おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ほくろクラブ株式会社19≪あわい・あわい≫

2009年03月13日 | ほくろクラブ
修学旅行が終わって僕らはなんだか力が抜けていた。
だって、すごい大作戦を成功させたんだもの。
だけど、僕ら小学生は結構忙しい。
すぐに音楽会の練習が始まる。

一応、皆頑張っていたんだよ・・・でもね・・・。
ある日の放課後、あのボスがつかつかと僕らのほうにやってきてこう言ったんだ。
「内田君!水上君!天童君!」
やまさんは呼ばれなかった。
「あんたたちね、すごくリコーダーがへた!皆の音とまったく違う音出してるわよ!特に水上君は違う音もそうだけど遅れているわ!小学校最後の音楽会なのよ。皆の役に立つって言っているのにこれじゃあ、足引っ張っているわよ!」

・・・なるほど。音楽が得意なやまさんは呼ばれなかったわけだ・・・。

「今日から練習、放課後にしてよね!」
なんでボスが取り仕切るのかわからないけど僕らは
「へーーい。」って返事をした。
やまさんが
「僕も付き合うよ、どこが悪いか聞いてみるし」と言うとボスは
「そうね、山内君、教えてあげて」と言った。
そのとき後ろから
「良かったら僕も参加しようか?」と涼しげな声が聞こえた。

坂崎君だった。
坂崎君は小さい頃からピアノを習っていて今回の音楽会でもピアノで伴奏をする。
「僕は皆の音を聞きながら弾いているからね。きっと悪いところがわかると思うよ」
坂崎君はさわやかにそういった。

僕らと違うタイプだ。女子が坂崎王子と呼んでいるのを知っている。背が高くて髪がサラサラで、本当に王子様みたいだ。
僕らみたいに騒いだりせず、かと言って皆から離れているわけでもなくもちろん男子からも好かれている。

「おーー!お願い!」テンちゃんが言った。
僕らも口々に
「よろしくなっ!」と握手した。

ボスはと言えば何故か真っ赤な顔をして
「さ・・・坂崎君が教えてくれるなら安心だわ。しっかり教えてね。」と言ったあと
「あんたたち、坂崎君の言うことしっかり聞くのよ!」と言うとくるりと後ろを向き去っていった。

その日から僕らは少しだけ教室に残り練習することになった。
坂口君がまず手本を聞かせてくれた。
みずっちがどうして遅れるのかの原因も教えてくれて、指揮をとってくれることになった。
その時、教室がガラッとあいてボスが入ってきた。
?と思っていると
「あんたたちだけだったら、サボって坂崎君が迷惑するかもしれないから・・・み・・・見張りにきたのよ」
とボスがまた真っ赤な顔をしていった。
暇だな・・・と僕は思った。

僕らの練習は毎日続いた。
ボスも何故か毎日参加している。
それになんか、指揮をする坂崎君を見てうっとりしている。
こ・・・これは・・・!
ボスは坂崎王子のことが好きだったのか!
僕たちだけがいるときはギャーギャー言うのに坂崎王子が入ってきたらとたんに静かになる。

僕は、練習が終わった後、ほくろクラブのメンバーにそのことを告げた。
「ウッチーも気がついていたんだな」やまさん。
「僕もなんかおかしいなと思っていたんだ」とテンちゃん。
「へーー、全然わからなかったよ」・・・これはみずっち。

僕らはそこで「ボスの役に立とう大作戦」を決行することにした。
なんでも大作戦をつけて盛り上げるのが僕らのやり方だ。
それになんかわくわくするじゃない。
僕らは半分面白くて大笑いし、作戦を練った。
翌日に作戦決行だ!

