今日10月31日は「ハロウィーン」。日本でも各地でイベントが開催され、昨日の日曜日には東京の渋谷などでは奇抜な仮装をした若者を中心に、何万人もの人で賑(にぎ)わったという。
そもそも「ハロウィーン」とは何か?
自分は四十数年前の中学1年生の2月14日=「バレンタインデー」で、人生で初めてチョコレートをもらった懐かしく甘酸っぱい経験があり、「バレンタインデー」に関しては何の違和感もないが、この「ハロウィーン」(以下「ハロ」)がなんで日本でこれだけ熱狂するのかさっぱり分からない。そしてなんと市場規模(どれだけ国民がお金を使うか)で、2015年に「ハロ(約1200億円)」は「バレンタインデー(約1100億円)」を上回っているのである。ちなみに「クリスマス」は7000億円。さすが!!
以下、「ハロ」に関する数々のネットを閲覧、社会科教師として信頼できる情報をまとめてみた。生徒諸君の中には留学を志す人もいるが、「日本の常識」は「世界の非常識」であることがままあることを知ってから旅立ってほしいものだ。
(1)「ハロ」はキリスト教の宗教行事ではない。
(2)「クリスマス」「バレンタインデー」「イースター」はキリスト教の宗教行事。
○12月25日「クリスマス(Chistmas)」=「イエス」が「キリスト=救世主=Chist」として生誕したことを祝う「ミサ」。決してサンタクロースの誕生日ではない。「イエス・キリスト」の「キリスト」は、決して「上の名前=苗字」ではない。このへんのところ、よろしく。
「キリスト教とはどんな宗教?」を一言で答えるならば、「イエスはキリスト」と信じている宗教なのである。そして「旧約聖書」にも登場するアダムとイブをつくった「全知全能の神」のみを神とする「一神教」なのだ。ちなみに「ユダヤ教」も「イスラム教」もこの同じ神を信仰している。
○2月14日「バレンタインデー」=269年にローマ皇帝の迫害で殉教した聖バレンタインの記念日。カップルが愛を誓い合う日。女性が男性にチョコレートを贈るのは日本のみ。メリーチョコレート(東京・大田区)が1958(昭和33)年に新宿伊勢丹でセールをやったのが起源といわれている。
元来男女双方向に愛を誓い合う日であり、チョコレートに限らずカードやケーキ、セーターなどをプレゼントする。1か月後の「ホワイトデー」も日本のみで、「バレンタインデー」同様に日本企業が営利目的の販売促進のために考案した。
○「イースター」は「復活祭」ともいい、キリスト教徒にとって「クリスマス」よりも大切な宗教行事。
「神の子」で「キリスト(救世主)」ある「イエス」が、「十字架にかけられて死んだ3日目に復活しした奇跡」を記念・記憶する日で、3月下旬から4月上旬の日曜日に実施されるが毎年日付が変わる。
「クリスマス」や「バレンタインデー」のように毎年日付は決まっていない。
すでに日本(例えばディズニーやUSJ、百貨店や菓子メーカーなど)では「クリスマス」「バレンタインデー」「ハロ」に続く第4のイベントとして期待する向きもあるが、年度末や花見、入社式や入学式などと重なり、イベント閑散期の「ハロ」と比べて盛り上がりはあまり期待できない。
というより、「クリスマス」や「バレンタインデー」と比べてよりディープなキリスト教の宗教行事なので、日本での盛り上がりは遠慮するのがエチケットではなかろうか。
(3)「ハロ」は、大昔にヨーロッパに広く住んでいた「ケルト人」の祭典が起源。
○「ケルト人」は、自然を信仰の対象ととらえ、生物や森、宇宙の中に超自然的、霊的な魂を見出していた。この辺は、縄文時代の授業で習う日本のアニミズムと似ている。要するに「多神教」なのだ。
○「ケルト人」にとって1年の終りは10月31日(日本でいう大晦日)。ちょうど秋の収穫を祝う季節。
○この夜は夏の終わりと冬の始まりを意味する。死者の霊が家族を訪ねてくると信じられていた。
○大昔の「ケルト人」は日本と同じ「多神教」で、妖精や精霊、魔女の存在や輪廻転生(りんねてんしょう)を信じており、精霊や魔女から身を守るために、そして秋の収穫を祝うために、仮面をかぶって魔除けの火をたいてこの夜を過ごした。
○「秋の収穫を祝う」あたりは、日本の神社の秋祭りと趣旨は同じ。
(4)その後、「ケルト人」はどうなった?
