Feel in my bones

心と身体のこと、自己啓発本についてとつぶやきを。

田中均前外務審議官/敗戦国としての日本の出来ること

2006-02-05 09:31:58 | 時事・国内
報道2001で田中均前外務審議官が出ていた。そうだなと思うところとやはりその考え方はおかしいと言うところと両方感じる。結局議論の行き違いというのは、ヤルタ・ポツダム体制を完全に所与のものとして全面的にそこからはみ出してはならないと考えて身を処することを考えるのか、戦勝国体制としての戦後そのものに異議を持ち、より大きな歴史的視点でものを考えようとするかの二つの立場に分かれてしまうのだと思う。右も左も含めて、ヤルタ・ポツダム体制そのものに対する異議を申し述べるべきではない、という自己規定を意識的にしろ無意識的にしろ乗り越えられない、乗り越えてはならない一線だと考えている人が相当の多数派であることは確かだろう。そういう人からは、それそのものに対する疑義を表明する人が単なる夢想家、幻想家、妄想家に思え、相手の言うことをまともに聞かないということになるのだろうと思う。

現実問題として、戦勝国体制としての5大国の世界支配というのは強固なものだし、中でもアメリカの一国支配が飛び抜けていることも事実である。5大国も現実にはアメリカと、中国・ロシアの専制体制グループ、イギリス・フランスの旧列強グループに分かれている。そしてもちろん、この3極が世界を代表しているのでないことは事実である。どこの国の外交も、この3極の中での綱引きと、イスラム諸国、アフリカ諸国、ラテンアメリカ諸国、東南アジア諸国などと、またインドや日本などの独立勢力の中の点数の稼ぎあい、足の引っ張り合いのなかでそれぞれの国益、グループ共通の利益の実現のために努力していると言うのが原状だろう。日本はその中でもなるべくアメリカと密着しつつ中国・ロシアその他の国を牽制して国際的地位・国際的影響力を高めようというのが基本的な戦略ということになっているだろう。

したがって、戦勝国体制そのものを疑うことはすなわちアメリカ非難につながり日本の国益に反する、という主張そのものを理解できないということはない。しかし、そういう戦略・戦術的なものと、原則論的・思想的なものはまた別に考えるべきだと言う考えも当然あり得るわけで、そこのところを単に夢想的・妄想的と切り捨てるのは返って生産的ではないように思う。そこのあたりは、実務には長けていても思想的な訓練にたりないところがある現代日本人にかなり広範に見られる弱点であるように思う。そして残念ながら、ブログなどを読んでいてもそうした思想的な面で骨があると感じられる人の中にもどうやら現実路線に切り替えたのかなと感じられる人が多く見られて、むしろ不勉強なネット右翼のみががなりたてるという戦後60年に共通した不毛な有様が広がっているという現状である。

日本のあり方を考えるときに、敗戦後の日本の姿勢だけを絶対的なものとして考えるのは返って現実性がない。戦前の日本がなぜそのような行動をとったのか、その抱えている理由というものが、現代にはもう完全にその論拠が失われているかと言えば決してそうではないからである。そして日本の日本としてのアイデンティティというか、まあそういうものを外来語で表現しなければならない私自身の教養の薄さにも苛々するところだが、日本の真髄というか脊柱というか脊髄というか、まあそんなようなものはやはりそんなには変化していないのではないかと思う。それは目には見えないもので、サン・テグジュペリが言うように「大切なものは、目に見えない」というようなものである。

で、そうしたところから立って考えれば、いかに非現実的に見えようと、現在の世界体制そのものが歪んだものであると言うことは見えてくるはずである。それはたとえばイスラムの側からも見えるだろうし、ヨーロッパの側からも見えるだろうし、おそらくはアメリカの伝統を掘り下げている人から見てもその歪みは見えてくるはずだと思う。どこが歪んでいるのか、という見方そのものは違うだろうと思うけれども。そうした意味で、そういう思想的な営為そのものが無意味だと言うことは絶対にない。それは直接的には世界を変えることは出来なくても、その発信がある種の強力な磁力を発生させて、世界を変化させる超長期的な要因になることは常にあるからである。

そうしたことは現実に力を持っている大国にのみ可能なことではない。我々のような敗戦国にあっても十分可能なことである。日本人が日本人の美意識、日本人の真実、日本人の善意に適合した世界に少しでもマッチする世界になることを願い続け、そのための努力を続ける限り、世界はほんの少しだけでも日本化していく。そういうつもりがなければ、世界が我々が願うようなよい世界に近づいていくことは絶対にないと思う。




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