牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

1月27日(月) 「月と六ペンス」 サマセット・モーム  岩波文庫

2014-01-27 09:10:41 | 日記

 本書はイギリスの作家サマセット・モームの代表作で、画家のゴーギャンをモデルにした小説である。

 モームはよほど牧師という人種が嫌いとみえる。本の最後でも牧師を批判的に描いている。それはさておき、この本は傑作だと思う。ストーリー展開が見事である。とても楽しく読むことができた。人間の暗い面をよく描いている。また芸術家の情熱をおそろしいほどに迫るように書いている。

 40歳になった主人公は、「どうしても絵を描かなければならない」と証券会社の安定した仕事をやめ、また妻子も捨て、国を出て、皆から才能がないと思われていた絵画に没頭するのである。描くことにいのちをかけた。彼は孤独だった。自分の目標へまっしぐらに進み、自分を犠牲にするだけでなく、他人をも犠牲にしていった。でも最後には自分でも納得できるような大作を完成させる。その彼の生き方を友人(知人)の「僕」という小説家が描いているという設定である。

 題名の「月」は「幻想や情熱」を「六ペンス」は「現実や因襲」をあらわしているようだ。本書は、安定した人生、世俗のしがらみ、先が見えている生き方に対するチャレンジに満ちている。人生にリスクをとるように、と。冒険することをすすめているのではないか。その先に待っているのは未知の世界だ。想像ができない世界だ。その結果、リスクをとる人はリスクをとらない人よりも創造的な仕事ができるのだと思う。特に芸術家と呼ばれる人はそうなのだろう。