芦原やすえの気まぐれ便り

原発のない町つくりなど、芦原やすえの日々の活動をご紹介します。

7月9日 島根原発3号機訴訟弁論

2018-07-13 22:33:31 | 原発
 この日は、中国電力が3号機の適合性審査申請のために、島根県と松江市に事前了解願いを持って来てから初めての弁論となりました。
私たち原告側からは、「島根原発3号機稼働に向けた手続きを行ってはならない」とする準備書面(21)を提出し、国側は津波審査ガイドに関する準備書面を提出してきました。また、午前中には1,2号機の差し止め訴訟控訴審の進行協議もあり、この日は一日中、裁判詰めの状態でした。
 以下、原告側から提出した準備書面を掲載します。少し長文になりますが、3号機を動かさなければならなという中国電力の主張には根拠がないことを訴えています。


平成25年(行ウ)第5号 島根原子力発電所3号機原子炉設置変更許可処分無効確認等請求事件
原 告  井 口 隆 史 外427名
被 告  国
平成25年(ワ)第84号 島根原子力発電所3号機運転差し止め請求事件
原 告  井 口 隆 史 外427名
被 告  中国電力株式会社


準 備 書 面(21)

―島根原発3号機の稼働に向けた手続きを行ってはならない―


            
2018(平成30)年7月2日

松江地方裁判所 民事部  御中

                                                        原告ら訴訟代理人
                 
弁 護 士   妻  波  俊 一 郎


                 
同      安  田  壽  朗


                 
同      岡  崎  由 美 子

                  
                 
同      水  野  彰  子

                                                                   ほか
 



1 はじめに(島根原発3号機稼働に向けた手続き開始の経緯)
⑴ 2013(平成25)年12月25日、被告中国電力は、原子力規制委員会に対し、島根原発2号機について、新規制基準への適合のための設置変更許可の申請を行った(以下、新規制基準への適合性に係る審査につき、「適合性審査」という。)。
島根原発2号機の適合性審査に関しては、これまで94回の審査会合が行われてきた。
とりわけ、島根原発の安全性に大きな影響を及ぼす活断層の評価と、それに基づき耐震設計に用いる最大の揺れとして策定される基準地震動の評価は、審査の中でも最も重要な位置を占めている。被告中国電力は、「宍道断層」の長さの評価を度々延長し、松江市鹿島町の女島から同市美保関町東方沖合までの39kmとする旨、審査会合の場で説明した。そして、被告中国電力は、この活断層評価に基づく基準地震動について、宍道断層と鳥取沖の東西二つの断層との連動を否定し、820galであると過小評価した。しかるに、原子力規制委員会は2018(平成30)年6月1日開催の第94回の審査会合において、被告中国電力の上記評価を「おおむね妥当」とした。
 ⑵ 被告中国電力は、かねてより、島根原発2号機の活断層の評価と基準地震動評価が定まれば、島根原発3号機にも同じ評価が適応できるとして、そのときには島根原発3号機の適合性審査を申請する予定であることを述べてきた。
被告中国電力は、前記のとおり、島根原発2号機における基準地震動の評価が定まったとして、2018(平成30)年5月22日、島根原発3号機について、新規制基準への適合性審査を申請することについて、島根県及び松江市に対して、「島根原子力発電所周辺地域住民の安全確保等に関する協定」(以下、略して「安全協定」という)に基づく事前了解願を提出した。
 ⑶ 2011(平成23)年に発生した福島第一原発事故においては、原発から50㎞~60㎞離れた福島県飯館村まで避難を余儀なくされたことから、原子力災害時における重点的に対策を取るべき範囲が、それまでの原発周辺の8~10㎞圏からおおむね30km圏へと拡大された。これを受けて、原発周辺30km圏内にある自治体からは立地自治体同様の安全協定の締結を求める動きが高まっていった。
 島根原発周辺の自治体では、これまで鳥取県、同米子市と境港市、出雲市、雲南市、安来市が被告中国電力と安全協定を締結しているが、立地自治体(島根県及び松江市)とは異なり、立入調査権がないこと、原発の再稼働など重要な内容の変更等における事前了解権がないことなど、差別的な内容となっている。
被告中国電力は、島根原発3号機の適合性審査申請に関して、松江市と島根県には事前了解願いを行ったものの、その他の周辺自治体に対しては、申請することの「報告」を行い、周辺自治体は、意見を述べることができるのみにとどまっている。

