ワールドカップが、何だか大変なことになってますね。今大会には、我らがクルグズスタンはもちろんのこと、旧ソ連圏から出ている国は一つも無いのですが、その割には、こちらの国営TVは予選の模様を連日生で放送しています。
お陰で、この間の日本vsデンマーク戦もリアルタイムで見ることができたのですが、例の評判の“ブブセラ”の音以上に、どうも気になって仕方がなかったのが、その“実況”でした。
というのも、ロシア語とクルグズ語の2言語でやっていたからです。もちろん、この国ではどちらも公用語ですから、それ自体は何ら不思議ではありません。ただし、2人の解説者が、主音声と副音声に別れて喋るとか、そういうのではないのですよ。
何と言うか….1人ないし2人の解説者が、同一音声でロシア語とクルグズ語を“交互に”喋り分けるのです。
5分くらいロシア語が聞こえていたと思ったら、次の瞬間はクルグズ語になり、それがまた5分くらいしたらロシア語に戻り…といった感じで。
まあ、ここいらのTVでやっている輸入物の映画やドラマなんかだと、元の音声が残っているのに、その上に無理やり(そして、往々にして感情表現の乏しい)ロシア語(あるいは現地語)の台詞が被さるような吹き替えって、結構普通なんですけどね。
例えば、米国製のアクション物なんかだと、
“やめろ….撃つな!(ロシア語:ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ)”
“借りを返させてもらうぜ!(ロシア語:ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ)”
“ノォォォォォォォォウ!(無機質な声で:<ニエット。>)”
….みたいなのが非常に多い。
そんな感じなので、ここいらに長く住んでいると、“2つの言語が微妙に重なって聞こえる状況”には慣れてくる….というか、慣れざるを得なくなります。こんな環境で生まれ育っている地元人なら、なおさら気にならないに違いない。
でも、いかにその彼らにしても、この実況みたいに、2つの言語が重なるのではなく“一定間隔ごとにころころ切り替わる”というパターンにはあまり慣れてないかもしれません。しかもサッカーの試合です。人によって程度の差こそあれ、視聴者の多くは自分と同じくイライラしていたのではないですかね。
何しろ、両言語を同じレベルで解するバイリンガルの数は、一般に言われているほど多くは無いので。
まず、この国の基幹民族にして人口の約7割を占めるクルグズ人は、ほとんどがクルグズ語を母語としていますが、その彼らのロシア語は、田舎に行けば行くほど怪しくなる。これに対して、人口の約3割をなすロシア人やウズベク人などの他民族ないし、ビシュケクなどの都市部で生まれ育ち、ロシア語が母語となっているクルグズ人の一部は、基本的にクルグズ語を解しません。
ちなみに、前の方で、この国ではロシア語とクルグズ語の双方が公用語(正確には、ロシア語=公用語、クルグズ語=国家語)だと書きましたが、現実には、ソ連から独立して20年が経った今でもなお、両者の関係は対等ではありません。文化、教育、ビジネス、行政機構等全ての面において、優位にあるのはロシア語の方なのです。身近な例で言えば、ちょうど旧英領のマレーシアやフィリピンにおける英語のようなものかも。
ロシア語の知識それ自体が、その人間の教育程度のバロメーターであり、社会的なエリートはクルグズ人であれ他の民族であれ、ロシア語を母語とする人ばかり。一般人の場合は、ロシア語を知らなければ、よほどのコネとカネが無い限り社会的に上昇するのはまず無理だし、食い詰めたからといって、ロシアに出稼ぎに行くこともできません。
また、クルグズ人と他の民族の間の“族際語”として機能しているのも、クルグズ語ではなく、ロシア語の方だったりします。
