ゆっくり座っていきたいから、始発駅で電車を待った。乗車位置を示す表示は足下にはなく、軒下に張られたワイヤーに掛けられた札がその場所を示している。
このホームから頻繁に出発していた長距離列車が姿を消して久しい。その当時、この場所に「4ツドア乗車口」が表示されることを想像した人は、果たして何人いただろう。
ボックス席の一角を確保し、本を開いたが、眠気に負けて捕らわれる寸前、途中駅から乗り込んだ男が仲間を見つけ大声で話し始めた。彼らの話は尽きることなく、うち一人は早口でまくし立てるタイプの、僕の耳が一番苦手とするタイプだった。専門用語が散りばめられた会話の断片に、彼らがいわゆる「撮り鉄」と呼ばれる一員であると察し、さっき大きな物音とともに荷棚に置かれた黒く細長いバックを見て確信した。
子供の頃は憧れを胸にホームの端でカメラを構えた。今でも記録的な意味プラスα(少々)で、同じように撮影することがあるくらいだ。
最近もそんな撮り鉄が大騒ぎをしていたが、罵声が飛び交うような殺伐とした空間に、子どもたちに場所を譲るような気持ちはあるのだろうか。
隣のホームに待避する各駅停車を見つけ、彼らの放つ騒音から退避した。