恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

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焦燥~その1~その4

2014-12-11 08:05:26 | ハル君ルートで茶倉譲二

ハルルートの譲二さんの話の続編
ヒロインはハルくんと結婚し、幸せに暮らしているはずなのに、なぜか時々譲二さんを訪ねてくる。ヒロインのことを一生思っているから、こういう関係はもう止めようと告げる譲二さん。
しかし、クロフネでヒロインと抱き合っている姿をハルくんたち三人に目撃されてしまった。
☆☆☆☆☆

秘め事~その6~その9の続き



焦燥~その1

〈譲二〉
 美緒と抱き合っている姿を春樹たちに見られてから、2ヶ月が経った。

 あれから美緒とは一度も会っていない。

 メールでもしたいと思うが、そんな危険なことはできない。

 一護たちはあれから2、3週間に一度のペースでクロフネに集まっている。

 春樹も2、3回は来た。

 そして、みんなの前では何事もなかったように振る舞っていた。

 春樹と一緒に美緒が来ることはなかったが、そのことについて春樹の前では不自然なほどに話題には出なかった。


☆☆☆☆☆

 今日もタケとりっちゃん、リュウが来ている。

譲二「一護たちも来るのか?」

剛史「ああ、もうすぐ来るんじゃないかな。ハルはわからないけど」

理人「マスター、美緒ちゃんとは本当のところどうなの?」

譲二「どうって…、前に説明した通りだよ。」

理人「でも、あれから美緒ちゃんはクロフネに来なくなったよね。」

譲二「ハルが俺のことを疑ってるから、もうここには来ささないだけだろ」

理人「昼間にも来てないの?」

譲二「ああ、来てない。りっちゃんは美緒ちゃんと連絡を取り合っているんじゃないのか?」

理人「それが…あれからメールをしても返事が来ないんだよね。電話をかけても取ってもらえないし…」


 俺は驚いた。美緒は理人とは女友達のように頻繁にメールのやり取りをしていたはずだったからだ。


譲二「りっちゃんが知らないなら、美緒ちゃんがどうしているのか知る手だてはないな…」

理人「僕も心配になって、ハル君に聞いてみたんだよね。
でも、ハル君は『美緒は元気にしてるよ』としか言ってくれないし、それ以上聞こうとしたらちょっと睨まれて、まるで僕が美緒ちゃんを狙っているような顔をされたんだよね。」

