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Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

ナースが聞いた「死ぬ前に語られる後悔」トップ5

2012-02-08 15:46:34 | 日記
数日前からTwitterやFacebook上でこの記事をよく目にします。
オーストラリアで緩和ケアの仕事をしている看護師さんが、
“死の間際の患者様から最も良く聞かれる後悔”を挙げて
おられます。お読みになりましたでしょうか。

http://youpouch.com/2012/02/06/53534/

1. 「自分自身に忠実に生きれば良かった」
2. 「あんなに一生懸命働かなくても良かった」
3. 「もっと自分の気持ちを表す勇気を持てば良かった」
4. 「友人関係を続けていれば良かった」
5. 「自分をもっと幸せにしてあげればよかった」

みんな職場や場合によっては家族のために、
「こうでありたかった」人生とは違う道を歩んできたことを
思い起こして後悔されるのかもしれません。
人の為に生きたことに後悔し、もっと自分自身のために
生きれば良かった、と思うのはちょっと皮肉な気もしますね。

そして、会社や職場での信用、地位や名誉、お金はきっと
一部の人を除き生きる上ではきっと大切で必要なもの
なのだと思います。しかし、死の間際という場では
時とともに去り行くもの、儚いものだと否応なしに
思い知らされるのかもしれません。

これを書いた看護師さんは、少しでも多くの人に後悔のない
人生を歩んでもらいたいという気持ちから記事を書かれた
のではないかと思います。死を想い、日々を生きる事が
出来れば、間違いなく有意義なことだと思います。

しかし、一方で人間はそれを聞いても生き方を変えられない
のが正直なところかもしれませんね。目前の課題・問題に
足掻きながら、一日一日を必死に頑張っている人が大部分
だと思いますし、そしてどんなに頑張っても頑張っても
後悔が残ってしまうのが人生なのかもしれません。

以前にも書いたかもしれませんが、ホスピスで
「私の人生は最高だった。有難う!」とおっしゃって
亡くなった患者様がおられました。
その方は何か特別な人生を歩んで来られた訳ではなかったと
思いますが、後悔ではなく、最高だった、と言えるのは
何が違っていたのでしょうか。

後悔であったか最高であったか。
決めるのはその人自身なのは間違いなさそうです。

在宅緩和ケアのマニュアルが必要

2012-02-07 19:58:05 | 日記
緩和医療学会でガイドラインの作成が行なわれており、疼痛、消化器症状、
鎮静といった内容のガイドラインがサイトからダウンロード出来るように
なっています。出来る限りエビデンスに沿った内容になっており、とも
すると“自己流”になりやすい緩和ケアという分野で、定規のような役割
を果たしてくれていると思います。私もガイドラインに戻って診療を見直す
事にしています。

しかし、在宅をやってみて思ったのは、ガイドラインは全てホスピスや
病院を想定して作成されており、在宅の内容は殆ど含まれていません。
ひとつは、ガイドラインを作成されている先生方が主に病院で活躍されて
いる先生で、残念ながら在宅での御経験が少ないという事もあると思い
ますし、エビデンスなんて殆どない、総合病院の常識ではとても文章化
出来ないような一面を持つことも原因のひとつかもしれません。

しかし、これだけ厚労省が在宅医療を推進しているにも関わらず
在宅緩和医療が伸びない原因のひとつは、在宅向けの緩和医療の良い指針
がない事もひとつの理由ではないかと思います。
保険のシステムも分かりにくいです。

例えば、在宅でサンドスタチンを使いたいと考えたとしましょう。
サンドスタチンは持続皮下注しか保険が通っていません。
皮下注に使えるポンプは高額で、レンタルを取り扱っている業者も
少ない。ディスポーザブルポンプが、サンドスタチンでは使えない
(保険請求出来ない)という事実を、どれだけの家庭医が知っている
でしょうか。高額な薬剤であり、訪問回数の問題を考えると、どれだけ
薬剤をシリンジに詰めたら良いのか…点滴静注では保険が通らないのか、
どこにもヒントはありません。
初めて使用する先生にはとても敷居が高いと思います。

ほかにも、法の整備が出来ておらず、“グレーゾーン”が多い中で
保険で切られるのではないか、法律違反にはならないのか、等の
ストレスの中で多くの医師は選択を迫られています。
知識の浸透もまちまちです。近所で開業されている、緩和ケア領域では
有名な先生とお話した時、「プレペノンは患者宅に保管しても良いのでは」
と明らかに間違った事をおっしゃっていました。
これを聞いて、果たしてどれだけの医師がきちんとした知識で
在宅緩和ケアに携わっているのか…と疑問に思いました。
もちろん、役所に問い合わせても各課をたらい回しにされ、回答が
得られないという経験を何度もしました。

