歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

パルチザン戰記・外傳(2)

2010-06-13 22:47:05 | ロシア関係
→(1)からの続き

大分前のエントリーでも触れましたが、熱烈な主体思想主義者であるパルチザン三世は、同時にスターリン時代のソ連を理想とするゴリゴリのスターリン主義者だったりします。

というか、そもそも主体思想自体が言わば“朝鮮化されたスターリン主義”である以上、当然なのかもしれませんが。

反資本主義に、反“西側”....現在のロシアだと、政治的には“保守派”に属することになりますね。

ただ、いかに同じ“保守派”でも、護持すべきはソ連時代ではなく帝政ロシア時代の伝統であり、“ロマノフ家の血統とロシア正教こそ国民統合の基盤であるべき”だとか言い出す“帝政復古論者”みたいなのになると、さすがにイデオロギー的に“水と油”なのか、うまくいかないらしい。

というか、件の掲示板上では正面衝突してますね。

こんな↓感じで。

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<教えて!ナロード>

「ロシアで正教君主制(=帝政)の復活が云々されると、嫌露の連中は何でそんなにびくびくするんだ?
原文:Почему русофобы так трепещут,когда говорят о восстановлении Православной Монархии в России?
http://otvet.mail.ru/comments/answer/150988345/

 
パルチザン三世
帝政復古への反対が、嫌露派と何の関係があるんだ?俺は共産主義者。ロシアの人民には、再び革命前のような惨めな暮らしをしてほしくないのだが。


質問者
ソヴィエト体制の下で洗脳されてしまったんだな!何て気の毒な人だ。共産党は、かつて反体制派に無理やりロボトミー手術を施したように、プロパガンダによって彼の分析能力を奪ってしまったのだろう....。

※実話らしい。スターリンが死んでからは反体制分子も簡単には粛清されなくなったが、その代わり、合法的に廃人にされるケースが増えたとされる。他に、精神病院に無理やり入院させて薬漬けにするという方法もあったとか。


パルチザン三世
誰のことを言ってんだ?おい!
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ソ連時代に悪の親玉として目の敵にされてきた反動なのか、最近のロシア社会では、ニコライ二世(帝政期最後の皇帝)とその治世が、妙に美化されがちだったりします。

特に映画やドラマでその傾向が強い。

その辺りは、こちらでも明治維新以降(特に戦後のマルクス主義史観において)長らく封建的な暗黒時代とされてきた江戸時代が、今だと逆に“エコで平和で万民が高い都市文化を享受した明るい時代”みたいな感じで“過剰に”理想化される向きがあるのと、よく似ているかもしれません。

でもって、江戸時代の日本人の大半が農民であったのと同様、帝政時代のロシア人もそのほとんどは農民でした。というか、移住の自由その他諸々の権利が制限された“農奴”ですね。政府の近代化政策の一環として農奴解放令が出されたのは、19世紀の半ば、明治維新のちょっと前くらいの話です。

富の集中・偏在ぶりは今とは比較にならないほど凄まじく、日常的にフランス語を話し、フランス料理を食べ、西欧社会の富裕層と同じような生活をしていた上層階級と、貧しく子沢山でキャベツ汁ばかり啜っていたw一般農民は、同じ国に暮らしながら完全に別世界の住人だったわけで....。

さらに、後者は文盲率も高めだったので、(上層階級の連中が生み出した)近代ロシア文化の恩恵を受けることも少なかったのではないか。

帝政復古論者が狡いのは、彼らのイメージする帝国においては、その当人が何故か常に支配層の側に収まっている、という点です。

もちろん、19世紀から20世紀初頭の世界なんて一部の先進諸国を除けばどこもそんな感じだし、帝政末期の“上からの近代化”は実はかなり成功していて、あのまま革命が起きなければロシアは第一次大戦に勝ち、経済もガンガン発展し、それに従って例の専制的な政治機構にしても徐々に民主化されていったのではないか?みたいな説もあります。

あるけども、今はもう20世紀じゃないし、ifの歴史をあれこれ言っても仕方が無い。大体、ソ連時代に徹底的に世俗化と近代化が進んだ今のロシアにおいては、ロマノフ家の血筋とかロシア正教の持つ動員力など、革命前とは比較にならないレベルでしょう。それに、もし正教を国教にしたとして、人口の一割以上を占める異教徒(イスラーム、仏教、ユダヤ等)、特にその中でも一番多いムスリムはどうなるのか?当局が今なお鎮圧に手を焼く北カフカスのイスラーム急進派の活動なんて、さらに激化するんじゃないか?

その意味では、“三世”氏の言い分は珍しくまともです。

ただまあ、こちらから見たら、ロマノフ家+ロシア正教とロシアを切り離せない質問者と、スターリンや金日成と共産主義を分けて考えられない“三世”氏は結構似たもの同士ではないか、と思えたりもするのですが.....。

もし仮に、

“金王朝の永続化への反対が、嫌朝や反共と何の関係があるんだ?俺はトロツキスト。朝鮮民主主義人民共和国の人民には、もはや今みたいな惨めな暮らしをしてほしくないのだが。”

みたいなことを言われたとして、

“三世”氏はどういう反応を見せるんですかね。

ちょっと気になります。

→(3)に続く