2 被告中国電力が根拠とする島根原発3号機の必要性
 被告中国電力は、2018(平成30)年5月22日の事前了解願い以降、島根県原子力発電所周辺環境安全対策協議会や各自治体における住民説明会において、島根原発3号機の必要性について、概要、下記のとおり、説明している。(被告中国電力「島根原子力発電所3号機 新規制基準に係る適合性申請について」平成30年6月6日)

① 2014(平成26)年に策定された第4次エネルギー基本計画において、原子力は「重要なベースロード電源」と位置付けられ、2030年度のエネルギーミックスの中で比率を20%程度としている。
② 東日本大震災以降停止している既設原子力については、基準に適合したものは稼働を進めるとしており、既に許可を受けた島根3号機は既設として位置づけられている。
③ 国の政策を踏まえ、安全確保を前提に安定供給、経済性、環境への適合を同時達成できるよう、原子力、火力、再生可能エネルギーそれぞれの特性を活かし、バランスのとれた電源構成の構築に取り組んでいる。現状は、原子力の停止により供給力の大部分を火力に依存しており、火力の高経年化、C02削減、電気料金安定化(燃料価格変動といった影響の低減)といった課題への対応を行っていく必要がある。
そのために、三隅2号機(石炭火力)建設による経年火力への代替を進めるとともに、再エネ導入拡大に努めているが、課題解決に向けて安全確保を前提とした原子力の早期稼働が必要不可欠である。

