芦原やすえの気まぐれ便り

原発のない町つくりなど、芦原やすえの日々の活動をご紹介します。

「環境海洋学から放射能汚染を語る」島根原発訴訟公開勉強会

2014-09-09 00:25:48 | 原発
 今日は、3号機訴訟の会で福島原発事故を検証する公開勉強会を行いました。この公開勉強会はシリーズで開催していて、今回は3回目になります。今回のテーマは福島原発で深刻化する放射能汚染水の問題です。島根原発で福島のような事故が起きれば、豊かな漁場である日本海が本当に壊滅することを想像せざるを得ないお話でした。
 
 お招きした湯浅一郎さんは、1975年呉市の通産省中国工業技術試験所に就職。専門は海洋物理学、海洋環境学、理学博士。原点は東北大学在学中の女川原発反対運動。就職後は瀬戸内の住民運動に参加、環境汚染問題に取り組む。現在はNPO法人ピースデポの代表として活躍されている方です。
 湯浅さんのお話は、以下にご紹介しますので、 お読みください。
 

 
島根原発で事故が起きたら海・川・湖はどうなる?
 
―日本海側の沿岸漁業は壊滅―
  
湯浅一郎(ピースデポ)
(1)はじめに
1)・瀬戸内海の環境研究(流れ、物質輸送、海岸生物)1975~2009年、呉。
・生活者、研究者の2重の立場で瀬戸内海の環境保全に関わった(松枯れ、芸南火電、岩国沖埋め立て・・)。
・ピースデポ、「軍事力によらない安全保障体制の構築をめざして」核軍縮・基地問題を中心に一次資料に基づく正確な情報の発信源となる。→「核兵器・核実験モニター」、「イアブック核軍縮・平和」の刊行。

2)フェルディナント・フォン・リヒトホーフェンの懸念
シルクロードの命名で知られるドイツの地理学者。1868年に米国から中国への船旅の途中、瀬戸内海を通り、次のように瀬戸内海の風景と人の営みを絶賛した。
「 広い区域に亙る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであらう。将来この地方は、世界で最も魅力のある場所のひとつとして高い評価をかち得、沢山の人を引き寄せるであらう。ここには到るところに生命と活動があり、幸福と繁栄の象徴がある。《中略》かくも長い間保たれて来たこの状態が今後も長く続かんことを私は祈る。その最大の敵は、文明と以前知らなかった欲望の出現とである」
それから約70年後(1938年)に、核分裂とそれに伴う膨大なエネルギーの放出が発見され、核兵器と核発電(原発)が作り出され、社会に定着していった。その流れ全体を問うことが人類に課せられた急務である。
そして、リヒトホーフェンの懸念から一世紀と少しを経た1974年、島根原発(中国電力)が稼動を始めた。見方によっては核分裂生成物(「死の灰」)製造工場とも言うべきものが出現した。これは、リヒトホーフェンが、将来の最大の敵とした「以前知らなかった欲望の出現」そのものである。
3)海・川・湖の汚染という観点から福島事故の結果から考える。

(2)事故から2年半後に表面化した「汚染水処理」問題
1)はじめに ―港湾内魚類の超高濃度汚染―  13年3月16日付「福島民報」記事
「アイナメ74万ベクレル 福島第一原発港湾―  東京電力は15日、福島第一原発の港湾内で捕獲したアイナメから、魚類では過去最大値となる1キロ当たり74万ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。これまでの最大値は、福島第一原発の港湾内で捕獲したアイナメの51万ベクレルだった。」
→原発から放射能汚染水が出続けていることを示唆(東電は、汚染水が漏洩していたことを知っていたはず)。10万ベクレルを越える魚がどのようにして生まれたのかの説明は、国、東電など誰もしていない。
2)経過 ;このころから原発からの「汚染水の海洋への漏えい」がにわかに政治課題に。
*地下貯蔵タンクからの漏水(4月5日)に始まり、海への漏えいを認めざるを得ない状況に。       *トレンチなどの滞留水が海へ300トン流出 (13年8月7日、第31回原子力災害対策本部);       地下水の流れに関する試算発表。「1~4号機には一日約千トンの地下水流入。このうち約400トンが原子炉建屋に流入。残りの一部が、トレンチ内の汚染水に触れて、汚染水として海に流出している」。
*6月から7月にかけ、1~4号機取水口付近の地下水からトリチウム、ストロンチウムなど検出。
「地下水の水位変動が海の潮汐変動に応答している。潮汐に対応して海へと出ていくはずである。」
ただし、「港湾外への影響はほとんど見られない」と主張(東電)。分析精度が悪いため見えないだけ。1ベクレル/kg。普通は1Bq/立方m。東電は、参議院選挙の直前に認識していたが、発表は選挙直後。
                       1日      2年
流出量(東電の試算);トリチウム     500億Bq    約40兆Bq
セシウム     40-200億Bq    約20兆Bq
ストロンチウム  30-100億Bq    約10兆Bq
*汚染水貯蔵タンクからの漏えい
8月19日、鋼板をボルトで締めただけの「フランジ型」地上タンクから汚染水300トンが漏えい。耐用年数5年なのに。8月28日、原子力規制委員会が国際原子力事象評価尺度(INES)の暫定評価を8段階の上から5番目に当たる「レベル3」(重大な異常事象)に引き上げた。