ガイドラインというものは難しいかもしれませんが、在宅でモルヒネを
使用する時に必要な法的な知識、具体的な使用法のヒント・注意など
分かりやすいマニュアルは出来ないものでしょうか。


本:痛は「怒り」である

2012-01-27 13:34:56 | 日記
この本は2002年の4月に初版が出ていますが、少なくとも一部では
かなり反響を呼んだ本です。腰痛の多くは腰そのものにに原因がある訳
ではなく、ストレスなどに起因した心身症により発症する、という内容。
胃腸の調子や喘息などの症状が心因的な影響を大きく受ける、という
事は広く受け入れられた考えですが、実は骨格筋はこれらと同様、
あるいはそれ以上に感情の影響を受けるというのです。
確かに、骨が著しく曲がっているのに痛みがない人もいれば、
画像上大きな問題がないのに強い腰痛に困っている人は多いと思います。
また、骨折の後があっても時期と合わなかったり、実は痛いのは別の場所
である事も結構あるはずです。

この考え方は著者の長谷川 淳史さんのオリジナルではなく、
ニューヨーク大学医学部教授ジョン・E・サーノ博士が提唱した理論を
元にしており、「ヒーリング・バックペイン」という本などに書かれています
(翻訳されています)。

読んでみれば分かりますが自身の経験を踏まえつつ理論的、かつ慎重な
書き方をされており、医師である私が読んでも納得出来る書き方でした。
もちろん、腰痛のメカニズムには不明な点も多く、この考え方だけで改善
するものばかりではない事は間違いないですが…。
例えばAmazonの書籍のレビューを見ても、この本に救われたという人達が
たくさんいる事が分かります。

この本によると、「怒り」という感情は喜びや悲しみと比べて「持つことは恥、
持たない方が良い感情」として抑制されてしまう事が多く、積もった感情が
症状に影響している、というのです。もちろん「怒りを消す」事は簡単では
ありませんが、この本では「怒りを持つ自分」を認めるだけで痛みが軽減する
事があると言うのです。

そんなものは暗示、プラセボだ、という人は必ずいると思います。
しかし、暗示でも良いではありませんか。腰痛で困っている人が暗示で良く
なるのであれば、こんなに良い話はないと思います。
痛み止めと違い、副作用もなければ薬代もかからない。
この本でも述べられていますが、「あなたの腰は曲がっているから治らない」
等という、悪い方向の暗示より余程良いと思います。
ちなみに、この本でも暗示によって人間が命を落とすという実例を挙げ、
暗示の力についても述べています。

がんの疼痛は、ここで言う腰痛のようにはいかないと思います。
私も同列に扱う意味で、ここでこの話をした訳ではありません。
しかし、自分が「怒り」という感情に支配されてはいないか、と省みる
体験は多くの人にとって無駄ではないと思いますし、
これによってもしかしたら気持ちが楽になったり何かが改善するかもしれません。
それと、医師の余命宣告や、良かれと思って発信している
「病状を受け入れなさい」というメッセージが、時に患者様にとって強い負の暗示
にもなり得るという認識を私達は持つ必要があるのではないかと思っています。


セロクエル

2012-01-26 09:17:26 | その他
在宅でひどい昼夜逆転やせん妄に対して、この薬を使用出来る
ようになってから困ることが少なくなりました。
セロクエルは非定型抗精神病薬に分類され、保険適応病名は
「統合失調症」ですが、以下を見て頂くと分かる通り、平成23年
9月より「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」
に対しての使用は保険審査上認められる事になりました。
(セレネース、ルーラン、リスパダールも同様です)

http://www.ajha.or.jp/admininfo/pdf/2011/110928_2.pdf

セロクエルの特長は、セレネース・リスパダール等と比較して
抗幻覚・妄想作用は少なく、反面錐体外路症状の副作用も
とても少ないとされています。そして何と言っても鎮静作用が
強く、不眠に対して強い味方になります。

せん妄は、簡単に言えば「主に体調が悪い時にみられる、半分眠っている
状態」です。治療の基本は、出来るだけ副作用の少ない薬を使って、
「夜眠って頂く」ことなので、セロクエルはその点もってこいの薬です。
昼間の幻覚・妄想に対してセレネースやリスパダールを使うより
ずっと良い結果になると私は感じています
(もちろん、状況により併用が必要な事もあります)。