この国の公教育機関にはロシア語で授業をやるところとクルグズ語で授業をやるところの2つがありますが、クルグズ人のエリートや富裕層が、自らの子弟を前者の方に入れたがるのは、ある意味当然のことですね。
そんな訳で、この国に住むクルグズ人の方は(最低でも義務教育とか)何らかの形でロシア語を学んでいるのに対し、非クルグズ人で、積極的にクルグズ語を学ぼうとする人はほとんどいません。特にロシア人なんて、母語がロシア語な訳ですから。
そういえば、以前こちらに住むロシア系の知人に“クルグズ語を勉強したことはないのか?”と尋ねた時も、“何のために???”と真顔で聞き返されたような覚えが….。
こんなことを書くと、せっかくソ連から独立したのに、何故クルグズ人たちはそうした状況に異議を唱えないんだ?と不思議に思われるかもしれません。いや、民族主義者はもちろんのこと、普通のクルグズ人でも“この国の人間ならクルグズ語を話せ!”という人は多いし、政府もクルグズ語の地位を向上させようといろんな努力をしています。国営TVには、しばしば“クルグズ語を流暢に話す感心なロシア人”が登場するし、件の“悪い意味でのハイブリッド実況”も、多分その現れでしょう。
ただ、あんまりやり過ぎると、ロシア語話者とロシア語母語のクルグズ人たちは、皆ロシアとかカザフスタンに逃げてしまいます。現にエリート層はロシア語教育によって再生産されていることを思えば、こうした事態はホワイトカラー層を消滅させかねない。そうなると、一時期のカンボジアほどではないにせよ、社会は崩壊してしまうでしょう….大体、政府の中の人たち自身が、普段からロシア語を使っているわけで。あまり強気にはやれないわけですよ。元植民地の国ではよくある話かもしれませんが….。
クルグズスタンが、政治的・経済的に、また文化的にロシアに依存せざるを得ない環境にある以上、こうした状況は今後も続いていくのではないかと思われます。将来変化があるとしたら、“漢語がロシア語に取って代わるかもしれない”とか、それくらいか。その時は、もちろん新疆の同族(クルグズ人は、あちらにも15万人くらい住んでいる)と同じ運命を辿ることになるんだろうけど….。
いずれにしても、クルグズ語の未来はあまり明るくなさそうな気配ですね。
ただまあ、少なくとも例の実況に関して言えば、いくら田舎のクルグズ人でも、ロシア語のパートがまったく分からない、といったことはないでしょう。だとしたら、あの中継を見ていてよりストレスを溜めていたのは、やはり他民族の側、特にロシア人かもしれないw。
とりあえず、個人的には例のデンマーク戦で、解説者がクルグズ語、ロシア語の双方で“見事です!青きサムライ!!!”と連呼するのが聞けて、ちょっと気分が良かったですかねw。
ところで、奇しくもそのワールドカップ開催と時を同じくして、我らがクルグズスタンの南の方でも、ソ連時代以来、20年ぶりとなる大イベントが始まってしまいました。
個人的には、実はワールドカップよりもこちらの方がはるかに気になっています。
よく、サッカーの国際試合は“ボールを用いた国民国家間の戦争の代替行為”だと言う人がいますが、
こちらのイベントの参加単位は
“国家”ではなく“民族”。
ユニフォームの規定は特になく、サポーターと参加者の区別は曖昧。
フィールド上では鉄拳、ナイフ、棍棒、鉄パイプ、鉈や斧、鋤や鍬、火炎瓶、その辺の石、手榴弾、猟銃、狙撃銃、カラシニコフ、トカレフ、RPG、装甲車など何を使っても自由だし、
放火、殺人、略奪、拷問、レイプ、長渕キック等、いかなる非人道的行為もペナルティを科されることはありません。
サッカーに比べれば、ルールは限りなく緩い。というか、無きに等しい。
そもそも審判もいないし…..。
そんなスポーツがこの世にあるのか?