3)対症療法でしかない政府の政策パッケージ
この混迷により2020年オリンピック開催地の最終選考への悪影響を懸念して、9月3日、政府は、原子力災害対策本部・原子力防災会議合同会議を開催し、「汚染水問題に関する基本方針」を発表。         ①汚染源を「取り除く」;原子炉建屋地下等のトレンチ内に滞留する高濃度汚染水を除去し、また、国費でより高性能な多核種除去設備(ALPS)を整備(150億円)して高濃度汚染水の浄化を加速。
②汚染源に「近づけない」方策;建屋を囲む凍土方式の遮水壁の設置(320億円)等を国費で行う。
③汚染水を「漏らさない」ため;水ガラスによる壁の設置や、海側遮水壁の設置等を多重的に行う。
抜本的対策とするが、実際は対症療法の積み上げ。9月7日のオリンピック最終選考会で安倍首相は「状況はコントロールされている」、「汚染は原発港湾内0.3平方キロ内に閉じ込めている」と言い切る。
4)根本問題をはぐらかす東電の水処理対策  ―地下水の流入が本質ではないー
東電や政府は、地下水の流入対策が根本問題のように言うが、地下水は、副次的な要素。本質は、原子炉、とりわけ溶け落ちた燃料デブリの存在状態や、それに即した冷却作業の現状に関わること。
事故発生当時、それぞれの原子炉で何が起きていたのか?を思い起こすべき。例えば1号機については、国会事故調報告書165ページに以下の記述がある。
「溶融炉心の格納容器床面への落下;-1号機では、12日2時45分までには原子炉圧力容器の底部付近に破損が生じた。流動性に富み、密度の大きな溶融炉心の大部分は、破損口の拡大とともに、1時間程度で格納容器底部に落下したと推定される。落下した溶融炉心の(中略)大部分はコンクリートを熱分解しながら下方に向けて移動したと思われる。しかし、その大部分が格納容器床面に落下したと考えられる溶融燃料が、現在、どこにどのような状態で存在しているのかについてはなにもわかっていない。」
 2,3号機についても事情は変わらない。溶けた燃料の所在と存在状態がわからないまま、崩壊熱を出し続けている。冷却系統の損傷個所は、いまだ不明で、補修など成しうるはずもない。事故発生時に冷却系統を閉じることができなかった状況は、現在も継続している。現在の冷却作業も、閉じた循環系を作れず、滞留水の一部が、わからないところから漏えいしている。これが問題の本質である。この系統的な記述はない。
 
