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■「不滅」 ~読書メモ(3)

2013-11-16 | 欧州文学

「不滅」、、、この”馬鹿げた小説”は、時間軸を弄繰(いじく)り回しているから、まるでストーリーが【螺旋的(な)発展】を繰り返していくような錯覚に僕を陥(おとしい)れる。

不滅 (集英社文庫)
菅野 昭正
集英社

【螺旋的発展】とはヘーゲルの思想だ。ヘーゲル(1770年・独:シュトゥットガルト)は 「事物の【螺旋的発展】」という洞察を提示している。

どういうことかと言うと、、、、事物が発展していく様子は、 あたかも螺旋階段を登るように進んでいくように感じる。それを横から見れば右肩上がりに上昇していくように見える。しかし、俯瞰して見てみると円を描いて元に戻ってくるように見える、、、そのような洞察をヘーゲルは 【螺旋的発展】と定義した。

精神哲学―哲学の集大成・要綱〈第3部〉 (哲学の集大成・要綱 (第3部))
Georg Wilhelm Friedrich Hegel,長谷川 宏
作品社

 (↑色々言われているが、僕には読みやすかった)

僕には、クンデラの語り(≒小説)が、”螺旋的”に展開(発展)しているように感じてしまうのだ。ページを繰るたびに、ストーリーは進んでいるかのように感じるのだが、実は、行ったり来たりで、しかも、時間軸が無茶苦茶で、過去の人物と創作上の人物が交差して語られていくから、俯瞰して見てみると円を描いて元に戻ってくるように見える(≒読める)のである。

 

もう、手におえない!そんな風に感じる人も多いのでは、、、と思われる。でも、これがクンデラなのだ。

僕は、もう、クンデラの手法には慣れてしまったんで、「ああ、今回も、そうきましたか!」とニタニタしながら読んでしまう。「でも、僕は決して退屈などしませんよ!途中で投げ出したりしませんよ!だって、これが、あなた(クンデラ)のやり方なんだから、、、随分と慣れてしまいましてね、、逆に(あなたに)惚れ込んでしまったのですから、、、。

でも、あなた(クンデラさん)の知的水準があまりにも高すぎるから、僕みたいな凡人には、こうして読書メモを書いて読んでいないと、どうも、頭の中ではわかっているのですが、感想を文字に落とすとなると、、メモを書いていかないと、ついていけないんです。この「不滅」、途轍もなく面白いですね、タマラナイですよ!」と、僕は「不滅」を楽しんでいる。

 

この「不滅」では、クンデラの豊饒な思索が、【螺旋的発展】の”踊り場”で展開されていく。でも、”踊り場”が多すぎるのである。彼の豊富な知識が(そこで)披露されていく。注入されている多種多様な知識は彼の思索の各断片を補うために書かれているのだ。しかし、そのことが、益々ストーリーを重層化させていくことにもなっているようだ。

披露されている知識自体のレベルが高いため、凡庸な読者である僕には、彼の思惑(≒各思索の断片的補足)とは乖離してしまい、「不滅」という小説が”優れた読書案内”へと、その様相が時々変容していくのだ。この不可思議な小説構造とクンデラの豊饒な知性とが絡み合い、僕に相当な知的興奮をもたらしている。

小説に知的興奮など求めない読者にとっては辟易させる小説となり、読書を放棄することになるかもしれない。そんな気分に陥ると、ますます、ストーリーが直線的でないから、ストーリー展開が破綻しているように感じる人もいるかもしれない。が、決してそうではない。ストーリーは見事なほどに完結しているように思える。

クンデラは従来の小説形式を木端微塵に意識的に破壊しているに過ぎない。そういう意味で「馬鹿げた小説」だ、と僕は考えている。

 

「不滅」という小説が”優れた読書案内”となる、と前述したが、それについては次回にでも書いてみたい。ただ、それら紹介されている小説の中に、この「不滅」という作品を解く鍵となる小説が1冊潜んでいるのだ。だから厄介なのだ。

「存在の耐えられない軽さ」が「アンナ・カレーニナ」の焼き直しであったように、「不滅」という小説を読解するには、もう一つの小説を読破しなくてはならない。そんな気がしている。本日まで、p447/591通過。


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