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おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

吐き出す

2008年01月15日 | ショート・ショート
僕の友達が住んでいる東町に行くのにはすごく迷う。
友達の家に行こうとするのにふと気がつくと何故か地区の外に出ている。
目印を覚えておくのにいつの間にか東町に入る入り口の付近に戻ってしまう。
だから約束の時間にいつも遅れるんだ。
でも、帰るときはなんだかわからないうちに東町の入り口のラーメン屋の前にたどり着く。

この事を友達に言うと
「そうかな~。僕はすごくわかりやすいところだと思うんだけど」
と言った。
でも、友達のうちを出てうちに向かうと
「スポッ!」と言う感じで地区の外に出てしまう。
そう言えばお母さんも言っていた。
「あそこを通って車で市役所に行こうとするといつも迷うのよね。だから本当は近道なんだけど通らないことにしているのよ」って。
不思議なところだな~。

・・・そしてそれから何年もたち、僕は大人になった。
大学生になり、就職をし・・・そして結婚をした。
新居はかつての僕の友人が住んでいたあの東地区で見つけた。
ある不動産屋に行った時に僕らの出した条件に驚くようにぴったりの物件があの地区にあったのだ。
実家にも近く即決めた。
住む事になってあれだけわかりにくかった道がよくわかる事に気がつく。
やはり子供だったから、道が覚えれなくて迷っていたのか。
僕の奥さんになった人も
「道もわかりやすくて住みやすいところよね」と喜んでいる。
ご近所の人も皆いい人ばかりだ。

ただ、少し気になった事もあった。
僕の前に物件を見に来た人は不動産屋さんの話によるとなかなか家にたどり着く事が出来ず、「こんなわかりにく所は嫌だ」と言って結局見ないまま帰ったらしい。
僕らが見に来た時はそんな事はなかったのに。

新居に住んでから数ヶ月、かつてこの東町に住んでいたあの僕の友人が訪ねて来てくれた。
彼は高校生の頃、お父さんの転勤で引っ越して今はここに住んでいない。
来ると言っていた時間をかなりまわってから彼がたどり着いた。

「いやー!参ったよ!ちゃんと道を覚えていると思ってたんだけどなんだか迷っちゃって!」
着いた早々彼がそう言った。
見覚えのある風景で目印もちゃんと確かめているのにふと気がつくと地区の入り口に戻ってしまうらしい。
かつての子供の頃の僕のように。

それでも楽しい会話で時間はすぎ、僕は彼を駅まで見送りに行った。
そして彼を送った帰り道、地区の入り口にあるラーメン屋の前で立ち止まった。
そうだ。いつも子供の頃彼の家に行こうとするとこのラーメン屋の前に戻ってしまっていたっけ。
ラーメン屋の向こう側にある電柱からが東町になる。

電柱を一歩またぐ。
僕はその時、どこからか声が聞こえたような気がした。

「お帰りなさい」と。

空耳に決まっているが僕の頭にふとある考えがよぎる。
町が住むものだけを受け入れているのか・・・。
そして外からの進入を拒んでいるのか・・・。

僕は首を横に振った。
まさかな・・・。

ふと下を見るとマンホールがウィンクをしたような気がした。


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この前、いつもの道を通って図書館に行こうとするとかなり迷い、そのときに思い着いた話。
本当は別冊に書こうと思ったんだけど「ほくろクラブ」が途中なのでとりあえずこっちに。

行く道は本当にぐるぐる回って迷ったんだけど、帰り道真っ暗になってどこを走っているのかがわからなくなったのに、吐き出されたような感じでスポッと私の住んでいる地区に戻ってしまった。
境目はいつもラーメン屋だ。

町も意思を持っている。
なんとなくそんな感じがした。とても静かな通りなのだ。あまり私の住んでいるところのように立ち話をしている人もみかけない。
わたしのように騒々しい酔っ払いはスポッと吐き出されてしまうのかもしれない。

ここを通ると昔読みかけてそのままになった、江戸川乱歩を思いだす。
小学生の頃、図書館で読みかけて怖くなって読むのをやめてしまったのだ。
日が落ちかけている道を歩いている小学生が消えてしまう・・・そんな行があったような。
なんていう題名だったのがわからないけど、暗くなる前に帰らないととしばらくは夕暮れの町を歩いているたびに思いだし、帰り道を急いだような気がする。