5)「循環冷却ライン」でしかない冷却システム
―冷却用の水は滞留汚染水を使用し、再び滞留水に入るー「廃炉中長期ロードマップ」から
滞留水の水収支:1~4号機の原子炉建屋、及びタービン建屋の床面に推定で約7.3万トンの滞留水が存在(海水配管トレンチの滞留水とも繋がっている可能性が高い)。そこへ地下水が1日に約400トン流入。
タービン建屋にたまっている滞留水から、1日、約800トンの汚染水を取りこみ、セシウム、塩分を除去する装置を通過して淡水とする。その内、約400トンを冷却用として原子炉に注水する。原子炉に入り燃料デブリと接触して更に汚染された水は、再び原子炉建屋やタービン建屋にたまっていく。
残りの約400トンは、陸上の中低レベルの一時貯蔵タンクにためた後、ALPSで処理後、貯蔵タンクにためていく。2.5日で1基づつ増えていく。初めから閉じて循環する冷却系統は考えられず、注水したものは、すべてそのまま滞留水に入っていくことが前提。だから循環系でなく「注水ライン」なのだ。    
建屋に流入してくる約400トン/日の地下水が問題となるのは、ここにおいてである。1日に850トンの地下水をくみ上げていたサブドレインが地震で使用困難に陥り、地下水の多くが建屋地下の滞留水に流入するようになった。毎日1000トンもの地下水が原発建屋に押しよせ、地下水400トンは、日々発生する汚染水と混じって、滞留水は増え続けている。
地下水のバイパス計画の妥当性?-貯蔵タンクより下流側の井戸から取水する限りにおいて、タンクなどからの汚染水の流入の危険性が伴う。何故、より上流側で取らないのか?→本当の狙いは、貯蔵タンクにたまっていく汚染水の放流のきっかけを作りたいという意志?
最大の問題=滞留水における放射性物質の収支が示されない; これでは、滞留水の放射能濃度がどう低下していくのかわからない。冷却に伴い、冷却水に混入する相当量の放射性物質が生成される。セシウム除去装置により約400トンを日々処理していることで除去される放射能量(トリチウムは無視)、その差し引きが日々の放射性物質の収支になる。現時点で滞留水全体が有している放射能量と比べた時、その処理量は、どのくらいの割合を占めるのか。何日、何年あれば放射能をゼロにできるのか?この見通しが見えない。中長期ロードマップには2020年内に「建屋内の滞留水処理の完了」となっている(あくまでも希望的観測)。
 13年夏に大きな課題となったのは、第1=原子炉建屋やタービン建屋、更には海水配管トレンチなどの滞留水が、1日に約300トン、海に流出している問題。この海へのルートは、一つとは考えにくく、トレンチなどに流入し、砕石を通じて地下水系に入っているものなど、いくつものルートがあるはず。

第2=地上タンクに既に相当量が貯蔵され、少なくとも2年は状況が変わらないまま、2.5日で1基の割りで増え続けるタンク群がある。そこからの汚染水漏えい問題は、いつ表面化するかわからない。
東電、政府の「根本的な対策」は、この問題にまったく触れていない。問題の根源は、1~3号機を中心に今だに2000度C以上の熱を発している溶融燃料の塊が、存在状態も不明のまま、原子炉内に現存していること自体にある。溶融燃料の存在が、冷却系統を寸断し、閉じて循環できる冷却作業を拒み続けている。

(3)世界三大漁場を汚染した福島事故 ―事故発生直後に放出された膨大な放射能は広く分散―
1) 福島事故による汚染と幾重もの生活権、人権侵害
①強制立ち退きを強いられている地域。故郷を奪われる。生活とその基盤そのものを奪われている。
②平常時の数十倍の放射線が立ち込めている所での暮らしをしいられる人々。
③農漁業労働ができない、or労働の無意味化を強いられる。④被曝前提の労働を人海戦術で継続する。
⑤自然環境汚染。時空間的な境目が不鮮明な形で、放射能汚染が浸みこむ。
⑥世界三大漁場を台なしにしている。
憲法11条、基本的人権、25条、健康で文化的な生活を営む権利、生存権の侵害。

2)放射能の放出量
今「汚染水」で問題になっている量は、事故直後の放出量のおよそ104乗分の1。現在は何十兆レベル。当時は1~10京レベル。

3)海洋の放射能汚染の実態
事故発生直後から数カ月に放出された膨大な放射性物質群は、環境中に移動、拡散し、生態系の隅々に浸透している。居場所を移動しているだけ(大気や水中にはほとんどなくなる)。「汚染水問題」に関心を持つことに加え、より以上に事故直後、放出された物質の行方に思いをはせるべきである。

a) 海水
・放射性セシウムは、原発から20km内では、初めの3カ月間、1リットル当たり100ベクレルを下ることはなく、1ベクレル以下になるのに5カ月以上かかっている。1リットル当たり1ベクレルとは、1立方メートル当たり1000ベクレル。事故前の1立方メートル当り1~2ベクレルと比べ実に500倍以上で相当に高い。
・福島原発に近い大陸棚以浅の海域の海水中濃度は、通常(2~3Bq/m3)の数十~数百倍。  
・海水の分析―1000倍違う。 東電のデータは全てBq/l.国際的には、Bq/立方m。
・現在も、福島第1沖30kmの海水中のセシウム濃度は下げ止まり=原発からの供給が続いている。