剛史「ハルもこの頃少しおかしくないか?」

竜蔵「おかしいってどこが?」

剛史「なんか余裕がないっていうか…、一護が一番仲がいいからアイツに聞いた方がいいかもな」



〈美緒〉

 午後のけだるい時間、部屋には私の喘ぎ声だけが響いている。

 お昼休みに帰ってきたハル君に抱かれている。

 ハル君も私も服を着たままだ。

 いつもと違って変な感じがして、すごく感じてしまう。
 
 果てた後、ハル君は優しくキスをしてくれた。

春樹「ごめんね。逸ってしまって…」

美緒「ううん。とても感じちゃった…」

 ハル君は大切なものを扱うようにもう一度キスしてくれた。

春樹「今日もなるべく早く仕事を終わらせて、夕方には帰ってくるから」

美緒「無理しないでね。」

春樹「あ、見送らなくてもいいよ。疲れただろ?」

 けだるい体を横たえたままの私を残して、ハル君は仕事に戻っていった。


☆☆☆☆☆

 譲二さんに抱きしめられた姿をハル君に目撃されてから、ハル君は私を家になるべく閉じ込めておくようになった。

 携帯も取り上げられて、ハル君が管理している。

 結婚してからは、譲二さんと特にメールのやり取りはしていなかったから、たとえ調べても何も出て来なかったろう。

 それで疑いを解いてくれたかどうかはわからないけど、ハル君は仕事から早く帰って来るようになった。

 そして、夕食を食べ一緒にお風呂に入り、私をゆっくりと抱く。

 昼食もほとんど毎日家に戻って食べる。

 そして今日のように時々は昼にも私を抱く。

 大好きなハル君に抱かれるのは私にとってうれしいことだから、何も不満はなかった。

 前のような気持ちの落ち込みもなく、ハル君を家で待つだけの生活が続いている。

 そして、携帯はハル君の携帯と事務所の電話番号しか入っていないものを新しく渡された。

 アドレスももちろんハル君しか入っていない。

 ハル君からはまめにメールが入って来るからそれでよかった。


☆☆☆☆☆

 ゆっくりと起き上がって服の乱れをなおした。

 あれから譲二さんとは会ってはいない。

 りっちゃんたちにも会っていない。

 2日に1度はりっちゃんとメールをし合っていたのにりっちゃんは心配しているだろう。

 譲二さんは…。

 譲二さんもきっと心配しているよね。

 最後に会ったときの譲二さんの言葉を思い出す。

譲二『俺は美緒ちゃんのことを一生好きでいると言ったろ?』

譲二『7年ぶりに美緒ちゃんに会った時、俺は一目で美緒ちゃんの虜になった。
だから、今でも…そしてずっとこれからも俺は美緒ちゃんのものだと思ってくれていいよ。』

 (譲二さん…)

 私は結局、譲二さんを傷つけて苦しめるだけの女なのだろうか?

 あんなに思ってくれている譲二さんを捨てて、ハル君と一緒になった。

 そして、今も自分だけハル君に愛されて…譲二さんを捨てようとしている。

 譲二さんの心は縛り付けたまま…。

(譲二さん、ごめんなさい)


☆☆☆☆☆

焦燥~その2

〈譲二〉
 ハルたちのことを一護に聞いてみた。

一護「ハルは俺のことも少し警戒しているみたいなんだ。
とにかく、美緒を囲い込んで、家からあまり出さないようにしているらしい。
昼飯も食べに帰ってるみたいだし、夕方もなるべく仕事を切り上げて家で過ごしているみたいだ。」

譲二「そうか…」

一護「あ、それと美緒の携帯、取り上げてハルが持っているみたいだぜ」

譲二「そうなのか?」

一護「理人がメールしても返事がないだろ? そういうことらしい」


 春樹に家に閉じ込められたままだという美緒のことを考えた。

(まさか、ハルに虐待されているということはないよな…。ハルのことだから、いくらなんでもそれはないだろう)

 きっと、他の男から守るために囲い込んで、愛しているのだろう…。

 そして、それは美緒の一番望んでいたことでもあるはずだ…。

 だから、美緒のために喜んでやるべきなのだ。

 それなのに…、この心の苦しさはなんなんだろう。

(『美緒ちゃんが幸せになるのが一番』だなんて偉そうなことを言ったくせに…)

 美緒と抱き合っているところを春樹に目撃されたとき、このまま2人が別れてしまえばいいと密かに思っていたのじゃないか?

 そうしたら、美緒を取り戻すことができる…と。

 でもそれがかないそうもないから、こんなに苦しんでいるのかもしれない。


〈美緒〉
 ハル君の好きなメニューの下ごしらえをした後、ぬるめのお風呂を沸かしてパックをしながらゆっくり入る。

 お風呂の後はスキンケアをして、眉を整え、ハル君のために薄化粧をする。

 ハル君が帰ってきた時、一番奇麗な私を見てもらいたいから。

 時計を見ながら、夕食の準備を始めた。

 お風呂の温度も少し上げておこう。

 ハル君のために。


〈春樹〉
 美緒と譲二さんが抱き合っているのを目撃して、俺は反省した。

 自分では美緒をちゃんと相手してやっていると思っていたが、仕事にかまけて向き合っていなかったのかもしれない。

 美緒を失うのは耐えられない。

 だから、美緒を家に閉じ込め、俺だけが相手するようにした。

 昼も家に帰り、夕方も仕事を早く終わらせ、美緒の相手をする。

 美緒の今までの携帯は取り上げ、アドレスに俺しか載っていないものを渡した。

 美緒の携帯を調べたが、特に譲二さんとメールのやり取りをしていたわけでは無いようで少し安心した。

 譲二さんが言ったように本当に慰めていただけなのかもしれない。

 それでも譲二さんが美緒のことを未だに好きなのは(本人が以前言ったような妹としてでなく)間違いないと確信していた。

 だから、2人を絶対に会わせてはならない。

 美緒を愛することでいっぱいいっぱいな俺と違って、大人の余裕で美緒をかっさらって行きそうな恐ろしさを譲二さんには感じる。

(俺は…未だに高校時代のことを根に持っているんだろう)

