中国は、2023年8月24日、日本政府が、東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出することを決定したことを理由に、日本産水産物の全面輸入禁止に踏み切った。この中国の対応に付いて日本国内では強い反発を招いた。日本政府は直ちに全面撤廃を要求した。その様子は、2023年8月25日、NHKが『中国 日本の水産物輸入全面停止「即時撤廃求める」西村経産相』とするニュースを配信している。
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東京電力福島第一原発にたまる処理水の放出をめぐって、中国が日本産の水産物の輸入を全面的に停止すると発表したことについて、西村経済産業大臣は、「根拠のない規制などの即時撤廃を強く求めていく」と述べ、輸入規制の即時撤廃を求めていく考えを強調しました。
東京電力福島第一原発にたまる処理水を薄めたうえで海への放出が始まったことを受けて、中国の税関当局は24日、日本を原産地とする水産物の輸入を全面的に停止すると発表しました。
これについて西村経済産業大臣は、25日の閣議のあとの記者会見で「中国政府による決定はわが国として断じて受け入れられるものではない」と述べ、中国側の対応を批判しました。
そのうえで、西村大臣は「きょう夕方から、きのう、採取した水質のデータも出てくるので、そうしたデータを毎日公表していく。われわれは科学的根拠に基づいて行動しているので、根拠のない規制などの即時撤廃を政府一丸となって強く求めていく」と述べ、中国に対して輸入規制の即時撤廃を求めていく考えを強調しました。
これについて西村経済産業大臣は、25日の閣議のあとの記者会見で「中国政府による決定はわが国として断じて受け入れられるものではない」と述べ、中国側の対応を批判しました。
そのうえで、西村大臣は「きょう夕方から、きのう、採取した水質のデータも出てくるので、そうしたデータを毎日公表していく。われわれは科学的根拠に基づいて行動しているので、根拠のない規制などの即時撤廃を政府一丸となって強く求めていく」と述べ、中国に対して輸入規制の即時撤廃を求めていく考えを強調しました。
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一見したところ、日本政府の主張が正しいように見える。ところで、よく考えてみて頂きたい。日本政府は、2022年末に新たな安全保障政策を策定している。いわゆる「防衛三文書」(「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」)である。そのうちの一つ「国家安全保障戦略」は国家戦略を確定する最も重要な文書である。
同文書の中で「自由、民主主義、基本的人権、法の支配等の普遍的価値や国際法に基づく国際秩序を擁護。特にインド太平洋地域で自由で開かれた国際秩序を維持・発展。」と、日本の安全保障は、インド太平洋地域で国際秩序を維持発展させるために軍事力行使もありうると言い出した。
さらに「国家防衛戦略」で、日本政府は、日本の仮想敵国が中国、北朝鮮、ロシアであると宣言した。そして、日本は、この三国に対して、防衛体制の強化、日米同盟による抑止及び対処力(アメリカの核と打撃力)、同志国連携(朝鮮派遣国連軍の枠組み)により「国民の命と平和な暮らし、そして、我が国の領土・領空・領海を断固として守り抜く」ことにした。その費用として2023年から2027年の四年間で四三兆円を充てることにした。
つまり、日本は中国を敵国と認定し、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配」という日本と共通の価値を有する台湾が中国による侵攻を受けた場合に、日本としても国際秩序を維持する目的で台湾防衛に協力することにした。
ところで、日本と中国は、1972年9月に日中共同声明で、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」を声明して国交樹立した。その結果、日本政府は、台湾を統治する中華民国とは国交を断絶することとなった。然るに、日本は国交のない台湾が有事になった場合に、国際秩序を維持する目的でアメリカ軍と共同して正式な国交のある国の紛争に介入すると言い出したのだ。言い出しただけではなく反撃兵器まで準備を開始したのだ。日本と中国の間に問題がある場合は、外交により解決することを約束しあっているにも拘らず、武力行使を前提に問題解決に当ろうとしているのだ。日本政府の大失策なのである。さらに悪いことに日本の安全保障は、日米安保条約を敵対する国に対する抑止と対処能力としてきた。ところが、アメリカは、既に中国と妥協が成立し、台湾有事には介入しないことになってしまった。
それまで、日本政府は、横暴な中国を懲らしめてやるという安全保障政策を策定し、やる気満々でいたところ、当のアメリカは、既に影も形も見えないほど日本外交方針から距離を置いてしまった。
間抜けな日本政府である。
中国政府は、米中が直接対決をすることを避けることに成功したことから、いきり立って、こぶしを振り上げる日本政府に「本当にやるのか!」と一瞥して放った一矢が「日本の水産物輸入全面停止」なのである。現代戦は、総合戦である。敵対する相手国の経済を破壊することも、ある意味で当たり前である。
日本政府は、中国を仮想敵国としたことの影響を何ら考慮していなかったのである。そのため狼狽し、自由民主党の長老を中国に派遣するとまで言いだす始末となった。
なんと幼稚な安全保障政策であることか。
日露戦争開戦前の日本政府は、米の買い付けを専門業者に任せないで密かに買い集めたり、お札を増刷するため輪転機を購入したりと、諸事万端抜かりなく準備をしたものであるが、今次の中国の一矢は、想定外だったのである。
それを「日本の水産物輸入全面停止」は中国の言いがかりであり「虐めである」などと、政府関係者が言えば言うほど、無能であることを言いふらしているだけである。
この状態を回避する方法は、防衛三文書を改定するか、アメリカ政府の様に政府高官が謝罪に出かける以外に方法はない。
以上(寄稿:近藤雄三)