b)海底土
・福島沖、茨城県の沖が高い-仙台湾の北東の入り口も。
・当時の海況に規定され、原発の北側よりも南側の沿岸域が高濃度。当時、黒潮と親潮の境目は銚子沖に東に向けて存在。3月末には黒潮勢力が増して「いわき沖」あたりまで北上。福島沖には親潮系の低温、低塩分水がゆっくりと南下。原発から出た大半は、その流れに乗ってゆっくり南下し、茨城県側に入った辺りで大規模な潮目に遭遇する。潮目では、南北から水が集まり、そこで沈降する。プランクトンが集まり、それを求める小魚、高級魚が集まる。その結果、暖流、寒流を問わず、様々な魚種が集まるきわめてよい漁場となる。
 放射能は、海水に運ばれながら潮境まで達した後、沈降流に乗って、相当量が海底に貯まっていく。その結果が、茨城県沖のように、相当離れているにもかかわらず海底土の高濃度汚染が出現。

c)水産生物
・福島県―相馬双葉漁協,いわき漁協などがタコなどの大陸棚より沖合での試験操業を再開したのを除き、事故から3年たつ今も操業自粛が続いている。
・宮城県から茨城県までースズキ、クロダイなどでは出荷制限を継続。
・11年7月~9月、汚染はピークに達し、最多の48種の水産生物がセシウムの基準値1kg当たり100ベクレルを超えていた。そのなかの29種は底層性魚、12種が暫定規制値500ベクレル超。基準値を越える種数は、事故から1年後、31(16)種、2年後には19(5)へと減少。カッコ内は暫定規制値越。
・事故直後、海水汚染により高濃度に汚染されたのはコウナゴ(イカナゴ幼生)に代表される表層性魚。
コウナゴは11年4~5月、原発から南方へ100km圏内を中心に汚染。最高値久之浜沖14400ベクレル/kg。
・中層性魚で雑食性のスズキ、クロダイでは、基準値を超えるものが3年たっても広域的に存在。特にスズキは、最高値が2100ベクレルで、金華山から銚子沖までの約350kmにわたり基準値を超え、500ベクレルを超える範囲も非常に広い。クロダイも、1年を超えてから暫定規制値を超えるもの。     
・アイナメ、メバルなど底層性魚で定着性の強いものは、福島沖を中心に基準値を超えるものが多数、存在。現在も続く福島第1原発の港湾内で10万ベクレルを超える超高濃度の魚種は、ほとんどこの仲間。
・最高濃度が出る地点は、多くの種で原発の南側の近隣(広野~四倉)。南流が卓越していたので当然の結果。アイナメ、メバル類を始め多くの魚種がこれに該当し、新地から北茨城までの約120kmに基準値を超えるものが多数出現。その中で、クロダイ、マアジ、ヒラメ、ヌマガレイ、マダラなどは、原発の北側の新地から原町辺りに最高値。これらは、回遊性があるとか、自力で動く傾向。
・基準値は、食品による内部被曝の上限を年間1ミリ・シーベルトとする考え方に基く。元々、ラドン、宇宙線、カリウム40による自然放射線の影響が否応なく存在するので、上乗せされる被曝はできる限り抑えるべし。長山は、現行の線量限度は原爆被災者の追跡調査研究の、もっぱら外部被曝によるものであるなど多くの問題があり、J・W・ゴフマンの考え方で現行の10分の1に抑えるべきとする。それを採れば、一般食品は1kg当たりセシウム10ベクレルが基準値に。

