恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

20.可惜夜 ~あたらよ~

2022年06月25日 | 若い恋
 居酒屋で友人たちとちょっとした集まりがあり、話していると、カウンターにいた先輩が「ちょっと店が忙しいので、駅に妹を迎えに行ってくれないか?」とバイクの鍵を渡した。
 集団はあまり好きではない。その事を察してくれたのか、先輩が気を利かせてくれたのかもしれなかった。ドアを開けると、葦簀の間から南風が吹き込んできた。
 外に止めてあったバイクに乗り込む。二人乗りでヘルメットも2個ついていた。
 妹は確か17歳くらいだったか。小学生の時は、先輩の後ろを金魚の糞みたいにくっついていて、一緒によく遊んだりもしていたが、大分久しぶりにあうが、顔は分かるのか不安だった。
 バイクで駅に着く。サラリーマンや学生が階段を下りてくる。その中に、目立っている制服姿の妹がいた。髪は金髪に染めて、ブレザーの制服は、だらしなく着ていた。小学生の時の純な妹を想像していたが、時の流れのせいだろうか。確かに、クリっとした目に面影があった。
 手を振ったが、気付かず、前にバイクを止めた。
 「よっ。久しぶりだな。小学生ぶりか。」
 「あー。兄貴は?」
 「ちょっと店で出れない状態みたいだ。」
 「あっ、そ。」と言って、バイクの後ろにまたがった。
 「ほらっ、一応ヘルメットかぶれよ。」と言って、渋々かぶった。
 一時無言。しばらくして、「こうちゃん。このままどっか連れてってくれない?」妹は俺の事をこうちゃんと昔から呼ぶ事を思い出した。学校で嫌な事でもあったのだろう。
 「よし。久しぶりに海にでもいくか。」そのまま、バイクを飛ばして海へと向かう。南風が心地よい。
 アーケードを抜けて夜の海辺に着いた。バイクのライトで照らしているが、カエルの鳴き声や鳥の鳴き声が聞こえて来て、真暗だった。
 だが、満点の星のおかげで気持ちが明るくなる。
 バイクを砂浜で止め、妹が降りて、靴を脱ぎ、靴下も脱いで、裸足になり、砂を蹴った。
 「何かあったのか?」と聞いてみる。
 「なんか嫌になっただけ。彼が浮気して、親も離婚して、兄貴は店で忙しそうだし。学校に行く意味なんてあるのかなと思って。せんこーは、校則があるだとなんだのとうるさいし。学校なんて辞めちゃおうかな。」
 「うっぷんが溜まってたんだな。そんな時は、海に向かって、大声で叫ぶといいよ。」
 「彼氏のバカヤロー。親のバカヤロー。世の中のバカヤロー。」と妹が叫ぶ。声が暗闇にかき消された。
 その時、奥の方から無数の流れ星が目の前を流れて、一瞬パッと明るくなった。
 「すげー。こうちゃん今の見た?」
 「見た見た。久しぶりに流れ星みたな。生きているとたまに良い事もあるもんだな。嫌な事もあるだろうけど、良い事を探して生きていかなきゃダメだぞ。」
 その言葉を聞いた妹が泣き出した。よほど辛い事が溜まっていたのだろう。
 二人砂浜で座って夜空を見ていた。
 もう一度、流れ星が流れてこないかと願い事をしながら、明けるのが惜しいほどの夜だった。

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