恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

茶倉譲二 続編第五話~その3

2015-10-08 08:02:22 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆

茶倉譲二 続編第五話~その3

〈譲二〉

店の後片づけをしていると百花ちゃんに声をかけられた。


百花「譲二さん、どうぞ」

譲二「え?」

百花「今日は私が作ってみました」


ニコニコしながら手に持っているのはココアだ。

しかもほんのりとラム酒の匂いが漂っている。


譲二「あ、ラム酒ココア…」

百花「私、どんなことがあっても譲二さんが作ってくれるココアを飲むと落ち着くんです」

百花「譲二さんも、そうだったらいいなって思って」


百花ちゃんの気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになった。

確かに…余裕の無かった気持ちがココアを飲むことで安らいでいく。


譲二「百花ちゃん、ココアを淹れるのも上手になったね」

百花「本当ですか? じゃあ、譲二さんが飲みたいときは、譲二さんのためにたくさん淹れます!」

譲二「ハハッ! 張り切ってるなぁ」

百花「だって…」


百花ちゃんは俺のために出来ることはこれくらいしか無いという。

だから、早く大人になりたいと。


そんなに焦らなくてもいいのに……。


俺のために何かしたいのにココアを淹れるくらいしかできることがないと、少し悲しそうな百花ちゃんを元気づけたくて、俺は昔話を始めた。


☆☆☆☆☆


まだ幼稚園の百花ちゃんと中学生の俺が出会った頃。

このクロフネは『黒船』という名前の喫茶店だった。


百花「漢字、だったんですか?」

譲二「うん。百花ちゃんが覚えてないのはそのせいじゃないかな?」


何気なく立ち寄った黒船。

その当時のマスターと俺は意気投合した。

マスターはすごく気のいい人で、俺の話を黙って聞いてくれた。

いつも、誰に対しても尖ってた俺だが、そのマスターには素直に自分のことを話すことができた。


譲二「それから、たまに相談に乗ってもらうようになったんだ」

百花「そうだったんですか…」


それから何年か、この吉祥寺に通った。

この店で、マスターと歴史の話をするのは楽しかった。

コーヒーの淹れ方や黒船で出す軽食の作り方も教えてもらって、店を手伝うのも楽しみだった。

途中で引っ越していった百花ちゃんがいなくなったのは寂しかったけど、メル友だった百花ちゃんのお母さんとは連絡をとっていた。

だから、大きくなっていく百花ちゃんのこともなんとなくは知っていた。

そんな日々が続き、俺はなんだかんだ言ってても『親の敷いたレール』ってやつに沿って生きてた。

そして、茶堂院グループの経営にそろそろ関わらなきゃならない時に、黒船のマスターが亡くなった。

マスターには跡継ぎの話もなくて、黒船はそのまま閉店することになった。


百花「だから、譲二さんがマスターに?」

譲二「ちゃんと…人のために行動したかったんだと思う」

譲二「今思えば、エゴでしかないんだろうけど…俺だって自分ひとりで誰かの役に立てるってことを証明したかった」


言い訳にはなるが、この店は、商店街の人の憩いの場だったし、最近はこういうレトロな喫茶店もなくなってきてたから、なんとかして残したい。

そう思ってきたけど……。


この前から心に浮かんでいた言葉を声に出して言った。


譲二「本当は、茶堂院グループの跡継ぎって立場から逃げ出したかっただけなのかも…」

百花「だけど…譲二さんは、逃げ出したわけじゃないと思います」

譲二「そうかな…」

百花「だって、自分の意思でお店を継いだんだから…誰かに言われたわけじゃないですよね」

譲二「そうなんだけど…難しいね、こういうのは」


店を継いでから、ずっとこの店をやって行こうって思っていたけど、まさかじいさんが入院するなんて思っていなかった。

俺に取ってのじいさんは、いつまでも元気で強い、茶堂院グループそのものと言ってもいい人だった。

そんな人も年取って弱っていくのだ。

そんな当たり前のことを突きつけられて、俺の心は揺れている。


その4へつづく



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