言の葉花壇

何度聞いても美しい日本語に、今日もマナ女とカナ女がにぎやかに呟きます。ぜひお気に入りを見つけてください。

願はくは

2017年03月12日 | 続古今和歌集
第 1527
◆ ◆ 花歌中に
願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ
西行 ◆ ◆
     
続古今和歌集 第十七巻 より

::: 読み :::

ねがわくは はなのもとにて はるしなむ そのきさらぎの もちづきのころ

::: 意訳 :::

かなうものなら桜の花のの咲くころに死にたいものだ。
それは如月の満月のころ、お釈迦様が亡くなったというその日に。

::: 備考 :::
 

 西行法師の有名な歌やね。
 西行法師の本名は佐藤 義清(さとう のりきよ)。
1118年、武士の家に生まれたけど、23歳の時に出家したんよ。
それ以来諸国を行脚しながら花と月を愛した歌をたくさん残しているわね。
この歌は、西行法師が亡くなる前日に読まれたそうで西行法師が願ったとおりになったと言うので有名になったそうよ。
 如月の望月って2月の満月のこと?
 そうやね。でも、これは陰暦やから、現在で言うと3月やね。
それに『花の下』とあるから花は桜のことやからやっぱり3月のことやね。
 管理人さんはこの歌が大好きなんやて。
なぜか童謡唱歌『朧月夜』を思い出すって言うてたよ。
 そうやね。夕暮れに染まった里山の景色の中に佇んでいる気分になる様な歌やもんね。
 春やなぁ
 後の時代の与謝蕪村も有名な俳句を呼んでるわね。

なの花や 月は東に 日は西に

 


萌え出づる春に

2017年03月07日 | 万葉集
第 1418
◆ ◆ 志貴皇子の懽の御歌一首
石ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出づる春に なりにけるかも
志貴皇子 ◆ ◆
     
万葉集 第八巻 より

::: 読み :::

いはばしる たるみのうえの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも

::: 意訳 :::

岩にほとばしる滝のほとりのワラビが、芽をふくらませてくる春となったんだなあ

::: 備考 :::
 
 万葉集 第八巻の巻頭、「春」を飾っている歌やね。
 早春の色が目に浮かぶような景色を想像させてくれるね。
 「いはばしる」は勢いよく水がしぶきを上げながら岩の上を激しく流れる様子で、「さ蕨」はワラビの新芽のこと。
 雪解け水が勢いよく落ちる滝のそばにワラビの新芽の薄緑色がたくさん出てきて、雪の白一色だった冬から、いろんな色の春がいよいよ始まるウキウキ感が出てるよね。
 そうやね「いはばしる」とか「もえいづる」とか暖かくなってくると植物も動物も動きが出てきて忙しいわね。
 あ~いよいよ暖かい春やね。

 


宇智の大野に

2017年03月05日 | 万葉集
第 0004
◆ ◆ 天皇 宇智の野に 遊猟したまふ時 中皇命の使 間人連老をして獻らしめたまふ歌
たまきはる 宇智の大野に 馬並めて 朝踏ますらむ その草深野
中皇命 ◆ ◆
     
万葉集 第一巻 より

::: 読み :::

たまきはる うちのおほのに うまなめて あさふますらむ そのくさふかの

::: 意訳 :::

宇智の広大なる草原に馬を並べ、朝(の大地)を踏みしめて(猟)をしておいででしょう。 その草深き野を。

 
 題詞は [天皇遊猟内野之時中皇命使間人連老獻歌]
つまり天皇、このときの天皇は 舒明(じょめい)天皇 で、宇智の大野で猟をした時、 中皇命(なかつすめらみこと)間人達老(はしひとのむらじおゆ) に献上させた長歌の反歌やね。
 ちょっと壮大な感じがするね。
 そうやね。宇智の大野は奈良県五條市。金剛山のすそ野一体が宇智の大野やね。
でも、この歌には解らない事があるのよ。
 どんな事?
 それはね、作者の中皇命(なかつすめらみこと)自体がいったい誰かって事やね。 解っているのは、飛鳥・岡本宮に残った中皇命が天皇の無事と豊猟を祈って使者を出し、 狩り最中の天皇に歌を託したって事かな。 ちなみに 「たまきはる」 は宇智にかかる枕詞よ。
謎の多い歌やけど、広い野原で天皇がたくさんの馬や家臣達と狩りをしている様子がよくでてるよね。
 まるで映画のワンシーンを切り取ったみたいやわ。