クニアキンの日記

日々、興味を持ったことなどを調べたりして書いていきます。
旧日記の復元については7月13日の日記をご覧ください。

アンジェラ・ダックワース、神崎朗子訳『やり抜く力 GRIT ――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』ダイヤモンド社(2016)

2024-08-21 18:14:29 | 読書
アンジェラ・ダックワース、神崎朗子訳『やり抜く力 GRIT ――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』ダイヤモンド社(2016)

 6月にエールリッヒの「魔法の弾丸」に関連してあれこれ調べていた時に、
「魔法の弾丸サルバルサンから続く21世紀の標的治療」
という講演記録を見つけて読みました。その中で、Angela Lee Duckworth の GRIT を知りました。私の持論である「しつこくこだわり続けることが大切」と通ずるのかなと思って興味を持ちました。
 そんなことで、読んでみようかなと思っていると話したところ、
実は自分も何年か前に図書館で借りて読んだが、
>粘り強く続けた人が成功してる!
という事例がひたすら出てきて、
>根性大事!
みたいな感じで、途中でイライラしてきて挫折した。
是非、粘り強く読了して、印象に残ったことがあったら教えてほし
と言われましたので、この本を読む「目的」もできました。

 とりあえず百均本は見つからなかったので図書館から借りて、ひたすら付箋を貼りながら読みました。7月中には読み終わりましたが、今度はその「付箋回収」をして抜き書きするのに時間がかかり、ようやくまとめる段階にたどり着きました。
 訳本は出版社からして「ハウツー本」の雰囲気ですが、原著をちょっと見た感じでは、訳本のような見出しは殆どついておらず、淡々と述べられている感じです。
 著者自身が
この本は、あなたを誘ってどこかでコーヒーでも飲みながら、私がこれまで学んできたことをお話しする、そんなつもりで書き進めてきた。(p.356)
と言っているように、系統立てて書いたものではなく、また手っ取り早く何かを伝授しようとかいうような書き方でもありません。
 また、これは訳本でもそうですが、単なる「印象」や「個人的な意見」と、心理学的方法で証明されたこととが峻別して書かれています。これはやはり著者の研究者としての矜持に基づくものでしょう。
 訳本の各章のタイトルは、原文よりずいぶん説明的です。また各節の見出しは、訳本にしかなく、一部にちょっと misleading なものもあるような気がしました。この本を他の「ノウハウ本」と同じようにするために、編集者が勝手につけたのかな? と邪推したりもしました。

以下、私が印象に残ったところを中心にまとめてみます。

 まず、「はじめに」にも書かれた(p.4)、「やり抜く力」は固定したものではなく、変化する ということをしっかり頭に刻み込んでおくことが重要だと思います(p.82)
 最初の方で確かに「努力」の重要性が強調されていますが、これを中学校運動部にありがちな、やみくもな「根性」とは違い、自分自身の興味と目的に裏打ちされている、ということがポイントだと思います。
やり抜く力」の強い人びとが持っている深い情熱は、「興味」と「目的」によって支えられている。(p.202)
また、もう一つのポイントは、すごいもの・偉業に対し、それを才能によるものとして、「自分には才能がないからできない」として逃げてしまう人が多いので、それを戒めているという面があります。
 つまり、偉業も才能によるというよりも努力によっているということに着目しないといけない、ということです。
「才能」に目を奪われてしまうと、同じかそれ以上に重要なもの、すなわち「努力」に目が行かなくなる(p.57)

「天分だの、天賦の才だのと言って片付けないでほしい! 才能に恵まれていない人びとも、偉大な達人になるのだから。達人たちは努力によって偉業を成し遂げ、(世間の言う)”天才”になったのだ。……彼らはみな、腕の立つ熟練工のごとき真剣さで、まずは一つひとつの部品を正確に組み立てる技術を身につける。そのうえでようやく思い切って、最後には壮大なものを創りあげる。それ以前の段階にじっくりと時間をかけるのは、輝かしい完成の瞬間よりも、むしろ細部をおろそかにせず丁寧な仕事をすることに喜びを覚えるからだ。」(p.67)
ニーチェからの引用だそうです。ニーチェも少し読んでみようかなという気になりました。
 そのような時間をかけた努力に関係して
人生で成功する秘訣の80%は、めげずに顔を出すこと(p.76)
“Eighty percent of success is showing up” — Woody Allen
長い目で見れば、「継続は力なり」の一語に尽きる。(p.77)
は、当たり前ながら大切なことですね。

