kirekoの末路

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シナリオ【再会】-1

2006年07月18日 19時06分47秒 | NightmareWithoutEnd
PM9時23分 旧国道463号線 -C・B・S・F専用大型車内-


夜の闇に包まれた亡者と死者と化け物達の街

『ロストレギオン』

この死の領域を輝かしいライトをつけながら走る黒い特殊装甲車。
窓やタイヤには、化け物やゾンビをなぎ倒しながら走ったような跡があり
白と黒の美しい曲線をあしらった装甲板には、
鈍い赤色がふんだんに塗りたくられている。


旧S県の国道463号線に入ると、駅前のような
死者たちの群れに遭遇することもなくなり
あたりには誰も住まなくなったことにより『閑静になった』住宅街だけが
周りにポツポツと見えるだけだ。


サイドとフロントに『C・B・S・F』とデカデカと書かれた特殊装甲車は
道の緩いカーブに差し掛かり、少し減速しながらカーブを曲がる。
カーブに設置してあった電光掲示板が、むなしく
『この先、事故多発注意』と照らし続けている。


すでに、この街に走る車など
この生きている人間達を乗せた特殊装甲車だけだと言うのに。


「目的地まで、あと何分だ?」

「このまま行けば30分程度ですね」
助手席に乗っていた戦闘服の男が運転席で運転をしている男に尋ねる。
特殊装甲車のセンターにはナビゲーションシステムと思われる液晶画面に
特殊装甲車の現在位置と目的地までの到着予想時間と距離が
赤い文字色で書かれている。


「後ろのDチームの負傷兵の容態はどうなんだレナ」

「・・・今後ろで応急処置が終わりました隊長」
後部座席とのしきりである緑色の布製カーテンがフッと動くと
後ろから肩にCBSFと書かれた戦闘服を着た部隊の一員である
レナと呼ばれた女性隊員がニュッと上半身を出し、助手席の男に報告する。


「外傷は多いんですが、どれも致命傷を避けていますね。少しすれば意識を取り戻すでしょう」
レナが淡々と容態を言っていく。
その報告を聞いていく間に、助手席に居た隊長と呼ばれた男は
深いため息をつきながら、少々水滴のついたフロントガラスの一方を見続け
こう言った。


「我々Aチームが既に戦死者2人を出しているというのに、あの巨大なネズミの化け物とゾンビの群れを退けて生存率100%か・・・」
隊長と呼ばれた背の高い男が呟くと、口調と合わせて
どんどん暗くなっていく表情がそこにあった。

化け物達に部下を殺されたことで、うろたえる様な隊長では
部下に不安を促すだけだと思って冷静な素振りをしてはいるが、
瞳はギラッとした光りを放ちながら据わっている。
押し殺しているその深い怒りと憤慨感は、瞳からヒシヒシと伝わってくる。


「あの化け物の群れに一人で立ち向かってあの程度の傷で済むなんて・・・たいした逸材ですよ・・・」
レナがそんな隊長と呼ばれた男の心を知ってか知らずか
チラチラと車の後ろに居るDチームを確認しながら
聞こえないように小さな声で一言漏らす。


「戦争とは違う兵隊の層の厚さか・・・そういう意味では、一番『場慣れ』している我々が・・・皮肉なものだな」

「パッショーナ隊長。我々はただ任務を達成するだけです。任務に犠牲はつき物ですよ」
部下であろう運転席に座る男にそう言われると、
遠くへ目をやっていたパッショーナと呼ばれた男は
自分を納得させるように、フロントガラスに向けてコクリとうなずいた。

しかし、その表情は暗く、曇っていた。




ザザァーーッ・・・






急に外の雨が強くなり、装甲車に当たる雨の音も次第に激しくなっていく。
まるでパッショーナの心のように。



PM9時27分 特殊装甲車 後部座席

ポツポツと重量感のある雨粒が窓に当たっているが見える。
普通装甲車というと、窓ガラスも重圧な装甲で覆われるものだが
この特殊装甲車の窓は、外の光景を眺められる透明な特殊装甲版で覆われ、
外が見えるようになっている。


キュルキュルキュル・・・ガタガタ・・・ガタガタ・・・


タイヤ周りには、隙間から『何か』が詰まらないように
戦車のようなキャタピラが取り付けてある。
スピードは普通の乗用車より少し遅い程度であろうか?
だが、もし道中で化け物に襲われても咄嗟に対応できる武器や装備が
無尽蔵に後部座席にはあった。
クリアな装甲板も、このためのものであろう。



