削り出し椅子の仕上げ削りに使っている、一枚刃の道具です。
大町に移住して間もない25年程前、ちょうど同じ頃、京都から移住してきた一家と知り合いました。
今でもずっと大切な隣人(反対側の山ですが)として仲良くしていただいています。
ご主人のお父様が奈良で桐下駄職人さんでした。
その界隈で次々に職人さんが廃業され、最後に残ったそうです。
使わなくなった道具が先にやめた職人さんから集まり箱いくつにもなってしまったそうです。
最後に残ったお父様が亡くなった後、息子さんがその道具達を全部引き取ることになり、
持っているだけでは錆びさせてしまうだけなので、使ってもらえる人がいればと、形見分けとしてこの銑(セン)をいただきました。
ちょうど、自分の作風を表現する方法を摸索していた頃だったので、渡りに船といったところでした。
下駄を作る時には、柔らかい桐の木なので、下駄の形を整える時に上からざくざく押し切る形で使われていた写真を見た事があります。
使い込まれた銑は、研いで研いで鋼が数ミリしか残っていない刃もあり、昔の職人さんの仕事を垣間みる事ができました。
柄は桐の木の細い枝ですげられています。
わざわざ虫喰いの穴だらけの枝が使われている柄もあり、これは使っていて分かったのですが、
一日中銑削りしていても、まめができた事がありません。
柔らかい肌触りとほどよいグリップ、そしてラジエーターとしてうまく放熱してくれます。
先人の知恵と工夫に気付いた時はとても嬉しい気持ちになります。
一生大切に使っていきたい道具のひとつです。