d)生物への生理的、遺伝的影響
本質的に問題なのは、放射能汚染による個々の生物の繁殖力の低下、遺伝的変化、そして、それらが織りなす食物連鎖構造への長期的な影響である。実際には、セシウムの他にもストロンチウム、トリチウム、さらにはプルトニウム、ヨウ素、テルル、テクノチウムなど多様な核種が存在。ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもち、体内に摂取されると、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ長く残留する。トリチウムは、天然にも存在する人工放射能の一つで、放出されるベータ線は微弱なので無害といわれ続けてきたが、カナダではトリチウムによる健康損傷と思われるものが発生している。小さなエネルギーでも体の中で継続的に電離エネルギーを出し続ければ、細胞損傷を起こし、免疫機能の低下などの要因になると言われる。それらは、同時に人間や他のあらゆる生物に降り注ぎ、浸透している。その相乗的な影響が、実際の被害となる。これらの物質が、魚類や無脊椎動物に摂取されることで、細胞や遺伝子を損傷し、癌や遺伝性障害を引き起こす可能性はある。しかも、これらは同時に重なり合うことによる相乗的な影響をもたらすかもしれない。その推移は今後の課題である。
 繁殖力の低下や遺伝的変化、そして、それらが織りなす食物連鎖構造への長期的な影響に関して参考になるのは、チェルノブイリ原発事故に関する膨大な調査である。ロシア語の文献も含めて吟味したヤブロコフらの総合的な報告書から、いくつか引用しておきたい。
・「コイの繁殖機能と、精子および卵に蓄積した放射性核種の濃度には相関が見られた」
・「ベラルーシの汚染地域では汚染度の高い湖沼ほど、コイの個体群中における染色体異常とゲノム突然変異の出現率が優位に高い」。
・「チェルノブイリ原発の冷却水用貯水池で飼われていたハクレンの種畜(種オス)群において、数世代のうちに精液の量と濃度が有意に低下し、精巣には壊滅的な変化が認められた」。
どれも淡水魚の事例であるが、海においても基本的には同じ状況のはずである。これらの症状が、生態系に対する遺伝的影響にまで、どう及んでいくのかが懸念される。
e)複層的な海洋汚染 
第1次影響海域:福島第1原発から南方向の福島県沖、茨城県北部―最も高濃度な汚染
第2次:第1次の周囲、原発から北へ50km、南は120kmの、南北170km海域。
第3次:スズキ、クロダイは魚自身の遊泳行動が主。数種の回遊魚(マダラ、ヒラメ、マサバ、スケトウダラ)北海道東部から三陸沿岸の広い範囲で、中低濃度汚染。
第4次:黒潮続流に乗って、太平洋規模で拡散したものの影響(グローバルな汚染)。

*事故は、天然の恵みの場である世界三大漁場の一つを汚染した。
太陽エネルギーの不均一、地球自転でできる太平洋亜熱帯循環流などのぶつかり合う場。大洋の西北端。
黒潮と親潮がぶつかる潮境(フロント)(潮目が複雑に分布)。レーチェル・カーソン言うところの惑星海流が作る天然の恵みの場に大量の放射能を垂れ流した。
・三陸沖漁場に沿って、南北にきれいに核施設が並んでいるロケーションの異常さ?
=一次産業軽視の象徴。持続可能な生存にとって何が重要かが見えない現代文明の愚かしさと犯罪性。

(4)島根原発
 島根原発は、唯一県庁所在地がある町に位置し、人口密集地が極めて近い。
沸騰水型軽水炉(BWR)3基
1号機、 46.0万kw(1974年3月29日稼動)~米原子力空母の出力は、これに相当。
2号機、 82.0万kw(1989年2月10日)
3号機、137.3万kw  電気出力 合計265.3万kw。
現時点に島根原発にある核分裂生成物(「死の灰」)の存在量:仮に1年間稼動した状態とすれば広島型原爆1300発分と使用済み燃料集合体に含まれる数年分の「死の灰」が貯蔵されている。

(5)島根原発で福島のような事故が起きたら
福島原発事故以降、日本の原子力規制行政は、「いかなる原発も苛酷事故を起こす可能性がある」という方向に劇的に方針転換。その考え方にのっとり、原子力規制庁は、自治体が地域防災計画を策定する際の参考として、福島第1原発を除く16原発で「放射性物質の拡散シミュレーション」を行い、2012年12月、公表。防災対策を重点的に充実すべき地域の目安として原子力施設から8~10kmであったものを、概ね30kmに変更するとの方針に基づく。事故がおきた時の放射能の拡散について、ひとつの目安を与えている。前提として、(1)福島第1原発1~3号機と同量の放射性物質が放出された場合、(2)すべての原子炉で炉心溶融が起きた場合の2つ試算。島根原発において規制委員会が想定した事態が発生した時、いかなる状態が出現し、山陰の海・川・湖はどうなるのか考える。

