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トニー滝谷、孤独系男子

2009-07-28 | 映画
私は子供の頃から寝つきが良くなかった。

「寝つきの良し悪し」というのは、人生に於いてとても重要な要素だと思う。
不眠症のメジャーリーガーとか改革派首長…とかはどうも考えにくい。
そんな大それた存在になる前に、(少なくともその道では)淘汰されてしまうだろうからだ。
いや、私はもちろんそんな「大それたもの」になろうと思ったことはありませんが…。


横になるとすぐに寝息を立ててしまう人に対して、私は羨望とも驚嘆ともつかぬ感情をずっと抱いている。
前に勤めていた障害者施設の所長がそうだった。
仕事でホテルの同じ部屋に二晩続けて泊ったことがあったが、二日とも、
「おやすみ」
と言った三十秒後には大イビキを掻いていたのだ。ふだんから、
「ボクはどこでも寝れるんだ」
と言っていたけど、これほどとは…と、半ば呆れた。私は彼が寝た後でテレビを消しバスルームの電気を消し部屋の豆電球も消した。そして耳栓をしてから寝付くまでに、たっぷり一時間以上はかかった。


今日、レンタル屋で『トニー滝谷』のDVDを借りてきた。
前から、原作村上春樹・監督市川準という組合せが気になってはいたのだ。でも、この二人だと都会的で洒落てるけれどグッとはこないかなア…という気がして、今イチ踏ん切りがつかないでいた。
フト上映時間を読むと「76分」とあって、これが私の今日の気分にあったのだ。
ここしばらく寝つきが悪くて、重たいものは観たくなかったから。


主演はイッセー尾形と宮沢りえだが、ほとんどこの二人しか出てこない映画だった。

イッセー尾形演じるトニー滝谷は商業デザイナーである。ハーフみたいな名前だけれど生粋の日本人だ。
太平洋戦争終戦後すぐに彼は生まれたのだが、気の毒なことに彼の母親もしばらくして亡くなった。
彼の父親を気の毒に思った進駐軍の少尉は、励ますつもりもあり、
「君の息子には私の名前、トニーを付けて良いゾ」
と言った。すると彼の父親は、
「トニー滝谷。なかなか良い名前じゃないか。これからはアメリカ中心の時代が来るし」
と考え、本当に息子を「トニー滝谷」と名付けた…。

そんなバカなことあるかよ…と書いていて私も思うが、つまりこれは寓話なのである。私は原作は読んでないが、村上春樹のあの文体でこの設定だと、普通なら実写映画にはしにくいと思う。でもそこのところ、市川準はアザトくはないスタイリッシュな演出で、うまく村上春樹ワールドと実写映画としてのリアリティを両立させている。



トニー滝谷は美術系大学を出た後、商業デザイナーになった。
彼は芸術には全く興味もなく理解もできなかったが、カメラやクルマなどの「機械モノ」の構造を偏愛し、それを微細に描写することができた。その腕を最大限に生かして、売れっ子のデザイナーになったのだ。

しかし、トニー滝谷は孤独だった。
彼にヘンテコな名前を付けた父親は、ジャズバンドマン兼マスターとして彼が子供のころから不在勝ちだった。他に兄弟もいない彼は、ほとんど一人で育ったのである。
こういった環境で育つと、過剰に人恋しいタイプか自分の世界に没頭するタイプになることが多いが、トニー滝谷は後者だった。

四十過ぎて、トニー滝谷は恋をした。それが宮沢りえで(役名忘れました)、彼女はトニーの原稿を取りに来るのだから、恐らく広告代理店の社員か何かである。
彼はことに彼女の服の着こなしに魅了され(「風をまとってるような」というセリフがある)、十五歳も離れている宮沢りえに求婚した。
すると…彼女は承諾したのである!
しかし、やがて彼女にも事情があることがわかる。彼女は病的な買物依存症、ことに強迫的な「被服・靴購入中毒者」だったのだ。
そしてトニーの妻は気に入ったブランド物を片っ端から買い求め始めた…。


ここからまた話は二転、三転するが、これからこの映画を観るかも知れない人のために、ここで止めます。

『トニー滝谷』は、観終わってからジワジワと効いてくる映画だった。
イッセー尾形がとても良い。こういう寓話の主人公を本職の俳優が演じたら、クサクて白けてしまうかもしれない。イッセー尾形は役者としても上手いけれど、一人芝居のボードビリアンとしての「泣き笑い」資質が、この役にぴったりだと思う。
宮沢りえは綺麗だけど華奢過ぎて、観ている間はあまり魅力を感じなかった。でもあの体型からくる「はかなさ」が、この作品宇宙には必要だったんだ…と後で気付きました。

そして、本当の主人公は「孤独」だと思う。

まあ、「長屋付き合い」を提唱する身としては、こういう世界を持ち上げるのはちょっと気恥ずかしいけどね。


今夜も、ホッピー君と焼酎オヤジとお友だちになってしまった。あとは赤ワインちゃんともときどきデートしたいナ。

では、ご退屈さま。おやすみなさい。



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