ブゥン・・ブゥゥゥン・・・カタカタ・・カタカタ・・・


エンジン音と機材が揺れる音だけが後部座席を包んでいる。
人では無いゾンビ達のうめき声が聞こえなくなった、
この後部座席にはそれぞれ重い表情を浮かべる
Dチームの六人がいた。

後部座席の後ろのほうで仰向けで苦しそうに寝ている綾香。
その周りを囲むようにサイドについた固定座席に座るレンやケリー達。
重苦しい雰囲気が続く中、Dチーム隊長のレンが声をあげる。

「QUEENは外傷からの二次感染を引き起こしているかもしれん。よって彼女に対Kウイルス用消滅剤『デイブレイク』を投与する。24時間の効果時間を全員で一律に時間合わせをするために各員専用注射器で投与せよ」

そう言うとレンは綾香の戦闘服についていた小型のジュラルミンケースから
専用の注射器を出し、綾香の戦闘服の袖をまくりあげ、素早く静脈注射をする。


「『デイブレイク―Daybreak―』・・・夜明け・・・か・・・」

「軍が考えた薬にしては、いいネーミングセンスよね」

「くだらんな、所詮クスリだ。弾一発ほどの信頼度も無い」

「・・・綾香は大丈夫かな」

それぞれの気持ちを声に出しつつ、まくりあげた腕へ
デイブレイクを投与していくDチーム。

これで安心ということではないが
ひとまず二次感染による被害は防げるという安心感が
Dチームの表情を緩ませた。


「流石に焦ったぜ、化け物とゾンビの挟撃なんてな」
あの駅のエスカレーターでの闘いを思い出しながら
フィクシーは自分の意識ではないところで少し震える右手を
左手でギュッと抑えている。
彼のブーツには、まだ牛の化け物が突っ込んできたときの
金属のカケラがべたつくブーツにくっつくように乗っている。


「奴らもKウイルスの恩恵で少しづつ行動に進化をしていると言うことか・・」
レンが地下でのネズミの化け物との戦闘を思い出しながら
少し感慨深げに頭を垂れる。何か考えるようなその一言一言は
チームメンバー達に色々な考えを沸かせる。


「これからの奴らは、より効率的により確実な方法で攻めてくるということですか?」
ケリーがレンの言葉を聞き取って、自分が体験してきた
Kウイルスの傾向を思い出しながら、レンに質問する。
一年前の事件では、人間になりきる化け物や、体表を変化されるものなど
その傾向は様々だった。


「さあな。だがあの見計らったかのような動きは何かおかしい・・・」
訝しげな表情を浮かべたレンは、聞き取れないような小声で何かを呟き
その場を立ち上がると、Dチームメンバーに指で合図をし
運転席のある前の座席へと向かった。



そのとき、会話を聞いていたサイドの座席に座っていたフィクシーが口を開く。


「こっからの闘いは、いつ何処で化け物に襲われてもおかしくないという覚悟はしておいた方がいいということだろう」

「私、そんな咄嗟の動き出来るかしら・・・」
いつも陽気なフィクシーにしては重苦しい言葉に
貴美子は動揺を隠せず、思わずケリーになきついた。


「貴美子なら出来るわよ。自信を持ってやりなさい」

「は、はい」
ケリーにそう言われると、貴美子の表情も和らぐ。
二人ともお互いにお互いを信頼し合っている証拠だ。
この二人の信頼はDチームの中でもぬきんでている。


その時、後ろで愛銃の整備をしていたパイがゆっくりと、
それでいて重苦しい言葉を口にした。


「臆病者の足手まといに言っておく。咄嗟に動けない奴への答えは簡単だ。動けない奴から、その場で化け物に食われて死ぬだけだ。おいCLOWN。私の周りでヘマをやってみろ。その時は化け物より貴様に弾丸を浴びせる」

「・・・!!」
その言葉を聴いた貴美子はがっくりと肩を落とす。
エスカレーターの前で一人で戦う綾香の姿を確認しながら
綾香を守れなかった、援護できなかったことが脳裏に
フィードバックしていたからだ。


(・・・あのとき私が強引に綾香を止めていたら、綾香はこんなに傷つかずにすんだんじゃなかいのかな・・)