1) 海へ影響をもたらす4つのプロセス
福島事故からの類推を参考にすると、海へ影響をもたらすプロセスには以下が考えられる。
 a)大気に放出されたのち、海に降下する
 b)原発付近から海への直接的な漏出
 c)陸への降下物の河川、地下水による海への輸送
d)海底に堆積した汚染物質が2次汚染源となる

a)大気経由―原子力規制委員会の拡散シミュレーションを参考に考える。2011年1年分の気象データを使用し、各原発で16方位の風向につき放射性物質が扇形、ないし舌状に広がることを想定(図)。原発からの距離に対応した平均的な被曝の実効線量に関するグラフを使用し、国際原子力機関(IAEA)が定める避難の判断基準(事故後1週間の内部・外部被ばくの積算線量が計100ミリシーベルト)に達する最も遠い地点を求め、地図に表している。島根原発では、頻度が高い方向は2つある。これは海陸風系に対応していると考えられる。まず北北西(NNW)24%、北(N)13%、北西(NW)8%,この3つで45%。これらは海へ降下する。次

図;島根原発に関する「拡散シュミレーション試算結果」(原子力規制庁(2012)より)

いで東南東(ESE)14%、南東(SE)12%,南南東(SSE)12%。この3つで38%になる。この風向は松江市街地など人口が多い地域に向かう風で、宍道湖や中の海も含まれる。これが4割弱ある。年間平均の風の分布から見れば、ほぼ半分が日本海に降下し、その場の潮流により拡散していく。残り半分は、南東方向を中心に陸側に拡散し、風向きに応じ帯状に降下する。中国山地に降下した物質は、河川や湖沼・ダムを汚染し、一部は海に流出する。
もう一つは偏西風の影響で東に向けて移動する。東に100kmの鳥取、東南東200kmの神戸と輸送されていくであろう。一部は、東日本や、ひいてはグローバルな大気大循環に乗り広範囲に拡散するものもある。

b)原発から海へ直接的に漏出―原発サイトからは、溶融燃料に直接触れた高濃度の汚染水が流出する。特に平地の少ない島根原発では、汚染水を一時貯蔵するタンク群を建設する土地の確保もできず、福島第1原発以上に多くの汚染水が海に流出する事態になりかねない。
現実の事故では、a),b)が同時に重なったものとして現出することになる。

c)河川、湖沼の底質汚染と河川・地下水による海への輸送  
事故時の気象条件に対応して、山間部などに沿って高濃度の汚染地帯ができる。一旦、落ち着いた分布も、雨に溶け、風により輸送されることで、その分布は変化する。その過程で、河川や湖沼を汚染しつつ、最終的には海に流入する。アユ、ヤマメ、イワナ、ウグイ、ワカサギ、ウナギなど内水面漁業の出荷停止や操業自粛は、島根県、鳥取県をはじめ中四国、関西、九州の広域に及ぶ可能性が大きい。
例えば中国山脈にそって東西に高濃度の地帯ができれば、雨に溶け、風に運ばれて、結果として日本海、瀬戸内海が汚染される。水源地が汚染されれば、市民の飲み水が危機にひんする。ひとえに事故発生時の気象条件に左右される。

d)2次汚染源となる海底の汚染
対馬暖流によりかなり早く日本海各地の沿岸に運ばれた放射能の一部は、途中海底に堆積していく。沈降流が卓越する潮境域では、集中して堆積が促進される場合もありうる。海底土に堆積した放射能は、水温上昇などに伴い、海底泥から海水へと再溶出し、じわじわと海水中に浸透していく可能性が高く二次汚染源となる。

2) 海洋への影響
a) 海水
放射能は、海に入ったあとは、海水に溶けたり、また微粒子に付着して、流れに伴って海水中を移動、拡散していく。島根沖は対馬暖流の影響が強く東向きの流れが支配的。約1ノット(毎時1854m)の流れに乗ると、44km/日、1カ月で1300kmも移動する。対馬暖流に沿って、あまり水平方向には拡散しないまま、鳥取、福井、新潟、山形、秋田、青森の沿岸域にまで影響を及ぼす可能性が高い。また、いくつかの渦のような構造も見られ、この渦にトラップされたものは、ここで停滞するものも出てくる。日本海の相当広い範囲を汚染することは必至である。これは、ロシア、韓国、北朝鮮への越境汚染と言う大きな国際問題になりうる。

b) 海底土
 生態系構造の基本をなす低次生態系の長期汚染になるため、生態系全体が、いつまでも汚染を引きずる結果をもたらす。海底を生息の場とし、海底付近の小動物を捕食する魚類にとっては、きわめて深刻な事態が想定される。

