鉄は煙を大きく吐き出すと、質問を続けた
鉄「もう一度聞くが、JARIってのはあのJARIだよな?」 政「へい あのJARIです。」 鉄「俺の知る限りじゃ 自動車関係で一番の権威を持つ組織じゃねぇか。」 政「へい 私の知る限りでも同じですが・・・その鑑定結果はシロ。つまりスリップ痕は本物ってことですよ。」
あっさりと政が鑑定結果を伝えた。
鉄「アレが本物って・・マジかよ。あのスリップ痕は本物だとそうJARIが言っているのかい?」
政「いえ 高知県警がそう言ってます。」
鉄「県警がそう言っている??・・・なんでぇ その言い回しは・・なにかひっかっているじゃねぇか。」
政がにやりとに笑った
政「正確には県警がそう言っていたという過去形になるんですがね・・」 鉄「細かいことはいいから 話を続けてくれ。」
政「わかりやした。あっしがこの話を仕入れたのは、知合いからなんですが、その男が地元マスコミから仕入れた話なんでさぁ。酒の席でスリップ痕が本物かどうかの論争をしたとき、押され気味の相手が思わず口にしたって私は聞いてます。」
鉄「ふむ・・・知合いからの又聞きってわけだな。で 何て言われたんだ?」
政「そのマスコミ関係者は、県警もスリップ痕鑑定をJARIに依頼して、スリップ痕は本物とお墨付きをもらっているってんでさぁ。兄貴 JARIがアレを本物と鑑定したなんて信じられますか?」
鉄「信じられるわけがねぇよ。」
政「でしょう。私の知合いも同じでさぁ、で 知合いは後日、JARIに電話したんですよ。高知県警から高知白バイ事件のスリップ痕鑑定を依頼されたかってね。」
鉄「やるねぇ。たいしたもんだ。JARIはどう答えたんだい。」
政「『私共の方にはそういった依頼は来ていない』って返ってきたんで、知合いは、さらに『高知県警はJARIの鑑定結果スリップ痕は本物だと言っているぞ』って言ったんですよ。それを聞いたJARIも驚いたんでしょうね。『とにかく鑑定依頼は受けていない。仮に高知県警がそう言っているなら・・・・』」
そこまで言って 政は杯をグイッと空けた。その杯に鉄が酒を注ぐ
政「『県警がそう言っているなら 実に迷惑な話だ』そう言ったというんですよ」
鉄「迷惑な話だって!そりゃそうだな。JARIの本音が出ているよ。」
と鉄は声を出して笑った。そして続けた
鉄「だがな、政 お前 話に尾ひれをつけていないかい?」
政は頭を掻きながら苦笑いをした。それを見ながら鉄が続ける
鉄「まぁ それは良いとして、『又聞き』でここまで言えるって事はそれなりの裏はとってのことだろうな。」
政「へへ 恐れ入りやす。一応あっしどもにも仁義ってものがありますんで、そのままに言えない処はご勘弁下さい。しかし、『又聞き』の裏はもちろんとってますよ。そうじゃなきゃ 噂なら噂と前置きを入れますぜ。」
鉄は笑顔で自前の杯を政に差し出し、それに酒を注いだ
鉄「気を悪くするなよな。念を入れただけだ。」 政「いえ そりゃもう わかってますから・・それより話を続けますが・・」
JARIに電話をしたという政の知人は直ぐにネタ元のマスコミ関係者を呼び出して電話の内容を伝えた。
知人「お前、鑑定の話はJARIに確認をとっているのか」 地元「・・いや 取っていませんが・・」 知人「今日 JARIに電話したんだか、鑑定どころか依頼さえ受けていないっていっているぜ」
地元「えっ!!」
政「てな感じで 今度は地元マスコミ関係者が驚いたってことです。それを聞いた男、つまりマスコミ関係者ですね。その男が県警の担当者にそのことを つたえたら。今度はその担当者が驚いたってんですよ。」
鉄「はぁ? 県警の広報担当が驚いたってのはどいうことだい。」
政「その広報担当者が鑑定を依頼したと発言した場はそれなりの場なんですが、とにかく 驚いたその担当者は上に報告を入れた。そしたら、上のほうは『そんな依頼はしていない』ときたんでさぁ。」
鉄「政 ちょっとまってくれよ。ここまでの話をまとめるぜ」 政「ヘイ。」
鉄「つまりはこういうことかい。県警の広報担当がスリップ痕の真贋についてJARIの鑑定結果からスリップ痕は本物である。と マスコミ関係者に発表したんだよな?」
政「ヘイ。その通りでさぁ 」
鉄「ところが、裏を取ればJARIは鑑定はしてないし、依頼すらも請けていないと言った。それを聞いた広報担当はそんなはずはないと上司に確認を取ったら・・・」
政「『その通りだった』つまり依頼はなかったという話です。
鉄「・・・この話、何時の話だい?」
政「あっしの耳に入ったのは最近なんですが・・・」 鉄「ちがうんだよ。県警とマスコミ関係者のやり取りがあった時期はいつなのかってんだよ。」
政「その辺はちょとあれなんですが、あっしの知合いとマスコミのやり取りは片岡の叔父貴が収監された直後です」
鉄「去年の11月頃か・・・」
そう言うと 鉄は再び煙草を手にした。
続く
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