そしてその日の放課後も僕たち4人と坂崎王子、そしてボスの6人で練習が始まった。
ちょっと一息ついた時、僕らは雑談を持ちかけた。
相変わらず、ボスはぼーっとして口数少なく坂崎王子を見ている。
「あのさぁ、坂崎君って帰ったら何してるの?」まず僕が聞いた。
「帰ってからは月曜と木曜はピアノ教室であとは自宅で練習かな」
「ふーん」(僕らと大違いだ。僕らは帰ったらかばんをボンとおいて公園だ)
「坂崎君って何か好きな食べ物ある?」これはみずっち
「そうだな~、、メロンかな。それに甘いものも結構好きだよ。マカロンが最近の一番かな」
マカロンって何?マロンの仲間って皆思っているが
「ふーん」ってまた皆で言った。僕らの好きなのはポテトチップスときのこの山だ。
「君たちは帰ったら何しているの?」と今度は逆に坂崎君が言った。
「僕らは、塾とかなかったら公園に行くときが多いよ。キャッチボールとかするんだ」とテンちゃんが答えた。
「ふーん、うらやましいな。僕は突き指するから駄目だって学校以外はボールは禁止されているんだ」
「そうか、気の毒だな」とやまさん。
僕は本当に気の毒なのかはわからないな・・・と思った。だって坂崎君は才能があるんだもの。
ふと後ろを向くとなんかボスがメモを取っていた。
も・・・もしかして今の会話をメモしてる?
僕ら4人は顔を見合わせて次の質問をした。
「坂崎君ってどんな子が好き?」と僕。
僕の後ろでボスがびくっとなるのがわかった。
坂崎王子はさわやかにカラカラと笑い
「僕らの年で好きな子ってあんまりいないんじゃないかな。でも、しいて言えば物静かで落ち着きのある子かな?それにできたら僕と一緒で音楽をしている子が話があうかな」
ボスがまた反応している。
「じゃあ、後ろにいる松下さん(ボスの名前)なんてどう思う?」とテンちゃんが聞いた。
打ち合わせだ通りだ。
その時だった!がたっと言うすごい音がしてボスが立ち上がった。
「な!なんて事聞くのよ!坂崎君が迷惑がるじゃない!あんたたち最低!」
真っ赤だったボスがもっと真っ赤になってこぶしを振り上げ、怒っていた。
みずっちが
「さ・・・坂崎君は物静かで落ち着きのある子が好きだって言ってるよ」と細い声で言った。
ボスははっとして、顔をくしゃくしゃにして走って立ち去っていった。
僕らはあっけにとられて見送った。
なんだか、悪いことをしたと言うことだけはわかった。

坂崎王子が言った。
「松下さんはいつも元気だね。どうしたんだろう。さあ、また練習始めよう」
・・・坂崎王子・・・結構鈍感なやつだった。

僕らはちょっとだけ練習をして解散した。
校門をちょっと出たところにボスがいた。
なんか目を真っ赤にしている。泣いたんだろうか?
「あんたたち、余計な事を話して・・・」怒っているようだけどいつもの迫力がない。
「ごめん。よくわかんないけど、本当に余計な事をいっちゃったみたい」と僕らは素直にボスに謝った。
「いいよ。おかしんだけど内田君たちにだったらこうやって普段どおり話せるのに坂崎君とはうまく話せなんだ」とボスが言った。
「坂崎って結構鈍感だな」とテンちゃんが言った。
「そうね、鈍感ね」とボスも言った。
僕らは全員うなずき、明日からも練習を頑張ろうと別れた。

帰ってからお母さんに話した。
「勇気たちが悪いわね。女の子ってデリケートだから傷ついたと思うよ。それにきっと松下さんはアイドルにあこがれるようにその坂崎君が好きだったんだろうし。今日のことはあわい思い出になるでしょうね」
と大昔に女の子だったお母さんが言った。
ボスがデリケート?
でも、ボスの泣き顔を思い出し、ちょっぴりそうなのかもと思った。

音楽会は大成功だった。
皆ぴったりと音があって、会場の皆を感動させた。
泣いているお母さんたちもいた。
アンコールがかかった時、僕もちょっぴりジーンときた。
だって、これはもう小学校最後の音楽会なんだ。
一生懸命練習してよかったと思う。
拍手がとても気持ちいい。

そうそう、ボスはと言えばあれから練習に来なくなった。
学校の音楽会は終わったけど、何週間かあと市の合同音楽会がある。
6年生は代表で出ることになっている。
なので僕らはまだ引き続き練習をしていた。
僕らはちょっと心配していたが、坂崎君は気に留めてなかった。
なんかなあ・・・と思っていたらある日坂崎君が
「松下さん、僕の通っているピアノ教室に入ったんだ。なんか毎日練習しているらしいよ」言いそして
「どうしたんだろうね。急に」とさわやかに髪をサラサラさせた。
・・・相変わらず、鈍感だ。

でも、ボス頑張れ!
僕は心の中でボスのたくましさに拍手して、そしてエールを送った。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ほくろクラブ株式会社18≪修学... | トップ | ほくろクラブ株式会社20≪オレ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