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おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

ほくろクラブ株式会社20≪オレンジ色の永遠≫

2009年09月25日 | ほくろクラブ
夏休みが終わる頃に僕らはある一本の木を見つけた。
幹が太くて、登ると丁度4人で座れるようになっている。
僕らはそれを秘密基地にする事にした。
お母さんに「よその家の木に登ったら怒られるよ」と言われたが、その木はキュンのおじさんが持っている駐車場の中にあって、おじさんの許可を貰って登ってもいいと言う事になっていた。
ただし、絶対に落ちないように気をつけることって言うのが条件だけど。
「ほくろクラブ」の活動のことや作戦のことはここでする事が多かった。
ただし、僕が足を捻挫した時後はこの木の下になったんだけどね。
キュンもやまさんちのポンは木の下で秘密の作戦会議が誰かに聞かれないように見張っていてくれて、ここは絶好の作戦会議の場所だった。

最近は寒くなってきて、木の上にいるだけでブルブル震えるようになってきた。
ちょっとここの場所は、来年の春にならないと作戦会議は出来ないかもしれない。
日が落ちるのもとっても早くなってきた。
僕らの顔を夕日がオレンジ色に染める頃に会議は終了となり、家に帰る支度をし始める。

最近、やまさんがすごく無口になった。
僕らが来年の中学校の話をしているのに、全然参加しない。
一番最初にテンちゃんが
「やまさん、なんだかずっと暗い」と言い始めた。
お父さんに会ってからのやまさんはとても明るく元気だった。
学校も遅れてくる事がなくなった。
お父さんとも電話やメールで連絡が取れるようになったそうだ。
それに驚いた事にこの前の音楽会の時にやまさんのお父さんが見に来ていた。
そしてその隣にはやまさんのお母さんが一緒だった。

もしかするとやまさんのお父さんとお母さんはまた一緒に住むのかもしれない。
僕らはそう話し合っていた。
だけど、そんな頃からやまさんは段々、無口になっていった。
何かあったんだろうか。
だけど、あの音楽会の後のやまさんのお父さんとお母さんはとてもニコニコしていた。
やまさんだって沙織ちゃんだってとってもニコニコしてうれしそうだったのに・・・。

そんなある日の学校帰り、皆で中学生になったらって話をしていた。
みずっちが言う
「何の部活に入る?」
「もちろん、野球部さ」とテンちゃんが言った。
「でもさ、中学校の部活って厳しいんじゃないの?」これもみずっち。
「先輩とかって厳しそうだね。僕は何に入ろうかなぁ」と僕もうなづく。
「皆で野球部はいる?」とテンちゃんがまた言った。
僕とみずっちは首を横にぶんぶん振った。
そんな、野球なんて僕もみずっちもやった事ないのに。
球拾いばっかりで終わっちゃいそうだ。
「陸上部に入ろうかな」と僕は以前から思っていた事を言った。
「ウッチー、走り遅いじゃないかよ」とみずっち。
「早くなりたいんだ。それに陸上でやってみたい種目もあるんだ」
僕は以前テレビで棒高跳びを見てから、すごくやってみたくなっていた。
だから、中学校に入ったら陸上部に入ろうと決めている。
それにはお母さんは大賛成だ。
どこで聞いて来たのかしれないけど、陸上部が一番ユニフォームが安いんだって。
それに道具だって、靴だけでいいしだって。
(ただ、これはお母さんのとんでもない思い違いになる。陸上のスパイクはとっても高かったし、種類もいろいろあった)

そんな僕らがワイワイ言っている中、やまさんだけが黙っていた。
「やまさんは何はいるつもり?」と僕が言うとやまさんはやっと顔をあげて
「今日、ちょっと皆に話があるんだ。この後、秘密基地に集合してくれる?」と言った。
「いいけど何?」とテンちゃんが言う。
「いいから来てくれ」とやまさん。
「わかったよ」
僕らはそれぞれの家の方向に別れて急いで帰った。
僕は家に帰るとランドセルを玄関に投げて大急ぎで秘密基地に行った。
僕が一番秘密基地から遠いので皆はもう集まっていた。

僕らは木をよじ登った。
ここは僕らの町の中で一番高い所にあって、木に登ったら僕らの町が全部見える。
僕らの町はとってもちっぽけだ。
でも、たくさんの人がこの中に住んでいる。
もう夕日が落ちてきて町がオレンジ色に染まってきている。

僕らが行く中学校も見えた。僕らは皆あの中学校に行く。
もうそろそろ、この秘密基地も今日ぐらいで一旦閉鎖しないと駄目かもしれない。
あんなに急いでやってきたのに、もう夕日が落ちてきたしこの上も寒くなってきた。

「やまさん、なんだよ。話って」とみずっちが言った。

オレンジ色に染まったやまさんが口を開いた。

「僕、皆と一緒の中学に行けないんだ」

えっ?僕、テンちゃん、みずっちもオレンジ色に染まったまま驚いた顔になった。

「僕のお父さんとお母さん、また一緒に暮らす事になったんだ」

そこで、やまさんはちょっと笑顔になった。
オレンジ色のやまさんの笑顔。本当にうれしそうだ。

「だけど、お父さんは今の仕事を辞めれないんだ。だから、僕たちがお父さんのいる倉敷に行く事になった」

僕らはあまり急な事でちょっとやまさんの言っている意味がわからなくて、ぽかんと口を開いたままだった。
やまさんは、続けた。

「僕の小学校の卒業を待って引越しをする。だから僕は中学校は向こうの中学校になるんだ」

皆、黙ってしまった。
僕は、僕は・・・どういったらいいのかわからなくなってしまった。
明日も明後日も来年もずっとずっとやまさんと一緒にいれると思っていたのに。
「やまさん、お父さんがこっちに来ることは出来ないの?だって、元々はこっちにいたんでしょ」と言うと
「大人の事情はわからないけど、お父さんは向こうで頑張っていて、向こうを離れられないそうなんだ。僕はあの修学旅行の後、お母さんに正直に全部お父さんの事を話したんだ。お母さんはその後すぐにお父さんに連絡を入れたみたい。そして・・・こうなった」

「やまさんだけ、こっちに残る事は出来ないの?」とみずっちが言った。

やまさんはオレンジ色になった顔を少し横を向けていった。

「皆と離れるのは悲しいけど、僕はお父さんと暮らしたいんだ」

やまさんの横顔は僕らよりちょっぴり大人の顔に見えた。

僕らはしばらく無言で夕日を見ていた。
そして、夕日に染まった僕らのちっぽけな町を。

僕らは毎日、このちっぽけな町で遊んだり、笑ったり、たまには泣いたりもしている。
それはずっと永遠に続くものだと思っていた。
だけど、終わりって言うのもあるものだと僕らはこの日初めてわかったんだと思う。

みんなの頬にオレンジ色の液体が少し流れて落ちた。

下の方でキュンとポンが鳴いた。
おじさんの声もする。

「おーい!君たち、そろそろ降りないと暗くなるぞ!」
僕らは顔を見合わせた。

僕は言った。
「でも、やまさんが転校しても僕らはずっと友達だよね」

やまさんが頷いた。
「うん、ほくろクラブは永遠さ!」

テンちゃんとみずっちも大きく頷いた。

僕らは手を合わせた。

僕らの手もオレンジ色に染まる。

そして、僕らは終わりもある事も知ったが、永遠って言うのもある事を知った。

僕らの友情は永遠に続くんだ。