 原告らは、本準備書面において、上記被告中国電力が島根原発3号機の稼働を求める必要があるとする根拠が、以下のように極めて不当な主張であることを述べる。

3 福島第一原発事故による重大な被害を真摯に受け止めれば、原子力を「重要なベースロード電源」として選択することは誤りである
 ⑴ 実現性のない「エネルギー基本計画」
 第4次エネルギー基本計画については、現在、改定が進められており、第5次の計画(案)が示され、今夏には閣議決定が行われる予定である。
第5次エネルギー基本計画案の中では、第4次エネルギー計画が示した2030年度における電源構成を、原子力20%~22%、再生可能エネルギー22%~24%、石炭26%、LNG(液化天然ガス)27%、石油3%とする目標値はそのまま維持されている。
 原発を重要なベースロード電源と位置付けたこの目標を達成するには、2030年には原発30基程度の稼働が必要とされる。「40年廃炉の原則」(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第43条の3の32第1項)を厳格に運用すると、2030年末の時点で、30基が廃炉となり、残るのは、18基1891万3000kWだけである。60年運転(同第2項)やリプレイスをし、この18基に島根原発3号機と大間原発(電源開発株式会社)を加えなければ、この目標は達成できない。到底「不可能な計画」だと断言できるが、この計画にしたがって、むりやり島根原発3号機の稼働は進められようとしている。
 ⑵ 福島第一原発事故が子どもたちの健康に与えた影響
そもそも、福島第一原発は地震と津波によって冷却不能となり、核燃料はメルトダウンしてしまった。この重大な事故の処理さえ、いつ終わるともわからない状況である。なにより、環境中に放出された放射性物質は刻々と変化する風に乗り、日本中を汚染し、太平洋を経て北米でも観測されている。とりわけ、その放射性物質が福島の子どもたちに与えた影響は深刻だ。
 福島県は、事故後に子どもたちの健康を長期的に見守ることを目的として、2011(平成23)年3月11日時点で概ね18歳以下の福島県民を対象に、約30万人の甲状腺(超音波)検査を実施している。その結果、2018(平成30)年3月末で甲状腺がん及びその疑いのある子どもたちは199人となり、内163人が手術を受けている。手術を受けた子どもたちのうち、結果として良性であった子どもが1人となっており、残る162人は悪性腫瘍(甲状腺がん)であった。甲状腺がん発症の原因について、国も福島県も、福島第一原発事故による放出放射能量をチェルノブイリ原発事故より少ないと評価し、子ども達の甲状腺がん発症は、原発事故によって漏れ出した放射性物質が放つ放射線によるものとは認めていない。
 しかし、発症が確認された人数は調査初年度の15人の手術実施から増え続けている。国立がんセンターの統計によれば、日本全国の19歳以下の甲状腺がんの発生率が10万人中0.367人とされている中、福島の子どもたちは、検査を受けた約30万人のうち162人が甲状腺がんを発症するという極めて高い発症率(10万人中54人)を示している。福島県健康調査検討委員会の甲状腺検査検討部会は、これを多発だと認めている。
 そして、何よりこの実態は単なる数字ではなく、一人一人の子どもたちとその家族に、未来を描くことができないほどの強いショックと苦痛を与えているのである。
 ⑶ 強いられた避難生活
被ばくを避けるために強制的に避難を余儀なくされた住民はもとより、避難指示が出されていない地域からも多くの住民が自主的に避難生活を送っている。その避難者に対する差別や子どもたちへのいじめは後を絶たない。
 2016(平成28)年には、事故後に横浜市へ避難し、横浜市内の小学校から中学校に通う中で「ほうしゃのう」と呼ばれ、「病気になって死ぬ」と毎日言われ続け、賠償金があるだろうと、おごらされるいじめにあっていたことが大きく報道されている。これは一例に過ぎない。仕事のために福島に留まる夫を残して自主避難する母子には、家族や地域の住民から「なぜ帰らないのか」といった声が常に突き刺さり、苦しい日々を送らされている。
 ⑷ 新規制基準によって住民の安全が保証されるわけではない
 福島第一原発事故後、規制基準に火山や竜巻、森林火災、内部溢水に対する考慮が求められ、炉心損傷防止対策や格納容器破損防止対策、放射性物質拡散抑制対策、テロ対策が求められている。事故後に停止した既設の原発は、その対策を取り、この新たな規制基準に適合することが求められている。また、島根原発3号機のように新たに稼働しようとする原発も、同様にこの規制基準に適合することが求められる。
 福島原発事故以前に比較すれば多くの対策が取られることになったが、その規制基準への適合性を審査する原子力規制委員会は「適合性審査に合格しても事故は起こり得る」と、何度も説明している。つまり、原発の安全性を誰も保証してはいないのである。
 重大事故が起こり得るからこそ、その際の住民の安全を守るための備えとして「原子力防災計画」「広域避難計画」が策定されるのである。
その避難計画についても、そもそも、一定程度の放射線量を計測しなければ避難指示が出されない、現実に住民が安全に避難することができるか等避難の実効性が検証されていない、とりわけ避難弱者といわれる高齢者・障がい者・入院患者・子どもたちなどが安全に避難可能か、地震などの自然災害と複合した場合に避難路が絶たれる可能性、自然災害による被害者の救助自体を断念せざるを得なくなる可能性など多くの問題があり、住民の安全を守ることのできる内容ではない。
 ⑸ これらのことから、原子力エネルギーに依存し、これ以上、原発を稼働させることは原告ら住民の命と生活を脅かす危険な選択であり、明らかな人権侵害を招くこととなる。