余談ですが、せん妄に対して抑肝散という漢方を使うのが流行りに
なっているようです。確かに、効くことはあると思いますし、副作用の
少なさから第一選択とする事は私も賛成です。
しかし、内服が非常に大変であるため、終末期のがんの患者様に
限って言えば、気軽に試せる薬とは言えません。
お湯や柑橘系のジュースに溶かすと飲みやすいという事ですが…。

話を戻します。セロクエルも、もちろん夢の薬ではなく副作用にも
気をつける必要があります。まず、糖尿病には禁忌です。
肝機能障害の経験がありますし、25mgでも鎮静が強過ぎて昼間まで
眠ってしまう事もあります。誤嚥・転倒・廃用に注意し、適宜半錠にする
等の対応は必要です。尚、腎機能低下に対し通常減量の必要はなく、
半減期も短いのが特徴です。

皮膚の痒みに対する治療

2012-01-25 08:51:52 | その他
進行がんの患者様に限らず、高齢者では皮膚の痒みに悩む方が
少なくありません。対応としては抗ヒスタミン薬の内服や塗り薬
がよく処方されますが、十分な効果がなく、強い痒みを我慢
しなければいけない場合も多いと思います。医療者を含め
多くの人達も、「痛み」と聞くと一大事だと思いますが、「痒み」
と聞くとそこまで深刻に捉えない場合もあるようです。
しかし、実際は強い痒みは著しくQOLを下げる程辛いものです。

どの症状でも同じですが、まずは原因を検索し、原因に対して
治療を選択するのが基本になります。

最も多い原因は皮膚の乾燥によるものですが、
この原因では、きちんとしたケアをするだけで軽減する場合が
多いです。保湿剤はプロペト(白色ワセリン)がベストですが
ベタベタして嫌がられる方も多いと思います。そこで、
ヒルドイドソフト50g+プロペト25gという具合に2:1で混合すると
使用感・保湿力とも丁度良くなりますので試して下さい。
また、掻いて赤くなってしまった部分については、痒みを増すので
そこだけステロイドの軟膏をつけると数日で良くなります。
レスタミン等(抗ヒスタミン薬)の軟膏も良いですが効果が
長続きせず、乾くと新たな痒みの原因にもなるそうですので、
プロペトと混合したり、レスタミンの上から保湿剤を使うのが
良いそうです。

軟膏類の工夫でも痒みが十分に取れない場合は抗ヒスタミン薬の
内服を考えます。眠気が出るものが多いので、患者様がそれを
臨む時を除いてアレグラ等の眠気が出ず、薬物相互作用の少ない
ものが良いと思います。経験的にアレグラでも結構効きます。
亜鉛を含んだ薬が良いと知り、プロマックを使用したところ
割合に良い効果を経験します。しかし効果出現まで2週間程度は
かかる印象で、錠剤の内服が増えるのが辛い患者様には向かない
かもしれません。

黄疸による痒みについては、パキシルが著効する場合がある事を
以前記事に書きました。本来パキシルは重症の肝機能障害には
禁忌ですが、閉塞性黄疸や上記を理解した上で他の方法では緩和
出来ない強い痛みでは考慮しても良いのではないかと思います。
また、リファンピシンも黄疸による痒みに有効という報告も
あります。

過去記事
http://blog.livedoor.jp/kotaroworld/archives/50952092.html

黄疸の痒みに対するパキシルの使用についての論文
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/1/2/317/_pdf/-char/ja/

モルヒネでも強い痒みが出ることがあります。
これも上記の記事に書きましたがゾフランやディプリバンが有効
な場合があるそうです。ホスピス以外では適応症の問題で使用
出来そうにありませんが…。
【追記】ただ、モルヒネの場合痒みには耐性が出来てくる
という報告も多いです。

ゾフランやディプリバンよりはもう少し現実的なアイディアと
して、私が期待しているのはレミッチという薬です。
痒みがオピオイド受容体の中のμ受容体に関係している事が
分かっていますが、これは完全なκ受容体の作動薬です。
何故κ受容体作動薬が痒みに効くの?という方は、下に
示したPDFファイルを読んでみて下さい。良く分かると思います。

2009年に既に発売になっていますが、適応症が
「血液透析患者の掻痒」となっているので一般低には使用
出来ない状況です。理屈からすれば他の痒みでも効果がある
はずで、現在肝機能障害とアトピー性皮膚炎に適応拡大を
検討しているところだと聞いています。
ホスピスでは使用出来ますね。

http://www.remitch.jp/material/file/di_rmt.pdf#search

痒みで本当に困っている人達の福音となる可能性がありますが
一方で薬の性質上オピオイドとの併用による効果・副作用の
問題などは(大丈夫だと思いますが)未知数です。