○「濃い緑」は紀元前1500年~紀元前1000年に「ケルト人」が住んでいたところ。
○「薄い緑」は紀元前400年ぐらいに「ケルト人」が住んでいたところ。
○これでも分かるように「ケルト人」はヨーロッパ全土に広がっており、彼らの信仰の影響がヨーロッパの童話などで「妖精」や「精霊」がやたら登場することで理解できる。
○その後、「ローマ人」や「ゲルマン人」の勢力拡大で端っこに追いやられ、現在の「アイルランド」「イギリスのスコットランド」「イギリスのウェールズ」に「ケルト人」のDNAを受け継いだ人が住んでいる。緑色の「ケ」で表現した場所だ。
○「ローマ人」がキリスト教を国家の宗教と認めてから、その影響で5世紀ごろから「アイルランド」にも「一神教」のキリスト教が広まったが、「多神教」の影響を色濃く残す「ケルト文化」は滅びることなく今も残るのである。
○ちなみに「ケルト人」の「アイルランド」は、「ゲルマン人」の一派「アングロ・サクソン族」の「イングランド」に支配された。19世紀後半、多くの貧しい「アイルランド人」は豊かさを求めて大西洋を渡りアメリカに移住。そんなアイルランド移民(=アイリッシュ)がボストンでつくったバスケットボールチームが「ボストン・セルティックス」であり、シンボルカラーは「ケルト人」の象徴である「緑」。チーム名も「ケルト=Celt」の形容詞系である「Celtic=セルティック」を使用している。
○上は現在の地図だが、我々が「イギリス」といっている国は正式名は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」。黒い太線で囲んだところだ。「イギリス」は和製英語で世界中で「イギリス」といってもまったく通用しない。
現在の「イギリス」の国旗(=ユニオン・ジャック)は、「イングランド」+「スコットランド」+「アイルランドの聖パトリック」を合体させたもの。やっぱり「イングランド」が一番上。「ウェールズ」は無視されているのかな(その理由を知っている人は教えて)?
「アイルランドの聖パトリック」とは、キリスト教を広めたアイルランドの聖人で、シンボルとして以下の旗が使用されていたが、現在、「イギリス」に残った「北アイルランド」、「イギリス」から独立した「アイルランド」ではこの旗は公式には使用されないようだ。
「イギリス」は4つの地域からなっており、以上のようにそれぞれが国旗みたいなのを持っているし、サッカーのW杯には「イギリス」統一チームではなく、「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」がそれぞれのチームで予選を出場している。
「4つの地域」と表現したが、日本の「近畿」「関東」などとはまったく意味の違う歴史的に根深い支配・被支配の歴史があり、現に「スコットランド」などは2014年に「イギリス」から独立するかしないかの住民投票までやった(結局「独立せず」が僅差で勝利)。
むちゃくちゃ簡単に表現すると・・・
「イングランド」=あとからブリテン島にやってきたゲルマン民族(アングロ・サクソン系)で、他を支配して「イギリス」を建国して今もなお中心的存在。
「スコットランド」=北へ追いやられた「ケルト」が中心。「イギリス」からの独立心あり。
「ウェールズ」=西へ追いやられた「ケルト」が中心。「イギリス」からの独立心はあまりない。
「北アイルランド」=アイルランド島に追いやられた「ケルト」よりもイングランドからの移住者が多く、結局「イギリス」に残った。これが原因で1980年代まで内戦が続いた。
「アイルランド共和国」=アイルランド島においやられた「ケルト」が中心。アメリカへの移民が多い。1922年に「イギリス」から独立した。スペースの関係で現在の国旗が表現できなかったので、下に掲載します。
要するに後からやってきた「イングランド」が他を支配して、「イングランド」が中心となって「イギリス」が建国されたということ。このへん、何でもどこでも「後からやってきた」方が「先にいる」より強いのだ。アメリカ先住民族しかり、オーストラリアのアボリジニしかり、北海道のアイヌしかり、メダカしかり、鮒(ふな)しかり・・・。
(4)なぜ「ジャック・オー・ランタン」? なぜカボチャ?
