kirekoの末路

すこし気をぬくと、すぐ更新をおこたるブロガーたちにおくる

シナリオ【脱出】-1

2006年01月11日 19時32分13秒 | バイオハザード・OB・FILE『K』完結
AM3時21分 警察署地下 下水

化け物の咆哮が響き渡る警察署から脱出を図る九人。
もう何時間この恐怖の中を走り続けてるか、わからない。
徐々に体を蝕んでいく疲労と強烈な臭気に襲われて
確実に近づいてくる死の音に怯えながら、九人は一縷の希望を胸に抱き
一歩でも多く、前へ前へと踏み出すのであった。

警察署の取調準備室のタラップから、地下へと降りた九人は
等間隔で電灯がつく薄暗い通路が続く、悪臭ただよう下水へと歩を進めた。
通路の壁は薄汚れ、床はまるで泥地のようにぬかるんでいる。


「化け物の声が聞こえなくなった・・・どうやら逃げ切れたようだぜ」
通路の最後方を走っていた飛鳥が、今まで走ってきた通路を横目で見ながら
少し歩を緩め、肩で息をするようにゼエゼエと呼吸を荒げながら歩く。

「足元に気をつけろよ、ここは意外とぬかるんでるからな」
先頭を歩く賀居が、胸ポケットから拳銃を抜き取ると
その場に止まりながらマガジンに弾を補給していく。

「掃き溜めの警察署の下には下水か・・・ジョークにしては出来すぎだ」
尾山が皮肉めいたことを口にする。
考えてみれば、たしかに滑稽だ。
掃き溜めと呼ばれた警察署、化け物に占拠されたその異質な空間の下には
この世の終わりとも思えるほどの悪臭が漂う下水があったのだ。

尾山は、この事実に嘲笑するような表情を浮かべ、白衣にしまった
ガバメントのグリップを強く握り締めた。


「・・・」
そんな尾山を見て、五郎は警察署での尾山の話を思い出していた。
『私が診た患者だから』その言葉から想像できる最悪の状況を考えていた。

もしや、自分が守ろうとしている仲間の一人に、
この事件を引き起こした犯人がいるのかもしれないという事実が
さっきまで満ち溢れていた五郎の正義感に少しずつ亀裂をいれていった。


「暗い・・汚い・・臭い・・」

「もうウンザリだわ・・早く帰りたい・・」
智弘と綾香は鼻が曲がるような下水の悪臭と、靴越しでもわかる
まるで粘液のような床の汚れ具合に不快感をあらわにしている。
潔癖症の智弘でなくとも、その汚さには不快感を煽られるものだ。


「この下水はいったいなんなんだ?普通の下水と比べて清掃具合から言ってあまり使ってなさそうに見えるが…それと、さっきの無線の意味はどういうことだ」
先頭を歩く賀居に恵が問いかける。


「この下水は、十年も昔に警察署の要望で作られたものでね、一帯の通常区域の水路とは独立していて普段は立ち入り禁止なんだ。だから指定の清掃区域にもなってなくてこの汚れっぷりさ。掃き溜めの下にあるには丁度いいだろ?」

拳銃の弾丸を補充しながら、少し嘲笑気味に話す賀居。

「ちなみに独立したこの通路を通ると、この先の建物と直接繋がっているんだ。さっきの通信はその先でアメリカ研修時代の俺の相棒が待ってるって話さ」

淡々と語るその口調の奥に喜びの表情が見える。
相棒と呼ばれたその人が、よほど懐かしい人物なのだろうか?


[その先にあるものは・・・なんなんですか?」
健二がぬかるんだ床に気をつけながらこちらに向かって話しかける。



「・・・聞いて驚くなよ・・・?自衛隊の基地さ!」



ピーッ!ピーッ!



下水管の空洞の中で電子音がエコーとなって鳴り響く。

賀居はポケットから機材を出すと、呼応するように口元へもってゆく。

「噂をすればなんとやら・・・How did you do?(どうした?)」

「Let's join in that it is not possible to wait and toward that now with the boat.(待ちきれなくて今ボートでそっちに向かってるから、そっちで合流しましょう。)」

「.....OK..waiting..(OK、待ってるぜ)」

ピッ

流暢な英語が飛び交う下水の中、不安な八人をよそに
余裕の表情さえ浮かべ始めた賀居は機材を再びポケットにしまいこんだ。


「・・・さて、迎えが来る前に少しでも化け物から離れておくか」


下水の異質な雰囲気と共に再び、ぬかるんだ通路を歩き出す九人だった。


AM3時35分 下水 区域結合部

ぬかるんだ通路を10分ほど進むと、下水の奥から轟音を立てて
勢いよく流れる水の音が聞こえる。
どうやら区域同士の下水を一箇所に集めて流す結合部のようだ。
通路から見ると、一箇所に流れる下水はまるで滝のように流れている。
通路から結合部までの高さは数メートルと言うところだが、その水流の勢いから
落ちたらまず助かる見込みは無いだろう。

ぬかるんだ床を慎重に進む九人。
その表情は悪臭に歪み、すでに全員の疲労はピークを達している。


「はぁ・・はぁ・・」
健二が荒々しく呼吸し苦しそうな声を上げる。

「健二、大丈夫?」
心配する綾香を尻目に前に進み続ける賀居達。

「そろそろ来てもいい時間だが・・・」
賀居がポツンとつぶやく、どうやらここが合流地点らしい。



・・・ォォォォン・・ブォォォォン!


