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おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

一族

2007年05月28日 | ショート・ショート
大学を卒業してから俺はずっとブラブラしていた。
家は代々続いた由緒ある華道の家元である。
家を継げばいいじゃいかと思うかもしれないが兄が継いでいるし俺にはどうも才能がない。
親父はブラブラしてないで早く職につけと言う。
だが、母親は「時がくればこの子は自分にあった道を選びますよ」と親父をなだめる。
俺は「時」って言うのはどういうときなんだろうと思いながらやっぱり毎日をブラブラとしてすごした。
俺1人ブラブラしてたって傾く家でもなし、それ以上は両親も何も言わなくなった。

そんなある日。俺はテレビを寝転がって見ていた。テレビでは伝統の技なんていう特集をしていた。
手書きの友禅の工房が出てきた。
俺はなんだか画面に吸い込まれるように起き上がった。
「これだ!」俺は叫んでいた。

なんだかわからないが俺の職業だと感じた。いても立ってもいられなくなり両親に「やりたい仕事が出来た。家を出る」と告げた。
親父は腰を抜かしていたが、母親はゆったりと微笑んで「頑張ってね」と言った。

テレビにうつっていた工房を必死で探し、そこをたずねた。
そこは父親と娘二人でやっている工房だった。
「弟子にしてください」と頼みこむが、父親の方が「弟子はとらないんだよ。うちは代々、一族の者だけが継ぐことになっている。うちの技は一族の者にしか何故か伝わらない。代々受け継がれた才能と言うのがまぎれもなくあるのだよ」と言った。
俺はそれでも引き下がらなかった。全然、何もわからないのに何故こんなに必死になるのかわからないが・・・。
「そこをなんとかお願いします」と頼みこんで顔をあげたときに娘の方と目が合った。
娘はぽっと赤くなり父親に言った。
「お父さん、置いてあげて見たら」と。
俺は自分で言うのもなんだが結構イケメンの部類に入ると思う。
「ありがとう」と娘に向かって微笑んだ。また、娘は今度は首まで赤くなった。

という事で俺はその工房で働くことになった。
そして、働いて初めてわかった事だけど俺にはまったくと言っていいほど才能はなかった。何故、あんなに弟子になりたいなんて思ったのか自分でも不思議である。
でもそうわかった時、俺は娘と恋に落ちていた。娘に惚れたと言うより俺はその才能にほれ込んでしまっていた。そして娘の方が俺にぞっこんだった。
父親の方は案外喜んでくれた。俺には絵の才能はなかったが経営の方の才能は「そこそこ」あった。
何せ小さな工房なのでそこそこの才能があればやっていける。二人はその方面にはまったくの無頓着だったので俺が入った事により経営は今まで以上安定してきた。
実家では婿に入るというので親父は少し反対したが、またもや母親が説得してくれた。

そして俺はその娘と結婚する事になった。
妻にはすごい才能がありそのうちに義父の腕を超えるまでになっていった。
俺は妻の仕事を調節し、2人に足りない経理的な面をサポートしていった。とは言っても実際に商品をうむのは妻なので私の生活は非常にゆったりとしたものだった。

それでも2人の娘にも恵まれ生活も安定していた。妻の方にも不満はなかたっと思う。
お互いに幸せだった。
ただ、上の娘は妻のあとを継ぐように舅も妻も教え込むがまったくと言っていいほど才能がなかった。
そのかわり下の娘は誰が教えることでもないのに勝手に工房の仕事を覚えどんどん上達していった。
そんな娘二人は成長して行ったのだが・・・
上の娘は短大卒業後、就職もせずブラブラとすごす毎日だった。なんだか昔の自分を見ているような気分になり、毎日小言を言い続けた。
下の娘はその才能を発揮し、今ではその若い感覚で妻を抜く勢いである。
可哀想なことに上の娘は妻の方の一族の血を受け継がなかったようだ。

そんなある日、上の娘はふらっと出ていったかと思うと1人の青年を連れて帰ってきた。
「私、この人と結婚します」と。
聞けばその青年はある音楽一家の1人息子で今注目の若手のバイオリン奏者だと言う。
上の娘は言った。
「ある日、テレビを見てたらこの人が映って私もなんだかバイオリンを弾いて見たくなってこの人のところに押しかけて行ったの」
押しかけられたほうはさぞびっくりしただろうが、娘は家を継ぐ才能はなかったが、親の口から言うのもなんだがすごい美貌の持ち主である。
この青年はひと目で娘の美貌に目を奪われたのだろう。
ただ、娘はまったく音楽などをやった事もなく、バイオリンなんて弾いたこともない。
この縁談は我家も結構由緒正しい家柄なのですんなりと進んだ。