 俺が一番愛する女性、それも俺を好きでいてくれた女性を既成事実を作ることで奪って行った譲二さん。

 あの時の驚きと屈辱、悲しみを忘れることは一生ないだろう。

 例え、今美緒が俺のものだという事実があったとしても。


譲二〉
 俺は苦しみながらも、以前とは違っていた。

 以前であれば、この焦燥から逃れるために酒に溺れていただろう。

 しかし、今は敢えて酒を飲まないようにしている。

 これからどうするべきか、しらふの頭で考えたかったからだ。

 もう既に地獄のような苦しみは何度も経験した。美緒に会えず、美緒が他人の妻である状態、これ以上辛いことはないだろう。

 だから、俺はもう何も恐れることは無いはずだった。

 ハルから美緒を奪って恋人にしていた時代の方が「いつ美緒を失うか」と絶えず恐れていたのだから…。


☆☆☆☆☆

焦燥~その3

〈美緒〉

携帯が鳴る。

ハル君からだ。

急いで取ると、優しいハル君の声がした。

春樹「美緒?」

美緒「うん。なあに?」

春樹「悪い。夕方には帰るつもりだったのに急な仕事が入って少し遅くなりそうなんだ…。ごめんね」

美緒「夕食は家で食べるんでしょ?」

春樹「ああ、どんなに遅くなっても帰ってから食べるから…。美緒は先に食べておいてね。遅くなったら、先に寝てくれていいよ」

美緒「ううん。起きて待ってる。ハル君の顔を見てから眠りたいから…」

春樹「…。無理しちゃだめだよ。それと戸締りはしっかりしてね。愛してるよ、美緒」

美緒「私も愛してる」


 電話が切れた。

 楽しい気持ちが急に寒々としたものになる。

 既にセッティングされたテーブルの上を見た。

(私もハル君が帰って来てから一緒に食べることにしよう)



 じりじりと時計を眺めるだけの時間が過ぎて行く。

 すでに10時を過ぎてしまった。

 メールの着信音。

 急いで確認した。

『ごめんね

美緒、ごめんね。どうしても今日中には帰れそうも無い。
だから、やっぱり先に寝ていて。
どんなに遅くなっても家には帰るから。

             愛しているよ  春樹』



 堪えていた涙が次から次へと溢れて来る。

(バカだ、私。ハル君は浮気をしたわけでも何でもないのに…。

大変なお仕事が入っただけで、それもちゃんと報告してくれる。

明日には会えるし、ハル君が私のものだということには変わりはないのに…。)