4 高経年化した火力発電の代替、CO2削減のための島根原発3号機稼働は謝った選択である
 ⑴ 被告中国電力は、2018(平成30)年6月6日付「島根原子力発電所3号機 新規制基準に係る適合性申請について」と題する説明資料において、2023(平成35)年度末時点で運転開始から40年を超過する火力設備は、総量1,007万KWのうち502万kW(50%)とする図を用いている。そして、旧式の石油による火力発電は発電効率(発電端、HHV)が38.3%、CO2排出原単位0.66(㎏-CO2/kWh)、同じく旧式の石炭発電は発電効率(発電端、HHV)が38.7%、CO2排出原単位0.84(Kg-CO2/kWh)、同様に旧式のLNG発電は発電効率(発電端、HHV)が38.9%、CO2排出原単位0.46(Kg-CO2/kWh)、最新鋭の石炭発電は発電効率(発電端、HHV)が42.4%、CO2排出原単位0.77(Kg-CO2/ kWh )、同様に最新鋭のLNG発電は発電効率(発電端、HHV)が53.0%、CO2排出原単位0.33(Kg-CO2/ kWh)であるとして、高経年化した火力発電は最新鋭の設備と比較してエネルギー効率が低く、CO2排出量と燃料消費量が多いと説明している。
そして、その対策として早期に島根原発2号機及び同3号機を稼働するとともに、代替として三隅火力発電所2号機(石炭火力100万kW)の開発が必要だと説明している。
 ⑵ しかし、三隅火力発電所は石炭火力発電所であり、環境影響評価準備書に対して、環境大臣から経済産業大臣に対して次のような意見が出されている。
 「本事業は、島根県浜田市の三隅発電所構内において、平成10年から石炭を燃料として運転を開始している1号機(出力100万kW)に加えて、石炭を燃料とする2号機を、出力40万kWから100万kWに変更して増設するものである。
 本意見では、事業者である中国電力等に対し、⑴2030年度及びそれ以降に向けたCO2削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討すること、⑵とりわけ、2030年度のベンチマーク指標の目標との関係では、具体的な道筋が示されないまま容認されるべきものではないこと、⑶本事業者は、単独では2030年度のベンチマーク指標の目標達成の蓋然性が低い中で、本石炭火力発電所を建設しようとしており、この計画が容認されるためには、目標達成に向けた具体的な道筋の明確化が必要不可欠であること、⑷政府としても、明確化に向けた検討状況を適切にフォローアップ、評価していく必要があることを述べた上で、⑴国内外の状況を踏まえた上でなお本事業を実施する場合には、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制及びLNG火力発電所の設備更新による高効率化など目標達成に向けた道筋を明確化し、これを確実に達成すること、⑵さらに、2030年以降に向けて、更なるCO2削減を実施すること等を求めている。」
 被告中国電力も示しているように、石炭火力は最新鋭の設備でもCO2排出量が多いのであり、環境大臣の意見が厳しいのは当然である。
そもそもCO2排出を削減しようとするなら、まず、石炭火力の建設を断念すべきである。石炭火力を進めながら、CO2削減のために原発が必要と主張する被告中国電力の姿勢は、矛盾しており、本気でCO2の削減に努めようとしているのか疑わしい。
 特定非営利法人 地球環境市民会議(CASA)の三澤友子理事は「石炭火力発電を考える‐日本と世界の動向」の中で、次のように述べている。
「1990年代以降、電力会社は、こぞって石炭火力発電所を建設し、1次エネルギー供給に占める石炭の割合も2012年は23%まで増加した。もしこの間火力発電所ではなく天然ガス火力発電所を建設していた場合、1990年からの20年間で、CO2削減量は約8000万トンになる。さらにこれが再生可能エネルギーの発電所で置き換えた場合は増加分そのままの約1億4000万トンを削減できたことになる。(この値は1990年総排出量の約11%もの削減に相当します。)そして、今また石炭火力発電の新規建設が大きく進められている。2015年3月16日時点で、41基(1764.6万kW)の火力発電所計画が上がっている。」
 原子力に頼らなくとも上記のような努力で随分と違う結果になっているはずである。まして、再生可能エネルギーに置き換えれば対策は一気に進むのである。
 ⑶ 基本的な問題として、火力発電所はCO2排出を伴う。高経年火力であれば、なおさらである。
その代替に原発の稼働が必要と主張することは、「CO2排出による環境へのリスクの代替に、放射性物質の漏えいによる被ばくリスク」を提案していることになる。
 2014(平成26)年5月21日の大飯原発差止判決(福井地方裁判所)において、樋口英明裁判長は、「(電力会社)は、原子力発電所の稼動がCO2(二酸化炭素)排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。」と述べている。
 その通りであり、原告らは、「被ばくリスク」の提案を到底受け入れることはできない。被告中国電力は高経年火力の代替を理由に原子力発電の稼働を進めてはならないのである。

5 中国地域における穏やかな増加を見込む電力需要想定の誤り
 ⑴ 電力販売の実績
被告中国電力は、島根原発3号機の稼働を必要とする根拠のひとつとして、中国地域の電力需要について「穏やかな増加傾向で推移する」との見通しを述べている。
しかし、現実には、被告中国電力が公表している販売電力推移をみると、2012(平成24)年度58,647百万kWh、2013(平成25)年度58,980百万kWh、2014(平成26)年度57,868百万kWh、2015(平成27)年度56,719百万kWh、2016(平成28)年度57,254百万kWh、2017(平成29)年度55,400百万kWhと、減少し続けている。
 この傾向は福島第一原発事故を契機に消費者の節電意識が高まったことが大きく影響しているが、実際には、2007年をピークに電力需要自体が減少し続けているのが実態だ。(「次代へのエネルギーシステム構築を!」P3)
⑵ 電力需要の想定結果の誤り
被告中国電力は、これまでも電力需要の想定を行ってきた。
2016(平成28)年度の「託送料金算定の前提となる電力需要想定について」(平成27年9月)と題する被告中国電力が公表している電力需要想定では、「平成28~30年度において,当社供給区域全体の電力量は年平均0.9%,最大電力は年平均0.8%の緩やかな伸びを見込んでいます。」とし、次のグラフを掲載している。