上の娘は俺の血を引いている。道を歩きながら考えた。
足元にあったタンポポの綿毛を踏んだ。
すると種が風に吹かれ飛んで行った。
ふと思う。
妻の一族は代々その才能を受け継いできたのだと言う。そうするともしかすると俺の一族はこうやってよりよい生活を送れるように生きる場所を探し、時期が来たら飛んで行くのではないかと。タンポポの綿毛のように。
俺の母親の微笑を思いだした。母親もまたかなりの美貌の持ち主で、父と結婚してからは幸せで優雅な生活を送ってきた。
上の娘は幸せに生きるだろう。なんだかそんな気がした。
これも俺の一族の才能なのだ。

心配なのは下の娘である。妻の才能を継いで工房の後継者ではあるが、残念ながら我が一族の血は受け継がなかったようだ。上の娘に比べ容貌がかなり見劣りする。
ふと、母親に連絡をとってみようかと思った。親族の中で俺のようなのはいなのかと・・・。

でも、無理かもしれない。あの飛んでいる綿毛のように我が一族は自分でえらんで飛んで行ってしまうのだから。
飛んでいって自分によりよい環境で根をおろし、そしてまた自分の子孫を飛ばす。こんな一族だってあってもいいではないか。


素晴らしい明日

2007年05月26日 | ショート・ショート
その青年は悩んでいた。
明日、自分の重大なミスを上司に報告しなければならない。
そのミスは彼の今後の昇進にも影響しかねない、いやもしかすると彼のその会社での終わりを告げるほどのミスだった。
今日の顧客からのクレーム。
もう定時をまわって1人で残業をしている時にかかっている電話。
彼は実はそんなミスをした覚えがなかったのだが、あれだけ怒っていてまた損害をかけたと言うのだから間違いなのだろう。
とりあえず謝りに謝って明日上司と一緒にお詫びに行きます・・・と言って電話を置いた。

なかなかその晩は寝つけそうになかった。
0時少し前に布団に入り思った。
「明日なんかこなければいいのに」と。
不思議な事に眠れないと思っていたのに暗闇に引きこまれるように眠りに落ちて行った。

・・・そして朝。
青年は目が覚めた。
とりあえず会社に行かなければ。
青年は着換え会社に向かった。

そして会社につき、上司の出勤を待った。
「おはよう」上司が入って来た。

「部長、お話が・・・」と彼が言いかけた時上司がにこやかに笑った。

「やあ、おはよう。昨日は災難だったな。相手の勘違いだったとはいえ最初は雷が落ちたように怒鳴られたからな。まあ、君にとっては後からの出来事が幸運だったから、皆帳消しだな」

「はあ?あのクレームの件をご存知でしたか?」青年は目を白黒させながら言った。

「ご存知も何も昨日一緒に謝りに行ったじゃないか。君まだ起きてないな~。やっぱり君は面白い男だな!あっはっは!」

上司は豪快に笑い去って行った。

青年は何がなんだかわからない。ふと横のカレンダーを見た。すると・・・なんと今日は青年が思っていた日より一日たっているではないか!
その時、彼の携帯にメールが入った。
『昨日は大変ご迷惑をおかけしました。でもあなたって本当に面白い方ですね。今日、もう一度お会い出来ませんか?父もすっかり貴方の事が気に入って昨日のお詫びに食事にご招待したいと言ってます。お返事お待ちしております』

・・・?女性のようだが彼の知らない名前だった。ただ、本来今日行くはずだったクレームの顧客の苗字と一緒だった。
その時彼の同僚が入ってきた。
「よっ!昨日の話聞いたぜ!災難だったな。でも、それで相手のご令嬢とメールアドレスの交換したんだって?本当にお前って面白いやつだよな」

・・・?青年は混乱した。席に戻りなるべく落ち着いて考えて見た。
どうやら、あのクレームは解決したらしい。青年が知らない間に。いや、知らないと言うか青年の記憶の空白の「昨日」があるようだ。
青年が「明日が来なければいいのに」と願ったとおり「明日」は来ず、明後日になってしまった。

青年はとりあえず退社後、顧客の家を訪れた。
ある会社の社長の家でかなりの豪邸だ。
チャイムを押すと中から華やかな女性が出てきた。
「お待ちしてました。どうぞ」彼女が微笑んだ。
青年はひと目で恋に落ちた。

