その昔ローマ皇帝の居城があった都市トリアの中心部から5kmほど離れている集落に、クロステル(修道院)シェンケ(居酒屋)というホテル・レストラン・カフェがあります。
その名前が示すように、起源は7世紀に貴族出身の尼僧のために建てられた修道院です。長い歴史の中で破壊、再建、改装等が繰り返されて、現在残っているのは回廊の一部と今はレストランの一部になっている礼拝堂だけです。回廊は現在(2017年時点で)修復中なので入れません。
表の入り口 ・ 裏の入り口
廊下 ・ 昔の礼拝堂
モーゼル川のほとりの、葉が茂ったらいい日よけになる木々が立つテラスのあるこのホテルは、建物の外観も内部も古くて床がギシギシ鳴ります。家族経営だからでしょうか、従業員にも雰囲気にもあたたかみがあるのはいいですね。天井が高くてシンプルな大きい私の部屋から、ものすごく長い船をはじめとして交通が思いのほか激しいモーゼル川が見えます。古い家で年代物の家具を配しているのは落ち着きます。しかしながら、古いベッドが寝返りのたびにギシギシと音を立てるので眠りが浅く、夜中に何度も目が覚めました。
テラス と 石炭を運ぶ長い船 ・ 客室
愛想の良いお姉さんの給仕で夕食を食べました。
レストラン
まずノンアルコールヴァイツェンビール(〈ヴァイツェン〉とはコムギ属の穀物)を頼むと、それと共に小さなパンが木の箱に入って出てきました。添えられたハーブ入りのクリームはやわらかさが足りなくて食べにくいし、美味しくありません。お通しはマグロソースがかかった煮マグロの薄切りです。これはドイツでよく前菜として供されますね。ソースは薄味すぎてアクセントがないけれど、フッとマグロの味はします。ケーパーの味が弱すぎて塩が一振り欲しいのですが、どこにもないのであきらめました。上に極薄の乾燥ワカメみたいなものがのっていますが、味があまりしないので何なのかよく分かりません。
ビールとパン ・ お通し
にぎやかで見た目に楽しい前菜は〈牛肉料理あれこれ〉です。それぞれ特徴のある味でわりと美味しくいただけましたが、全部牛肉だし冷たい料理なのである種の単調さを感じました。
前菜
メインディッシュはローストビーフのステーキです。またしても牛肉料理ですが、メニューの数が少ないのでこうなってしまいました。
「メディウムより、もう少し焼いてください。」
「メディウムプラスですね。」
ということで、ちょうどそのとおりに焼いた、ハーヴ入りバターが上にのったステーキが出てきました。少し硬めの力強い味の肉です。たいへんマイルドな西洋辛子をつけるのですが、肉にソースがかかっていないのでパサパサ感があり、少々胸やけしそうでした。しかし、大きな揚げポテトとともに結構おいしく食せたのです。いっしょに出された非常に多種の野菜が入ったミックスサラダの長いモヤシは何とも食べにくかったのですが、穏やかな味でそれぞれの野菜の味を引き立てているソースは美味でした。何のソースなのかは残念ながら私の舌では特定出来ませんでした。
ステーキ ・ ミックスサラダ
朝食の予定時間をきかれたので、宿泊者は私ひとりかな、と思っていましが、やはりそうでした。夕食と同じ部屋での朝食は平均より少し貧しいレベルでしたね。
私の朝食
帰りに乗ったタクシーの女性運転手(56歳)が自分の履歴をとうとうとしゃべりました。
「・・・・・・・・・・・・・。この辺は田舎で、観光客が少し来るのと祭りの時にわずかに賑わうだけですねん。客商売をしている人はどうやって営業してるんやろか、と思いますわ。タクシー業界も最近はチップをくれる客が少なくなってなー、最低賃金法のおかげで何とかなっている状態ですわ。」
〔2017年5月〕〔2023年6月 加筆・修正〕