【午後】
ふいに音楽がとぎれ、砂嵐のような雑音。その透き間から気象予告が聞こえてくる。遠いところからやってきた低い声。
――今夜半から嵐が始まります。戸締まりを確認し外出はひかえてください。ものを屋外に出さないでください。くりかえします。今夜半から嵐です。外出はしないでください――
始まったときと同じく突然声はやむ。雑音がやみ、ふたたび穏やかな音楽がCDデッキから流れ始める。
今夜は嵐か。
声がそう言ったのだからそうなのだろう。窓から、木立の向こうにひろがっている白い空を眺める。
ここでは砂が降る。
細かな砂がたえまなく降りつもり、家を庭を木を、埋めていく。川を谷を埋めてゆく。いつのまにか世界を静かに埋めていく。砂の降る静寂の音と色のない香りはあまりに穏やかで、とろとろと眠りに誘われる。
そのまどろみを揺り起こすように嵐が来る。警告に従って鎧戸をおろす。空はかすかに赤みをおび黄色い虹がかかっている。
【夜】
いつものまどろむような静寂とは違う、空っぽの闇のように上下もなくなる一瞬。そして轟音。音はそのまま耳鳴りのようにつづき、もう音がしているのかどうかわからない。
今、砂が空へと降っているのだ。
何日も、何週間も、何箇月もかかって世界を埋めた砂が空へと還っていく。空から地へ降るときとはちがって、空へと降る砂はすさまじい音をたてる。
鎧戸をおろしたまま、耳を塞いで耳を澄ます。音はまだつづいているのか? 轟音と静寂はよく似ている。聞きわけられない、ないので耳を澄ます。
【朝】
壺の底を覗くように崖のふちから谷を覗きこむ。道は切岸に刻まれている。夜明け前。警告はまだ解除されていないが亀裂を見にいく。まだ日は昇っていない。空全体が薄く発光している。この夜明けは青く染まらない。崖に刻まれた道を降りていく。
崖の切り口には地層が見える。粘土の層、小石の層、礫の層、白い粘土の層…これは火山灰の層だろうか。ゆうべの嵐で地層はいっそうくっきり浮き出している。いちばん低いところ、いちばん砂がたまっていたところまでおりていく。埋めていた砂がなくなった剥きだしの場所。忘れ去られた古代生物が化石になって眠っている。
地層の中に鮮やかな赤が一筋。ここでは、傷はいつも新しい。
ふいに音楽がとぎれ、砂嵐のような雑音。その透き間から気象予告が聞こえてくる。遠いところからやってきた低い声。
――今夜半から嵐が始まります。戸締まりを確認し外出はひかえてください。ものを屋外に出さないでください。くりかえします。今夜半から嵐です。外出はしないでください――
始まったときと同じく突然声はやむ。雑音がやみ、ふたたび穏やかな音楽がCDデッキから流れ始める。
今夜は嵐か。
声がそう言ったのだからそうなのだろう。窓から、木立の向こうにひろがっている白い空を眺める。
ここでは砂が降る。
細かな砂がたえまなく降りつもり、家を庭を木を、埋めていく。川を谷を埋めてゆく。いつのまにか世界を静かに埋めていく。砂の降る静寂の音と色のない香りはあまりに穏やかで、とろとろと眠りに誘われる。
そのまどろみを揺り起こすように嵐が来る。警告に従って鎧戸をおろす。空はかすかに赤みをおび黄色い虹がかかっている。
【夜】
いつものまどろむような静寂とは違う、空っぽの闇のように上下もなくなる一瞬。そして轟音。音はそのまま耳鳴りのようにつづき、もう音がしているのかどうかわからない。
今、砂が空へと降っているのだ。
何日も、何週間も、何箇月もかかって世界を埋めた砂が空へと還っていく。空から地へ降るときとはちがって、空へと降る砂はすさまじい音をたてる。
鎧戸をおろしたまま、耳を塞いで耳を澄ます。音はまだつづいているのか? 轟音と静寂はよく似ている。聞きわけられない、ないので耳を澄ます。
【朝】
壺の底を覗くように崖のふちから谷を覗きこむ。道は切岸に刻まれている。夜明け前。警告はまだ解除されていないが亀裂を見にいく。まだ日は昇っていない。空全体が薄く発光している。この夜明けは青く染まらない。崖に刻まれた道を降りていく。
崖の切り口には地層が見える。粘土の層、小石の層、礫の層、白い粘土の層…これは火山灰の層だろうか。ゆうべの嵐で地層はいっそうくっきり浮き出している。いちばん低いところ、いちばん砂がたまっていたところまでおりていく。埋めていた砂がなくなった剥きだしの場所。忘れ去られた古代生物が化石になって眠っている。
地層の中に鮮やかな赤が一筋。ここでは、傷はいつも新しい。
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