その夜は雲の上にいるようだった。

あれだけ電話で怒られた顧客も上機嫌でことある度に「昨日の君は本当に面白かったな~」と言う。
それに応じあの華やかな女性も・・・彼女はこの社長の娘だった・・・「本当に涙が出るほど笑ってしまったわ」と父親と声を合わせて笑う。
青年は話を合わせるのが精一杯だった。

帰るときに彼女とまた会う約束をした。彼女もまた青年に好意をだいたようだ。
二人の交際は順調に進み、話はとんとん拍子に進んで結婚した。何しろ彼女の父親も彼を大変気に入っていたのだ。
結婚と同時に彼は会社を辞め義父の会社を手伝うようになった。1人娘だったためいわゆる婿養子と言う形だったが彼の肉親は早くに亡くなっていて不満はなかった。
むしろ幸せだった。仕事は遣り甲斐があり妻も優しくかわいい子供も二人できた。

ただ、ひとつの不満は・・・。
彼が「明日がこなけれないいのに」と願ったあの明日の話を妻と義父がする時だ。
二人はよくその時の事を思いだし「本当にあの時の貴方ったら」と言いながら笑う。
青年は何度も聞いてみようとしたが・・・なんだかそれはふれてはいけないことのように思い、笑うだけで話を合わした。

そして月日は流れ、義父が亡くなり青年が社長をついだ。
青年も年をとり、先に妻が旅立つ時がきた。
妻は「あの時の貴方を時々思いだすのよ。貴方に出会えてよかったわ」と言い残し幸せそうに微笑んで旅立った。
青年、いやもう老人になった彼は最後まで聞けなかった。
「あの『明日』に何があったのか」

そしてまた月日が流れ今度は彼が旅立つ時が近づいてきた。
弱った体を横たえながら彼は思う。
「明日がまた目を開けれるのだろうか。でももう思い残すことはない。会社も子供達が立派に跡をついでくれている。ただ、最後にあの空白の日の事が知りたかった」

そして彼は目を閉じ深い闇へと落ちて行った。



鳥の声がした。


彼は目を開けた。
まだ、生きていた。朝日がまぶしい。
でも、おきある事も出来ないだろう・・・と思ったのにすんなり体が起き上がった。
どうしたのだ?
目をこすりながらまわりを見渡せば・・・昨日まで彼が寝ていた病院のベットではない。

そこは・・・。

若き日の彼のワンルームの部屋だった。
慌てて時計のカレンダーを見る。
そう今日はあの『明日』だった。
自分の姿を鏡に映す。
若き日の姿があった。

彼はすべてを理解した。
そう、これからあの『明日』が始まるのだ。
彼の最後の日に。
多分、彼は若き日の妻や義父の姿を見て涙を流すだろう。
いや、何を起こるのかは『今日』を過ごして見なければわからない。

彼はスーツに着換えドアを勢いよくあけた。
外は光にあふれ彼にエネルギーを与えた。

「こんな素晴らしき明日があっていいものだろうか!」
彼は人生に感謝した。

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あなたはだれ?

2007年05月23日 | ショート・ショート
ある日ふと食事中に目をあげると目の前に見知らぬ男が私の前に座っていて、私が作った食事を食べていた。
背中にさーっと冷や汗が流れる。
怖くなって横を向くと私の息子がニコニコ笑いながら食べている。
少しほっとする。
でも、この前にいて私の作った物を当然のように食べている男はだれなんだろう。

怖い・・・怖くて声も出ない。

すると横にいる息子が言った。

「お父さん、このお肉美味しいね!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ある日をさかいに妻が私の事がわからなくなった。

ある夕食の時に
「あなたはだれですか?なぜ私の作った食事を食べているのですか」
と言われた。

冗談を言っているのだと思った。
でも、目を見ると真剣そのもので本気で私の事がわからなくなったのだとわかった。

息子やそのほかの事はわかるのだが私の事だけは認識が出来ない。
家の中にそうすると何故私のものがあるのだと言うとそれは理解が出来ず、とんちんかんな答えが返ってくる。

病院に連れて行き、私は彼女の夫だと何度も説明する。
医者は心因的なものが原因だと言う。
どうしたらいいんだろう。
妻はそれからも普通に会社に行き、そして子供の世話もし、日常の事もしている。

でも、その日をさかいに2人分しか食事を作らなくなった。
私が家にいる事は、医者から説得されなんとか認めているが相変わらず私が夫だと言うことを認めない・・・と言うか認識が出来ない。