ある訳ないじゃないですか。
ボールも用いないし、代替行為でもない。
本物の“戦争”です。
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キルギス衝突「死者2千人と推測」 臨時政府大統領
2010年6月18日
http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY201006180476.html
【モスクワ=星井麻紀】中央アジア・キルギス南部の民族衝突で、同国保健省は18日、死者が192人になったと発表した。インタファクス通信などが伝え た。一方、臨時政府のオトゥンバエワ大統領は、18日付のロシア紙コメルサントとのインタビューで「死者は公式集計の10倍と推測する」と述べ、2千人近 くに上るとの見方を示した。
オトゥンバエワ氏によると、衝突があった現場付近では死者を日没までに埋葬する習慣があるため、公式統計に反映されない犠牲者が多いという。オトゥンバエワ氏は18日、騒乱が始まってから初めて現場のオシ州を訪れ、再興を約束した。
一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、騒乱で家を離れた住民が約30万人、隣国のウズベキスタンに逃れた住民が10万人おり、避難民は計40万人に達したと発表した。
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ウズベク人は、現在のクルグズスタンではクルグズ人に次いで二番目に多い民族であり、総人口550万の内の約80万(100万との説もあり)、全体の14.5~15%を占めます。その大半が南部のウズベキスタンとの国境地帯に集住しているため、南部だけならクルグズ系とウズベク系の人口は、ほぼ同じくらいだといってよいでしょう。
その両民族が、互いに殺しあう事態となったわけです。
こちらのメディアの報道によると、発端となったのは、6月10日から11日にかけての深夜、南部の中心にして、クルグズスタン第二の都市であるオシュ(人口約25万。なお“オシ”はロシア語読みで、クルグズ語、ウズベク語とも“オシュ”の方がより原音に近い。)のカジノで起きた、若者どうしの小競り合いだったと言います。
何でも、そこにあったスロットで大負けしたウズベク人の客が、その機械にイカサマが仕込まれてあったか否かをめぐって店側と喧嘩になり、客の側は携帯で仲間を大量に招集。店側も警察を呼んだものの、数百人から千人以上にまで膨れ上がったウズベク人群集を相手に警官らも成す術はなく、興奮した群集はカジノを焼き討ちし、パトカーを燃やし、隣にあった大学寮の窓を割り...と3、4時間に渡って暴れまわったのだそうです。
その際に、どこからともなく
“ウズベク人暴徒らが大学寮に侵入して女子学生をレイプし、寮に火をつけた(実際には、外から窓を割っただけらしい)”
との噂がクルグズ人街区の方に流れ、激昂した若者らがヤクザとともに、カジノの近くにあったウズベク人街区を急襲。衝突は各地に広がって、町は無政府状態となり、そのどさくさに乗じて周辺の村や町からやってきたクルグズ人らがウズベク人の住宅や店を略奪し、燃やし...といったことが、周辺の地域でもどんどん繰り返されていったらしい。
この他にも、
“ウズベク人のタクシー運転手にぼられたクルグズ人の客が怒って仲間を呼び....云々”
とか、
“覆面をつけた国籍不明の武装勢力が市内の数ヶ所で同時にウズベク人を襲撃して...云々”
等、いろんな説があるのですが、
とりあえず、クルグズ人側、ウズベク人側とも“向こうが先に仕掛けてきた”という点では言い分は同じです。
もはや切っ掛けはそう重要ではないでしょう。確かなことは、約5日間に渡る戦闘でオシュの町は滅茶苦茶になり、沢山の人間が死んだり家を失ったと言うことです。住宅地の7割が燃えたとの情報もあり。
これらの映像の中に出てくる場所は、大体町のどの辺か分かりますね。
レイプ事件が起きた、とされた大学の寮も、実はよく知っています。
というのも、かつてオシュに滞在する際は、その近所のホテル“アライ”を常宿にしていたのですが、そこの一番安い部屋は一泊300円くらいと安い代わりにシャワーが無い。その寮には付設のサウナがあり、しばしば管理者に何がしかの金を払っては、シャワーを使わせてもらっていたのです。
その隣の、紛争の発端となったカジノにしても、名前からイメージされるような豪勢なものじゃないですね。ゲーセンに毛が生えた程度のちゃちなシロモノですよ。簡単に焼け落ちたに違いない。
で、そのカジノの斜め向かいには、よく使っていたネット兼電話屋がありました。店主はウズベク人だったので、多分燃やされたでしょうね。とりあえず、生き残っていることを祈りますが......
あと、通りを南に下った所に、あんまり美味くないハンバーガーモドキを出す飯屋があったけど、あそこの主人もウズベクだったかな.......