これを見ると、2016(H28)年度は59,800百万kWh、2017(H29)年度は60,200百万kWhをそれぞれ想定していた。しかるに、実績値は、2016(平成28)年度57,254百万kWh、2017(平成29)年度55,400百万kWhの販売しかなかったわけであり、これまでの被告中国電力の需要想定はたいていの場合は過大な評価となっているのが実態である。今後、需要が増大するというのは、被告中国電力の淡い期待に過ぎない。
 そもそも、説明資料に使用すべき数値は、実績値が得られた段階で、想定値を用いるのではなく、実績値を用いるべきなのは当然のことである。しかるに、敢えてそれをしないのであれば、都合の良い推定値で誤った判断に誘導する意図があるとの疑いを抱かざるを得ない。
近年の電力需要実態が示していることは、島根原発3号機を稼働させる必要性がないということにほかならない。

6 「原発の発電コストは安い」という試算のまやかし
 ⑴ 「2014年モデルプラント試算」の内容と問題点
被告中国電力は、各電源毎に発電コストを試算したデータを使って、原発がいかに安いかについて主張している。
被告中国電力がその主張の根拠としている資料は、長期エネルギー需給見通し小委員会の発電コスト検証ワーキンググループ(平成27年5月26日。以下、「発電コスト検証ワーキンググループ」と言う)資料の抜粋として、「2014年モデルプラント試算結果概要、並びに感度分析の概要」を掲載したものである。
 発電コスト検証ワーキンググループによる原子力発電コストの「2014年モデルプラント試算」の算定方法はおよそ以下のとおりである。

ア 事故リスク対応費用
(ア)2011(平成23)年コスト等検証委員会におけるコスト計算においては、福島第一原発事故の廃炉費用及び賠償費用見通しを基に7.9兆円と算出し、モデルプラントの出力等(120万㎾、地域性、人口)で補正し、約5.8兆円以上と算定している。事故リスク対応費用は事業者間で相互に負担する(共済方式)ものとして、稼働期間40年間で積み立てることを想定していた。
そして、上記賠償費用5.8兆円を積立期間の40年で割って、1年間の賠償費用を算出し、さらに1年間の賠償費用を年間発電電力量(2,722億kWh=2010年に稼働していた50基の年間発電電力量)で割って1kWh当たり0.5円となる算定している。
(イ)2014(平成26)年では、損害額を見直し、廃炉費用を1.8兆円、賠償費用は6.7兆円、除染・中間貯蔵費用を3.6兆円、其の他費用を1.1兆円と見込み、合計12.2兆円としている。これを2011年コスト等検証委員会の手法に出力規模、地域性、人口比で補正し、9.1兆円としている。
 この費用からkWh当たりのコストを計算するにあたって、損害費用9.1兆円を稼働期間の40年ではなく、4000炉・年に1回事故が起きると想定して4000(炉・年)で割り、それをモデルプラントの発電電力量(設備利用率70%)73.6億kWhで割って、0.3円~/kWhとしている。
(ウ)すなわち、2014(平成26)年コスト試算は、ほとんど事故は起きないものとして試算しているのである。そもそも、4000炉・年に1回事故が起きるとしたのは、2010(平成22)年に稼働していた50基の原発が40年稼働した場合に1回起きるとしていたものを、追加安全対策によって事故発生頻度が低減することから決めた数値だが、なぜそうなるのか根拠は不明である。
 ちなみに、2011(平成23)年コストの手法で計算すると、9.1兆円を40年で割り、2014(平成26)年年間発電電力量2,578億kWhで割ると、0.8円/kWhとなる。なお、今後は廃炉となる原発は増加し、新規建設は極めて困難となるため、このコストはさらに大きくなることは間違いないであろう。
(エ)実際には、福島第一原発事故処理費用は2016(平成28)年時点で既に約22兆円にまで膨らんでおり、いつ終えるともわからない状態の中、さらにこの費用が膨らみ続けることは避けられない。
 民間シンクタンク「日本経済研究センター」(東京)は、福島第一原発事故の処理費用は、総額50兆~70兆円に上るとの試算結果をまとめている。
費用が最大の場合、経済産業省の試算約22兆円の3倍以上にもなるのである。

