消費地から遠い福島に造ることはなくて、東京のお台場あたりに建設したほうが送電コストもなくて済むのに。
原発がほんとは安全じゃないから、もしものときを考えて福島に造り、それをわかった上で、かねてより財政難の地元自治体は「毒をくらわば皿まで」となったのでしょう?
だから僕は、東電の失態はもちろん理解しながらも、地元が、さも無垢の被害者であるように訴える姿に、どこか納得のできない気分でいた。
かねてより原発そのものの安全性が不安視されていたからこそ、東電は飴玉しゃぶらせて黙らせる手段をとってきたわけでしょう?
で、個人的には、安全性以前に、放射能のゴミの始末が技術的に確立されていないことこそに、原発稼動の是非を問いたいとかねがね思っていた。
だから原発は、過渡期のエネルギーなのだ。
ゴミ処理問題を解決するか、あらたな「未来のエネルギー」を作るか見つけるかしないといけない状況はずっと前から変わらない。
だけど、その代替エネルギーがない以上、エネルギー政策を原発に依存せざるをえない状況が、これまでの日本だった。
原発なしには、今の生活が立ち行かなくなるのがわかるからこそ、消極的ながらも僕は原発容認派なのです。

だけど、フクシマの事故の根本的なミスは、原発そのものの安全性じゃなくて、その立地にあり、いつか来るであろう津波被害の想定の甘さがもたらしたもの。
(想定津波水位が5.7mという、過去の事跡を無視した設定のところへ、やってきた津波は14mだったから浸水してしまった。)
その証拠に、ここの女川で事故が起きていないじゃないか。
(女川原発の想定津波水位が9.1mで、建物の設置は平均潮位から14.8mの高さ。実際の津波は13m。)
せめて、かさ上げした土地に建設して浸水被害がなかったとしたら、ここまでの事故は防げたのだろう。
地震による損傷を言うのなら、ここ牡鹿半島は、半島自体が東南東に5.3m移動し、1.2mも地盤沈下している。
それだけ地形が変化するほど、間違いなく揺れていたはずなのだ。なのに、女川では事故が起きていない。
ことの本質を見失っている。
たとえば銃による無差別殺人が起きたからといって、規制をするのならまだしも、この世の中から銃をなくそうというのか。
その時は、犯人は別の方法で犯行を起こすだけだ。
たとえば交通事故による死者が多いからといって、自動車をなくそうというのか。
いまさら、自動車のない生活ができるのか。仮になくても、自転車でだって死亡事故は起こる。
事故の根源を抹殺するのではなくて、これならば大丈夫というルールつくりこそ、必要なのではないか。


この旅の数日前(9月14日)。
当時の野田政府は、あんな大事故が起きたからといって、全国の原発を全廃すると決めた。
ヒステリックにしか思えないその決定は、まさにポピュリズムに翻弄される、ポリシーも主体性もない無能ぶりを露呈したと呆れてしまった。
今までこれほど原子力に依存していながら、こんな急激な方向展開は場当たり的でしかない。
そのせいで、国内の不安を、全世界に伝染させ、各国のエネルギー政策を狂わせてしまった。
じゃあ、全国17ヶ所54基もある原発の、その代替エネルギーはどうやって確保するというのだろうか。
原発がとまって、火力(石炭、石油)や水力がベース電源を補ってはいるけれど、その発電コストは高いのだ。
誰かがいう太陽光、風力などの自然エネルギー?、そんな不安定なものを当てにするなんて何をいっているんだかと笑ってしまう。
ごみ焼却からの発電という取組みもある。リサイクルの利点は大いにあれど、電力量は見込めない。
将来、複合的な取組みを目指すとしても、やはり、現行の主力発電方式は、原子力しかないのではないかと思う。
肝心なのは、原子力自体をなくすことではなく、安全技術を高め、基準を明確にし、それを開示することで、事故の再発をなくすことじゃないかと、素人ながらに思う。


女川の港に戻った。
この日、港の高台にある女川町総合運動公園では「おながわ秋刀魚収穫祭2012」が行われていた。
車をとめて会場に向かう途中、やけに窮屈な場所に仮設住宅が建っているなと思ったら、観客席が見えた。
どうやらそこはバックネット裏のようで、もともとここは野球場だったのだ。






大音量の堀内孝雄の歌声に導かれるように会場に着いた。
雨がひどく、グランド内は水浸し。








外まで聞こえてきた歌声は、本人の生歌だった。
他にも、大月みやこなどが壇上にいた。この方たちは、こうして被災地慰問をしているのだろうと感心させられる思い。




会場には、いろんな食べ物のテントが並んでいた。
栃木からも、芳賀町の青年たちが繰り出していて焼きそばを焼いていた。大したものだ。
そして、やはりメインはこのサンマ。
側溝を一列につないで木炭を敷き、金網にのったサンマがずらりと並ぶ。






うまい、うまい。お値段は篤志。
僕は都合4本もぺろりと食べた。そのうまさの訳は、昼飯をぬいてきただけではあるまい。

見渡すと献血車が止まっていた。
太郎に尋ねると、いままで献血をしたことがないというので、記念にと誘った。
そのくせ僕は、朝に飲んだ頭痛薬のせいで採血できず、太郎ひとりで献血。
真新しい彼の献血カードには、「宮城」の文字。このあと献血するたびに思い出すことだろう。
それと、献血の記念品に、地元ライオンズクラブからサンマのプレゼントがあってびっくり。
10匹以上は入っていそうな重さ。カミさんにいいお土産が出来た。

そして、僕ら自身へのお土産にと、サンマのTシャツとタオル。
キュートなサンマのイラストに、「NO ONAGAWA、NO LIFE」 
洒落のようでいて、間違いなく本気の言葉。
なぜだろう、僕はこのあたりから悲しい気分になってきていた。




【女川町】  人口       9,965
        浸水範囲人口 8,048 
        死者        476
        行方不明     567
        建物倒壊    3,270



(つづく)

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