少年探偵団だったのかもしれない。
探してちゃんと最後まで読んで見たいと思っている。

                               本誌ぺんきっきより

なんとなく本誌にかいてしまって2重になるけど一応こちらにも。
ほくろクラブはちょっと休んだままだけどきっと近いうちに続きを・・・

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ゴールのテープ

2007年06月30日 | ショート・ショート
その女(ひと)は走り続けていた。
子供の頃から自分がいつも一番でないと気がすまなかった。
結婚はあるエリートとしたが長く続かなかった。
彼女の一番でありたいと言う路線からそのエリートが外れてしまったからだ。
彼女は方向を変えた。
ある小さな会社に入った。そこでかなりの実力が発揮できた。
元からいた人達も蹴落としてとんとん拍子に出世して自分のプライドも保てた。
ただ、後から追い上げてくるものに異常なぐらい不安をしめした。
穴を掘って落としたり、行く先の矢印を変えたりしてその追い上げをかわした。
でもどんなに落としてもあとからあとから彼女を追い抜こうとするものは現れてくる。
彼女はそのうち背後から近寄るもの対して異常な反応を示すようになった。

その恐怖に震え後ろを振り向かないで走り続けた。
そしてゴールが見えた。
ゴールのテープを切った時、彼女はテープが切れる音を聞いた。
プツン。
そのテープはゴールではなかった。
正気と狂気の境目のテープだった。

彼女は狂気の森をまだ走っている。
まだ、後ろには何かがいるのだ。
後ろを振り向かず走り続けるがゴールが見えない。
ただ、ただずっと走り続ける・・・倒れてしまうまで。

画像




困っている。
実は友人と昨日飲んだのだけど・・・。
最近ちょっといろいとあって社内がもめている。私も巻き込まれそうになってはいるが、もう辞めるつもりなのでボーナス貰うまでは大人しくしておこうと思っていて放っている。
でも、昨日友人から
「一緒に戦ってほしい」と言われ少し困惑している。

本誌のぺんきっき≪戦え!ぺん編≫もそろそろタイトルを変えようかと思っていたところだ。
最近、離婚した友人は会社で今働くという事が一番重要な事なんだろうけど、私はもう自分の道を見つけようとしていて、今会社で一番しようとしている事は今まで10年間働いて来た事の整理だ。
先日は、気になっていた「未整理BOXその?」を片づけた。
あと何箱もあるのを片づけて行くつもりだ。
そして来月のボーナスのあと「辞表」を提出しようと思う。

トラブルの原因は・・・これはすごく難しい問題。
以前、ショート・ショートで会社です。と言うのを書いた。
会社はもちろん経営者のものではあるがそれを作っているのはたくさんの社員がいてからこそ・・・と言う事がいいたかった。
今回の件は会社の経営者の人の問題ではなく、ある1人の人物の問題。
表面では正気を保っているように見えるが、中はかなり狂っている。
それが今までは私にしかわからなかったのだが(と思うんだけど)他にも害が及んできて、人を傷つけている。
正気と狂気の境目は何なのか・・・私は最近わからなくなってきた。
自分が、まともだと思っていても他から見れば狂っているのかもしれない。
私はもうこの人とは仕事が出来ないと思うから、実は辞めたいのだ。
一緒にいるとこちらも変になりそうだ。

友人はその「狂気」と戦おうと言う。
・・・でもその人は普通ではないのだ。自分の位置を守りたいために普通では考えられないような考え方になる。
その狂気の牙は自分より下だと思っているものには決して向けられない。
でも「出る杭は打つ」のだ。
競争社会の中でそのような事は日常茶飯事だけど、その人は実力で勝とうとは決してしない。
卑怯な手を使ってくる。
ただ、それを会社が狂っていると思わず、重宝しているのなら私はそれはそれで仕方ないと思う。

一緒には戦えない。
でも戦えないけど手助けは出来るのかもしれないが。

上のちょっとしたショート・ショートはひとつのものにとりつかれすぎて自滅へ・・・という事がいいたかった。
普通に生きて楽しく生きるという事はなんと難しい事なんだろう。
たまには後ろを振り返って見るのもいい事だってあるのだ。



次は何に?