○その昔、アイルランドにジャックという酔っ払いの悪人がおり、死後に天国から追い出され悪魔にも嫌われて、地獄からも締め出された。そこで安らぎの地を求めて彼は永遠に世界中を放浪するが、そのとき暗い足元を照らすために「カブ」をくりぬいてランタンを作った。このお話がアメリカ に伝わって、「カブ」になじみのないアメリカ人がアメリカ大陸原産の「カボチャ」にしたという。
(5)「Trick or Treat(お菓子をくれないといたずらするぞ)」の由来?
○ヨーロッパで祭り用の食料をもらって歩いた農民の様子をまねたもので、今から1000年以上前の中世の名残と言われている。
○子供たちに訪問される地域の大人たちは、あらかじめお菓子を大量に用意して待っている。地域の大人たちと子供たちが交流できる機会になっている。
○なお、1992(平成4年)10月、アメリカのルイジアナ州でハロウィンの仮装をした16歳の日本人留学生が、銃マニアで近所の動物を射殺する愚行を繰り返していた男の家にアメリカ人の友人と一緒に間違って訪問していまい、射殺された事件があったことを忘れてはならない。
(6)なぜ仮装するのか?
○10月31日の夜は、この世とあの世の境目がなくなり、あの世の「悪霊」「死者の霊」たちがあの世からこの世にやってくると信じられていた。それで、人々はそれぞれ仮装して「悪霊」たちの目をくらまして自分に乗り移らないようにしたという。
○「ケルト人」にとって10月31日は、日本人の「大晦日」と「お盆」に当たるのだろう。
(7)いつから日本でも「ハロ」をやるようになったか?
○1983(昭和58)年に東京・原宿の「キディランド」が始めた「ハロウィン仮装パレード」が最初か。ただこれはあくまで子供向けで、大人も参加できる形態が広まったのは、1997(平成9)年に東京ディズニーランドが行った「ディズニー・ハロウィーン」が最初とされる。
○同じく1997(平成9)年、神奈川県川崎市のJR川崎駅周辺の商店街活性化のために企画された仮装イベント「カワサキ・ハロウィン」が最初である、という意見もある。
(まとめ)
○以上みてきたように、何かをきっかけに自社製品の販売拡大(入場者増加)を狙った企業が仕掛け人となって、キリスト教やケルト文化と何の関係もない日本で「バレンタインデー」や「ハロ」は一般的となっていった。それに昔から何かとイベント好きな日本人の気質がプラスされたのだろう。
○実は「クリスマス」もそうで、なんと1900(明治33)年に食料品販売の明治屋が銀座に進出して、クリスマス商戦を始めたことがきっかけとされる。
○とりあえず生徒諸君はこれらのイベントを楽しむのは結構だが、その本来の意味ぐらいは知ってほしいし、そのイベントが世界中に通用するわけではないことを知っていてほしい。
○キリスト教の宗教行事である「クリスマス」「バレンタインデー」「イースター」を、もちろんユダヤ教徒やイスラム教徒はお祝いしないし、全世界が10月31日に仮装して繁華街を練り歩いているわけではない。
○異教徒の祝祭や異民族の祭典をいつの間にかすんなりと多くの人が受け入れ、今一つ意味が分からないまま「ハッピーハロウィン」「メリークリスマス」と騒いでいるのは、宗教や異文化に対する日本的寛容のあらわれであり、高校生ぐらいまでなら「知らんかった」で許されるが、大人ならしっかりとその意味を理解して、ばか騒ぎするならするで公共のマナーを守ったものであってほしい。
○偉そうにかく言う自分であるが、自分が幼年時代は父母と共に「メリークリスマス」と祝ってケーキを食べ、「きよしこの夜」の歌詞の「すくいのみこは」が「救いの御子は」であることを高校時代は知らなかったし、自分の息子らには当然のようにクリスマスプレゼントを枕元に置いた。さすがに息子らの時はハロウィンはなかったが、もしかすると来るべき将来、孫に「ハッピーハロウィンでちゅね」と自ら仮装してお菓子をあげているかもしれない。トホホである。
※このブログで掲載したイラストは
[かわいい無料イラスト素材集『フレームイラスト』]より。