貴美子の表情が硬くなるのを見て、ケリーが
怒りの表情をあらわにしてパイに向けてキッと口を開く。


「あなた、なんてことを言うの!何度も言うけど私達はチームなのよ!信頼無しでは任務も出来ないわッ!」


怒るケリーとは対照的に、まるで氷のような表情を浮かべるパイ。


「本当に甘い考えだなあんた達は。今まで化け物との闘いで、あんたたち生きている事が不思議なくらいだよ。忠告しておくよ、信頼とか友情とか『そういう甘い考え』を捨てない限り、そのうち後悔することになるよ。絶対にね」



ガタッ・・・



そう言うと座席にもたれかかるように目をつぶるパイ。
ケリーは、今にも泣きそうな貴美子をなだめるのに必死だ。
フィクシーは暗い顔を浮かべながら、車の後方で寝ている綾香に目をやる。







「・・・あの数のゾンビ達を倒せる・・・Kウイルス・・・進化の恩恵か・・・」
ボソッと呟きながら、再び座席に座りフィクシーは
レンからの命令を待つのであった。



バシャバシャバシャ・・・!!




窓に当たる雨粒はいつの間には多く重くなり、
窓を叩きつけるような音が聞こえる。






PM9時30分 ロストレギオン -研究施設『タルタロス』-


強い雨が降り注ぐ中、暗闇に閉ざされた森の中心部に光りが見える
雨粒が叩きつける大地には、くぼみに広い池が出来ている。
その池の先に、白い壁でまだ真新しい建物が見える。


研究施設『タルタロス』
広大な敷地の中に十数個の建造物、研究施設が並んでいる。


ゲートには、巨大な電磁柵が張り巡らされており
外敵を寄せ付けない雰囲気をかもし出している。



タルタロスの建物の中の一つの地下施設で、何かが
激しく打ち合うような音が聞こえる。



ガンッ・・・!ガンッ・・・!


ギャッ・・!ギャアッ・・・!



ライトの当たった灰色の壁の部屋で
緑色のトカゲのような化け物の2、3体が
黒い衣装を着た、人間のようなものに襲い掛かっている。
化け物の動きも早いが、化け物が攻撃をしてくる間に
人間の方は瞬時に体勢を翻し、化け物達の攻撃を余裕とばかりに避けている。


ギャオ!ギャオオオ!


トカゲの化け物が飛びかかろうとした瞬間黒い影が動く、キラッと光りが
見えると、いつの間にか緑色のトカゲの化け物の動きが止まっている。


ギャ・・・ギャアアッ!!


ピチャ・・・!ビタビタッ!


断末魔の悲鳴と共に、トカゲの化け物の肢体が切り刻まれるように
その場で無残な残骸を残しながら、ほとばしる緑色の血液を
壁や床にばら撒いていく。


カキン・・・。


「・・・」
黒い衣装を着ている人間らしきものは
手に所持した光っているものを収めると
部屋の強化ガラス越しに目をやっている研究員らしき二人の
前で指示を仰ぐように立ち尽くし、待っている。



「・・・・あれが・・・ヘラクレス。凄まじいですね・・・」

「複合的生物兵器H・BOW(Hybrid Bio Organic Weapon)の試作品だからな、目を見張らなければ意味がない」


ガラス越しに熱狂的な視線を送る研究員の一人。
黒い衣装を着た人間らしきものは、それを見ても微動だにしない。


もう一人の研究員が、ガラス越しに見える
トカゲの化け物の死体を見て、吐き気を催しながら
呟くように声をあげる。


「唯一の実験成功例・・・ヘラクレス・・・」


その声を聞いた研究員が、フゥと大きな呼吸をすると
口を開き、淡々と語り始める。


「間に合ってよかったよ、最新型のKウイルス適用H・BOWが。今こちらに空から向かっているこの国の強襲部隊に使用して、その結果を見て、それを最終演習とする。この事件の真相が世界に流れたら大変だからな。情報を知っている奴は全員始末する。それが組織の決定だ。君にも研究で苦労をかけたな、自室に戻ってゆっくり休みたまえ」


ガタッ・・・バタン!


もう一人の研究員が部屋のドアを出ると、
少し緩んだ表情で黒い衣装の人間らしきものを見つめ
再び息を吸い込む研究員らしき人物。










「ヘラクレス・・・私の最高傑作・・・組織など関係ない・・・私は私の研究を・・ククク・・・フ・・・フフ・・フゥハハハハーッ!!」










狂気の声が研究室の室内中に響いた。