書いていて、何だか気が滅入ってきました。
↓在りし日のオシュのバザール。売る側も買う側も色んな民族が混在していた。手前の若い女性は多分クルグズ人で、黒い帽子を被った後姿の男性は多分ウズベク人。
↓バザール内のチャイハナ(茶店)。表で肉入りパンを売っているのがクルグズ人。後ろの方の厨房で調理しているのはウズベク人。
↓バザールで売られていたクルト(乾燥チーズ、カート)とサルマイ(黄色バター)。その起源は遊牧文明にあるとされるが、今ではウズベク人も普通に食べている。逆に、定住文明の産物であるナン(パンの一種)やパラウ(ピラフのような米料理)もまた、現在のクルグズ人の食卓には欠かせない。こと日常的な食文化においては、両者の違いはそんなに無い。
→(2)に続く
お陰で、この間の日本vsデンマーク戦もリアルタイムで見ることができたのですが、例の評判の“ブブセラ”の音以上に、どうも気になって仕方がなかったのが、その“実況”でした。
というのも、ロシア語とクルグズ語の2言語でやっていたからです。もちろん、この国ではどちらも公用語ですから、それ自体は何ら不思議ではありません。ただし、2人の解説者が、主音声と副音声に別れて喋るとか、そういうのではないのですよ。
何と言うか….1人ないし2人の解説者が、同一音声でロシア語とクルグズ語を“交互に”喋り分けるのです。
5分くらいロシア語が聞こえていたと思ったら、次の瞬間はクルグズ語になり、それがまた5分くらいしたらロシア語に戻り…といった感じで。
まあ、ここいらのTVでやっている輸入物の映画やドラマなんかだと、元の音声が残っているのに、その上に無理やり(そして、往々にして感情表現の乏しい)ロシア語(あるいは現地語)の台詞が被さるような吹き替えって、結構普通なんですけどね。
例えば、米国製のアクション物なんかだと、
“やめろ….撃つな!(ロシア語:ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ)”
“借りを返させてもらうぜ!(ロシア語:ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ)”
“ノォォォォォォォォウ!(無機質な声で:<ニエット。>)”
….みたいなのが非常に多い。
そんな感じなので、ここいらに長く住んでいると、“2つの言語が微妙に重なって聞こえる状況”には慣れてくる….というか、慣れざるを得なくなります。こんな環境で生まれ育っている地元人なら、なおさら気にならないに違いない。
でも、いかにその彼らにしても、この実況みたいに、2つの言語が重なるのではなく“一定間隔ごとにころころ切り替わる”というパターンにはあまり慣れてないかもしれません。しかもサッカーの試合です。人によって程度の差こそあれ、視聴者の多くは自分と同じくイライラしていたのではないですかね。
何しろ、両言語を同じレベルで解するバイリンガルの数は、一般に言われているほど多くは無いので。
まず、この国の基幹民族にして人口の約7割を占めるクルグズ人は、ほとんどがクルグズ語を母語としていますが、その彼らのロシア語は、田舎に行けば行くほど怪しくなる。これに対して、人口の約3割をなすロシア人やウズベク人などの他民族ないし、ビシュケクなどの都市部で生まれ育ち、ロシア語が母語となっているクルグズ人の一部は、基本的にクルグズ語を解しません。
ちなみに、前の方で、この国ではロシア語とクルグズ語の双方が公用語(正確には、ロシア語=公用語、クルグズ語=国家語)だと書きましたが、現実には、ソ連から独立して20年が経った今でもなお、両者の関係は対等ではありません。文化、教育、ビジネス、行政機構等全ての面において、優位にあるのはロシア語の方なのです。身近な例で言えば、ちょうど旧英領のマレーシアやフィリピンにおける英語のようなものかも。
ロシア語の知識それ自体が、その人間の教育程度のバロメーターであり、社会的なエリートはクルグズ人であれ他の民族であれ、ロシア語を母語とする人ばかり。一般人の場合は、ロシア語を知らなければ、よほどのコネとカネが無い限り社会的に上昇するのはまず無理だし、食い詰めたからといって、ロシアに出稼ぎに行くこともできません。
