おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

白昼夢

2008年09月07日 | ショート・ショート
ある日曜日、あたしは恋人のタカシと繁華街をあるいていた。

タカシと暮らし始めて1年・・・。
タカシは小説家を目指していて今はアルバイトで生活を繋ぐ日々だ。
あたしの一人暮らしをしているアパートにタカシは転がり込んできた。
あたし自身はある会社に勤めているが、給料なんて高くない。
タカシと二人の生活はタカシが小説を書いているときは収入が激減してしまい、あたしの給料だけになる。
家賃と光熱費、そして二人分の食費を引いたらあたしの給料なんてほとんど無くなってしまう。
化粧品も満足に買えなく、同期の女の子と一緒に昼休みにトイレで化粧直しをするのも恥ずかしい。
半年間はそれでも幸せだった。
タカシの才能を信じ、タカシの言う難しい言葉に酔っていた。

でも・・・最近・・・。

考え事をしながら歩いていたら急に目の前が暗くなった。顔を上げると一人のおばさんが目の前に立ちふさがっていた。
なんだろう。

「あなた!その男と結婚したら駄目よ!」

私はびっくりして目の前が暗くなった・・・。

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・・・・。目が覚めた。
どうやら夢を見ていたようだ。
もうじき出勤時間だ。
若い頃の夢。
タカシと歩いていたら、目の前におばさんが立って「その男と結婚したら駄目よ!」って言われたんだっけ。
今になったらその忠告を聞いておけばよかったと思う。
あれからあたしはタカシと結婚をした。
相変わらずタカシは小説家を目指し、あたしはそれを支える日々だ。
もう、あの時から20年もたってしまった。
子供も出来ず・・・と言うより経済的に産めなかった。
タカシは結婚してからますます働かなくなり飲んで家でゴロゴロする事が多くなった。
あたしは彼を支えるためにずっと同じ会社で働いている。
局と呼ばれ、影では「あのおばさん、早く辞めたらいいのに」と言われ。

早く、会社に行かなくっちゃ・・・。
顔を洗い、化粧をしようとふと自分の顔を良く見るとそこには若い頃私に叫んだあのおばさんの顔があった。
しわだらけになり、目の下にクマが出来ている。髪の毛はボサボサだ。
あの忠告をするのは【あたし】だったのか!
苦労をしすぎて変わり果てた自分の顔だと気がつかなかった。

どこかで昔の私のすれ違う瞬間があるのか!それなら、今度こそ!今度こそ。

あたしは化粧もせず、家を飛び出した。

玄関をあけるとあの時の通りに繋がっていた。
目の前を若いカップルが歩いてきた。あれだ!
今度こそ!今度こそ!

「あなた!その男と結婚したら駄目よ!」

あたしは叫んだ。


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「おい!大丈夫か?」タカシにゆすられた。
「あ・・・あのおばさんは?」とあたしは言った。
「誰だ?おばさんなんていなかったぞ。急に立ち止まってボーっとしているからびっくりしたよ。もう帰るか?」
「うん・・・」あたしは頷いた。
タカシは前をどんどん歩いていった。

なんだか、一瞬の間に白昼夢を見ていたようだ。
あたしはタカシと結婚をし苦労をしておばさんになっていく夢を・・・。

かなり先まで歩いていってしまったタカシを追いかけて行くとタカシも一瞬立ち止まった。

「タカシ・・・私達別れよっか」

少しタカシはボーっとしていた。それから夢から覚めたように言った。

「うん」

タカシも別れようと以前から思っていたのか・・・。
その日にタカシは荷物をまとめて出て行ってしまった。
あたし達の別れはあっけなく終った。

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あれから20年、タカシと別れた後、あたしはある出張先で小さい会社だが経営者の息子と知り合い結婚した。
それなりに裕福で子供も生まれてそれなりに幸せな日々だ。
子供もかなり手を離れたので今はゆったりとした毎日を過ごしている。

料理の本を買おうと本屋によると「○○賞受賞作家」と言うポスターが見えた。
そのポスターにはタカシの名前があった。
どうやらサイン会がこの書店であるようだ。

そうタカシは作家としてデビューして成功を収めている。

あたしのあの時の判断は間違っていたのか・・・。たまにわからなくなる。

あたしはサイン会の列に並んだ。
あたしの順番が回ってきた。タカシはあたしがあの時見た白昼夢とは違いすごくお洒落で颯爽とした感じに年をとっていた。
あたしの事がわかるかしら・・・と思いながら
「おめでとうございます。お久しぶりです」
と声をかけた。

「!」
タカシは私の事がすぐにわかったようだ。

後でここに・・・と言うメモ書きが渡された。

メモに書かれた喫茶店で待ているとタカシが現れた。
「おめでとうございます。すごく立派になられてうれしく思います」
あたしは一般的な挨拶をした。
「あなたこそお変わりがなく、あの頃のままです」
タカシがお世辞を言った。
「いえ・・・もうこんなおばちゃんになってしまって驚いたでしょ」
あたしは謙遜して言った。
「いやいや、本当ですよ。実際驚いています。今になったらあの別れが失敗なんじゃないかと思いますよ」
タカシは爽やかに笑って手を振った。その手には指輪がはまっている。結婚したんだなと思った。
あたしはあの時の別れがあまりにもあっけなかったのでずっと気になっていた事をタカシに告げた。
すると思いがけない答えが返ってきた。

「いや・・・あの時、君にわかれようかと言われる直前に白昼夢を見たんだ。一人のおじさんが僕の目の前に立っててね。それがなんとも汚いジャージ姿でこう叫ぶんだ。『あんた!その女と結婚したら駄目だ』って。そして、その後に僕の20年後の夢も見るんだ。僕は君に甘やかされて全然何も出来ない男になってるんだ。そして汚いジャージ姿でゴロゴロしている。・・・ごめんね、今の君のようにきれいじゃない君がなんだか言って、飛び出した後にそのジャージ姿の汚い自分が若い日の僕に叫んだおっさんである事に気がついて・・・飛び出して・・・そして若い頃の僕に向かって叫ぶんだ。『あんた!その女と結婚したら駄目だ!』ってね。
その後すぐに君に別れようと言われたからつい「うん」って言ってしまった。なんだか今思えば残念なことをしたと思うよ」
タカシは意味ありげな視線を送ってきた。

今、あたしはそれなりに裕福な状態にあり、化粧品やファッションにもお金をかけられる。
週に1回はジムに通いスタイルも維持している。

あたしはふっと笑った。
「面白い話ですね。私達って結局別れる運命だったんですね。なんだか納得が出来た思いがします。今日はお会いできてよかったですわ。それでは・・・」

あたしは立ち上がりあっけに取られて見送っているタカシを後に会計をさっさと済ませ、外に出た。

外はかなり強い日差しで目が眩んだ。
まだ、夢を見ているのか?
また、若い日に戻るのか?
いいえ!これが現実なのよ!足をぎゅっと踏ん張って立った。

現実を大事に生きていかないと。
あたしは夫と子供の待つ家に家路を急いだ。


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