その日から私は自分の食事や身の回りの事は自分でしなければならなくなった。

子供は不思議に思っているみたいだが別に私の事がわからないだけでそれ以外は妻は普通なのでそれがいつもの事になってきた。

たまに私の作った食事をつまみ
「まずい」と言う。

私もそのとおりだと思う。
料理の本を見て悪戦苦闘するもうまく味付けが出来ない。
私は結婚するまで1人暮らしをした事がなく、身の回りの事はすべて母親まかせだった。

小学校の息子があまりの私の料理のへたさにあきれ、なんと彼がチャーハンを作ってくれた。
お母さんに教えてもらったのだと言う。
洗濯物のたたみ方、これも意外な事にきっちりと出来ていた。
お母さんが帰ってくるまでにいつも洗濯物を取り入れてたたんでいるらしい。

少しスパイスの効きすぎたチャーハンはとてもうまかった。

そして玉ねぎを切ったまな板を洗うとき少し目にしみた。
涙がとまらない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

つい最近、考えた話です。
食事中にふと・・・。
目の前にいるのは旦那さんだとわかっているのですけど、「誰?この当然のように目の前に座って偉そうに私の作ったのをうまいもまずいも言わずに食べている他人は・・・」と思ってしまって。

先日、テレビで男性だけの料理教室があるのをみました。
作った物を食べて一緒にお酒飲んでました。
(このお酒も教室代に入っているそうです)
なんだか素敵。
もっと増えればいいな・・・と思います。

さて上記のお話の続き、どうしましょうか?

ハッピーエンドにします?
この旦那さんは会社の帰りに料理教室に通い、息子と一緒に料理を作り、妻に食べさせる。
すると食べた妻が
「あら、美味しいわ!お父さんが作ってくれたのね!ありがとう、あなた」
と言って旦那さんのことがわるようになって・・・ハッピーエンド。

もしくは・・・
エンドレスな悪夢を。
旦那さんはそんな妻とわかれ新たに結婚する。
そしてまたある夕食の時、新婚の妻に言われる。
「あなたはだれですか?なぜ私の作った食事を食べているのですか」

・・・救われないな~。
やっぱり前者のハッピーエンドの方がよろしいですね。

                                     2007/5/19 本誌ぺんきっきより


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マザー

2007年05月23日 | ショート・ショート

僕は過去がわからない。
両親の記憶がない。
父は名前がわからず母は僕を産んですぐに亡くなったらしい。
気がついたときには、もう一人ぼっちだった。
母に会いたい・・・そう言う気持ちを押さえきれずにいた時に僕の目の前に歪んだ空間が広がった。
気がついたときに僕の目の前に「その人」はいた。
ひと目で僕はその人に恋をした。
でも・・・ここはどこなんだろう。
町並みに古い写真の香りが漂う。

その人と暮らし始める。
その人は言った。
「子供が出来たわ」
聖母の微笑み・・・。
喜んで手を握ろうとした時に僕の手がなくなったことに気がつく。
その人を抱きしめようと立ち上がろうとした僕の足がないことに気がつく。
これは・・・僕はいったい・・そう思う意識が遠のいていく。
その人の声がかすかに聞こえた。
「あなたを産んであげる・・・私はあなたの・・・」

もう考える事が出来なくなって来た。
ただ、僕はわかった。
僕はまたその人、僕の「母」から生まれてくるのだ。
心地よい波にのまれ段々、幸せな感情が生まれてくる。
僕は僕の愛しい人からまた命をもらう。
そして生まれてきた「僕」はまたその人を探すのだ・・・永遠に。




これは私が高校生ぐらいに作った話。
もしかするといろんなものにかぶれてたから似たような話があるかもしれないけどご勘弁を。
その時に作った文章と違うかもしれないし、内容もちょっと違うかも知れない。
確か、学校に提出したはずで返って来たのかどうかも分からず。

ショート・ショートが好きで、星新一さんの本はほとんど読んだ。
自分でも何か書いて見たくて何篇か話を作ってみた。
上の話もそのひとつ。
自分でのテーマはなんだったかのかよくわからないし、こうやって文章にしてみると自分でもよく何がいいたいのかもわからない。
無理矢理つけるとしたら「マザー」かな・・・
当時はなんてつけたんだろう。

なんとなく書いてみただけで、意味は別にありません。
ただ、自分も今何かを探しているような気がして・・・。

私は今何を探しているのか・・・それが私の今の「テーマ」なのかもしれない。

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                                2006/7/19 本誌ぺんきっきより