 それでも、どうしても1人でいるのに耐えられなくなって、携帯を取り、数字を打つ。

 昔からよく知っている、そらで覚えている番号。

 クロフネの電話番号。



☆☆☆☆☆

焦燥~その4

譲二〉
 珍しく夜の10時過ぎに電話が鳴る。

 それもクロフネの方の電話だ。なかなか鳴り止まない。

 いぶかしく思いながら、階下へ降り受話器をとった。

譲二「もしもし?」

???「…」

 すすり泣くような声が聞こえる。

譲二「もしもし?」

???「…」

譲二「…もしかして…。美緒ちゃん?」

美緒「…うっ、うん…」

譲二「いったいどうしたの? こんな時間に…」

美緒「…譲二さん…」

譲二「ハルと喧嘩でもしたの?」

美緒「…ううん…」

譲二「じゃあ…。ハルの仕事が忙しくてひとりぼっちなのかな?」

美緒「…うん」

譲二「ハルから連絡はないの?」

美緒「…ううん。夕方に『遅くなる』って電話があって。さっきメールで『今日中には帰れない』って」

譲二「そっか…。それで寂しくなって俺に電話してくれたんだね…」

美緒「うん」

 美緒はまるで幼い子供に戻ったようだった。

 昔、公園のタコの滑り台の中で、雷に怯えて俺にすがりついた小さな女の子を懐かしく思い出した。

譲二「それじゃあ…。しばらくこうして話をしていよう。もう1人じゃないから大丈夫だよ」

美緒「うん」

譲二「あれから…。美緒ちゃんに会えなかったから心配していたんだ。
りっちゃんに聞いても様子がわからないし、一護が『ハルに家に閉じ込められているらしい』とだけ教えてくれた。
…元気にしていた?」

美緒「うん。元気だったよ」

譲二「それならよかった。ハルも大事にしてくれているんだろ?」

美緒「うん。とても…大事にしてくれてるよ…」

 また嗚咽が聞こえる。

譲二「ちょ…、美緒ちゃん? 大丈夫?」

美緒「…ごめんなさい。
私…、あれからハル君に大切にされて幸せに暮らしていたのに、ちょっとハル君の帰りが遅くなっただけで取り乱してしまって…」

譲二「…美緒は気持ちが不安定になっているから仕方が無いよ。
それは前から分かってた。
俺のところへ来たり、こんな風に電話をしてくれる時には、美緒の気持ちが不安で揺れているんだなって…、俺には分かるから」

美緒「ごめんなさい。譲二さんにはいつも慰めてもらって…。
私は譲二さんに何もしてあげられないのに…」

譲二「そんなことないよ。美緒ちゃんの顔を見たり、声を聞いたり、それだけで俺は元気がでるから。
今だって美緒ちゃんに電話をかけてもらって、すごく嬉しいと思ってる。」

美緒「譲二さん…」

譲二「だからね。こんな風に相談に乗るだけだったら、いつでも電話して来てくれていいんだよ。
もちろんクロフネの営業中は長電話はできないと思うけど…。
それでも俺の声を聞きたくなったら、電話をかけてくれていいよ」

美緒「譲二さん、ありがとう。」

譲二「少し落ち着いた?」

美緒「はい」

譲二「よかった。いつもの美緒ちゃんに戻ったみたいだ。」

美緒「ふふふっ」

譲二「ああ、今どんな可愛い顔で笑ったか目に浮かぶよ…。」

美緒「そんな…、可愛い顔だなんて…。私もう28ですよ」

譲二「十分可愛いよ。年なんか関係ない。美緒ちゃんは美緒ちゃんだ」

 ああ、いつまでもこんな風におしゃべりしていたい…。しかし…、

譲二「もう落ち着いたならそろそろ電話を切るよ?」

美緒「え? でも…」

譲二「『でも』じゃないよ。人妻が他の男に電話していい時間帯じゃないだろ?」

美緒「うん…」

譲二「ハルだって仕事が予定より早く終われば直ぐにでも帰って来るよ?
ハルが帰って来た時、俺と電話していたらまずいでしょ?」

美緒「わかった…」

譲二「通話履歴はちゃんと消しておくんだよ? わかった?」

美緒「うん」

譲二「じゃあね。おやすみ」

美緒「おやすみなさい」

 受話器を置いてホッとした。

(よかった。少なくともハルに大切にされていることは分かった。)

 それにしても、美緒の精神がいかに脆弱なバランスの上に保たれているのかが伺われた。

ハルがいつも通りの時間に帰って来れなくなっただけで、あんなに取り乱すとは…。

 ああ、美緒。諦めようとしてもやっぱり思いが募る。

 久しぶりに声を聞いて嬉しくてたまらない。

(酒断ちをしていて正解だったな…)

 以前のように深酒をしていたら、泣きじゃくる美緒を攫いに家までいったところだろう。

 そうしたら、俺はいいとしても美緒を傷つけることになる。

 美緒はハルから逃れたいわけではないのだから…。

 ああ、でも今はまた酒が飲みたい…。

 うん、今日くらいはいいだろう。

 美緒の写真を肴に、浴びるほどではなく…適量なら。

焦燥~その5~その7
へつづく