c) 海洋生物(水産)、海洋生態系への影響
海では、それぞれの空間を単位に、無機的自然と生物群集とで構成する生態系が保持されている。放射能の影響は食物連鎖構造のあらゆる階層に同時的に入り込み、縫い目のない織物(シームレス)としての自然に浸透していく。
 島根原発から放射能が流出したとすると、日本海の全ての魚種に汚染は浸透していく。イカナゴやシラス(カタクチイワシ)など表層性の魚類が汚染される。次いで、スズキ、クロダイ、タチウオなどの中層性魚は高濃度に汚染したものが、広域的に出現するであろう。さらに福島であったように、3カ月以上がたつにつれ、アイナメ、ヒラメ、メバルといった底層性魚も、長期にわたる汚染を覚悟せねばならない。
福島第1原発港湾内でアイナメやシロメバルの1kg当り10万ベクレルを超える超高濃度汚染魚が相次いで出現したメカニズム、その生態系への影響を考察することは重要な意味を持つ。これは、メルトダウンし、原子炉や格納容器内に分散した溶融燃料の存在状態が、いまだつかめないまま、冷却作業を継続せねばならない構図の中で、2013年夏に表面化した福島第1原発から汚染水が漏えいし続けているという問題に起因する。高濃度に汚染した水が流れ続け、港湾の閉鎖性と相まっての食物連鎖に伴う濃縮過程が関与していると考えざるを得ない。

3)川・湖への影響
 拡散予測の約40%は、南東方向に向かう帯状のプルームとして松江市を中心に分布する。30km圏内であるから、福島から類推すれば強制避難区域に入る可能性が高い。宍道湖や中の海は、湖の汚染と言うより、そもそも人が立ち入れない場所になる。宍道湖と中の海は汽水湖で、浅い。海水交換が極めて悪い地形的特性を持つ。大気から降下した放射能は、湖に停滞し、すぐに湖底まで到達し、プランクトンを始め、生態系の全体が汚染される。ヤマトシジミはじめ湖の漁業生物は大打撃を受ける。中の海は、日本海からの海水が下層から浸入し、スズキ、ヒラメ、カレイなども生息しているようであるが、これらは、特に高濃度の汚染の長期化が懸念される。
・陸に降下する放射能の分布に対応して、河川やダム、湖の汚染度は決まっていく。福島から推測すれば、中四国、関西、九州の各県で、基準値を超える淡水魚(アユ、ヤマメなど)が出て、その限りにおいて、長期にわたる出荷停止は避けられない。

4) 事故が発生すれば手がつけられない    
大気からの降下と、原発からの直接的な流出に伴い、海に入った放射能は、対馬暖流によって、かなり早く日本海沿岸沖に輸送される。対馬暖流の一方向の流れに依存するので、福島と比べても移動速度や移動距離は5倍以上になるのではないか。海水の汚染が深刻であれば、放射性セシウムが1kg当り基準値100ベクレルを超える水産生物が、あらゆる種にわたって出続ける可能性が高い。それは、即ち、現在の福島県沖がそうであるように、多くの種で操業自粛や出荷停止が続き、基本的に漁業ができない事態が継続する。さらに福島事故から推測すると、スズキ、クロダイ、ヒラメなどを中心に日本海の広い範囲で出荷停止が継続する。
セシウム、ストロンチウムの半減期は約30年。30年で半分、60年たっても4分の1が残る。海水は、常に南方から供給され交換するが、海底土に堆積したものは長期的な汚染源となる。少なくとも60年は漁業操業に影響をもたらす。農漁業の一世代はせいぜい30~40年であるから、沿岸漁業の技術、人材、歴史、伝統は消失してしまう。これは、大げさでなく日本海における水産業の壊滅を意味する。以上、島根原発で福島並みの事故が起きたとき、放射能汚染は、多様で、広大で、自然に深くしみ込み、海、川、湖が深刻な打撃を受ける。
たった一つの工場の事故で放射能汚染が幾重もの生活権、人権侵害を起こし、社会全体を混迷させることは、福島事故からも容易に想像できる。そうした中で、事故が起きたときのことを前提にして、従来10km程度であったものを30kmに広げて防災計画を立てたとしても、そこにどれほどの意味があるのか。
第1―原子力規制委員会が、「強制立ち退きを強いる」避難地域策定の参考資料を提供し、地方自治体に計画を策定させるというシステムの不当性。地域防災計画を策定し、避難計画を作ること自体が、避難を強いられる人々の生存権と人権を軽視。避難計画の策定は、そこで生きている人々の生活権を否定することである。
第2は、原発の大事故による被害をあまりにも過小評価。海の汚染だけでも、広大な領域で、海の環境、生態系をくまなく汚染。島根で大事故があれば、地域防災計画の30km圏などとは関係なく、日本海の漁業は、より広範囲で壊滅的な被害を受け、山陰文化圏の死を意味する。
大飯原発訴訟判決で述べられたように、福島原発事故については、「原子力委員会委員長が福島第1原発から250km圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討した」。日本海への影響は、その比ではない。   
これは、憲法11条、基本的人権、第25条、健康で文化的な生活を営む権利の侵害を前提にした政策。防災計画とか避難計画など策定しようがない。ひとたび事故になれば人知を超えた手に負えないもの。事故は起きてはならない。そのためには、原発依存を止めるしかない。