2007年06月08日 | ショート・ショート
有美と言う1人の若い独身女性。
今電車を降りて家路を急ぐ。
今日はついてなかった。仕事では些細なミスが連発し上司にしかられ私生活では服を前半にセールで買いすぎたため小遣いがピンチだから寄り道も出来ない。

有美はひとつため息をついた。
ふと顔をあげると神社が目に入った。毎日通っているのに今まで気がつかなかった。
ちょっと神頼みでもしてみるか・・・と有美はお賽銭をあげ
「何かいい事がおこりますように」と願いを心の中で言った。

神社を出て歩いているとちょっとした段差でつまづいてこけてしまった。
「いたーーい!」と周りを見渡すが誰もいなかった・・・ほっとする。
転んだ拍子に何か手につかんでいた。
一本の鉛筆だった。
何だこんなものと捨てようとした時に目の前で子供達がなんだかわいわいと話していた。
ふとその中の1人が有美と目が合う。
「お姉さん、その持っている鉛筆ちょと貸してよ」とその子が言った。
「いいわよ。よかったらあげるし」と有美が答えると
「ありがとう!ゲームをしてたんだけど点数が皆覚えられなくて書くのが欲しかったんだ」
もう1人別の子が言った。
「そうだ、お姉さん、鉛筆もらったからこれ代わりにあげるよ」
差し出されたのは1個の飴だった。

「ありがとう」
有美はそう言って立ち去った。

こんなものもらってもね・・・と思いながら歩いていると、目の前で一組の親子が歩いていた。
お母さんと小さい女の子だ。
「もう歩けないよ~!」と女の子はしゃがみこんで泣いている。
「もうちょっとだから頑張りなさい」お母さんが一生懸命なだめている。
有美は近づいて言った。
「ねえ、これ元気が出る飴だよ。あげるから頑張って歩いて!」
さっきの子供からもらった飴だ。
女の子は泣きやんだ。そして有美から飴を受け取るとにっこり笑った。
その子のお母さんが言った。
「ありがとうございます。助かりました。よかったらこれ・・・」
と差し出したのは福引の券だった。
「すぐそこの商店街でしているみたいですよ」と。

親子とは手を振りながら別れた。
有美はそういえば小遣いも底をついて来ているし福引で何か当たったらいいなと・・・その商店街にあるいていった。
福引所で福引券を出すと
「すいませんね、これ5枚で一回なんですよ」と言われてしまった。
「なあんだ」と有美は言い丁度後ろに並んでいた年配の女性に「よかったらこれ」と言って渡した。
「あら、うれしいわ。4枚の半端があったのよ。当たったらあなたにもおすそ分けするから見て行きなさいよ」とその女性は言った。
ガラガラ・・・ポトン。青の玉が転がった。
「3等賞!大あたり~!スポーツ飲料一ケース!」
福引所のお兄さんが鐘を鳴らした。
「あら当たったわ!あなたにも一本あげるわね」とその女性は言った。

有美はスポーツ飲料を一本貰うと家に向かって歩き始めた。
何かの話しに似てるな・・・。わらしべ長者だ。
最後には大金持ちになるんだったな。わらしべ一本から。
私の場合、最初の鉛筆がスポーツ飲料になった。でもあんまり期待出来そうにないな・・・と思う。帰るまでに長者になるなんて到底無理だわ。
そう思いクスッと笑ったときに前をたくさんの荷物を持って歩いていた男性が急にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか?!」と声をかける。
「急に歩いているとクラクラして・・・」とその男性は言った。
午前中は雨が降っていた。そのあとやんで一気にいいお天気になった。
すごく蒸し暑く、アスファルトから湯気がでているようだ。
「これ、よかったら飲んでください」
有美はさっき貰ったスポーツ飲料を差し出した。
男性はごくごく飲んだ。すると顔色もよくなってきた。
「ありがとうございます。得意先からの帰り道ずっと水も飲まないで歩いていたものですから・・・。そうだ、これお礼としたら変なんですが、不良品として返って来た服なんです。染ムラがちょっとあるだけで裁縫はちゃんとしてますので良かったらどうぞ」
男性が差し出したのは新品のT シャツだった。でも男性用だった。