また、クルグズ人と他の民族の間の“族際語”として機能しているのも、クルグズ語ではなく、ロシア語の方だったりします。
この国の公教育機関にはロシア語で授業をやるところとクルグズ語で授業をやるところの2つがありますが、クルグズ人のエリートや富裕層が、自らの子弟を前者の方に入れたがるのは、ある意味当然のことですね。
そんな訳で、この国に住むクルグズ人の方は(最低でも義務教育とか)何らかの形でロシア語を学んでいるのに対し、非クルグズ人で、積極的にクルグズ語を学ぼうとする人はほとんどいません。特にロシア人なんて、母語がロシア語な訳ですから。
そういえば、以前こちらに住むロシア系の知人に“クルグズ語を勉強したことはないのか?”と尋ねた時も、“何のために???”と真顔で聞き返されたような覚えが….。
こんなことを書くと、せっかくソ連から独立したのに、何故クルグズ人たちはそうした状況に異議を唱えないんだ?と不思議に思われるかもしれません。いや、民族主義者はもちろんのこと、普通のクルグズ人でも“この国の人間ならクルグズ語を話せ!”という人は多いし、政府もクルグズ語の地位を向上させようといろんな努力をしています。国営TVには、しばしば“クルグズ語を流暢に話す感心なロシア人”が登場するし、件の“悪い意味でのハイブリッド実況”も、多分その現れでしょう。
ただ、あんまりやり過ぎると、ロシア語話者とロシア語母語のクルグズ人たちは、皆ロシアとかカザフスタンに逃げてしまいます。現にエリート層はロシア語教育によって再生産されていることを思えば、こうした事態はホワイトカラー層を消滅させかねない。そうなると、一時期のカンボジアほどではないにせよ、社会は崩壊してしまうでしょう….大体、政府の中の人たち自身が、普段からロシア語を使っているわけで。あまり強気にはやれないわけですよ。元植民地の国ではよくある話かもしれませんが….。
クルグズスタンが、政治的・経済的に、また文化的にロシアに依存せざるを得ない環境にある以上、こうした状況は今後も続いていくのではないかと思われます。将来変化があるとしたら、“漢語がロシア語に取って代わるかもしれない”とか、それくらいか。その時は、もちろん新疆の同族(クルグズ人は、あちらにも15万人くらい住んでいる)と同じ運命を辿ることになるんだろうけど….。
いずれにしても、クルグズ語の未来はあまり明るくなさそうな気配ですね。
ただまあ、少なくとも例の実況に関して言えば、いくら田舎のクルグズ人でも、ロシア語のパートがまったく分からない、といったことはないでしょう。だとしたら、あの中継を見ていてよりストレスを溜めていたのは、やはり他民族の側、特にロシア人かもしれないw。
とりあえず、個人的には例のデンマーク戦で、解説者がクルグズ語、ロシア語の双方で“見事です!青きサムライ!!!”と連呼するのが聞けて、ちょっと気分が良かったですかねw。
ところで、奇しくもそのワールドカップ開催と時を同じくして、我らがクルグズスタンの南の方でも、ソ連時代以来、20年ぶりとなる大イベントが始まってしまいました。
個人的には、実はワールドカップよりもこちらの方がはるかに気になっています。
よく、サッカーの国際試合は“ボールを用いた国民国家間の戦争の代替行為”だと言う人がいますが、
こちらのイベントの参加単位は
“国家”ではなく“民族”。
ユニフォームの規定は特になく、サポーターと参加者の区別は曖昧。
フィールド上では鉄拳、ナイフ、棍棒、鉄パイプ、鉈や斧、鋤や鍬、火炎瓶、その辺の石、手榴弾、猟銃、狙撃銃、カラシニコフ、トカレフ、RPG、装甲車など何を使っても自由だし、
放火、殺人、略奪、拷問、レイプ、長渕キック等、いかなる非人道的行為もペナルティを科されることはありません。
サッカーに比べれば、ルールは限りなく緩い。というか、無きに等しい。
そもそも審判もいないし…..。
そんなスポーツがこの世にあるのか?
