恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

2.春の陽気

2006年02月16日 | ベストストーリー
 さっきまで降っていた冷たい雨もやんで、もう春の暖かい風が吹きはじめている。春の陽気に誘われるように君が目の前に現れた。
 君の笑顔は無邪気でかわいくて、窓から差し込む光で輝いて見えた。
 二階の病院の一室の窓から見える君の笑顔が好きだった。私の顔を見るといつも笑って大きく手を振っていた。
 君は誰だろうと思って、毎朝病院の前を通っていた。
 君は幼い様で色っぽい顔つきをしていた。歳は高校生くらいだろうか。
 黒髪のショートカットがよく似合っていた。笑顔でなぜそんなに私に手を振るんだと疑問を感じていた。
 いつからか、君の姿が愛しくなって見ないと気がすまなくなっていた。君の無邪気な姿を見ていると、私は嬉しい気持ちになって、昨日会社で怒られて沈んでいた気分が春の風と共に吹き飛んでしまう。君の笑顔は素敵だった。
 そんなある日、病院の前を通ると、彼女の姿がどこにも見当たらなかった。
もしかしたら、彼女が退院したのかもしれないと思い、会社に行く途中だったが、いてもたってもいられなくて、彼女を訪ねに病院に入った。
 病院の門を入っていくと、デコボコになった錆びれた看板が出ていて、入り口は大きく傾いていた。
 私が急いでその子がいた二階の病室に入っていくと、誰もいなくて、壊れたベッドと破れた白いカーテンがあった。
 そんなまさかと思っていると、おばさんが下の庭を掃除していたので、急いで階段を下りて聞いてみた。
 「ここの病院つぶれたんですか?」
 「そうだね。多分一年前位に潰れたんじゃないかな。私も最近引っ越して来てよく分からないけど、何でも高校生くらいの子が医療ミスで死んだとニュースであってたよ。それで噂が噂をよんで潰れたんじゃないかな。今では、近所の人が暇を見つけて掃除をしているけど。」
 「そうですか。」私は、驚いてしまった。二階の窓から手を振っていた彼女は幽霊だったのだ。背筋がぞっとした。
 彼女はもっと生きていたかったに違いなかった。
 次の日、彼女の病室のベッドにお見舞いの花束を置きに行った。
 「笑顔をありがとう。生きていたら君と恋をしたかったな。」私が呟くと、窓から光が差し込んできて、彼女の姿がボンヤリとベッドの上で見えた。
 「ありがとう。私も恋がしたかったな。」彼女の幻影は、花束を受け取ると、春の風と共にふっと窓から消えていった。
 今でもその場所を子供と通る時彼女の姿を見る事がある。
 彼女が無邪気に手を振っていて、「しあわせにね」と喜んでいる幻影を見る事が出来る。
 彼女の姿が見えなくなると、光が当たって破れた白いカーテンが、春の風で揺れているだけだった。




最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2006-02-17 14:27:37
初めまして。読ませて頂きました。



病院と幽霊。

本来なら心霊物の設定。

それが、「春の陽気」さゆえに、そよ風のような爽やかさに包まれている。

それぞれの気持ちが素直で、けして強制じゃない。

春の風のように。



今日は寒いですが、春の温かさを感じることができました。

また見に来ます!



追記

僕も恋愛心理に関するブログを書いているので、良かったら遊びに来てください!

返信する
コメントありがとう。 (キーボーです。)
2006-02-17 15:09:50
 男の人のコメントが中々来なかったのでとてもうれしくて涙が出ました。

 私は女性の方が好きですが(笑)

 春の陽気のような温かい気持ちになってくれたらそれはそれでうれしいです。

 さすが、恋愛心理ですね。
返信する

コメントを投稿