イ 政策経費
「2014年モデルプラント試算」では、立地交付金(約1,300億円/年)、もんじゅ等の研究開発費(約1,300億円/年)を含めた約3,450億円し、1.3円/kWhとしている。ここには、防災・広報・人材育成・発電技術開発・将来発電技術開発にかかわるコストが含まれる。

ウ 核燃料サイクル費用
「2014年モデルプラント試算」では、使用済み核燃料の半分を20年貯蔵後に再処理し、残りの半分を45年貯蔵後に再処理することを前提としている。また、再処理等の核燃料サイクル施設の竣工延期や追加の安全対策費の増加等が含まれている。
しかし、現実には、再処理工場の稼働も見通しが立たず、まか、高レベル放射性廃棄物処分に関しては、地震が頻繁に起きる国内において、処分地選定すら困難な状況が続いている。
 「2014年モデルプラント試算」では、核燃料サイクル費用を全体で1.5円/kWhを見込んでいるが、今後も増加することは避けられない。
試算の中で感度分析として、再処理について、定格再処理量到達時期の遅延等による再処理数減や高レベル核廃棄物処分や中間貯蔵単価が増加した場合のコストも計算されているが、数値の根拠は不明である。

エ 追加的安全対策費
「2014年モデルプラント試算」では、15原発24基の平均約1,000億円/基の約6割をモデルプラントの建設費として計上する費用とし、601億円/基を計上している。その上で、設備利用率70%、40年運転、割引率3%と仮定して、発電単価は0.6円/KWhに相当するとしている。
しかし、今や被告中国電力の安全対策費は5000億円に膨れ上がっている。平均を約1,000億円とする見積もり自体が不適切である。

オ 運転維持費
「2014年モデルプラント試算」では、人件費20.5億円/年、修繕費2.2%(建設費比例)、諸費84.4億円/年、業務分担費を計上している。

カ 資本費
「2014年モデルプラント試算」では、建設費4,400億円/1基、固定資産税1.4%、廃止措置費用716億円を反映させ、3.1円/kWhとしている。この建設費の1基4,400億円という金額は、福島第一原発事故以前の建設費程度の金額であり、追加的安全対策費は設計や敷地造成等に反映できるとして4割を除外しているのだから、この建設費に上乗せしなければならないはずである。従って、建設費の金額は過小評価である。

⑵ 研究者による試算
原発の発電コストに関する試算は、様々な研究者も試算を公表している。
大島虔一龍谷大学教授による原子力13.3円/kWhといった試算や、東北大学明日香教授による、原発資本費、事故対策費、化石燃料価格などの変化を反映させて計算すると原発17.6円/kWh、石炭11.35円、LNG8.58円といった結果になるとの試算も公表されている。
上記のように、被告中国電力が「原発は一番安い」ことを示すために使っている資料は、根拠に欠け、不当に過小評価が行われたものであり、島根原発3号機を稼働させるための手続きを進める根拠にしてはならないのである。


7 まとめ
被告中国電力は、福島第一原発事故によって、多くの住民の受けた深刻な被害を顧みることなく、エネルギー基本計画に位置付けられていると称して、島根原発3号機の稼働に向けた手続きを強引に進めようとしている。
 被告中国電力が主張している島根原発3号機が必要であるとする理由は、根拠に欠ける都合の良いデータのみを用いたものであり、原告らは、これを到底容認することができない。
ウソとごまかしによる新たな島根原発3号機の稼働は、原告らに生活破壊と、被ばくによる健康破壊、また、避難生活の中で発生する様々な差別などの人権侵害等の巨大リスクを強要することになるのである。
原告らは、仕事をし、地域や友人らと交流し、家族と共に過ごす日々の暮らしを守り続けていきたいと願う。
被告中国電力には、その原告らの日々の暮らしを破壊する権限など一切ない。
原告らは、被告中国電力に対し、一刻も早く、島根原発3号機の稼働を断念すること、被告国に対し、島根原発3号機の稼働を許してはならないことを強く求める。
以 上

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