ある訳ないじゃないですか。
ボールも用いないし、代替行為でもない。
本物の“戦争”です。
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キルギス衝突「死者2千人と推測」 臨時政府大統領
2010年6月18日
http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY201006180476.html
【モスクワ=星井麻紀】中央アジア・キルギス南部の民族衝突で、同国保健省は18日、死者が192人になったと発表した。インタファクス通信などが伝え た。一方、臨時政府のオトゥンバエワ大統領は、18日付のロシア紙コメルサントとのインタビューで「死者は公式集計の10倍と推測する」と述べ、2千人近 くに上るとの見方を示した。
オトゥンバエワ氏によると、衝突があった現場付近では死者を日没までに埋葬する習慣があるため、公式統計に反映されない犠牲者が多いという。オトゥンバエワ氏は18日、騒乱が始まってから初めて現場のオシ州を訪れ、再興を約束した。
一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、騒乱で家を離れた住民が約30万人、隣国のウズベキスタンに逃れた住民が10万人おり、避難民は計40万人に達したと発表した。
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ウズベク人は、現在のクルグズスタンではクルグズ人に次いで二番目に多い民族であり、総人口550万の内の約80万(100万との説もあり)、全体の14.5~15%を占めます。その大半が南部のウズベキスタンとの国境地帯に集住しているため、南部だけならクルグズ系とウズベク系の人口は、ほぼ同じくらいだといってよいでしょう。
その両民族が、互いに殺しあう事態となったわけです。
こちらのメディアの報道によると、発端となったのは、6月10日から11日にかけての深夜、南部の中心にして、クルグズスタン第二の都市であるオシュ(人口約25万。なお“オシ”はロシア語読みで、クルグズ語、ウズベク語とも“オシュ”の方がより原音に近い。)のカジノで起きた、若者どうしの小競り合いだったと言います。
何でも、そこにあったスロットで大負けしたウズベク人の客が、その機械にイカサマが仕込まれてあったか否かをめぐって店側と喧嘩になり、客の側は携帯で仲間を大量に招集。店側も警察を呼んだものの、数百人から千人以上にまで膨れ上がったウズベク人群集を相手に警官らも成す術はなく、興奮した群集はカジノを焼き討ちし、パトカーを燃やし、隣にあった大学寮の窓を割り...と3、4時間に渡って暴れまわったのだそうです。
その際に、どこからともなく
“ウズベク人暴徒らが大学寮に侵入して女子学生をレイプし、寮に火をつけた(実際には、外から窓を割っただけらしい)”
との噂がクルグズ人街区の方に流れ、激昂した若者らがヤクザとともに、カジノの近くにあったウズベク人街区を急襲。衝突は各地に広がって、町は無政府状態となり、そのどさくさに乗じて周辺の村や町からやってきたクルグズ人らがウズベク人の住宅や店を略奪し、燃やし...といったことが、周辺の地域でもどんどん繰り返されていったらしい。
この他にも、
“ウズベク人のタクシー運転手にぼられたクルグズ人の客が怒って仲間を呼び....云々”
とか、
“覆面をつけた国籍不明の武装勢力が市内の数ヶ所で同時にウズベク人を襲撃して...云々”
等、いろんな説があるのですが、
とりあえず、クルグズ人側、ウズベク人側とも“向こうが先に仕掛けてきた”という点では言い分は同じです。
もはや切っ掛けはそう重要ではないでしょう。確かなことは、約5日間に渡る戦闘でオシュの町は滅茶苦茶になり、沢山の人間が死んだり家を失ったと言うことです。住宅地の7割が燃えたとの情報もあり。
これらの映像の中に出てくる場所は、大体町のどの辺か分かりますね。
レイプ事件が起きた、とされた大学の寮も、実はよく知っています。
というのも、かつてオシュに滞在する際は、その近所のホテル“アライ”を常宿にしていたのですが、そこの一番安い部屋は一泊300円くらいと安い代わりにシャワーが無い。その寮には付設のサウナがあり、しばしば管理者に何がしかの金を払っては、シャワーを使わせてもらっていたのです。
その隣の、紛争の発端となったカジノにしても、名前からイメージされるような豪勢なものじゃないですね。ゲーセンに毛が生えた程度のちゃちなシロモノですよ。簡単に焼け落ちたに違いない。
で、そのカジノの斜め向かいには、よく使っていたネット兼電話屋がありました。店主はウズベク人だったので、多分燃やされたでしょうね。とりあえず、生き残っていることを祈りますが......
あと、通りを南に下った所に、あんまり美味くないハンバーガーモドキを出す飯屋があったけど、あそこの主人もウズベクだったかな.......
書いていて、何だか気が滅入ってきました。
↓在りし日のオシュのバザール。売る側も買う側も色んな民族が混在していた。手前の若い女性は多分クルグズ人で、黒い帽子を被った後姿の男性は多分ウズベク人。
↓バザール内のチャイハナ(茶店)。表で肉入りパンを売っているのがクルグズ人。後ろの方の厨房で調理しているのはウズベク人。
↓バザールで売られていたクルト(乾燥チーズ、カート)とサルマイ(黄色バター)。その起源は遊牧文明にあるとされるが、今ではウズベク人も普通に食べている。逆に、定住文明の産物であるナン(パンの一種)やパラウ(ピラフのような米料理)もまた、現在のクルグズ人の食卓には欠かせない。こと日常的な食文化においては、両者の違いはそんなに無い。
→(2)に続く