男性と別れまた有美は歩き始める。家が見えてきた。
今度はTシャツになったか・・・でも男性用だから家ででも着ようかな・・・それともお父さんか弟にでもあげようか・・・。
その時、目の前を大きな車が通った。
バシャン!大きな水がはねる音がした。少し前の水溜りにタイヤが入り大きな水しぶきがあがった。
「冷たい!」
同時に前で大きな声がした。
見ると背の高い若い男性が水浸しになっている。
はあ・・・こういう事か・・・次は何に化けるんだろう。有美はそう思うと持っていたTシャツを差し出した。
「良かったらこれ」と。
男性は
「ありがとうございます。助かります。これから他所のお宅にお邪魔するところだったので。新しく買って返しますので良ければご連絡先をお聞かせいただけませんか?」
と言った。
なあんだ、今度は何にもならないのかと思って顔をあげるとびっくりするぐらい有美の理想の男性の顔がそこにあった。

「良かったらうち近くなのでそこで着換えをされたらいかがでしょうか?弟のズボンなんかもありますので」
有美の口からこんな言葉が出た。

有美が最後に得た物は・・・『恋』だった。
わらしべ長者にはなれなかったが・・・いやもしかすると。

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会社です。

2007年06月07日 | ショート・ショート
その会社の社長は若い頃苦労して会社を興し従業員が100人弱とはいえ、不況の波にも耐え順調に実績を伸ばしてきた。

彼はかなりのワンマン社長だった。
白い物でも彼が黒だと言えば黒だとなった。
そしてかなりの倹約家でもあった。
空調設備や照明器具ひとつに対しても社員に『節約』をうるさく言った。
社員は仕事が出来なくなる直前まで空調を我慢し照明は部屋の半分しかつけなかった。

また、彼は「人件費がこの業界一安い」という事も自慢にしていた。
給料が安くて辞める社員もいたが、この不況の時代にすぐに補充が出来た。
会社は彼が作った物でまた社員も彼が雇ってやっているものだと思っていた。
会社は彼の為にあるのだ。利益もまた・・・

そんなある日。
社長室を叩くノックの音がした。
「どうぞ、入りなさい」と彼が言うとにこやかな顔の男が入ってきた。
彼の知らない顔だ。
「君は誰だね」と問う。
するとその男は言った。

「私はこの会社です」

彼は一瞬あっけにとられ黙ってしまったが、すぐにはっとしおかしな人物が入ってきた事を他に知らせようとした。
内線を押すが誰も出ない。

「無駄です」その男は言った。

「私はこの会社です。最初あなたの『気持ち』から出来ました。でも今では段々増えていった何人もの社員の人の『気持ち』から出来ています。最初あなただけで出来ていた私の体は今ではあなたの以外の気持ちが大多数を占めるようになりました。そしてそのあなた以外の『気持ち』があなたの『気持ち』を拒否しています」

彼はその男が何を言っているのか理解が出来ない。ただ、その男が人ではない事はそのかもし出す雰囲気からわかってきた。
また、その男は続ける。

「これをあなたにお返しします。あなたの『気持ち』です。この中心の『気持ち』は別な『気持ち』がもう入る事になっています」

男は自分の胸をさわるとそこから光る球をとりだした。
そしてそれを彼に渡した。

「それでは、ごきげんよう」

男はそう言うとすっと消えた。

彼はあたりを見渡すと何もかもが消えていた。彼が築いたと思っていた会社も。
そこにはただ永遠なる野原が続いているばかり。
彼は男に手渡された球に頬を当てる。
ほのかに暖かく彼の若き日の情熱が球の中心で今にも消えそうに揺れていた。
一気に思い出が駆け巡る。
会社を興そうと決心した日。そしてそれに手を貸してくれた親族や友。彼の為に苦労するとわかっていてついて来てくれた昔の同僚。そして段々増えていった社員達。
でも彼と一緒に苦労してくれた仲間の暖かさや情熱は彼の『気持ち』のそばにはもうないのだ。