 次に、「努力」の裏付けとしての「興味」と「目的」についていくつか。
興味を持てることが見つかったら、こんどはさらに長い時間をかけて、自分で積極的に掘り下げて行かなければならない。(p.146)
は、全くその通りだと思いました。
 一つは教員希望の学生諸君の卒業研究の指導をしていた時のことです。「興味・関心・意欲」を持った子どもを育てる教師となる前提として、まず自分でそれらを持たないといけないということで、テーマは自分で決めさせていました。で、思いついたテーマについて、掘り下げて行くことのできる人は少ないなと思いました。
 もう一つは私自身の学生・大学院時代のことです。理系の実験系研究室の例に違わず、私も最初の研究テーマは与えられました。それを自分で掘り下げて行くことによって、自分自身の興味の持てる対象を見つけていくことが研究者としてのスタートだったなと今、振り返って思います。
 いずれにしても、長い時間のかかることです。
ところで、
おとなになったらなにをしたいかなど、子どものころには早すぎてわからない。(p.145)
は、全くその通りだと思いました。
 次の「目的」ですが、この本で言っている目的とは「世のため、人のために役に立つ」目的です。率直に言って私は、仕事の教育の側面は別として、研究面での目的は「○○を明らかにする」というようなもので、「世のため、人のために役に立つような目的」は全く考えていませんでした。もちろんそれが学問の進歩に繋がり、いずれは社会に何らかの形で貢献すると思ってはいましたが。
 その意味で、
ほとんどの人は、まず自分が楽しいと思うことに興味を持つことが多い。自分の個人的な興味がほかの人の役にも立つかもしれないと気づくのは、もっとあとのことだ。(p.203)
は、納得できます。
あなたの現在の仕事は、以下のどれに当てはまりますか?(p.209)
 仕事(job)(呼吸や睡眠のように生きるために必要なこと)
 キャリア(career)(もっといい仕事に移るためのステップ)
 天職(calling)(人生でいちばん大切なもののひとつ)
のあたりの話も興味深く読みました。
 あと、「意図的な練習(p.169 初出 peliberate practice)」も重要なキーワードだと思います。冒頭で触れた、やみくもな「根性」とのもう一つの違い、即ち、「やみくも」ではなく、「よく自分で考えて」練習するということだと理解しました。
エキスパートたちは、すでに得意なところをさらに伸ばすのではなく、具体的な弱点の克服に努める。あえて自分がまだ達成していない困難な目標を選ぶ(p.171)
そして「意図的な練習」を「習慣化すること」が重要とあります。
大変なことをするには、「ルーティーン」にまさる手段はない(p.197)
 routines are a godsend when it comes to doing something hard
もちろん、時間をかけることは重要で
「10年間で1万時間」の練習(p.168)

 上記の興味、目的、練習、に加えて第4の要素が「希望」です(p.132~133)
「無力感」をもたらすのは、苦痛そのものではなく、「苦痛を回避できないと思うこと」(p.230)
が、基本にあります。そして
楽観主義者は自分の苦しみは一時的で特定の原因があると考えるが、悲観主義者は自分の苦しみを変えようがない原因のせいにして、自分にはどうすることもできないと考えてしまう。(p.233)
ということになります。
「成長思考」
人間は変われる。成長できる、と信じている人たちは、チャンスと周囲のサポートに恵まれ、「やればできる」と信じて一生懸命努力すれば、自分の能力はもっと伸ばすことは可能だと考える。(p.240)

「成長思考」でいると、逆境を楽観的に受けとめられるようになり、そのおかげで粘り強くなれる。新しい試練が訪れても臆せずに立ち向かうため、さらなる強さが培われる。(p.253)
本書の第3部は「やり抜く力」を外側から伸ばす です。
p.269 の
子どもたち規律を学ばせること。そして何でも一生懸命やることを学ばせること
そういう習慣は、努力によって身につく
放っておいても自然にできるようにはならない
「始めたことは最後までやり遂げる」ということを子どもたちに教えるのは、親の大事な役目
は、重要な指摘だと思いました。また、
自分の「やり抜く力」を強化したいなら、「やり抜く力」の強い文化を見つけ、その一員となること(p.331)
やり抜く力の強い人たちに囲まれていると、自分も自然とそうなる(p.334)
は、いわゆる「良い学校」に入るメリットだと思います。

 最後に、p.325~ に書かれた、著者一家の「ハードなことに挑戦する」というルール(Hard Thing Rule) は子育てをしている人たちに参考になると思いました。
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