(6)おわりに  ―生命の母・海からの警告―
・海洋とは? 地球上に生命をもたらし、保持してきた基盤。同時に多様な生命体が生きる場である。
・そもそも地球上に生命が生まれてきた条件とは?
 a)太陽との適度な距離→表面温度→水が3態に変化し、循環できる。
  浅い海で、穏やかな化学反応の末、生命体は登場してきた。生命の母としての海洋。
b)大きさ(直径)→重力の大きさ→大気・海洋系を保持
 c)磁場―太陽からの放射線などを遮る能力 
我が太陽系には、こうした条件を備えた星が1個あった。地球である。これに40数億年という悠久の時間の経過が加わって、地球上の多様な生命系の保持が可能になっている。奇跡的なこと。

・太陽エネルギーは、核融合により生み出される。太陽を構成するガスは、水素やヘリウムの原子核や電子が分離したプラズマ状態にあり、これらは太陽の外に向かって吹きだしている=太陽風。太陽風は、太陽系の全体を覆っており、宇宙空間にはおびただしい量の放射線が飛び交っている。地球創生のころは地球表面にまで直接、到達していた。今日の地球には、地球内部の外核の運動により磁場が形成されている。磁場を中心に、大気、及び海洋が多重のバリアーとなり、電気を帯びた粒子の地表への流入を食い止め、放射線が地表面に到達することを極力防いでいる。おかげで生命体は、生理的及び生殖活動を保持することができるのである。
ところが、ここ70年来、人類は、せっかく地球が地表に到達する放射線を極力少なくしてくれていることを知りつつ、核実験や原発により、わざわざ地上に放射性物質を生み出す活動を進めてきた。地球が総力を挙げて、放射線から生命を守る環境を作り出しているのに、最後に登場した生物が、生きる場の只中で放射性物質を作り始めたのである。これが、地球を外から眺めたときの現在のありようである。なんとも愚かしい構図である。

・人類は、海洋を含め、自然は無尽蔵の場であると勘違いしている。膨大な海水量を過信して、海を毒壺、ゴミ捨て場とみなしてきた。しかし、海は、地球上に生命をもたらし、保持してきた基盤であり、同時に多様な生命体が生きる場である。福島事故では、世界三大漁場の中で最も優秀な三陸・常磐沖漁場を汚染した。
リヒトホーフェンが、瀬戸内海を見て、その将来を懸念し、「その最大の敵は、文明と以前知らなかった欲望の出現とである」と懸念したことを想い起こしたい。島根原発で事故が起きれば、太陽エネルギーと水の循環が作りだす豊穣の海、川、湖を台無しにする。20世紀初めの数十年間、人類は、まさに、それまで知ることのなかった「核エネルギー、人工的な合成物質や遺伝子」などの応用を始めた。現代(1930年代以降)の人類は、自然の物質循環に乗らない人工毒物を大量に生みだし、それに依存する社会を形成している。核エネルギー利用(原発、核兵器)は、その典型。原発は、ひとたび事故を起こせば、途方もない事態に至ることが、福島やチェルノブイリ事故で実証されている。今は、産業革命以降の人類の歩みを省察すべきときである。
人類には、生命の母・海からの警告に真摯に向き合うことが求められている。私には、<これ以上、海を毒壺にするな>という海のうめき声が聞こえる気がしてならない。現代文明の脆弱な社会構造を振り出しに戻ってみなおすべき時である。そうした観点からみても、原発は、稼動させることなく、このまま廃炉に向かうことこそが、リヒトホーフェンの懸念に対する現代人からのせめてもの、そして最良の答えである。


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