もう何もかも遅かった。
失った物を悔やみただただ、彼は涙を流すばかり・・・。

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ぺんのちょっと一言。
何でこの話を思いついたかと言うと今日は暑かったから。
・・・ま、ボスはゴルフでいなかったんだけど。
体力が皆落ちてきてね・・・今日はすごくつらかった。
髪の毛の中に汗がたまって私のヘアースタイルはアフロになりかけだった。
アフロぺん・・・なんて自分をこっそり呼んでみたりして。

明日、この話みたいに何にもなくなっていればいいのに。
永遠の野原・・・変な表現かもしれないけど明日出勤したら会社の場所が野原だったらいいのに・・・なあんて思ってしまって、今日汗書きながら仕事してたときに思いついたこのフレーズをどうしても書いてみたかった。
ただ、それだけ。

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ものさし

2007年06月05日 | ショート・ショート
20代の頃、勤めた会社。
そこそこの規模の会社だったが勤務先は小さな営業所で女性社員は1人だった。
若い男性社員も多かったから、女1人でちやほやされると思ったら大間違いだった。
人手が足りず、でも社員を増やすと経費がかさむのでアルバイトの学生を雇っていた。
それも女の子ばかり。

当然、私は一番年上となる。
あるとき、取引先の人からかわいいキティのバックを貰った。
数があまりなく女の子だけで分けようという事になったのだが、数が足りなかった。
私は我慢しようと思ったのだが、1人のおじさん社員が言った。
「こんな可愛いのはもう君はほしがる年ではないだろう」と。

私は23歳にして『お局』だった。

なんだか、その言葉から常に年齢が気になるようになった。
「もう若くはないんだ」と言う言葉がいつも心の片隅にある。

その翌年、なんだが焦りからか職場でつきあってた人と結婚した。
今から考えるともっと後からでもいいではないかと思うのだけど、年齢的に今しないと駄目なような気がしたから・・・
「もう若くはないから」と。

出産を機に仕事を辞めたが、不況の波にのまれまた働かざるを得なくなった。
今度は自分より年上の多い会社だった。
よく年配の人から言われる。
「若いっていいわね」と。
逆に今度はそのたびに思う。
「それはあなた達から見ての事で本当はもう若くはない」と。

毎日、「若さ」の事を考える。
そうやって何年かが経っていった。

ある朝、化粧をするために鏡を覗いた。
知らないうちに白髪が結構出来ていた。
また思う「もう若くはないんだと」

その時、鏡の向こうに何かが見えた。
「!あれは!若い頃の私だ!」
キティのバックを欲しそうな顔をして見ている。
なんて肌がピチピチで若いんだろう。その横にいるアルバイトの女の子と対して違わないではないか!
そんなに若いのだったらキティちゃんだって持ってもおかしくないよ!
横のおじさんが何か言っている(「こんな可愛いのはもう君はほしがる年ではないだろう」と言ってるんだろうが)私は顔をゆがめ悲しい顔をした。
「そんなおやじ、ぶんなぐっちゃえ!それ持ってもおかしくないよ」思わず言葉が出た!

自分の声にはっとして鏡を再度見るとそこには若い頃の私なんて映ってなかった。
映っているのは嫌な白髪がぴょこんと一本飛び出た私の顔だ。
引っこ抜こうとしたときにどこからか声が聞こえたような気がした。

「そんなの白髪のうちにはいらないよ!まだ抜かなくていいよ!」

振り向いても誰もいなかった。

その日から私はあまり若さの事を考えなくなった。

あの聞こえたような気がした声は何年後かの私の声ではないかと思う。
今の私からのメッセージは23才の私には届かなかったが、もっと先の私からのメッセージは今の私に届いたのだ。
若さなんて関係なく今を大事に生きろと。
今の私だってその先の私から見たら若いのだ。そしてその先の私も・・・。
そんな「若さ」をうらやんでばかりいてもかえって若さは逃げる一方なのだ。
「若さ」と言う「ものさし」なんて誰が作ったものなんだろう・・・そんな変なありもしない「ものさし」に振り回されていた自分がばからしくなった。


元気に「おはようございます!」と言って更衣室に入った。
先に着替えをしてた先輩社員に
「あら、若いっていいわね、元気で」と言われた。

「ええ!そうですよ!」とまたもや私は元気良く答えた。

私は将来を夢見る・・・。
きれいにセットした白髪(ハクハツ)で素敵に微笑む自分を。

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