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Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

夜間の頻尿について

2012-01-24 08:47:39 | その他
頻尿は進行がんに限らずたくさんの方の経験する辛い症状の
ひとつです。特に夜間の頻尿は不眠や転倒の原因となります
(筋力の低下や浮腫などがあれば転倒のリスクは格段に高く
なります)。
緩和医療学会のガイドラインにも『終末期がん患者の泌尿器
症状対応マニュアル』があり、PDFファイルをダウンロード
出来ますが、多くの患者様の悩みのひとつになっている事が
伺われます。

血糖・高カルシウム血症や尿路感染など、補正により治療
出来るところから検査をしていくのは言うまでもないですが
これらに異常がない場合はどのような対応を考えたら良い
でしょうか。

頻尿と言うと最近はポラキス・バップフォー等の抗コリン薬が
やたらと使われます。もちろん、劇的に効果がある事もあり
ますが、一方で症状を増悪させたり抗コリン作用による
副作用もあり、使用前に残尿を調べるのはもちろんの事、
体力の低下した高齢者では眠気、ふらつき、便秘、せん妄
等にも要注意です。

※更に進行がんの方はただでさえ抗コリン作用を持つ薬を
多く内服されていると思いますので副作用増強にも注意が
必要です!(モルヒネ・ブスコパン・三環系抗うつ薬など)。

最近は心不全・高血圧のがBNP、カテコラミンといった利尿に
関係のあるホルモンを過剰に分泌させ、夜間の頻尿に繋がっている
という報告も見られるようになりました。このことから午後の利尿剤の
投与が夜間の頻尿を改善するという報告があり、考慮に価する
のではないかと思います。
もちろん、その前に輸液量の見直し等も検討すべきです!


夜間排尿回数、利尿薬投与で中央値6回から2回に減少
http://www.m3.com/academy/report/article/120406/?portalId=academy&pageFrom=openAcademy

夜間頻尿の病態と治療について。BNPの話題も
http://medical.radionikkei.jp/premium/entry-156871.html

もうひとつ紹介したいのは、ロキソニンに頻尿を改善する効果が
ある、という事が最近よく報告されています。腎血流量を低下
させ、膀胱容量を増大させることがその作用機序と考えられて
います。70~80%程度で効果があるとのことで、他の治療で
QOLが改善出来ない場合は考慮出来ると思います。
ここでは長くなるので敢えて論文は挙げませんが、
『ロキソニン 頻尿』等で検索すると多数ヒットします。

進行がんの患者様に対する使用経験はありませんが、
自分自身や頻尿でお困りの方に使用して、確かに効果を
感じています。効果の持続時間は5~6時間で屯用でも
効果があります。寝る前に眠剤と一緒に内服して頂くと
良いかもしれません。もちろん、長期内服では副作用も
多い薬剤ですので、総合的に適応を判断すべきだとは
思います。

2012年

2012-01-20 16:54:20 | 日記
なかなかブログの更新、コメントのお返事が出来ないまま、長い時間が過ぎて
しまいました。藁をもすがる思いでサイトを検索するうちにこちらに辿りつき、
コメントを下さった方にも返信が出来ず大変申し訳なく思っています。
時間が空くと更に再開する勇気はなく、ここまで長い間ブログを放置する事に
なってしまいました。

2011年は仕事の面ではそれなりに余裕があったのですが、プライベートでは
色々あり忙しい1年でした。今年も同様に多忙になると思いますが、このままでは
いけないと思い久し振りにブログを見直しました。
大きな事は出来ないかもしれません、また休み休みの更新になることも予想
されますが、何方かの、いくらかのお役に立てることを祈りつつ、
細々と再開させて頂こうと思います。

とにかく、少しずつでも継続していきたいと考えています。

※両方の更新は出来ないと思いますので当面掲示板は閉鎖のままとさせて
頂きます。

『末期がんは手をつくしてはいけない』

2011-04-25 15:54:29 | 日記
本日のタイトルは、既に絶版となった、金重 哲三先生の著書の
タイトルです。m3.comという医師限定のサイトでこの本のPDFファイル
を無料で配布されており、一般の方々にも是非読んで頂きたいと
申し出たところ、快く配布を了承して下さいました。
以下にアクセスして頂き、数十秒待つと『無料ダウンロード』
のボタンが出ますのでクリックしてダウンロードをして下さい。
PDFだと読み辛いという方、amazon等で中古を買う事も出来ます。
(ダウンロード出来なかったら教えて下さい)

http://www.megaupload.com/?d=YDCVFC63

いきなりびっくりするようなタイトルですが、身体が衰弱するにつれ
抗がん剤治療や輸液などの治療の効果が減り、延命をすればするほど
がんが進行し患者様は苦しまれる事になるという医療者の経験が
分かりやすく書かれた本になります。

