私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

失楽園 110~124行目

2020-01-27 17:19:13 | ミルトン〔失楽園〕
楽園の喪失
巻一
ジョン・ミルトン

110 その誉れをかの者の瞋恚も権勢を決して
111 俺から騙し取れはしまい 頭を低めて恩寵を求め
112 嘆願して跪いて この武力への怖れから己が帝国を
113 疑うにはあまりに遅すぎたかの者の
114 御稜威を崇めるのは 実は賎しいことであり
115 この転落よりもさえ不名誉で
116 恥ずべきことだ 定めによって神々の強さと
117 この至高の天の実在は衰え得ぬうえに
118 この大いなる出来事を通じて
119 武力においては劣らなければ先見では優っていたのだから
120 我らはもっと上首尾な希望をもって心を定め
121 力か策によって 決して譲らぬ非時〔トキジク〕の
122 闘いを執り行うのがよいのだ 我らの大敵に対して
123 今や勝ち誇って ただ独り君臨する歓びに
124 浸りすぎて 天の専制を保ちづづける者に対して

110 That glory never shall his wrath or might
111 Export from me. To bow and sue for grace
112 With suppliant knee, and deify his power
113 Who from the terror of this arm so late
114 Doubted his empire, that were low indeed,
115 That were an ignominy and shame beneath
116 This downfall; since by Fate the strength of gods
117 And this empyreal substance cannot fail,
118 Since through experience of this great event
119 In arms not worse, in foresight much advanced,
120 We may with more successful hope resolve
121 To wage by force or guile eternal war
122 Irreconcilable, to our grand Foe,
123 Who now trimphs, and in th’ excess of joy
124 Sole reigning holds the tyranny of Heav’n.


*116行目「gods」は前述の「Spirits/聖霊たち」=天使たちを指すと思われます。
 読めば読むほどこの人間的な魅力あふれるサタンはオリヴァー・クロムウェルを彷彿とさせます。このシーンなど、いわゆる「清教徒革命」――1640年代のイングランド内戦の後、武力で破れた国王を交渉による和解を通じて呼び戻そうとする議会に対して、「賠償金を払わせろ!」と激昂する兵士たちを背にして「革命の英雄」が演説しているかのようです。ミルトンはこの英雄を恐れつつ愛していた……のかもしれません。


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