恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

真夏の夜の夢

2015-07-30 08:17:50 | もしもの話

◎おわび


昨日手違いで『またまた始まった…若い子との暮らし~その4』『またまた始まった…若い子との暮らし~その5』を同日の一時間違いでupしてしまいました。
そのお詫びもかねて、今日は私の妄想話をupします。


☆☆☆☆☆

今年の総選挙ストーリーのお題は「もしも彼に一年に一度しか会えなかったら」だった。

そこで、私も一月に一度(一年じゃないけど;^_^A)しか、譲二さんに会えないシュチュエーションを考えてみた。



悪い魔女に呪いをかけられて(^^;)月の光に姿を変えられてしまった譲二さん…。

月の光が一番強くなる満月の夜にしか、姿を現わすことができない。



明日、7月31日が満月です。

晴れるといいな…。

☆☆☆☆☆


「譲二さん…」

そっと呟く。

窓を開けると真夏の風が微かに入ってくる。


この前の満月の夜は梅雨のさなかで、どんよりとした雲と、しとしと降る雨に遮られて、ひとすじの光も目にすることはできなかった…。


今日は…。台風が近づいているということで気を揉んだが、流れるような雲の合間に空が見えている。

日が沈むのとほぼ同時に、東の空から昇った月は時々薄雲に遮られながらも私を覗き込むように輝いている。


(早く…譲二さん、現れて…)


そう、心の中で強く念じた時だった。


「玉の緒ちゃん…」


後ろから懐かしい声がした。

振り返ると、隣りの窓から差し込む月明かりに照らされた譲二さんが立っていた。


「‼︎」


声を上げることもできないまま、譲二さんに駆け寄った。

抱きつきたいけど、あまりの懐かしさにそっと顔を見上げる。

二カ月前と同じ、優しい瞳がそこにあった。


「俺に触れてはくれないの?」


その言葉を聞いた瞬間、譲二さんを抱きしめる。


「譲二さん、会いたかった」

「俺も」


腕を回しても両指の先は触れる程度だ。

厚い胸板に顔を埋めて譲二さんの匂いを嗅ぐ。

幻じゃない、本物の譲二さんだ。

そして、大きな譲二さんの腕が私を抱きしめていてくれる。


「寂しかった…」

「うん…」

「先月は会えなかったし…」

「うん…。でも、俺はいつも玉の緒ちゃんの側にいたよ」

「うそ…!」

「玉の緒ちゃんに触れることはできなかったけど、いつも側にいて、玉の緒ちゃんのことを感じてた」

「ほんとに?」

「ああ、いつも俺のことを考えて、時々俺の名前を呼んでくれたね」


見上げると優しく微笑んでくれた。


「ずっとこうしたかった」


私の顎を持ち上げると、包み込むように優しく口付けた。



☆☆☆☆☆

一夜は短い。

五感すべてで彼を感じたくて、彼の胸にすがってずっと過ごした。

部屋は月明かりで明るい。


しかし、時々雲が月を遮るように動くと、部屋は薄闇に包まれる。

その度に譲二さんの身体は透けて、私の手が突き抜けそうになる。


そんな時、私は祈った。

(まだ消えないで…)

私の気持ちが伝わるのか、譲二さんは私の身体に優しく口付けていった。

『まだ消えないよ』とでも言うように。





月が西に傾いてきた。

東の空は少し薄い色になっている。


「そろそろ行かないと…」

(いや…)

「そんな顔しないで」

「だって…」

「さっきも言ったけど、俺はいつも玉の緒ちゃんの側にいるから」

「うん…」

「姿は見えなくてもいつも一緒だよ」


軽い触れるだけのキス…。

さっきよりも譲二さんの姿は薄くなった気がする。


「次も会えるよね?」


譲二さんが微笑む。


「来月になれば、もう少し夜の時間が長くなるから、もっと長く一緒にいられるよ…」

「ほんと?」

「きっと…」


安心させるように譲二さんの大きな手が私の手を握る。

でもそれは今にも消えてしまいそうに頼りない。



「それまで待ってる」

「うん…」

「ずっと待ってるから」

「…」


譲二さんが何か言った。



しかし、その声は聞き取れない。


「え…?」


譲二さんはまた何か言って微笑んだ。


もう半分くらい透けて、壁が見えている。


「行かないで…」


優しい笑顔だけが最後まで残って……。


あとは名残の月明かりが部屋に影を落とした。

 


『真夏の夜の夢』おわり



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