このような良い本を無償で提供して頂いているのに意見するのは
申し訳ありませんが、金重先生の意見は、少し偏っていると感じる
箇所もあります。

抗がん剤で得られる効果の多くが一時的で限定的であっても、
その期間に患者様が自分のやりたい事が出来たり語家族と過ごす
かけがえのない時間になる事はありますし、
個人的に病気を『受容』し、『なるべく苦しまないで逝く』
という選択をする事が、いかなる場合も最も正しいとは思いません。
毅然と病気に立ち向かい、必要以上の治療を受けない事を
決断出来れば良いとは思いますが、強い方ばかりではないし、
それが出来ないとしても医療者はそのような患者様・御家族の
葛藤を理解して頂き、
「こうあるべき」という御自分の死生観にこだわらず、
共に悩む存在であって欲しいと思います。

しかし、この本に書かれている内容を知って治療を選択する
のと、何も知らずに選択するのでは大きな違いがあります。


切羽詰ってから、この本の内容を読んでも、恐らく消化不良で
終わってしまうでしょう。出来ればなるべく早く、この本を
読んで頂き、終末期の大切なケアを医療者任せにせず、より良い時間を
作り出すパートナーとして共に話し合って頂きたいと思います。

活動報告

2011-03-01 17:24:11 | 日記
一年間、在宅で担当した終末期の患者様を振り返りたいと思います。
お受けした人数は11人。男性4人、女性7人で平均年齢は70.1歳。
原発は乳がん2人、膵臓がん2人、肺がん2人、胃がん1人、肝臓がん1人、
胆嚢がん1人、大腸がん1人、原発不明1人。
このうち在宅での看取りが3人、症状悪化による入院が8人。
入院となった原因は発熱+全身状態悪化が3人、呼吸困難が3人、
家族の介護困難が1人、薬疹が1人。
この中には、御家族のお考え次第で在宅で過ごせた方もおられます。
私が担当してから在宅で過ごせた日数は30.1日。
最長が134日、次いで73日、40日。
短い方では3日が1人、4日が2人、次いで6日という結果でした。
この他、人数には入れていませんが退院して訪問が始まる前に
亡くなった方も2人いらっしゃいました。

最長の方は脚が不自由ですが独歩、通院可、化学療法中の方でした。
その方を除くと平均では20日になります。

患者様と関わらせて頂いた感想としては、もう少し早く紹介して
欲しかった…という想いはあります。訪問看護師さんも同様の事を
おっしゃっていましたが、往診・訪問介護の必要性を御家族が
考えられた時点で、残された時間は考えられているよりもずっと
短くなっている事が多いのです。
もう少し紹介が早ければ、患者様や御家族と深く関わったり、
適切な準備、より良いサポートが出来ると思います。
まして自宅に帰りたいと退院する患者様の事を考えると
もう少し色々な判断が出来たり、話を出来る時期に退院が
出来れば…と思わずにはいられません。

但しこれは医療者側の感覚・意見であって、
患者様や御家族にとっては我々との深い関わりや
良い死の準備が本当に必要なのかどうかは
患者様ごとによく考えてみる必要があります。
次回もう少し考察してみようと想います。

性格と予後

2011-02-22 11:45:44 | 日記
患者さんの性格ががんの予後にどう影響するのか、という事は多くの方に
とって興味深いテーマではないかと思います。このテーマに関する論文も
いくつかありますが、最も信頼出来るものは1999年にLancetに出た論文では
ないかと思います。

Watson M, et al. Influence of psychological response on survival in breast cancer:
a population-based cohort study. Lancet 1999;354:1331-36.

こちらでは、がんに積極的に立ち向かう「ファイティングスピリット」が
乳がんの生存率と関連しなかった、という結果でした。
もちろん、これだけでがんの予後に性格が影響しないとは言えませんが
研究のデザインや対象が578人と比較的多数の前向き研究である点から
他の同様のテーマを扱った論文よりも説得力があります。

さらに興味深いのは、同じ論文の中で、女性の抑うつと孤独感・絶望感が
再発率や生存率に影響した、という結果になっています。具体的には、
「抑うつ」を示した女性では、5年後の致命率(つまり亡くなった患者さんの割合)
が50%で、抑うつのない女性の23%よりも倍以上高く、また、孤独・絶望感の多い
女性の再発率は42%で、それ以外の女性の28%よりも有意に高かった、ということです。

このことから、どうやら患者さんの性格よりも精神状態の方が、病気の状態に大きな
影響がありそうです。経験上、症状に対する影響は更に顕著で、不眠・不安・抑うつは
互いに症状に影響し合い、予後だけでなく痛みや倦怠感、食欲や呼吸困難感などの
全ての症状も悪くします。

性格を変化するのは難しいにしても、孤独や抑うつは色々なアプローチで軽減
し得るのではないでしょうか。