その時、前方からエンジン音が聞こえる。
どうやら賀居の言う相棒の乗るボートが来たらしい。


「やったー!これでこんな場所からはオサラバできるのね!」
貴美子の元気な声が、疲労困憊の全員の耳に届き
暗く、やつれた表情に少しだけゆとりを生ませた。


ブゥゥゥン・・・ドッドッドッド

水路の奥から、下水を書き分け
軍用ボートであろうか?少し幅のある大きめのモーターボートが
水流がなるべく少なくなっている幅の広い下水通路の横につけるように止まる。

ボートの運転席には重圧そうなガスマスクをかぶり
黒いライダースーツに身を包んだ人間が乗っていた。


「After a long time. Ayum(久しぶりね、アユム)」
ボートからライダースーツの人間が英語で話しかけてくる。
ライダースーツの上から見る体格と声の感じから女性であると思われる。
やはり、先ほど賀居と連絡を取り合っていた相棒だろう。

「Kelly ..indebted..(ケリー、お世話になるよ)」
親しそうに声をあげる賀居。
英語でよくわからないが、その落ち着いた声から
よほど信頼している相手らしい。

「The talk is a back. Everyone gets on.(話は後よ、皆乗って頂戴)」
ケリーと呼ばれたライダースーツの女性は皆に手招きすると
ボートに乗るように指示する。

言われた通りに、ボートに乗る九人。
ボートの中は外から見るより広く、九人が座っても案外余裕があるようだ。

黒を基調に赤いマークの入った船体には、
けたたましい音を立てながら後部エンジンがアイドリングし
エンジンの横には黒く輝く1mほどの散弾銃であろうものが二挺転がっている。
女性が持つには大きく無骨すぎるが、どうやらケリーの愛銃らしい。

ケリーは全員が乗ったことを確認すると
ボートのハンドルをきり、幅の広い水路をUターンする。


ドッドッ・・・ブゥゥゥン!


けたたましいエンジン音が下水の中でエコーするように響いてゆく。



―数分後―


ボートは下水を走り続け、乗船している九人にも落ち着きが出てきたようだ。


「ケリー、そろそろこの街がどうなっているか、話してもいいだろう?」
賀居がそう言うと、まるで知っている事柄のように
ケリーは暗い顔をする。相当辛い事らしい。

「いったいこの街で、何が起きているんですか」
すると健二が、そこに居る誰もが聞きたかった一言の質問を投げかける。


ケリーは少しためらうように息を吸い込み、口を開き始めた。



「It is awful and frightens it. It is not about hope. Hopeless nightmare(ひどく恐ろしくて、希望の無い、絶望的な悪夢よ)」


「・・・?」
英語に疎い健二には内容がよくわからなかった。
その場に居た賀居に目配せすると、賀居も気を使うようにケリーに言った。

「Kelly. It plainly asks everyone in Japanese.(ケリー。皆にわかりやすく日本語で言ってくれ)」
賀居がそう言うと、ケリーはガスマスク越しに少し笑ったように見えた。

「・・・フフッそうね、ここは日本だもの。郷に入れば郷に従え、良くアユムに言われたわ」
ケリーが賀居を見ながらマスク越しに高らかに笑い始める。
アメリカ人らしいその笑い声は、この恐怖の現状に対しては
少し異質に感じる。


「まず・・・そうね、普通の市民が化け物になってしまった理由から話そうかしら」
話しながら、少し曲がった水路を見事なハンドルさばきで直行していくケリー。


「あれは・・・ウイルス性特異身体成長がもたらした、人間のなれの果てよ」
少し口調がゆっくりになるケリーを尻目に、少し目をそらす尾山。
『耳が痛い』といいたげな表情だ。


「ウイルスの名前はEvolving horrific killer virus(進化する殺人鬼ウイルス)。通称Kウイルス。厄介な事に空気感染するタイプよ」

「空気感染するのか・・・」
がっくりと肩を落とす恵。
予想はしていたものの、自分自身もあんな化け物と
同じになってしまうという絶望感が彼女を包んだ。

しかしケリーは気にすることなく、淡々と話し続ける。

「Kウイルスは体内に入ると、ニ、三週間の潜伏期間を経て発症するんだけど、ある一定の条件で爆発的に増殖するの」

「・・・ある一定の条件?」
五郎が質問する。
駅前での出来事や、自分の先輩の巡査がああなってしまうには
それなりの理由があると思っていたからだ。


「それはね・・・体内の温度変化よ」

「温度変化って・・?どういうことなの?」
貴美子が、眉間にシワをよせて質問する。


「それは、体温が38度を超えると・・・」



・・・カリッカリッ・・ガリガリッッ・・



その時、後ろで何かが削られるような音が聞こえた。


「・・ッ?今、何か聞こえた?」
何かに気づいたケリーはボートのバックミラーを覗き込む。

「・・・お、俺にも聞こえたぜ」
音を聞き、少し焦りの表情を浮かべる飛鳥。
まさか。と自分の心に言い聞かせながらも、どうしても警察署のことを思い出してしまう。



あ の 化 け 物 が 、 近 づ い て い る の か ?




カリカリッッッ・・・ガリガリガリガリッ・・



音は次第に大きくなり、まるで何かを削り取っているように聞こえる。



バックミラーを覗き込んだケリーは、少し息を詰まらせると
皆に聞こえるように叫んだ。


「皆!!!何かにつかまっていて頂戴!!!」


そう叫ぶと同時に、さっきまで静まっていたボートのエンジンは
再び爆音を上げてうなるスクリュー音と共にボートを前へと進ませだした!




ガガガッ!!!ガリガリガリガリガリガリッ!!!!!





「ウボォォォォォォ!ウボッォォォォォォ!」




再び、狂気の声が下水中に響き、恐怖の鼓動を刻み始めた。

シナリオ【脱出】-2へ


この記事を評価する


最新の画像もっと見る

コメントを投稿