リセットしましょう。

一段と寒くなりました。
風もピューピュー吹いています。
冬への一歩がまた進んだようです。

世間では、遺産相続で揉める話をよく見聞きします。
仲よくやっていたはずの兄弟姉妹でも
いざ遺産の話になると、お互いの主張が出てくるのでしょう。
誰か一人が介護を押し付けられていたら
もっと話は複雑になります。

さて、ここには書いていませんが
絶縁状態のまま母親が亡くなりました。
あっけなく亡くなったそうです。
姉が伝えてくれました。

この亡くなり方にも、複雑な思いがあります。
また、その後知人から言われた事でも、やるせなく思うことがありました。
それらについては、また後ほど書こうと思っています。

今回は遺産相続についてです。

私は絶縁状態でしたので、母親のことは近くに住む姉が一手に引き受けていました。
姉というか、実際には義兄が活躍する場面も多かったので
姉夫婦です。
母親は、私に対して大層怒っていたそうです。
なので遺産は一銭たりとも渡さないと遺言を残したそうです。
当然でしょう。
私もそれでいいです。
姉と義兄が、あの面倒くさい母親を見てくれたのですから
（義兄は学歴や性格を散々罵倒されたのに、支えてくれていました）
二人（というか法律的には姉）が全部貰えばいいと思っていました。

私はずっと、姉も義兄も私に対して怒っていると
勝手に思っていました。
姉自身、母親との仲が良かった訳ではありません。
ただ、近くに住んでしまっただけです。
私は遠くにいる。
きっと怒っている。私なら腹が立ちます。

けれど。
姉は違っていました。
私には遺留分があるから、その手続きを取っていると言ってきました。
母親が亡くなってから、何度か姉と手紙をやり取りしました。
初めは怒っていると思い、怖かったのですが
姉は正直な気持ちを書いてくれました。
今までお互いに、自分の正直な気持ちを言い合ったことはありません。
何故なら、いつもそこに母親がいたからです。
母親は、姉には私の悪口を、私には姉の悪口を言って育てました。
結婚してからは、互いの夫や孫の悪口を吹き込んできました。
そうして、私たちを分断してきました。
が、やっとその分断していた物が無くなりました。
姉は、遠くに行き母親から手を引いた私を羨ましくは思ったのでしょうが
責める気持ちはなかった。
何故なら、私の気持ちがわかったからです。
同じ状況に育ったから、気持ちがわかったのです。
そうして、手紙では姉が経験したことも書いてくれました。
私の知らないこともありました。
姉も大変だったのです。
やっと姉妹だという感覚を持つことができました。

昨日も姉から手紙が届きました。
お互い、暖かいものに触れることなく育ったことを残念だと書いていましたが
リセットしましょう、と書いてありました。
そういう人だったと。

強いなと思いました。
私も今では、母親のことは、そういう人だったと思っています。
本人は一生懸命だったかもしれませんが
大変残念な人で、欲していたものは得られなかったのではないかと思います。
でも姉は、現実に母親に振り回されていたのですから
私よりもずっと大変だったでしょう。
それとも、もう怒りを通り越したのでしょうか。
怒りは疲れますから。
それよりも自分や義兄の心や体の安定を求める方がいい、と思い至ったのでしょうか。

遺留分のことも、法律で決まっているのだから
相続してほしいと言われました。
正直私は放棄したいのですが
姉の意見を尊重することが、私にできるせめてもの償いなのかとも思います。

昔、私の息子が母親のことを
ブルドーザーのような人だと言いました。
本当にその通り。
自分の意に沿わないものを切り倒し、破壊しつくして悦に入る人でした。
その人が亡くなり
やっと私は姉と気持ちが通じることができました。
私が生まれてから６２年経って、ようやく姉妹になれました。

これから急激に仲良くなることはないでしょう。
離れていますし、年齢もあります。
でもいつか、ゆっくりと話したい。
いや、お互いの経験を話すのは辛過ぎるから
話さないかな。
黙っていても、気持ちは通じると思います。
ただゆっくりとお茶でも飲みたい。
私が経験したことを、無言でも理解できる人がいる。
随分と回り道をさせられたと思います。
リセットしましょうと言ってくれた姉に
ただ感謝しかありません。